103ページ 禁忌。
師匠な勇者さんをなだめたのは魔王さんだった。
オレ達は茫然として震えているだけだった。
勇者さんはオレ達のことを怒ってるのではなかった。
人間をオーガに変えたヤツに怒っていたのだった。
何回か前の前世で似たようなことをしたヤツがいて
ソイツのせいで世界は荒廃し勇者さんの大事な人たちも
何人も犠牲になったのだという。
ココの神さまの狼の獣人さんと暫く何か話していた。
そして星形の壁の外に出て行った。
見に行くともう何も無いきれいな草原に戻っていた。
あれだけのオーガの軍団が影も形も無くなっていた。
勇者さんはその日の夕方まで帰ってこなかった。
帰って来て「もう済んだから帰ろう」と言った。
いつもの優しい勇者さんだった。
でも、悲し気な寂しげなふうに見える……
星形の壁を元に戻して神さまに挨拶して体育館に戻って来た。
チャラ男が待っていた。
オレはチャラ男の顔が見られなかった。
チャラ男はそれで全部分かったようだった。
いきなり抱きしめて
「おかえり。ここが君の、君たちの居場所だよ。
異世界の居心地が良くてもココに帰ってこないとダメだよ」
とイタイ台詞を吐いた。
ありがとう……と言うしかなかった。
チャラ男の言葉で何かが体の中で溶けて行ったように思えたから。
ダチ勇者どもは何も言わなかったがどこかホッとした空気を
まとっているようだった。
あの異世界のことはバイトなあの人が教えてくれた。
だれが何のために人間をオーガに変えたりしたのかまでは言わなかったけど、
勇者さんがどうしたのか……
詳細をすべて確認したうえで、なにもかもを「消去」したと。
上の方にも緊急で許可をもらい詳細を報告したらしい。
オレがチャラ男をあの川の手前から呼び戻した時勇者さんは
〔禁忌〕と言う言葉を使った。
アレは〔禁忌〕そのものだったとバイトなあの人は言った。
魔王さんも言う。
「前世のワシならできたよ。でもやる気はなかった。
余計な面倒が増えるだけだったろうし、なにより趣味が悪い」
はぁ……
趣味と酔狂で世界を遊び道具にしてたって聞いたんですけどね。
魔王さんの趣味がオーガを造ってた連中と同じじゃあなくて良かった。
チビのことはまだ許容範囲の内なようだ。
オレを守ろうとしてしたことだったしブレスもできるのは一発だけと
結論がでたらしい。
それにしてもちっとも大きくならないのはなぜだろう?
飛距離も伸びたしブレスもできた。
でもいまだにヒヨコより少し大きいだけだなんて……
まあ、いきなり本体のあの大きさになっても困るけどね。
マモルくんの頭のテッペンを指定席に決めたらしい
チビドラゴンは、のんきにアクビしているのでした。
その気になれば何でもアリな勇者さん。
「消去」って怖い言葉だったんですねえ。
でも、ソレは〔禁忌〕に対してのみの発動なようです。
早く大きくなってほしいというのは親のワガママですが
まあ、偽りない気持ちでもあります。
でも、この可愛いくてちっちゃいままでいてほしいとも
思っちゃうんだよねえ。
ホント、親って理不尽なもんです。




