第十一話 妹
主人公のトウヤに代わり、しばらくミナキ視点となります。
裏話的な感じとなっていますので、トウヤ視点だけ読みたい方は十四話へ。
「――ようやく着いたか」
私とパロマに担がれ、か細い声になりながらも笑みを浮かべてトウヤは言う。
私の蘇生魔法では文字通り体が元通りになるだけの物であり、相当の痛みを伴っているはずなのに笑うことができるとは驚きだ。
冒険し、新たな地へと来たことが相当嬉しいのだろう。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私の名前は山田三奈木
17歳の女子高校生だった。
演劇部に所属しており、友達も多く、成績も自分で言うのも何だが優秀な方ではあった。
趣味は家で隠れてアニメのかっこいいキャラの真似をしてみたり、かっこいいセリフを言ってみたりすること。
カラコンを入れてポーズをとっているところをタイミング悪く母親に見られてしまい、可哀想な人を見る目で病院へ行くよう促されたのは苦い思い出だ。
部活が終わった後の帰り道で、撮ってあった見たいドラマがあったので、寄り道せず急いで家に向かっていたのだが、信号が青になってから周りを確認せずに歩道を渡っていたら、トラックに撥ねられて死んでしまった。
目が覚めると体が半透明になってしまった私の前に、翼を持った使者と名乗る者が現れ、私を撥ねたトラックの運転手は居眠り運転をしていたこと、即死だったことが告げられた。
死んでしまったことに泣き喚く私に、使者は異世界へと行ってほしいとお願いしてきた。
そしてこの異世界でトウヤ達と出会い、強敵を共に倒し、トウヤ達のパーティへと迎い入れてもらった。
でもパーティっていうと、もっと強そうでごついおじさんとかがいるイメージがあったんだけどな。
行く宛が無かったから役立てそうだし入れてもらったけど、小さい子もいるし大丈夫なのだろうか。
・・・・・・あれだけの大物倒せたんだし、きっと大丈夫よね。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私達は雪に囲まれた町、フラットへとやってきた。
雪景色は向こうの世界でも見慣れた私だが、異世界の雪町となると中々新鮮だ。
トゥロリテの町よりは小さいものの、沢山の建物が建っている。
雑誌でも見た通り、更に北にはフラット氷山という真っ白な山が聳え立っている。
南東にはこの町から次の町へと進む出口があり、町の西から下ったところには、妖精が見られると噂されている森林が見られる。
トンネルからは町や周りが見渡せる為、中々眺めがいいが今は景色に見惚れている場合ではない。
「とりあえずトウヤを寝かせるために宿屋に向かいましょうか」
私は三人を促し、まずは宿屋へと向かった。
宿屋は雪の町というだけあって、中は暖かくなっている。
この町にギルドは無く、食堂や酒場はここにあり、大浴場までついているので、人が最も多く集まる場所となっている。
そんな中、私とパロマでトウヤを担いで歩く姿は、当然のごとく注目の的になっていた。
トウヤはかなり酷い殺され方をしてしまったので、恐らく回復には二週間程かかる。
私はそのことを宿の主人に伝え、四人の二週間分のお金を払おうとした。
しかし事情を聞いた主人は、町の人を困らせていたあの敵を倒してくれたならと、その分のお金をタダにしてくれたのだ。
更に二週間分の食事もタダで食べさせてもらえるらしい。
太っ腹なご主人だ。
財布を確認して、お金が全然ないことに気が付いてから言って貰えて助かった。
「我が戦友よ。今日はよく戦闘に貢献してくれた。安心して永遠の眠りにつくがよい」
「上から目線で語るな。後死んでないから! ・・・・・・いや死んだけど今は生きてるから」
トウヤはベッドの上で呆れ顔で私に向かって言った後、恥ずかしそうに横を向いて訂正する。
うんうんノリノリのツッコミ、大丈夫そうだ。
私ならあんな恐ろしい目に遭った後なら、仲間に話しかけられてもしばらくは喋ることはできないだろう。
前向きなこの人は、きっと向こうの世界では、学校でクラスを率いってたりする人気者の優等生とかだったのだろう。
作戦を立てるのも上手いし、身を挺して私の事守ってくれたし。
「トウヤの性格では、二週間ここで安静にしているのは退屈だと思いますが、我慢してくださいね」
「お前はよくわかってんなシルク。早く動けるようになって、この町を見たりクエスト受けたりしたいぜ」
シルクが心配そうに言うと、トウヤはこちらに向き直って笑いながら悔しそうに語る。
この子は私より4つも下なのに、言動や行動が結構大人びている。
しかも可愛い。
小さくてマスコットみたいで抱きしめたい。
でもさっき怒ってた時は、トウヤの言う通り別人みたいだった。
ちょっと不思議で興味深いな。
「じゃ俺はトウヤの寝ている間に、この周辺の敵を全滅させちゃおうかな!」
「おいおいそれはずるいぞ。お前のレベルだけ上がってまた引き離されちゃうじゃないか」
パロマが元気そうにトウヤに向かって言うと、トウヤは悔しそうに言い返す。
この子は本当にやんちゃで、妹のシルクよりも子供に見える。
でも戦うことに関しては結構得意みたいだ。
頼もしいとまでは言えないけど、この子が一緒なら戦闘は比較的安心できそう。
「――よし!私達はご飯食べたらこの町を見てくるから、トウヤはちゃんと大人しく寝ててね」
ひとしきり話した後、トウヤのおーおーという返事を聞き、私達はトウヤの部屋を後にする。
そのまま昼食をとる為、食堂へと向かった。
料理人は宿の主人に既に話を聞いているようで、私達はそのまま料理人にメニューお願いし、席を取り食べ始めた。
寒い中戦った後の料理は、とても美味しくて温まる。
「そういえば町を見回るってどこに行くの?」
パロマが無邪気にせっせと料理を頬張りながら質問してくる。
急いではいないし、もうちょっと落ち着いて食べたらどうだろうか。
「そうね、まずは道具屋に行こうかな。この地域のモンスターの本を買っておかなきゃ」
未知の領域に来たとなれば、まずは情報を得るのが優先だろう。
特にこの地域はトゥロリテ周辺の様な平原と違って、この環境に適した特殊なモンスターが多そうだ。
お金を稼ぐ為にトウヤ抜きでクエストに行くと思うし、本は先に入手しておきたい。
「私はこの町にいる杖職人が気になります。鍛冶屋では杖を作ったり強化などはできないので、ちょっと覗いてみたいです」
シルクは手慣れた動作で上品に料理を口に運び、しっかり飲み込んでから私に聞いてきた。
食べる動作もとても可愛らしい。
フラットの町には、熟練の杖職人がいるって聞いたことがある。
この寒い地域でしか取れない素材を使って、杖の魔力を飛躍的に上げることができるんだとか。
私もシルクと同じく魔法を扱う側なので、少し興味はあった。
この子のお願いともなれば行くしかない。
、
「行きましょう!シルクの行きたいところならどこでも行きましょうか!」
私は興奮気味に言う。
するとシルクも微笑んで、
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
シルクも喜んでくれているようで何よりだ。
食事を終えた私達は、道具屋へと向かった。
そこでは一定時間の間、体を温かくしてくれる魔法のポーションや、魔法を利用して作られた雪の結晶のアクセサリーなど、この地域ならではの物が販売されていた。
便利グッズや装飾品など、目を奪われそうな物ばかりだ。
欲しい物は色々あるが、私の手持ちのお金はそれほど多くはない。
無難に本だけ買っておこうか。
「っと、あったあった。ぎりぎり足りるわね」
私は目当ての本を買い終え、道具屋を後にした。
パロマとシルクは別行動で服屋を見に行っているので迎えに行く。
シルクは道具屋に用事は無い様で、暇ならとパロマを半ば引っ張っていく感じで連れていった。
パロマは嫌がっていたが、私はあんな感じの可愛い妹が欲しい。
私には仲のいい姉がいたのだが、10歳も歳の差があり姉は大学に進学すると同時に家を出たので、実質半分程は一人っ子で暮らしてきた。
そんな私は高校になりたての頃に、妹が欲しいと親にお願いしてみたことがあったが、もう母さんには難しいわと言われて一時期落ち込んだ時もあったけな。
でもこの世界に来てシルクと出会った時から、凄く興味をそそられる様になった。
私にはしっかりしていて可愛らしいシルクが、妹を持った様な不思議な気持ちにさせてくれるのだ。
私が服屋に向かうと、店の前でド派手な服を着た、紫色の肌をした明らかに人とはいい難い人物が立ってこちらを見ていた。
私がそれに気づくと、その人物は微笑を浮かべる。
・・・凄く不気味だ。
明らかに私のことを見て笑っている。
目を合わさないようにしよう。
私はその人物から目を逸らし、そのまま店の中に入ろうとしたのだが――、
「あら。あなた、山田三奈木っていうのよね」
絶対に避けたかったのに、声をかけられてしまった。
しかもこいつ私の名前を知っている?
私はこいつのことを見たこともないのに何故だろう。
あまり関わりたくないので、要件だけ聞いてさっさとパロマとシルクを迎えに行こう。
「あ、あの、何か用ですか?」
私は嫌そうな表情を浮かべながら、その人物に話しかける。
不気味過ぎて何をしてくるかわからないから、早くこいつから離れたい。
するとそいつは私にグイっと顔を近づけ、
「へー、素敵な顔をしてるわねー。可愛いわ」
「・・・ひっ!」
背筋が凍る様なことを言ってきた。
私は即座に近づいてきたそいつから離れる。
何だろう、声は男なのに口調が・・・・・・。
オカマってやつかな、ますます不気味だ。
するとそいつは感心した様に頷きながら、
「そういえば。あなた、生きてたのね。中々しぶといじゃない」
そんなことを言ってきた・・・・・・、ってあれ?
私はここに来て死にかけた覚えがない。
しかし私のことを見ていたかの様な口振りだ。
一体何なのだろうか。
相変わらずこの不気味オカマは、私を見て微笑んでいる。
「あの、一体どういうことですか? 私は殺されそうになった覚えはないですよ。それに私達は初対面なのに何故名前を――」
と質問責めしようとしたその時だった。
「あ、なんだミナキ。もう迎えに来てたんだ」
私の声を遮りながらシルクと一緒にいるパロマが、店の中から声をかけてきた。
二人は服を見に来ただけなので手ぶらだ。
私は隣を指差し、
「この変な人に絡まれてたの!いきなり顔を近づけたり、初めて会ったのに私のことを知っているような言動を・・・・・・?」
さっきまで一緒に話していたそいつは、振り向くと私の隣にはいなかった。
慌てて辺りを見渡すが、その姿はどこにも見られない。
この短時間で姿を消した・・・・・・?
「どうしたの?誰もいないよ?」
「あ、あれ?さっきまでオカマみたいな変なやつがいたんだけどな・・・・・・」
何だったんだろう。
不気味な容姿に不気味なことを語るオカマ。
そしてパロマと話している一瞬で姿を消した。
不自然な点が多すぎて、思い出しただけでもゾッとする。
「ミナキも買い物を済ませたのなら、杖職人のところへ行きたいです」
困惑している私に、シルクは期待に満ちた眼差しで促してくる。
か、可愛い・・・・・・!
そうだ、早くあんな奴のことなんか忘れてしまおう。
シルクも杖職人に早く会いたがってることだし、悩んで止まっていても仕方がない。
「よし!それじゃお姉ちゃんと一緒に行っちゃおうかー!」
「わわっ、抱きしめないでください!苦しいです!」
シルクは手足をジタバタさせ、抵抗してくる。
こういうところもまた、可愛いなあ。
シルクをぎゅっと抱きしめた後、私とパロマとシルクの三人で、杖職人の店へと向かった。