1パレット目
「ヨクワカラナイモノ※以下ヨクワカ」が発見されたのは私が生まれる前のこと。透明なんだか透明じゃないんだか。生き物なんだか生き物じゃないんだか。
そんな「ヨクワカ」が人目を偲ぶような世界中の場所からぽつぽつと発見されて、人類はその扱いに困っていたらしいのだけど、「加工」をすることで枯渇寸前の石油の代わりになると、当時大騒ぎになったのだと、学校では簡単に教えてくれた。
クラスメイトはへーほーと曖昧に頷くだけで、私も同じように頷いた。
だけど、私はその「ヨクワカ」を幼い頃から出荷していた。
私が産まれる前に父は既に亡くなっていて、母は出産直後に病気で亡くなり、それから母の妹である叔母に育てられた。
叔母は祖母の代から受け継いでいた海沿に広がる広大な土地を持っていた。
「税金がかかるだけだしいい加減売るつもりだったのだけど、そんな時にね……あれが見つかったのよ」
いよいよ土地を売ろうと、叔母は不動産の人と海沿の土地に足を運んだのだが、
「不動産の人なんかそれ見て失神しちゃってね」
「ヨクワカ」が潮風に吹かれていた。
でも、それが天然資源の代わりになると、また採取しても自然とそれはそこに「居る」ので、叔母はしめたと言わんばかりに事業を立ち上げた。
簡単な話。叔母は「ヨクワカ」を必要とする企業と契約を結び、売却するようになったのだが、それに喜んだのは叔母の旦那さんである叔父だった。物流業を営んでいたものの、取引先の企業が潰れてしまいただでさえ全盛期の世界に比べて物量が減ってしまっているこの世の中で、新たな商品を受け入れ管理するのに苦労していたものだから、必然的に叔父の倉庫は「ヨクワカ」の保管場所となり、そこから出荷されるようになった。
「アンノウンロジスティクス」
私は叔父が立ち上げ、今自分が社長を務めている会社名を呟いて、
「叔父さん……1人でやんの結構大変だったよう」
夜空に瞬く星々に嘆いた。
高校卒業前に叔父が脳梗塞で倒れ他界してしまい、なんだかんだで幼い頃から「ヨクワカ」の出荷や会社の事務作業を手伝っていた私に、
「跡を継ぐわよね?これまで育ててきたし」
「自分で言っちゃった!」
叔母がそう言うものだから、
「まっ……。いいか」
私はあっさり承諾した。別に高校卒業してからどうするか決めていなかったし、大学に行くつもりもなかったから。
1人でアンノウンロジスティクスを切り盛りするようになってから早1年。
早朝に入庫してくる「ヨクワカ」を受け入れてから、叔母の会社からメールで送られてくる出荷先の伝票と照らし合せをする。そして必要分の「ヨクワカ」を用意し業者に弾き渡す。在庫数のチェックをして最後に事務作業をして1日の業務はおしまい。大体夕方の17時には終わる。
しかし、最近「ヨクワカ」の出荷量が増えてきたので、物理的に私1人で業務をこなすことが不可能になってきた。
お給料は中々の金額をもらっていたが正直使い道が無いので、それなら新たに人を雇おうと叔母に持ちかけ、
「いいけど。給料減るわよ?」
「いいの」
「物量だって今がピークで、これ以上増えることは無いのよ?むしろ減る可能性の方が強いんだから」
「でもいいの。人がいればかなり楽になるし、減ったお給料で慎ましく暮らせればそれでいいの」
というようなやり取りを経て許可をもらった。
「面接は私がしますからね」
「えー?!なんでー」
「社長って言ったって、あなたまだ20歳なんだから。これから先苦楽を共にする従業員が、とんでもない変態だったらどうするの?!」
「そんな人雇わないよう」
「あんたは見た目以上に若いんだし、それに人を疑うことをしないから……心配なのよ」
「むうん」
そんな訳で明日から求人が掲載されるそうです。