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海松 みる 09年

2019年12/9〜12/10タブレット端末にて執筆し脱稿 12/10朝投稿

【 終の棲家……或るいは忙しない都会生活の日常とはかけ離れた隠れ家(ひみつきち)を手に入れよう そんな"私"とやんちゃな老猫、そして宅地開発に失敗し荒地の処分に困った不動産屋のドタバタをメインに据えたほんわかエピソード?を2品に、親子共々緩やかに衰退しつつある優しい世界に逃げ込んだ罪悪感を描いた物語に不倫関係を続ける事に疲れ破滅を望む女の情念描いた倉田悠子風味のちょっとダークな物語を纏めた短編集 前半3つはともかく最後の物語の毒気が強烈なのでご注意を 】


★"桟橋"でちょっと変態じみたちょいエロを"指の上の深海"でエログロ&ヤンデレ描写が有りますので読む人を選びます。


日本・純文学作品

稲葉真弓 著

新潮社 出版


 海松(みる): 別名 海松(うみまつ)或るいは水松(みずまつ)と呼ばれる海藻。 世界中に分布し海藻サラダにして食べるハワイでは波間に漂うその姿から"リム(円環)"とも呼ばれています。 どっかの国じゃ漬物にしてるそうですが其れは置いといて、松の葉に似て末広がりだから縁起が良いと宮中の貴族達の間では海松色や図案化したその模様が衣装に多用される時代も有り、食用出来ますし栄養も有りますが大量栽培が難しい為に日本じゃ宮中伝統料理と大量に採取可能な伊勢志摩の沿岸部ぐらいしか食べる風習残ってません。 沖縄にも台風去った後よく流れ着いてますが海藻でしかも食えるとは思わなかった(汗) 海水浴場の防風林として松が良く使われるから触らない限り区別が付きません。


そもそも沖縄って本州との貿易の影響で海藻=昆布やワカメとなります。 次いで出て来るのはアーサやヒジキかな? 海藻サラダのメインとして海葡萄が持て囃される様になったのは鮮度保持の技術が確立してからの事ですし其れ以前なら乾物が主でした 生昆布なんて割と最近よ。


死体がゴロゴロ転がる物語を立て続けに書いてたからガス抜き回も兼ねて、倉田悠子=稲葉真弓名義作品 通算3本目になります。 以前紹介した"砂の肖像"を思い起こさせる私小説っポイ物語(勿論フィクション)2本と、長編小説のエピローグ部分のみを纏めてみた2本を組み合わせた短編集。 まあそんな肩肘張って読む様な物語じゃ御座いませんがねちっこいヤンデレ描写入った最後のアレがなぁ……となりそうです。 最後のエピソード除き毒気は薄め、川場康成文学賞受賞作なんて御大層な箔付がされてますが、アレはこれ迄の出版作品や社会的活動の功績の積み重ねの結果でしか有りませんし、肩肘張らず寝物語感覚で楽しむ類いの物語です。 と言う訳でどんなあらすじなのか列記してみたいと思います。 ちなみに今回は微エロ有りですが全年齢対象で読める様色々自重しました 後日原稿そのものが行方不明となってたらやっちまったなお前と笑って下さいな(^_^)



海松(みる) 2007年 2月


 私が三重県志摩半島の土地再開発途中で頓挫した住宅地に家を建てたのは11年前の事になる。 当時年齢から来る心の病に苦しむ母に気分転換をして貰おうと妹と共に誘い出した女3人だけの伊勢志摩観光旅行中に、生まれて初めて雉を見たのが全ての始まりだった。愛知を離れ東京に仕事の拠点を移し早20年、40歳を迎え飲み仲間や顔見知りが次々と鬼籍に入るようになり何も残せないまま人生を終わるのかという焦りも有ったのだろう。 東京と志摩半島の二重生活を楽しむ為に仕事も増やし張り合いも出て来た。母や妹の家族を引き連れ半島に通う日々の相棒は1人減り2人減り……数年前ひょんな事で身請けする事になった猫だけになったが冬の季節此処で過ごす日々は何よりも落ち着くのだ。


東京へ戻る前に海が見たくなり灯台へと足を向ける。遠く波間に見える緑の海藻、顔見知りになった漁師夫婦から随分前から気になっていた其れが海松(みる)(此処ではミルメと呼ぶらしい)という話を聞いた。冬の季節、海底に生える其れを恋しい人に見立てた古い歌が有るらしく新嘗祭のお供えにもなるらしい……岩場にも流れ着くから興味が有れば採取してみるかいと勧められたが私は謹んで辞退した。 どんな味か分からない方が楽しいしそもそも私は泳げないのだ。



②光の沼 2008年 12月


 其れは半島と東京を行き来する二重生活を始めて4年半を迎えた頃の話。崖の下から這い上がり庭木の生育を妨げる様に伸び続けるウバメガシにシダや笹竹に遂に我慢が出来なくなった私は、呆れる母に見守られながら来る日も来る日も草刈り釜と折りたたみ式の鋸片手に侵食して来る緑の影を相手に虚しい戦いを始め、その最中に偶然沼地へ繋がる古い道を見付け出した。 


この辺りの土地を管理する不動産屋と話し合い蔓延る樹木整理の許可を取り付けた私は、休みを貰い半島へ駆け付け其処を綺麗にする事に喜びを感じる様になり近隣の住民とも交流を重ねる年月を重ねる。 こまめに雑草を引き抜いた沼地⇒実は昔田んぼだったらしい其処にやがて蟹やイモリが動き回る様になってゆく、2007年6月……雑草を引き抜き整地した水辺から舞い上がるのは小さなヒメボタル達。まるで誰かの魂の様に飛び交う其れが居なくなる頃、もうすぐこの土地に夏が来る。



③桟橋 書き下ろし


 ヒステリックな言動を隠さなくなった夫のDVに耐えられなくなり、画家を営む女友達の勧めで逃げ出す様に東京を離れた母と息子が友人名義の別荘に住み着いたのは4月の終わり頃。其れから早1月……毎日の様に入り江へと足を伸ばす日々を過ごす息子の楽しみは岩場に潜む様々な生き物であり、母の楽しみは作業小屋で黙々とアコヤ貝を抉じ開け真珠の核入れ作業を続ける寡黙な漁師の男と会話にならない其れを交わす時間。 季節は移ろい長雨の季節が訪れる。畑を荒らす猪を追い払う為の鐘が鳴らされる別荘地で息子が眠ったのを確認したら別荘を飛び出し独り桟橋へ 彼女は漁師と行きずりの逢瀬を楽しむ日々を過ごしていた。


此処の入り江、もうすぐ浚渫工事が始まるんだ。当分は魚釣りも出来ないし風景だって変わっていくだろうね。


女友達が別荘地へやって来たのは梅雨が明けたばかりの頃、大量に持ち込んだ缶ビールを冷蔵庫に仕舞いながら彼女が話してくれたのは、真珠養殖業者が此処から居なくなると言うニュース。桟橋隣の作業小屋には既に漁師の姿は無く舟も道具も引き払った後だった。 無人島へ行ってみようか? 此処辺りには100を越える島々が有りその殆どが誰も住まない無人島なのだと女友達は2人を誘う。 


私は何処へ帰れば良いのだろうか 東京へ?あの漁師を追って?


捨てて良いモノは捨ててそうしてまた戻って来れば良いのよ……そう呟く友人の言葉に軽い目眩を感じた彼女は遠ざかる誰も居なくなった入り江を振り返るが濃厚な時を過ごした筈の桟橋はもう何処にも見えなかった。



④指の上の深海 2008年 7月


 あの(ひと)と別れよう。妻子有る30代の男"雄一"と不倫関係となりそろそろ3年 引き際のタイミングは大切だ、これ以上は未練になる。そう覚悟を決めるたびに"陽華"を苦しめるのは右手の人差し指と中指の原因不明の痺れ。 お前を産む (ませる) 積りは無かった。町工場の旋盤工夫婦の子として幼い頃からそう言われ続けた彼女は暖かな家庭環境とは無縁に育つ。 貧乏が嫌いだから華やかなイベント会場のコンパニオンとして様々な男達と浮名を流し気が付けば20代も後半に……貴方の元クラスメイトです。そう名乗る"井上(旧姓)ゆかり"から時折送られて来る乾物セットのお礼をしたためたハガキをポストへ入れ、日課となっている深夜のコンビニに立ち寄った彼女が気になったのは空虚な表情を浮かべ雑誌コーナに立ち尽くす同い年ぐらいの女性の姿。


夜の街を歩き回り商店街を抜け国道に差し掛かかった陽華が見てしまったのは回転灯が輝く緊急車両の群れと人だかり。先程店を出る時にすれ違ったあのススキを思わせる彼女がコンビニで購入したカミソリを使い手首や首を切り刻んだ末に車の前に飛び込んだらしい。私も何れあんな風に壊れるのかな。雄一(あいじん)が返り冷え切ったアパートに独り戻った陽華は、数日後スーパーマーケットの特売コーナーで2本=400円の折りたたみナイフを買った。相変わらず仕事を終えると愛人の家で出すモノを出し、乾物セットを肴に缶ビールを楽しむ彼には内緒でバックの奥に仕舞われた"とっておき"を気取られぬよう確認し、テレビのニュースを眺めるその隣に甘える様に座り込む。


「最近多いね自爆テロ。」


画面に映るのは阿鼻叫喚の地獄と化したイラクの商店街。心の中で「ボンッ」と言ってみる 其れが彼女の自爆テロ。何れナイフも錆びて使えなくなるのかも 指がまた痛みだした。




2019年12/11追記:事態を知ったのは数日前ですが漸く感情に整理つけた……但し裏切られた気分は収まらないので此処に書いときます "美味しいダンジョン生活"書いてた誰かさんがデビュー決まりいきなり退会したみたいですね まあ今思うと前兆みたいなモノが有りはしましたが 社会人としてはどうよと感じました 1方的に気に入っていた作品でしか有りませんし事情も有ったんでしようが 多分書店で見掛けても私は買わないし此処で紹介する気にもなれません。

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