アウトロー/ジョージ・ヴェルス 76年
2019年3/11〜3/12タブレット端末にて執筆し脱稿 3/13深夜投稿
【 北軍派と南軍派による南北戦争勃発する7年も前から奴隷制度やら工業か農業か或いはカトリックかプロテスタントかという思想信条に宗教で対立し、 隣近所で或いは家族同士で殺し合っただけで無く砂金目当てに押し寄せた不法移民達同士と強制移住させられた先住民同士ですらそれぞれ殺し合ってた中立州の中でもダントツで悲惨な修羅の国=或いは血を流すカンザスと呼ばれた境界戦争でとばっちり受けたミズーリ州で妻と息子そして処刑された仲間の復讐の為に意地を通した無法者ジョージ・ヴェルスの半生を描いた物語 せめて中学生レベルで南北戦争の基礎知識知っていた方がより楽しめるそんな作品です。 】
★以前ネタにした“シビルウォー”や“コールドマウンテン”と同じ時代同じ場所を描いてるのですが……撮る人や撮影時代の雰囲気によって全く違うのね(汗)
☆日本劇場公開&DVDタイトルは“アウトロー”ですが写真無いとタイトル被るので原題に準じました。
原題:THE OUTLAW JOSEY WALES
無法者ジョージ・ヴェルス
アメリカ劇場公開作品.
同年日本公開.
原作はフォレスト・カーターが75年に発表した
小説The Rebel Outlaw:Josey Walesのダイジェスト版
そもそもこの作品見てみようと思い立ったのは“ガントレット”の旧原稿を全面的に書き直そうかと思い立ち色々調べてる際に二人が共演し意気投合する切っ掛けとなった作品と知り気になったからでして、クリント・イーストウッドお気に入りの監督&主演作品だと知ったのは本編見終えてメイキング映像見てからの事です。 当時既に40半ば間近なオジサンが20代〜30代を演じ、設定年齢16歳のヒロインと乳繰り合うのは……流石にアレだよなぁ(冷汗:一応書いときますが20代後半です本当は)と思いつつも敢えて年代や年月の流れをはっきり描写しない事で力任せに乗り切った物語で御座います。
上映時間は其れなりに長く2時間15分。ネットの感想欄ではどいつもこいつも長くて退屈だと抜かしてやがりましたが私は楽しめました。 最低でも6年以上 もしかしたら10年近い復讐と追跡劇を映像化した割には割とコンパクトに纏めてると思います。 原作そのままだと南北戦争の激闘シーンも入れて普通ならテレビシリーズで6話分ぐらいは使う筈だしねぇ。
今作の舞台は合衆国の中西部の農村地帯、霧のミズーリ州と砂漠と荒れ野が広がるバッファローの國テキサス州。 特にミズーリは南軍のアメリカ連合国と内ゲバが絶えないカンザス自由州等の中立派に囲まれた環境だった事から双方の勢力に所属する義勇軍による見境無しの住民虐殺が頻発した土地で、1861年4/12〜1865年5/9(実際に殺し合いが終わったのは6/22)まで続いた南北戦争の時代にかなり陰湿な報復合戦が繰り広げられた場所です。 とは言えソレ以前から隣のカンザス州同様、合衆国政府による組織的なインディアンに対するホロコーストが繰り広げられてたからざまあと感じる人は居ても同じ白人同士の殺し合いに同情する物好きなんざ今や存在しないのかも知れません。
穏和でノンポリ(死語?)な銃もロクに撃てない開拓農民が何故、捕虜や民間人虐殺で南軍首脳陣からもキチ○イ呼ばわりされた悪名高いウィリアム"ブラッディ・ビル"アンダーソン将軍配下の南軍ゲリラ部隊(時代劇で例えるなら新選組みたいな立ち位置 但し指揮官は芹沢鴨(笑))に所属し、 同じく戦後銀行強盗で有名になったジェシー&フランクのジェームス兄弟と共に何をやらかしたのかは映画ではオープニングでバッサリと省略。だけど私は、彼等の活躍シーン?で派手に流れるのは南軍軍歌では無く北軍行進曲=共和国賛歌でよくよく見たら南軍皆殺しにされてるシーンだったりするのは絶対ギャグ狙いだったと思います。史実では最初から最後まで惨たらしく殺されたのはカンザス赤足隊です。
南北戦争の前哨戦で有る境界戦争とその後訪れた混乱期を扱った作品でヒスパニックやチェロキー族にナバホ族やコマンチ族が登場するのにも拘らず黒人階級の出番が全く無いのは撮影当時、公民権運動がベトナム反戦運動とごっちゃになって例え同じ黒人でも白人と仲良くしたらリンチされる可能性が有ったからで、特に今作の主人公は色々理由が有ったにせよ多数の北軍兵士を撃ち殺した事で合衆国から命をねらわれる無法者だったから……とは言え生死問わず5000ドルの賞金首になってからは元南軍兵士からも命を狙われる立場になったからブラッディ・ビルやジェームス兄弟程憎まれなかったってのも有るのかも知れませんね…マカロニ・ウェスタンでもあの時代は復讐の連鎖が続いた悲惨な時代でも有ります。
個人的に気に入ったのは、従来の西部劇や何処までも上から目線なアメリカン・ニューシネマのソレでは無く、チェロキーはチェロキー族としてコマンチはコマンチ族として異なる言語と価値観を持つ人間として描いた事。何処までも真面目な従者としてでは無く無責任で悪辣極まる白人と奴等が撒き散らした天然痘や梅毒と武力により故郷を追われ家族を失ったもののソレは其れ…しぶどく生きる道を選択し生き延びる道を選択する堅実さを持つ奥深い魅力を持つ人々として映像化されたのは恐らくコレが最初。小説読み耽ったイーストウッドが周囲の反対押し切り映画化に踏み切ったのもそんな理由でした。
【 共和国を支持する山賊上がりの義勇軍・赤足の特徴は同士討ちを避ける為に赤いゲートルを両足に巻いていた事。同じく馬泥棒上がりのブラッディ・ビル率いる南軍ゲリラ同様、自分達に協力しない敵からは何もかも奪い殺し尽くす……南北戦争勃発前から隣近所で殺し合いを続けてたカンザスの人間にとってミズーリ州は南軍支持派打倒を口実に略奪に勤しむには絶好の狩場でした。なにせ元々戦力が足りない南軍の主力部隊が存在していない事と住民の大半が最近入植し開墾始めたばかりの余所者同士…結束力が無かったからです。 】
『俺達は、あの戦争で少しずつ心が死んでいったんた…………。』
1861年4月下旬、カンザスの北軍義勇軍=赤足の無差別攻撃により家を焼かれ妻と息子を殺され自身も生死の堺を彷徨った開拓民“ジョージ・ヴェルス”は数日後カンザス軍追撃の為到着したブラッディ・ビル南軍=義勇兵の一員となり壮絶な復讐を敢行する。 だが町を焼き払い何人殺されようが海外から絶える事無く入り込む移民 イギリスやドイツにロシア等東欧の元徴兵経験者 を兵士として投入出来る北軍と違い、主に農民上がりの志願兵で構成され海外からの支援を海上封鎖で干された南軍は徐々に劣勢となってゆく 1865年5月上旬、南軍=アメリカ連合国は共和国に併合される形で終戦を迎えた。
☆家族奪われ戦争で殺し合いを経験し、色々やさぐれた主人公…終戦時点で噛みタバコ愛用するキャラクターに豹変した為に、気に入らない相手や敵の死体にツバを吐く機嫌が悪いリャマか驢馬みたいな男になりました(笑)気に入らない人は不快に感じるかも知れませんが、この物語の元ネタって“ブレーメンの音楽隊”なのですよ♥だから老いた驢馬がツバ吐くのは必須なんです。尚老いた雄鶏はウェイティで駄目な猫はムーンライト。但し犬はまんま本物が出てきます(苦笑)
本隊からはぐれカンザスの森に孤立した“フレッチャー大尉”率いる南軍ゲリラは、刀折れ矢も尽きた状態で北軍正規軍の武装解除要請に応じて降伏する事になったのだが実はその部隊は全員カンザス出身者…しかも正規軍に合流した“赤足”達が大半を占める彼等は自分達の家を焼き払い仲間や家族を殺し尽くした敵を助ける気持ちなど毛頭無かった。無法者として終生追われる覚悟を決めゲリラから離脱したジョージは、偶然軍服の下に隠された赤いゲートルと妻と子供を手に掛けた糞野郎=“デリル大尉”を目撃し駆け付けたが全ては手遅れ、仲間達の大半は武器を手放し油断した所をガトリング砲で処刑されてしまう。
★シビルガンでも書きましたがゲリラ=民兵は正規軍扱いされず、軍法により捕まれば死刑でした。逆に正規軍殺した主人公は大罪人となります。
喝采の声を上げる赤足隊数十名をジョージは奪い取ったガトリング砲で挽肉に変え、肺を撃たれ重傷を負った部下“若造”を連れ逃走。 武装解除に応じた捕虜処刑の事実を隠蔽したいレーン上院議員の命令で、主人公達の追撃と処刑に駆り出されたのは“デリル大尉率いる赤足隊の生き残り”と何も知らされないまま結果的に部下を裏切り死地に追い込む形となった“フレッチャー” 既に戦争に勝ったつもりでいるレーン議員やデリル達を罵りつつも最早裏切り者となった彼には抵抗する権利は無い 他の南軍ゲリラ生き残り同様、追撃を巻いてメキシコへ逃げ込む為にミシシッピ川へ 顔馴染みで赤足隊嫌いな渡し舟の小屋を取り仕切る婆様に治療薬を貰い横柄な態度を崩さない“道化=インチキ薬売り”をいなしながらたった1発で彼等の追跡を振り切るも、アラバマの思い出を語り出したジェイミーは季節外れの雨で衰弱し命を落とした。
★インチキ薬=ルートビア&コーラはこの時代アメリカに普及した東欧の魔女の惚れ薬(本当は健胃薬)を模倣し大量の甘味料をぶち込んだモノです。勿論効果には当たり外れが有り…後に炭酸が入りました。ちなみに現在はアルコール入りのモノ含め280社以上が現存し養命酒もある意味親族になります。
彼の死体を囮に待ち伏せ部隊の包囲網を逃れた主人公が向かったのは白人との全面戦争に負けて強制移住を命じられ居留地に押し込められたチェロキーの村……だが其処に生き残っていたのは老境を迎えた元族長“ローン・ウェイティ”だけ 数年前に発生した天然痘とリンカーン大統領主導による先住民絶滅政策で“死の行進”を体験し生き延びた隠者は北軍の勝利を知り新天地を求め主人公と共に居留地を脱走する。 逃げたと判れば殺されるが、どの道此処に引き篭もっても白人達に嬲り殺しにされる未来しか無いのだ。
和平交渉で宣教師に着せられたウェティの燕尾服を焚火に投げ込み、馬を確保する為交易所へ 先住民をウィスキーで騙くらかし(南北戦争以降のインディアンの死因トップはアルコール依存症)濡れ手に泡の利益を上げていた屑そのものな店主と用心棒達が懸賞金目当てに襲い掛かって来たから容赦無く返り討ちにして奴等の馬と店に有った食料、後何故か恩義を感じ付いてきたシャイアン族に攫われアラパポ族の奴隷⇒白人達の慰み者になっていたナバホ族の女“リトル・ムーンライト”や食物の匂いに釣られ勝手について来る変な野良犬もメンバーに加わり“三人と1匹となった無法者達”はテキサスとの州堺に出来たばかりの建設中の町へ辿り着く。
町の入口で政府が買い取りを宣伝していた、インディアンの頭の皮(ちなみに偽物)の転売持ち掛けられ閉口する爺様は町の広場で怪し気な薬=ルートビアを売るインチキ薬売りに八つ当たり……ムーンライトと犬のコンビは目立た無い立ち位置を利用し食料と水を補給。手足失い物乞いやってる元南軍兵士目撃して、なんかやり切れないヤサグレモードに入った主人公はツバを吐いた瞬間通りすがりの婆様と小娘に怒られ色々凹む(笑)……が偶々再会したインチキ薬売りの余計な一言から忽ち正体がバレ同じく町をパトロール中だった赤足隊と遭遇戦に……色々反省し銃の使い方を学んだ爺様の機転と主人公の早撃ちで追手4人を仕留めた無法者達は砂漠へと逃げ込んだ。
命を助けてくれた事に感謝はするが白人は恋愛対象どころかそもそも人間じゃないので論外 ウェイティが未だ下半身も現役だっというシモネタかましつつ、南北戦争で相手にされなかった結果勢力再拡大&双方の銃器や馬を手に入れ不法移民を容赦無く皆殺しにするコマンチ族の勢力地で彼等に化けて移民に襲い掛かる武装商人10匹を気に入らないから皆殺しにしたら助けたアラバマからの開拓民の生き残りはよりにもよって建設中の町で出食わした糞婆と小娘
夫と兄を武装商人に殺され自暴自棄なババァとレイプされかけ半裸状態の小娘を荒野へ放り出す訳にもいかず、もう良いや(泣)毒食うならば皿までだと途中立ち寄った炭鉱潰れて寂れかけたサンタリオの町…ちなみに町の唯一の名物土産は知らない間に此処で暴れて賞金稼ぎに撃たれて死んだらしい主人公の記念写真入り絵葉書(爆笑)ちなみに3ドルもしやがります…私主人公が何とも言えない味の有る顔でハガキ買うこのシーン大好きです…でコマンチ族にウィンチェスターと共にに売り飛ばされる筈だったウィスキーを放出し住民達を味方に引き込んだら、無し崩しに元赤足隊の戦死した息子から土地を受け継いだ婆婆の指揮下テキサス州ブラッド・ビュート牧場でメンバー全員開拓民として暮らす事になりました。
☆ちなみに此処でも湧いて出たインチキ薬売りのせいで正体バレて賞金稼ぎを返り討ちにする破目になるのですがサンタリオの町の住民は元南軍派だったので穏健に事が運びます…まあ大量のウィスキーとウィンチェスター持ち込んだ町の救世主を裏切れないわなぁ。
町からは今更老境で潰しの効かない老人達が無法者達に加わり大人数となったメンバー&牛達も加わり川の側に建てられた廃屋同然の石小屋を建て直したり荒地を開墾し畑や牧場建設に勤しむ生活続ける中、本当は戦死した息子の嫁として連れて来たらしい小娘=ローラ・リーと相思相愛となった主人公……何だかんだ言いつつもババァや他の開拓民とも其れなりの家族付き合いを始めたウェイティやムーンライトにどうも元牧畜犬だったらしい野良犬もすっかり牧場の一員に……危うく敵対する所だったコマンチ族のリーダー=テン・ベアーとも差しの話し合いで血の盟約を築き上げたりと色々有った数年後、遂にインチキ薬売りから情報聞き出したデリル大尉率いる赤足隊の生き残りが牧場までやって来ます。
例え早撃ちの名手だろうが数の暴力には勝てる筈が無い…ところが彼等を待ち受けていたのはババァとウェイティの指揮下、商人からガメた大量のライフル銃で武装した開拓民と身体中に拳銃仕込んだ主人公…………なんかもう一方的に逃げ場無くして返り討ちに合い結局全滅する赤足隊(笑)仲間見捨てて弾切れ状態でサンタリオの町郊外の廃屋まで馬を走らせ逃げ込んだデリル大尉は主人公に散々弾切れになったピースメーカーで空撃ちされて逆上し引き出したサーベルで逆に心臓をブチ抜かれジ・エンド。…そしてサンタリオの酒場でその後色々有って連邦捜査官となった元上司と再会するのですが…そもそもフレッチャーは結果的に元部下達を死地に追いやった責任を果たしたいが為に捜査官になっただけ…主人公に撃たれる覚悟は有っても殺そうとか捕らえようなんてつもりは端から有りませんでした。
『最早南北戦争は終わった。俺達が殺し合う理由は端から存在しない。』
夕闇迫るサンタリオの町を離れ家族が待つブラッド・ビュート牧場へ……無法者を追い無謀な道行きを重ねた赤足隊はジョージ・ヴェルス同様行方知れずという事になり名無しのカウボーイとなった主人公の姿をバックに物語は終わります。南軍ゲリラとして悪名高い彼等の大半は山賊或いは銀行強盗で新聞記者の飯のタネとなりその殆どが20代前半であえない最後を迎えました。西部劇の時代は終わり合衆国が近代社会へと変貌してゆく時代を描いた物語は此処で終わります。
ある意味ポスターやDVDパッケージで色々損してる作品だと思います。本当の主役はインディアンの爺様で有り決して諦めない婆様です(笑)