ドッグ・ソルジャー 02年
2014年3/16ガラケー投稿 2018年10/13タブレット端末にて改訂開始〜10/15再投稿
【 イギリス北部.スコットランド…密生し空までも覆い尽くすオークの梢で太陽の光すら届かない世界で繰り広げられたのは、ローマ帝国の時代から外から侵入してきた人間を捕食してきた“狼と人間を組み合わせたかの様な恐ろしいナニか”とソレすらも捕獲し兵器として研究する為に“生き餌として送り込まれたヴェルズ分隊”との壮絶な生存競争。血みどろどころか内臓や首ポロリもあるグロ映像を引き立てるのは壊れたヒロインが廃墟に遺されたピアノで奏でる“ドビュッシーの月の光”下手なゾンビ映画より喰人描写満載なんで視聴するかどうかは自己責任でお願い致します。後モノ食いながらはちょっと…… 】
原題:DOG SOLDIERS
本来の意味はシャイアン族の決死隊の英語読みから、薩摩同様釣り野伏や“捨てがまる”戦法を駆使した彼等はインディアン絶滅戦争で合衆国騎兵隊を恐怖のどん底へ叩き込みました。
残り2つは認識票がタイトルの由来かと…ローマ〜イギリス由来の話ですのでシェイクスピアの“戦争の犬(ジュリアス・シーザーの第三幕)”ネタも含みます。
イギリス劇場公開作品
日本公開2003年
❖R15作品
イギリスで生きていたヨーロッパ・オオカミが絶滅したのは恐らく17世紀.地球が小氷河期に突入しペストと魔女狩りと宗教戦争がヨーロッパ中を席巻した1600年代後半の事になります。ギリシャ神話やローマ帝国の創立神話(双子座のアレです。ローマ神話ではロムスとレムスに変わりました。)で聖獣とされた存在は、新興宗教であるキリスト教が台頭しローマを滅亡に追い込んだ辺りから“狼=異端者の象徴として”組織的な虐殺が始まりました。特にキリスト教に改宗せず自然崇拝や先祖供養等、独自の信仰文化を守ろうとした勢力には“人狼”あるいはライカンスロープ等それぞれの言語で狼と関連付けた蔑称を付け組織的に集落から放逐。中には村や街毎皆殺しとなった例も存在します。
✳小氷河期により獲物を失った肉食獣&人間による食人行為についてはいずれ“ウルフェン”の原稿手直しの際にでも…。
毛皮を纏った原始人扱いされた彼等を絶滅に追い込む為、宗教指導者達が広めたデマによりやがてそれは“グール”吸血鬼“狼人間”魔女”悪魔憑き”と変化してゆく訳ですが今回の舞台はヨーロッパでは無くハイランダーが暮らすスコットランドですのでそこら辺りのネタは又別の機会にでも取り上げましょう。イギリスがノルマン王朝に統一された辺りからスコットランド地方では情け容赦ない狼狩りと異端者殺しが始まりました。当初話し合いによる緩やかな融和を行っていた山岳狩猟民族に対しイギリス側は騙し討ちによる民族浄化を強行。戦いは数十年にも及び…何時しか彼等は“人間を貪り食うナニか”というデマにより化物へ置き換えられました。
噛まれたりその爪で傷を負った者はいずれ狼人間となり満月の夜に変化し人を貪り喰らう。ライフル程度なら傷を修復し返り討ちになるが銀製品を恐れソレで殺されたら人間の姿に戻る…そんな狼人間(それ以前は完全にワンコ(笑))のスタイルが確立したのは1941年に公開された映画“倫敦の狼男”からです。勿論当時イギリスには狼が居なかったから主人公は軍務中にチベットの山奥で襲われ怪我をし、負傷兵として故郷に舞い戻ったら満月の夜に…とまあそんな内容でした。尚スコットランドには巨大山猫(最近撮影された奴は体長1·5m)の伝説はありますが狼人間の伝承は当時暮らしていた人々が根絶やしとなった事から存在していません。
ではそろそろあらすじへ入ります。物語冒頭上官命令で犬をどうこうするあのシーンはあくまでも創作上の演出っポイです。元ネタは司馬遷の史記より親衛隊を作り上げ主君を暗殺しモンゴルを統一した独裁者誕生のエピソードから。
【 それは2002年アジア初のワールドカップ予選が始まる4週間前の事だった。イジメ同然の嫌がらせ命令を拒否したこの物語の主人公“クーパー”が特殊兵器部隊の試験からリタイアしたその日の夜、一組のカップルがスコットランドの黒き森でテントを開け乗りこんできた何者かに貪り食われるシーンをカメラは映し続ける。録画されたこの映像は何なのかそもそも誰がソレを回収し誰が閲覧していたのか?答えを敢えて提示しないまま物語はイングランド代表が因縁の敵ドイツに4点差で大勝したあの日の夜に突如サバイバル訓練に駆り出されたヴェルズ分隊が不満たらたらでヘリから降ろされるシーンへ移ります。 】
スコットランド北部山岳地帯。ヘリで降下したウェルズ分隊は深夜突然投げ込まれた牛の死骸に刻まれた恐ろしい警告に気付く間もなく、翌朝に緊急事態を意味する信号弾を目撃し現場へ急行。其処でおぞましい光景に遭遇する事になった。森の中で続く遠吠えと銃撃戦と断末魔の声。辺り一面に撒き散らされた無数の肉塊と血溜まりの中に部下に置き去りにされる形で転がっていたのは。重傷を負い錯乱状態となった主人公の因縁の相手“ライアン大尉”
「1匹だけ! 1匹だけだと思っていたのに‼」
傷の痛みで発熱し錯乱しているライアンの要領を得ない説明から判明したのは、まるで大型の肉食獣に喰い散らかされ撒き散らされたソレが彼の率いるSAS特殊兵器部隊の成れの果てだという事実。不可解なことに銃器は全て破壊を逃れた状態で周囲に転がっており無線機だけが徹底的に破壊されていた。隊員の認識票と共に回収した装備品の中に肉食獣用の麻酔弾、大型獣を捕獲する為の網がある。野犬すら生き残れない山の中、この辺りに出没するのは鹿か牧場から逃げ出した牛ぐらいしかいないのに?
ヴェルズ軍曹の判断で訓練は中止となり、怪我人と大量の殉職者発生を基地に報告し救難ヘリを呼び出そうとしたが…出発前に点検した筈の分隊用無線機は、何者かに仕掛けられた遅延発火装置で破壊されていた。しかも全員の装備の中に仕込まれていたのは見慣れぬ発振器。
「奴が、奴らが来る!」
2足歩行なのにあきらかに獣としか思えない…信じられない速さで動き回る複数のソレは銃弾を避けながら次々とその牙と爪で襲い掛かる。隊の殿を長年勤めてきたブルースは銃の作動不良と木に刺さり動けなくなった所を化物に襲われ敢え無く命を落とし、ヴェルズ軍曹はブルースを助けようとした隙きを突かれ内臓が飛び出る程の重傷を負った。ヴェルズとライアン、二人の負傷兵を抱えた分隊は威嚇射撃を繰り返す事でやっとの思いで包囲網を突破し道路へ…そこへ発砲音を聞き駆け付けた動物学者“メーガン”の運転するランドローバー(イギリス版ジープ)により助け出された。
車の中にまで手を伸ばし襲い掛かる化物をギリギリで振り払えたものの、尚も追い縋るソレから逃れる為にそして重傷を負ったヴェルズ軍曹とライアン大尉の応急処置をおこなう為に、森で猟師を営む彼女の友人が暮らすユーアス家へ向かう…メーガンの家は此処から80kmも先、この辺りに有る建物はその一軒だけだった。夕闇が迫る中やっと辿り着いた文明圏…だが家に残されていたのは温かいまま手も付けられていない夕食と留守を守る1匹の犬“サム”の姿だけ、住民の姿は何処にも無かった。
発電機と揚水ポンプは有るが、電話やテレビも無い山小屋の様なユーアス家で軍曹と熱に侵され意味不明な言動を続けるライアンの応急処置をしながら聞かされたメーガンの証言は常軌を逸した内容だった。数年前から目撃されている山猫の調査で度々フィールドワークを続けていた彼女が近隣の猟師達から聞かされていたのは、満月の日に発生していた住民やハイキング客の行方不明事件。不明者は既に15名にも登り警察へ通報したのに森へやって来たのは完全武装を固めたライアン大尉を中心とする特殊部隊。
彼等は、森を封鎖する訳でも行方不明者の捜索をおこなう様子も無く昼間はひたすらセンサーや大型獣を生きたまま捉える為の仕掛け罠を設置して夕方には慌ただしく迎えのヘリで基地て帰投する日課を繰り返していたのだと、態度を豹変させメーガンの証言を遮ろうとしたライアンの態度に不審を抱いた分隊補佐&主人公のクーパーがライアンを問い詰めようとした瞬間、発電機を止め停電を引き起こしたソレは窓から襲い掛かって来た。メーガンの車は破壊され暗闇での銃撃戦でメーガンは爪で負傷、テリーは生きたまま攫われ周囲からはまるで狼の様な声が…。
攫われたテリーを取り返す為、そして逃走用の足を確保する為にクーパーとスプーンの援護射撃を受けながら納屋に有るユーアス家の車を動かそうとしたジョーはボンネットにテリーの頭を投げ込まれ混乱した所を車内に待ち伏せていた化物に貪り食われる事になる…家の前に止まった車は破壊され後部ハッチを空けたスプーンが目の当たりにしたのは肉塊と化したジョーの残骸だった。
瀕死の重傷だったライアンの傷が何故か消え、瞬間接着剤で傷口を無理やり塞いだヴェルズ軍曹の指示で生き残った5人はバリケードを築きユーアス家に立て籠もる。化物達は隣の納屋を拠点に偵察と威嚇を繰り返す…この後に及んでも真相を話そうとしないライアンの態度に激怒した主人公とヴェルズは軍法会議を覚悟の上でスプーンやメーガンと共に大尉を拘束。余裕綽々な態度を崩さないライアンは勿体ぶった態度で真相を語りだした。
特殊兵器部隊がこの森に派遣された理由は“新兵器と成り得る狼人間に変異する化物の生け捕り”偶々生き餌として選ばれたのは優秀で有りながら無闇やたらな殺戮を好まない軍人としは致命的に役立たず(あくまでもライアン視点で)な兵士達。
「本当はお前達が餌となる筈だったのにどうしてこうなった?」
突如ロープを引き千切り狼の上半身を持つ化物に変化したソレは窓を破り森へと姿を眩ませる。特殊部隊の大尉としての記憶と知識を持つ“人狼”が誕生し最早一刻の猶予も無くなった。アレが人間に戻る夜明けまで後6時間、それだけ有れば僅か4人と1匹は間違い無く食い殺される…傷口が跡形も無く消えた事で全てを察したメーガンは現実逃避するかの様にピアノへ向かい“ドビュッシーの月の光”を演奏する。
絶望に満ちた彼女の演奏をフラッシュバックさせながら絶えず強襲を繰り返す化物との戦闘が始まる。暗闇の中孤立した状態で人狼と戦い続ける彼等の姿…スプーンは近接格闘技で辛うじて奴等の1体を倒したものの血溜まりに沈んだ。人狼になり掛けたメーガンをクーパーはユーアス家の食器から加工した“銀の弾丸”で仕留め、メーガン同様傷口が修復したヴェルズ軍曹はクーパーを逃がす為自らを囮に人狼達を引き寄せ発電機のプロパンガスを爆発させて木っ端微塵となる。
人狼と化したライアンに追い詰められた主人公は大量の人骨が捨てられている納屋へ〜更にはその地下に掘られた遺品や荷物を投げ入れた部屋へと逃げ込んだ。食糧として保存されているブルースやジョー.スプーンの死体が吊り下げられた地下室での戦いは、偶然クーパーが見つけ出した4週間前の犠牲者が所有していた“銀のペーパーナイフ”と何故か主人公にだけ懐いたユーアス家の番犬=サリーのアシストにより逆転勝利に終わった。
後日軍を辞め暗闇で捕らえた人狼達の写真を地元新聞社に投稿し、無惨な最後を遂げた彼等のささやかな復讐を果たした主人公とサリーは田舎で再出発を始める。 ジョーがその最後まで結果を気にしていたワールドカップの対ドイツ戦はイングランドの歴史的な大勝となった。 画面はその新聞記事と人狼撮影の記事を映し出し物語は終わります。
本編とは多分無関係ですが1995年に白泉社から発売された伊藤明弘のコミック“LAW MAN”に収録された短編“Moon on Ice”州兵が人狼と戦い壊滅して逝く内容の物語が残酷描写は無いし舞台設定そのものも違いますが、まんま同じ展開でした。無数のステンドグラスで飾り立てられ月光が注ぎ落ちる教会に唯一の生存者である少女を連れて立て籠もる二人の州兵…美しいけど悪夢そのものなソレもいずれどっかで映像化してくれないかねぃ…多分無理だけど。




