第十話 仲間
謎シリアス込・・・・・・!
――目が覚めると、そこは真っ暗な空間が広がっていた。
何もない、ただの黒色がどこまでも続く暗闇。
ああ・・・・・・、俺死んじゃったんだっけ。
仰向けになっている体を起こそうとするが、金縛りに遭ったように起き上がることができない。
腕も足も動かないし口も開くことができない。
できることと言ったら瞬きをすることぐらいだ。
一体何なのだろうか。
何もできないならとりあえず考えてみる。
・・・・・・。
ここは死んでしまった人の来る空間で、俺が向こうの世界で死んでしまった時みたいに、使者が来て導いてくれるのだろうか。
それともこの空間で俺はずっと一人ぼっち?
いやいや何もできない状態でずっとこのままなのは、流石に俺の頭がイカれてしまう。
何も起こらないってことはない・・・・・・よな・・・・・・?
何かあることを信じよう。
しかし短い異世界の旅だったなあ。
一ヶ月程しかあの世界では過ごせてなかった。
でもその一ヶ月で、夢にも見ていたことや貴重な体験がたくさんできた気がする。
様々なクエスト、モンスターとの闘い、冒険者達との渋い話し合い、お金を稼いでの自給自足。
そしてちょっと理想と違っていたけど、頼もしい仲間達との冒険。
その仲間達に情けない俺を助けてもらったり、一緒に強敵を倒したり・・・・・・。
――楽しかったな。
でもしたいことだってたくさんあった。
あの世界を隅々まで見回って見たり、名を馳せる様な大事をして有名になったり、結婚したりだとか。
そうだよ結婚だよ!
17歳で人生終わるとか早すぎだろ!
いや既に一回終わってたけど、できれば普通に生きて普通に死にたかった。
俺って世界一不幸な奴なのかもしれないな・・・・・・。
一回終わってる――か。
・・・・・・そういえば向こうの世界の俺の家族や友達は、今何を思って過ごしているんだろうか。
考えたことがなかった。
異世界に来て俺は、自分の理想の世界に来れたことがただ嬉しいだけで、向こうの世界のことを考えなくなっていた。
あの使者とやらってのは、異世界へ強い憧れを持っている人を異世界へと導いていると言っていた。
確かに憧れの世界へといけるのは嬉しいことではあると思うが、こんなに向こうの世界のことを忘れてしまっていたのは、俺ぐらいではないだろうか。
送り込まれた人達は、夜な夜な別の世界にいる家族を恋しく思ったりしているかもしれない。
ミナキの様に人の為になることをしようと日々頑張っている人々もいるのかもしれない。
むしろその方が自然って物だ。
俺にはそういった向こうの世界に対する思いが無くなってしまっていた。
もう戻れない世界のことを考え続けるのも酷なことだが、さっぱりと忘れすぎてしまっていた。
今の自分のことしか考えていなかったり、動いていなかったかもしれない。
突然学校を休んだ次の日、親は怒って学校へ行きなさいと言ってきた。
その次の日、そのまた次の日、一週間後、一ヶ月後も、その後も定期的に親は学校に行くように言ってきた。
しかし親の言うことに耳を傾けず、断固として学校へ行こうとせず、ネトゲに没頭していた。
今思うとあれは学校に行かないことをただ単に怒っていたわけではなく、今の俺のことを、俺の将来のことを思って言ってくれていたのだろう。
なのに親の気持ちも考えずに、俺はネトゲを優先して決して学校へ行かなかった。
たまに家に来て一緒にゲームで遊んでいた友達も、学校へ行くように促してくれたが、それも俺は断っていた。
・・・・・・こんな自分勝手な奴はいなくなって当然なのかもしれないな。
死ぬというところまでいってしまうのは、ちときつい気がするが仕方ないか。
はあ・・・・・・。
どうせ俺という存在がこれから消えていくのなら、せめて仲間の無事を祈ろう。
何もできなくなった俺が、せめて一瞬でも自分勝手から抜け出せるよう。
俺の仲間達が、無事に旅を続けられるよう。
・・・・・・・・・・・・
ん?なんだ?
真っ黒だった空間がいきなり明るくなり始めた。
迎えの来る時間だろうか。
仲間を想ったことで、神様は俺のことを許してくれたのだろうか。
よくわからないがどんどん真っ白くなっていく。
う・・・眩しい・・・。
死後の俺に一体何が起こるんだろうか。
このまま消えて生まれ変わったりするのだろうか。
それも悪くないな。
次の俺はもっとまともな奴になってるといいなあ。
そう思ってる内にも眩しさを増していく白い空間。
とうとう目を開けていられる明るさではなくなった俺は。
――自分の終わりを悟る様に目を閉じ、やがて意識が遠のいていった・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・
「――トウヤ!戻ってきてよ!」
声が聞こえてくる。
「こんなところで死なないでください!トウヤ!」
俺の名前を呼ぶ声。
「戻って来るのだ!トウヤ!!」
聞き覚えのある声。
あれ、俺は死んだはずじゃ・・・・・・?
俺は目を開けると・・・・・・。
――そこにはしゃがみ込んで、倒れている俺を見つめているあの三人がいた。
三人の顔は真っ赤になっており、その顔には涙が伝っていた跡がある。
日本のテレビでしか見たことのない様な、悲しみに溢れた顔をしている。
薄暗い空間を見渡すと、そこは先程歩いていたトンネルだということがわかった。
俺は――戻ってきたのか――。
「「トウヤアアアアアアアア!!!」」
パロマとシルクが叫びながら俺の腕にしがみついて泣きわめく。
二人の涙の所為だろうか、この寒い空間で腕だけがほんのり温かくなる。
この二人はそんなに俺が戻ってきたことが嬉しいのだろうか。
「お、おい。そんなに泣くなって・・・・・・。起き上がるから、離してほしい」
そう言うと二人は俺の腕を離して、手でごしごしと涙を拭う。
俺へと流してくれていた涙・・・・・・なのか。
俺は手に力を入れて、体を起こそうとするが、
「うっ!?」
腹部に激痛が走り、起き上がることができなかった。
同時に脱力感を感じ、体が怠くなってくる。
「ああ!? トウヤ、無理に体を動かさないで! 私の蘇生魔法じゃ完全に回復はできないの」
ミナキが慌ててそんなことを言ってきた。
蘇生魔法?
なるほど、ミナキが俺を生き返らせてくれたのか。
そんな物まで使えたとは・・・・・・。
「そうか、ミナキが・・・・・・」
再び寝た状態で、俺はそう呟く。
こんな俺なんかでも、もう一度生き返らせてもらえるなんて・・・・・・。
「そうだよ。 おかえり、トウヤ」
笑顔で落ち着いた声で、ミナキは言ってくれた。
自分勝手でどうしようもないと思っていた俺だったが。
そうか。
こんな俺にも、想ってくれる仲間がここにいたんだな・・・・・・。
「ただいま」
気が付くと俺の目からも、涙が零れ落ちていた。
この世界に戻れたこと。
仲間達が迎い入れてくれたこと。
そしてこの仲間達と、まだ一緒にいられるということ。
そんな感情が、俺をそうさせていたのだろう。
・・・・・・嬉しいな。
「よし。幸い次の町まで近いから、パロマと私でトウヤを町まで運ぼっか。あまりトウヤの体に負担をかけると危ないからゆっくりね」
「おっけー!」
そう言って、パロマとミナキはそれぞれ俺の腕を担ぐ。
二人共俺よりステータスが高いのもあって、辛そうな顔を見せずに俺を運んでいく。
「そういえば、蘇生させてもらったのは有難いんだけどさ。回復魔法で動ける状態までできないのか?」
ふと思ったのでミナキに質問してみる。
ゲームとかだと蘇生してから回復すれば、体力が全開になったりして元通りになるものだったのだが、そういうわけにはいかないのだろうか。
するとミナキは申し訳なさそうに、
「えーっと、上位の蘇生魔法なら、何事もなかったかの様に復活させることができるらしいんだけどね。私の使える一般蘇生魔法だと体を修復して、辛うじて命を繋ぎ止める程度にしかできなくて、この世界は蘇生された体には回復魔法を使っても効果がないみたいなの。ごめんね」
ゲームの様にはいかないってか。
そこまで求める必要もないか。
今ここにいられることの方が重要だ。
「いやいや、生き返らせてくれただけで十分だよ。ありがとう」
そう言うとミナキは微笑んで、コクリと頷いた。
とにかく何とか次の町までいけそうでよかった。
いきなり殺されるとは思わなかったが。
そういえばあの黒猿は一体なんだったんだ?
戦っている時は奴の拳は、俺の鎧で受け止められる程度の威力ではあったはずなのだが。
そもそもあいつが動いていること自体がおかしい。
パロマがしっかり息の根を止めて、シルクも念入りに魔法を撃ち込んでいたのに・・・・・・。
あっ、そういえば
「シルク、お前ピンクだったんだな。ローブといい帽子といい、ピンク染めで中々可愛いところあるじゃないか」
「ッ!?」
俺は何気なくそんなことを呟くと、シルクは絶句し、顔が再び赤く染まっていく。
「み、見たんですか・・・・・・」
「見えちゃったんだから仕方がない」
俺が堂々と言う中、シルクは顔を俯かせていく。
そんなやり取りをしていると、パロマとミナキも俺を冷たい視線で見るようになっていた。
シルクは先程のこともあり呆れたのだろうか、怒ってはこなかった。
このトンネルの中、パロマとミナキから冷たい視線を浴びせられ、シルクは無言で俯いたままで、足音だけが鳴り響いている。
すごく・・・気まずいです・・・。
次話の前に、軽くキャラ設定を載せます。
そして次回から二章に入り、一旦ミナキ視点となります。
まだまだ未熟な箇所が目立ちますが、見て頂いている方がおり、とても嬉しい限りです!
ブックマークも凄く励みになります。
ありがとうございます。