邪魅の雫 後編 06年
2019年5/27〜5/28夜脱稿 タブレット端末にて5/29深夜投稿
【 邪魅…それは魑魅の総称、すだまとは山林の精霊で有り顔は人間で身体は獣の姿で描かれる鬼の類い。大陸から入り込んで来た外来のバケモノでありただ其処に居るだけで邪で狭い価値観しか持たない人の心を惑わせ路を誤らせるモノ この事件の中心に有ったのはただ人を惑わせる存在しない筈の毒物“しずく”とそれに魅了され扇動者に言われるがままに騙され間違え続け、遂には他人を殺めてしまった愚か者達の後悔と慟哭だけだった。 】
後半戦を始める前に何故私が一度は全て手放した京極夏彦“百鬼夜行シリーズ”を再び読んでみたいと思ったのか…そんな話から始めてみようと思います。
そもそもこの話に注目したのは平成後半に入りネット…特にスマホやタブレット端末普及して来た辺りから世界中で跳梁跋扈し始めているインフルエンサー=妖怪風に見立て直すと邪魅の復活でした。まあ以前紹介した“コンティジョン”もそうでしたが自身の利益の為、或いは魑魅魍魎に操られるがままにデマをあたかも真実の様に拡散しとんでもない数の犠牲者を生み出したり犯罪行為を誘発させようとする連中って…別に○○&○日新聞の記者やテロリストだけでなく個人単位でやらかす人間も多いのですよね…例えば一部のユーチューバーとかさ。具体例を上げるとはしかを筆頭に如何なる形での子供達へのワクチン接種を拒否する様呼び掛ける○○○ト教系のカルト団体……その結果世界中で何が起きているかについては多数のメディアから情報入ってくるから色々考えるモノが有った訳です。
★別にゲゲゲの鬼太郎の猫娘の姉さんや犬山まやのスパッツに惑わされた訳では有りません。後、私未だ第6シリーズ見てません(笑)沖縄ではやってないんだよぉ。
ある意味憲法9条信者にヴィーガンや例のクジラ守れと日本政府脅迫してるあのキ○ガイ達も同類だし、そういやこの作者が書いた“塗仏の宴”や他の作品もそんな要素が入っていたよなぁと思い至った頃に動画サイトでアニメ版の“魍魎の匣”の配信始まったものでしたから一縷の望み賭けて古本屋廻りを始めた訳なのですよ。ではオチが付いた所で後半戦です…本編では読者をミスリードしまくりな西田新造サイド=お手伝いさんみたいな第二秘書の娘“松金あやめ”の暴走とか松金家専用運転手の“大仁田良介”の割と頓珍漢な調査報告…惨劇を殊更煽る様に動いている様にしか見えない画商“原田美咲”の胡散臭い推量で読者を振り回しますが長々と陰鬱な話書いても誰も楽しく有りませんので省略します。
では物語を再開します…何時も通りの独自解釈ですので御了承下さいませ。
【 人を憎むという行為は悪い事なのですか? 酷い目に合わされ地べたを這いずり回り泥水を啜る様な生活を送ろうが、昔親しくしていた特定の人物を意味もなく恨む事なんて早々有り得ない筈なのに……どうしてでしょうか 大事なモノを誰か大切な人を奪われるかと思うと私は…………私はあの男が心底憎いのです。 】
事件解決の糸口となりそうな赤木大輔の情報を流し、コノ後に及んでも微妙な対立を続ける北林課長率いる警察庁のチームと単独で参加して来た公安の郷島刑事。そして捜査を指揮する神奈川県警本部の“山下徳一郎”警部補と接触を図る為大磯にやって来た“青木文蔵巡査” 幸いにも捜査本部には元同僚の“木下圀治巡査”が居た事と使い物になりそうだと実は以前から青木や木場の動向に注目していた郷島刑事の協力…3人を殺した毒物=雫の正体に関する推測と公安が動く理由の開示…とそれぞれの組織の情報交換により漸く捜査の進展に光明が見えかけたその時…毒殺事件は再び行なわれた。犯行現場は“来宮小百合”が変死体として発見された砂浜を一望出来る無人だと思われていた岩崎製薬の保養所。
昭和28年9月21日…洗濯物を洗っている途中、毒殺され4人目の犠牲者となっていたのは暴力団員“赤木大輔”だった。
『この連続毒殺事件は何ひとつ筋が通らない、無関係な筈の犠牲者が次々と死体となり転がるのだが殺害方法以外全く共通点が無いのだ…まるで魔物の様な存在が次から次へと飛び移り不幸を呼び寄せている様な気がするのだよ。』
漸く事件の全容が見えて来た矢先に発生した糸口の消滅…山下警部補はかつて持っていた筈の自身の矜持を粉々に破壊した“鉄鼠の檻事件”を思い出し力無く呟くが事件は彼等の預かり知らぬ所で一気に解決へと動き出していた……人が死ぬ瞬間に魅入られ大磯と江戸川を行き来し来宮小百合が海岸で断末魔を迎えるのを見物し断末魔を迎えた真壁恵が苦しむ姿に性的興奮すら感じていた江藤徹也の前に現れたのは何も知らない筈の探偵=榎木津礼二郎の姿。
『お前はこの事件に何の関係性も無い……邪なことをすると死ぬよ。』
捜査本部が4人目の毒殺犠牲者発見で騒然とする大磯海岸。そんな状況を知らないまま来宮小百合と彼女に付き纏っていた薄気味悪い男の情報を求めノコノコ現場にやって来た益田龍一と関口巽は土産物屋兼雑貨屋を経営する名物店主“後藤なべ”から重要な証言を聞き出す事となる…小百合は戦前に潰れて以降、ホームレス等の住処になっていた為に何もかも家財道具が盗まれた岩崎製薬の保養所に滞在し定期的に生活必需品をこの店で購入していたのだと言う…そもそもこの婆さん親戚の家を訪れ店を閉めていたから娘が何者かに毒殺された事実を知らなかったのだ。
警察が疑っていた毒殺犯による誘拐殺人の可能性は潰えた。彼女は自らの意思で赤木大輔と共に此処に潜伏していたのだ…しかも殺されたその日、憂鬱な表情で海を見ている彼女に気付かれない様に毎日のように付き纏う“澤福の屋号が入った酒屋の自転車に乗った愚鈍な顔の青年が居たらしい…” 捜査本部に接触し新たに掴んだ重要な事実を知らせようと警官を探す2人は、途中、遺体発見現場から警官達を振り切り逃走を図る江藤徹也に遭遇…突き飛ばされボロボロになった益田を助けおこしてくれたのは元部下だった亀井巡査。 2人は状況を説明し偶然手に入れた証言を山下警部補に報告するため捜査本部に合流する…元部下である益田から聞かされた榎木津の周りで起きている不可解な縁談妨害と毒殺事件の関連性に山下警部補は頭を抱えるのだが縁談相手の1人=宇津木実菜の写真を見て表情を一変させた…江戸川で殺された3人目の犠牲者=真壁恵と名乗る名前の無いの正体は彼女だったのだ。
益田と関口が捜査本部に合流し宿舎に泊まった翌朝、昨日まで彼等が滞在していた民宿・高田屋で5人目の身元不明の毒殺死体が発見された…宿泊名簿に書かれていた名前から判明した犠牲者の名前があの行方を眩ませた無能刑事“大鷹篤志”だと知り2人は現場へと駆け付けるが…殺されていたのは江藤徹也だと判明し頭を抱える事となる。 捜査本部に掲げられていた“真壁恵=宇津木実菜”に付き纏っていた不気味な男の正体は“大鷹篤志”だった…もしかしたら彼は何もかも見ていたのかも知れない…大磯一帯を封鎖し警官隊によるローラー作戦が始まったが大鷹篤志はパレットナイフで滅多刺しにされた無残な姿で発見された。
『殺してしまいましたよぅ……。』
彼女=宇津木実菜を助けられなかったと嘆く当人の前にノコノコ現れ自身の犯行を満面の笑顔で告白した大鷹篤志を殺害したのは画家=西田新造 もう彼女には逢えない……覚悟を決め犯人を殺し大鷹が所持し見せ付けた“毒物=しずく”を使い自決する覚悟を決めた西田の前に現れたのは“探偵に変わり果てた彼女を対峙させない為に訪れた黒装束の陰陽師=京極堂”と青木.山下.益田.関口の姿…別荘の周囲には警官隊も待機している。 その数時間前に予想外の展開に頭を抱える益田や関口が滞在する捜査本部へ彼等と山下警部補に面会するため現れたのは“探偵=榎木津礼二郎” 多数の人間が犠牲となった事件は漸く終焉を迎える……。
全ての躓きは大東亜戦争勃発直前まで遡る、当時関東軍から委託を受け岩崎製薬が恐ろしい効能を持つ“毒物=しずく”を依頼元の軍部に内緒で先に完成させてしまった事に有る(ちなみに岩崎製薬倒産後陸軍研究所で同じ物は完成していたらしいが…結局レシピ毎破棄されたという。)
こんな悍ましい物は後世に遺してはいけない…自身が生み出した悪夢に恐怖し研究成果を封印し会社そのものを計画倒産させ開発者兼オーナーの“岩崎宗佑”は自ら命を絶った。 だが彼自身は創り出してしまった“しずく”と研究成果をどうしても廃棄する事だけは出来なかったのだと言う。遺されたのは莫大な資産とスタッフ達…陸軍の追及を逃れる為に会社は整理出来たものの彼等には生活の糧が必要で有り“遺産の秘密を守り続ける”組織として動くに辺り“軽い神輿”が必要だった…しかも社員の忠誠心を掻き立てるのであれば“美しく若い創業者の血縁者”が望ましい。彼女…神崎宏美が早くに亡くなった身勝手な父親が岩崎宗佑の息子で有り自分が唯一の血縁者だと知らされたのは10年前の話だ。
単なる創業者の血を遺すための道具…莫大な資産と引換えに全ての自由を奪われた彼女が老害達を追放し神崎商事の若き会長として裁量権を取り戻したのは随分後の事になる。呪われた遺産で有る“しずく”の製造レシピは廃棄したが彼女自身も唯一の試作品を廃棄する事が出来ないでいたらしい…そんな彼女を脅迫対象として付け回し榎木津との関係を調べ上げた“澤井健一”が脅迫を始めたのは1年前の事だったと言う…元防疫給水部隊に配属され軍の暗部に精通した屑は次々と榎木津の縁談予定者をレイプしその事実をカストリ雑誌にぶち撒けると執拗な脅迫を繰り返した。
宇津木実菜を助け真壁恵の偽名で都内のアパートに匿いつつモデルとしての事故を斡旋し、姉が襲われ激昂した来宮小百合が澤井を襲うかも知れないと偽名で赤木大輔を雇入れ彼女のフォローを頼み込み、元刑事を名乗る大鷹篤志を同じく偽名で雇入れ実菜=恵として彼女が暮らすアパートの警備を実菜に内緒で頼み込む……そんな応急処置が破綻したのは結局の所、宏美自身が榎木津礼二郎に内心未練が有ったからなのかも知れないし彼女の人を見る目は間違い無く最悪だった……そんなにアレが欲しいのか…ならばくれてやる。
“しずく”を手に入れた来宮小百合は澤井健一を呼び出し不意をついて毒を散布…突然苦しみ出し悶え死んだ屑を殺したのに何の感慨も沸かない自身に恐怖した彼女を匿い神奈川県大磯の元岩崎製薬保養所⇒現神崎商事が管理する宿泊施設へと連れ出したのは赤木大輔だったが壊れた彼女は犯行を目撃し2人を好奇心から付け回していた阿呆=江藤徹也に自分を“しずく”で殺して欲しいと阿呆に懇願。 宿泊施設から小百合に迫る不審者を目撃し駆け付けるも全てが手遅れとなった赤木大輔は慟哭する。実は宏美が偽名を使い雇入れる際、実名を出さずに彼女が澤井に殺意を抱いた事情と“しずく”の恐ろしい誕生譚を聞かされていた赤木は開発者の娘で有り同じく澤井から執拗な脅迫を受けていたと聞かされていた“真壁恵=宇津木実菜”が証拠を隠滅するために小百合を殺したのだと誤解。勘違いしたまま宇津木実菜を毒殺してしまう……ちなみに実菜を警護する筈の大鷹篤志は赤木がアパートを訪れるのを目撃しながらも間抜けにも傍観。江藤徹也が赤木を付け回していた怪しい光景にも気付く事は無かったのだ。
自身の目の前で繰り返され一部については自殺幇助まで体験した3件の毒殺事件。犠牲者が迎える断末魔に興奮覚めやまぬ江藤徹也を偶々目撃した榎木津礼二郎は彼なりの方法で事態の収拾を図るため馬鹿を叱るのだが元々他人に叱られる事に深刻な恐怖を抱く愚鈍な男にとってソレは逆効果だった。 宇津木実菜の身辺警護に失敗し宏美に泣き付く形で宿泊施設に逃げ込んでいた大鷹篤志をだまくらかし赤木大輔が隠匿していた“しずく”を手に入れた江藤徹也がターゲットにしたのは懸想していた“真壁恵=宇津木実菜”を毒殺した赤木大輔。 自身の周りで次々と人が殺されている…漸く何が起こっているのか理解した大鷹篤志は赤木を殺した江藤を捕らえるために襲い掛かり“しずく”を浴びた江藤は自滅する形で最後を遂げる。 狂い続けながらも宇津木実菜の敵を取った大鷹は、最早まともな受け応えすらも不可能な状態で“画家=西田新造”の前に現れかつての憑物落としの様に事件の推移を説明しようとしたのだが画商=原田美咲としか会話した事がなく彼女の口から宇津木実菜の困窮事情を…そして彼女に付き纏っていたストーカーが実菜を殺したと聞かされていた西田は勘違いしたまま大鷹を殺してしまった。
『西田さん…貴方が描きたいと思っていた宇津木実菜さんは一体どんな人物だったんですか。 そして貴方に自死を決意させたのは誰なんですか?』
西田新造に取り憑いた邪魅を落とした京極堂の言葉が虚しく響く。こうして6人もの犠牲者を生み出した連鎖殺人事件は終焉を迎える…西田新造は大鷹篤志を殺害した容疑で山下警部補に付き添われる形で合同捜査本部に自首。
神崎礼子として乗馬倶楽部の調教師として生きながら来宮姉妹を守ろうと動き。原田美咲を名乗り画商として活躍。宇津木実菜として見ず知らずの使えそうな人間=赤木や大鷹を雇い入れ、真壁恵を名乗り本物の宇津木実菜の親友として生きてきた神崎宏美 結局の所彼女自身も“邪魅の雫”に魅了されたかの様に自らの闇に操られ巻き起こしてしまった惨劇。只イタズラに事態を迷走させた彼女を逮捕し裁く罪状は世界の何処にも存在しない…………嘘ばかり言っていたから好きな物を大事な物を何もかも無くしてしまった…それは彼女にとって死よりも重い罰だった。
実はこの後に神崎宏美と榎木津礼二郎の対峙シーンが有る訳ですが…どうもお馬鹿様だったらしい私にはどうしてもアレを噛み砕いて説明する事が出来ませんでした。出来りゃ現物手に入れて読んだお客様様に委ねます(泣)
後10年程生きりゃ理解出来るのかね? あの台詞……。




