2話
蝉のファンファーレに迎えられ、アレンはMR高校の校門をくぐった。
「でけぇ・・。」
思わずそうつぶやいてしまうほどMR高校は広大だった。
正面に見えているのは本棟らしい。
右手には普通の高校ではありえないような巨大なドームなようなものがあった。
これが魔法実技、模擬戦闘などを行うトレーニングホールらしい。
左手に見えるのは特別棟であるらしいことは、
校門のすぐそばにあった校内マップを見る限り理解することができた。
本棟の窓から多数の生徒が見えることから、
アレンは本棟が生徒の教室がある場所だと推測した。
アレンはとりあえず職員室に来いと連絡されていたので、
職員室を探すことにした。
しかし、校内マップをのぞいても職員室の場所は記載されていなかった。
「なんて不親切な・・。」少しばかり落胆するアレン。
「これだけ広いと職員室なんてどこにあるのか、わかんないな。」
「まぁ悩んでいても仕方ないか・・。本棟にとりあえず入って誰かにきいてみるの が一番手っ取り早いそうだ。」
そういってアレンは本棟に入っていった。
本棟の玄関は非常に広かった。
全校生徒600人近くの下駄箱が集中しているから、下駄箱の数も半端ではない。
アレンはひとまず持参してきた学校指定の上履きに履き替えると、
道案内をしてくれそうな人を探すべく周りを見渡した。
ふむ、この学校の女子生徒はなかなか偏差値が高いな、
などと不埒なことを考えつつ、喋りやすそうな生徒を探した。
「うぉっ!!」突然背中に殴られたようなドンッという衝撃を感じた
「きゃっ!!」可愛らしい大人しめな声が聞こえてきた・・・。
同年同日午前8時00分
久しぶりに見るMR高校の校門で、萩野 雪乃は並々ならぬ決意をもって、
本棟をにらみつけていた。
「今学期こそ、あの人に追いついてみせます・・。」
そう呟くと力強く一歩を踏み出した。
いや、はずだった。
普段は下に見えるはずのきれいに舗装された地面が正面に見えた。
「きゃっ・・」(べちん)
見事につまずいてしまった。
「うぅ、痛いです。なんでこんなところに石があるんですか~!!」
思わず叫んでしまった。周りのひとに注目されてしまった。
恥ずかしさのあまりに顔が真っ赤になり、
すぐに立ち上がり急ぎ足で本棟玄関に向かった。
萩野 雪乃はMR高校の一年生である。
身長151cmと小柄で、ドジっ子である。
特徴的なのはぱちくりとした大きな目で、鼻や唇は控えめに小さく、
ショートカットのゆるふわヘアの可愛らしい姿とドジっ子属性から、
クラスの女子では妹キャラとして可愛がられている。
恥ずかしさのあまり途中から駆け足で玄関に入ることになってしまった。
まださっきのことで注目されているかもしれないという恐れから、
うつむきながら駆け足で教室に駆け込もうとした。
突然、頭に衝撃がきた。
「うぉっ!!」
「きゃっ!!」
雪乃はぶつかった衝撃でペタンっとしりもちをついてしまった。
「ふぎゅ~・・」
どうやら彼女のドジっ子属性は神様に愛されているらしく、
こういうトラブルは常日頃からかかさない。
今回はどうやら、ただ突っ立ているだけの男子生徒の背中に
頭から突っ込んでしまったようだった。
その男子生徒はゆっくりと歩み寄ってくると、
雪乃の前に跪いて遠慮がちに声を発した。
「すまない、大丈夫か?」
一瞬怒られるかとヒヤッとして緊張していたが、
この男子生徒の声が意外とやさしかったため、雪乃はひとまずほっとした。
「い、いえ。大丈夫です。こ、こちらこそごめんなさい。」
雪乃は自分のお尻に鈍い痛みを感じつつそういった。
「立てるか?」
男子生徒は雪乃に手を差し伸べてきた。
「あ、ありがとうございます。」
雪乃は男子生徒の手を借りて立ち上がった。
彼の手はやさしい声からの印象とは違って意外と大きく暖かかった。
雪乃はもう一度謝ろうと彼をみた。
身長は176cmぐらいだろうか。雪乃の身長が151cmと小柄なので
その男子生徒がずいぶん大きく感じられた。
やさしい声の印象どおり細身で、特徴的なのは目であった。
長めの前髪に隠れた両目は、
日本人ではありえない綺麗なサファイアブルーをしている。
欧米系の外国人かと思ったが、
髪の色は普通の黒色で、顔立ちもどこか日本人らしさが感じられる。
年齢は落ち着いた物腰とどこからか感じられるオーラからか
自分より年上に思えた。
しかし女性的な線の細さゆえか自分と同い年、という印象をうけた。
MR高校の制服を着ているのでこの学校の生徒であることは間違いなさそうだ。
しかしながらMR高校に入学してからこんな人みたことがなかった。
「あ、あの。ほんとにごめんなさい。」
なにがともあれ、雪乃はこの男子生徒に謝った。
「いや、こんなところで突っ立ていた俺も悪いんだ。」
ほんとになんでもない風に対応する男子生徒に雪乃はまた恥ずかしさを覚えた。
「あ、でもついでだから一つお願いがあるんだけど・・。」
不意に男子生徒が声をかけてきた。
「は、はい。な、何でしょう?」
突然の話の振られ方に少々戸惑った雪乃。
ほんとはこの人根に持っているんじゃないか、と悪いほうに考えてしまう。
そんな雪乃の考えなど露知らず男子生徒は続けた。
「職員室ってどこかな?」
「へ?しょくひんひつですか?」
悪いほうに考えていた雪乃は盛大にかんでしまった。
「うん、しょくひんひつ。」
あろうことか男子生徒は雪乃のマネをしてきた。
「ま、真似しないでくださいっ!!」
「ははっ、ごめんごめん。可愛かったものだから、つい・・。」
唐突に可愛いと言われた雪乃は真っ赤になる。
いま、顔をぎゅっと雑巾絞りしたら、赤い汁がぽたぽた落ちてきそうだ。
「冗談はさておき、もういちどお願いする。職員室に案内してもらえないかな?」
失礼な男は雪乃の羞恥心なんて無視して再び言った。
「わ、わかりました。こっちです。ついて来てください。」
この人が失礼であれ、悪いことをしたのは自分である。
ここはいうことが聞くのがふつうであろう。
「ありがとう。本当に助かるよ。」
男は笑顔で感謝の言葉を述べつつこう言った。
「俺の名前は九条アレン、今学期からこの学校に通う一年生だ。宜しく」
これが私とアレンさんとの出会いだった。