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異世界行きはこちらです  作者: 神に選ばれし村人
第一章 念願の異世界!
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第九話 忍び寄る影 後編

「いやー、思ってたより攻撃が強くて本当に殺されるかと思ったよ」

「我の魔法が十分に貢献できたようで嬉しかった」

「トウヤ、俺に決めさせてくれてありがとな!」


 俺達三人は喜び、口々にそんなことを言い合う。

 

 ネトゲのボスを倒した時との達成感とは大違いだ。

 所詮作り物の中での戦いは、何度死んでも何度も挑めるし、動きもパターンで決まってしまっているので、負けてもパターンさえ覚えてしまえば結局すぐに勝つことができてしまう。

 だが自分のこの身で自然の物と対峙するこの異世界では、負けたらやり直しが効かない死と隣り合わせの世界だ。

 だからこそ何が起こっていつ死ぬかわからないし、逆にそれを乗り越えられた時の達成感はネトゲとは大違いだ。

 こういう瞬間が実際に冒険しているんだ、という気分になれて凄く気持ちが良い。





「『フレアボール』!『フレアボール』!!」


 ――魔法使いの一人は、尚も魔法の詠唱を続けていたが。


「どうした?シルク、その猿はもう死んでると思うんだが」

「許しません! 私にあんなことをして、本当に許しません!」


 顔を赤くさせて怒っているシルクは、別人の様に黒猿の死体に向かって何度も火の玉を打ち続けていた。

 十三歳というまだまだ若い年頃で、相手も猿だしそんなに怒ることなのだろうかと思ってしまう。

 ・・・・・・まあそれも人によるだろうし、シルクの場合は相当嫌だったのだろう。


「まあそう怒るなよ。お前がこいつを引きつけてくれたから決定的な隙ができたんだぜ?変態猿で助かったよ」

 

 本来はパロマに猿の相手をしてもらい、その隙に作戦を実行するつもりだったのだが思っていたより凶暴だったので、俺としてはシルクがいなかったら厳しかったんじゃないかと思っている。

 なので凄く有難いことではあったのだが。


「さっきあなたもこの猿に何色か教えろって叫んでましたよね! あなたもこの猿と同類ですよ!!」


 そんなことをシルクが言って・・・・・・、


「お、おい! 確かに言ったけどそこまで言うことないじゃないか! 」

「いいや同類です。何なら猿と同じ知能のあなたにも魔法を撃って、頭をスッキリさせてあげましょうか!」


 とシルクが杖を突き付けて言ってくる。

 あんなに大人しかったシルクが、ここまで怒るものなのだろうか?

 というか何ですかこの展開。

 別に俺はマゾでもないし、女の子に魔法を撃たれても喜びませんよ。


「ちょっと待てってシルク。さっきから別人みたいだぞ?俺が悪かったから少し落ち着けって」


 激昂しているシルクを俺は宥めようとする。

 するとシルクは突然我に返ったかの様に冷静になり、


「ちょっと怒り過ぎました。すいません」


 そう言って素直に謝ってきた。

 ・・・・・・?

 怒るのも急なら冷めるのも急なのか。

 結構変わってる奴だなあ。



「喧嘩してないでそろそろ行こうよ」

「そうですよ、お猿さん」


 パロマとミナキがトンネルの手前で呼んでいた。

 そうだ、ここを通ればすぐ町へと着くのだ。


「じゃ、早く次の町へ行こうか」

「そうですね、行きましょう」


 シルクは機嫌は直ったのだろうか、ちゃんと反応してくれる。

 俺とシルクは一緒にパロマとミナキの元へと向かった。


 

「そういえばお前、俺に猿って言ったな。お前も同じこと叫んでただろうがこの猿!」

「痛い! 悪かったって、やめてやめて!!」

「ねえシルク、とどめ刺した時の俺格好よかった?」

「うん、あんな兄らしいパロマ初めて見たよ。とてもよかった」


 そんなことを口々に語りながらトンネルを進んで行く。


 俺が襲われそうなところを助けてくれたり、とどめを刺してくれたりで活躍してくれたパロマ。

 隙を見て陰ながらダメージを与えてくれて、猿を魅了して時間を稼いでくれたシルク。

 相変わらず変なことばかり言っていたが、手際よく支援をしてくれていたミナキ。

 そして立てた作戦を元に的確な指示をし、判断力で何とか優勢へと導けた俺。

 きっと四人がいたからこそ、掴み取ることができた勝利なのだ。

 ・・・・・・シルクが怒るのは無理もないか。 

 


 異世界の二つ目の町はどんな風景をしているのだろうか。

 雪景色自体を中々見ることがなかっただけに、見慣れない異世界の町と雪が合わさった景色には興味が湧く。

 しばらくは拠点にしてその地域のクエストをやってみたいところだが、みんな寒がって嫌がるだろうか。

 でも一応このパーティは俺が仕切っているわけだし、嫌がっても何とか引き留めよう。

 パーティか、いい響きだなあ。

 年下ばかりでちょっと想像していたのと違うけど、あんな強敵倒せたんだし気にすることはないか。

 

 ・・・・・・あれ、そういえばあいつはどうするんだ?


「なあミナキ、フラットの町に着くけど、お前これからどうするんだ?」

 するとミナキは立ち止まって右手で俺を指差し、当然のこととでも言うように、

「フフフ、決まってるではないか。木村冬也、私は其方達と共にどこまでも行くつもりだ」

「俺が嫌って言ったら?」

「足にしがみつき、引きずられようともついていくつもりだ」

 

 うわあ面倒な奴に興味持たれちゃったなあ。

 変なことばっかり言ってよくわからない奴だけど、あの黒猿倒せたのはこいつのおかげでもあるし、回復担当は戦闘においても最も重要なポジションだ。

 もっとマシな奴が欲しいけど仕方がない。

 断っても面倒になりそうだし入れてやろうか。


「わかったわかった、パーティに入れてやるよ。みっともないからしがみつくのだけはやめてくれよ」

「やったあ!支援担当のミナキです。お役に立てるように頑張ります。よろしくお願いします!」

 

 ミナキは赤と青の目をぱちぱちさせ、笑顔で礼儀正しく改めて挨拶をしてくれた。

 変なポーズとかで格好つけず普通にしてれば可愛いんだがなあ、言っても無駄だろうが。


「よろしくな。ちゃんと俺の指示に従えよ。さもないと・・・・・・!?」





 ――その光景を目にした俺は、思わず言葉を止めてしまった。

 いや、止まってしまったと言うべきなのだろうか。

 いくら異世界でもその光景は不気味過ぎて、とても怖かった。


「「「トウヤ・・・・・・?」」」

 

 

 驚愕の表情を浮かべる俺に、三人が不思議そうに俺の顔を見上げる。

 しっかり息の根を止めた筈なのに、シルクだってあんなに魔法を撃ちこんでいたのに・・・・・・。

 トンネルの俺達が通ってきた道は、血の色で赤く染まっていた。

 



 ミナキの背に隠れて見えなかったのだろうか。

 なんと先程倒したはずの黒猿が、ふらふらと歩きながらミナキのすぐ後ろまで歩いて来ていた!

 腹を突かれた上に、シルクの魔法で顔まで真っ黒に焦がされているのに、眼を赤く光らせて笑っているその姿は、恐ろしすぎて声も出すことができなかった。


 やがて黒猿は笑いながら拳を構え、今にも突っ込んで来ようとしている。

 まずい、三人共こいつに気が付いてない!

 怯んでる場合じゃねえ俺!!

 こんな時、こんな時は・・・・・・!


 軽装備のミナキがあいつの攻撃を受けたら間違いなくヤバい。

 対して俺は、あいつの猛攻を辛うじて受け止めたこの鎧がある。

 ――こうするしかねえ!!!

 

 俺はすぐさま剣を抜き、ミナキを横へと突き飛ばした。

 その瞬間黒猿は俺に向かって、構えていた拳を突き出してくる。

 何とか体で受け止め、その隙に反撃をしてやれば・・・・・・!?

 

 ――バッキーン! グシャッ!!


「え・・・・・・?」

「痛いじゃない!何するのよトウ・・・・・・ヤ・・・・・・!?」

 

 俺は今まで感じた事のない痛みを伴い、手にしていた剣を動かすことはできなかった。

 俺とミナキの驚愕を隠せないような声だけが、その瞬間にトンネルに響き渡る。

 きっとパロマとシルクもその光景を見て、俺の見たことのないような顔をしていたことだろう。


 黒猿の拳は俺の鉄の鎧を簡単にぶち抜き、俺の体をも容易くぶち抜いていた。

 そして黒猿は俺の体から手を抜き、キッキッと笑うかのような鳴き声を上げてふらふらと倒れる。

 俺も全身の力が抜け、ガクンと膝まで体が落ち、やがて地面へと倒れ込んだ。


「「「トウヤ!?」」」


 薄れ始めた意識の中で、そんな三人の叫び声が聞こえる。

 

 

 どうしてこんなことになったんだ。

 倒したはずの黒猿が動き、力も鎧と体さえ突き抜けるほど段違いになるなんて。

 異世界なら何が起こっていつ死ぬかはわからないとは思っていたけど。

 いくら異世界でも、こんなことになるなんてあんまりだろ。

 

 アレかな、異世界に連れていってあげるとか言っておいて、死んだ俺に最後に夢だけは叶えてくれるような、そんな体験版みたいな感じの世界だったのかな。

 きっとそうなのかもしれない。

 神様も意地悪なことするなあ。

 でも死者がまたやり直せるなんて、よくよく考えればおかしな話だったんだ。

 貴重な体験をさせてくれたんだし、感謝するべきだろう。

 ・・・・・・できるならもっともっとたくさん冒険したかったな。

 でもただやられるのではなく、仲間を庇って死んだんだ。

 俺の人生の中で一番格好のいいことしつつ、死ぬんだから十分なのかもしれないな。



「「「トウヤ!! トウヤッ!!!!」」」


 最後に俺のことを必死に呼びかける、僅かながら一緒に冒険してきた三人の仲間の声が聞こえる。

 


 その叫び声を聞いた瞬間、俺の目の前は真っ暗になって、とうとう何も考えることができなくなった。

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