ブルー・マックス 66年
2016年8/12ガラケー執筆し投稿
【 地を這う虫の様な人生を送る平民が望んだモノは空を舞い騎士へと成り上がる未来 どうせ死ぬなら空で…歩兵から始めて成り上がった平民戦闘機乗りが貴族社会の虐めを受ける。そんな物語です。 】
原題:THE BLUE MAX
ブルー・マックス=帝政ドイツ時代の騎士十字章
イギリス/アイルランド合作 劇場公開作品
同年 日本劇場公開
アメリカ軍および軍属やその家族向けの放送局でAFNと呼ばれるテレビ&ラジオ放送が有ります。普段は定番の人気ドラマやスポーツ中継をほぼ24時間単位でやってて、子供の頃から例えば民放がゴミ以下の報道特別番組や選挙特番やってる時はだいたいそちらを見てました。地元のテレビ局は絶対やらない海外ドラマや新作/未公開映画も結構やってます。基本ノーカット。最後のクレジット迄放映は常識。夏休みは特に深夜枠の映画を楽しみにしてましたね。
まあ地上デジタル導入以降は携帯によるニュース確認程度でしかテレビ見なくなって割と久しい訳ですが、そんな状況でわざわざアンテナ起動させて地上波のAFNテレビも見なくなりました。高校卒業辺りまで何故か毎年見る機会があった定番放映映画がいくつか有りましてその1つがハリウッド製作映画だけどドイツ軍人しか出てこない謎な物語“ブルーマックス”です
他にはそれぞれ記念日に“史上最大の作戦(フルカラー版orモノクロ版)”“硫黄島の砂”“空軍大戦略”“トラトラトラ(渥美清登場の日本限定版)”変わった所では“ゴジラ(海外版)”“復活の日(インフルエンザの流行警戒報道が出て1週間以内)”となります
この物語、内容がイヤミな上に登場人物が全員日本人で製作した中国歴史ドラマ見てる様な感覚になりますのでご注意下さい。子供の頃はドイツ人も全員公用語は英語だと思ってましたよど畜生。
タイトルも勿論英語表記。物語では敢えて20機撃墜で自動的に貰える事になってますが実際の条件はかなりややこしく平民出身の主人公で負けが確定した戦争後半に特例措置で士官になったばかり。さらには横柄な態度で平民の下士官にも貴族社会にも露骨に嫌われた“スタッヘル少尉”は間違い無く貰えません。
…それでは面白くならないという事で“クルーガーマン伯爵”が出てくる訳です
帝政ドイツ陸軍航空隊の場合、青いマルタ十字に鷲付きは貴族階級から。事前に鉄十字章、セント・ヘンリー陸軍勲功章等の授与経験が有り。軍の階級では中尉~少尉クラス限定。撃墜数は最低8機~後半は16機達成で隊長と方面軍司令官の推薦があって初めて貰える事になります。陸軍兵士や海軍より授勲条件が緩いのは洒落にならないぐらい死亡率が高いからです。損耗率月平均20%。簡単に説明すると200人に1人しか年末迄生きられないとなります。
正式名称プール・ル・メリット鷲付き勲章。何故にフランス語なのかについては理由が有ります。
ヨーロッパの王族全て公用語が“フランス語”だからです。みんな結婚のやり取りして親族関係にあるのよこれが
ついでに公式料理もフランス料理ですからイギリスの場合唯一まともなご飯が食べれるのは王室だけでした。まああれはアレで堅苦しいマナーだらけですから美味しく楽しく食べれるかどうかはわかりません。
ホーエンツォレルン王族含め全員が日常使う言語はドイツ語です。マルタ十字が空をイメージして青色のデザインとなった事。初めての受賞者がインメルマン・ターンで戦果を上げた“マックス・インメルマン中尉”だった事から“ブラヴァー・マックス”と呼んでいました
意味は“偉大なマックス”クドいから英語表記では“青い”となりました
ドイツの勲章は十字マークデザインがやたら多いからよく調べないとごっちゃになります。面倒くさい勲功の話はとっとと切り上げて話進めますね。
追伸:ドイツ帝国が潰れた1918年にこの勲章廃止となりましたが1952年に平和賞として復活しました
【毒ガスに機関銃。地獄と化した西部戦線…だがそんな所でくたばる俺じゃあない】
※スタッヘル役はあのAチームでハンニバル演じたジョージ・ペパード氏です。善人は1人も居ない世界の嫌がらせみたいな物語ですから悪ふざけを交えながら進めます。
物語は1916年の西部戦線。塹壕で仲間と共に泥まみれの主人公“ブルーノ・スタッヘル伍長”血まみれの日常から始まります。
当初枢軸軍航空戦力の主役は海軍の“飛行船”でした。103隻も保有し戦艦並の200mサイズの巨大さと飛行機なんざ比較にもならない速度。機関銃や爆弾を搭載し20人が乗り込んでロンドン迄飛べるそれは致命的な欠陥…可燃性ガスで浮いてる事がバレて作戦参加から僅か数ヶ月で損耗率40%を超えて衰退します。
※今の飛行船は不燃性のヘリウム等を使っていますから、速度と大きさの問題をクリア出来れば飛行機より安全です。米軍では既に2015年から改良型150mサイズ飛行船のテスト中。量産型は300m~500mサイズとなります。ステルス性能も考慮し外観はまんま“サンダーバード2号”みたいな形になりました。日本にも配備予定です。
最大の問題は不燃性ガス・ヘリウムが天然資源でほぼアメリカにしか無い事。某特定アジアあの国の買い占めで枯渇寸前な事です。
代わりに台頭したのは機関銃を搭載可能な戦闘機や爆撃機でした。とは言っても貧弱なエンジンに何かあったら確実に死ぬ環境。飛行船と違ってパラシュートすら装備出来ない戦闘機乗りは貴族限定で志願して初めて訓練が受けられる狭き門でした。
※貴族限定となった理由は“なろう”で騎士団の物語を読んだ事があるお客さんは理解してますよね。間違い無く不良資産となる可能性大なプライドばかり高い次男以降が送り込まれます。
…塹壕の中でスコップや銃剣で陰惨な戦いやってた主人公は綺麗な空を自由に飛び回り優雅に見える貴族に憧れてパイロット養成に志願する事になります。
養成期間は丸2年(実際はパイロットの損耗率と戦況悪化の為1年ちょい)飛行機操縦だけでは無く社交ダンスやパーティーマナー、乗馬にハンティング、スキーや山登りまで教え込むドイツ独自の別名“馬鹿貴族養成コース”を体験した“スタッヘル”はプライドばかり高い世間知らずな“のび太君”なパイロットになって前線に到着する事になります。
ドイツの国内事情として実は貴族あがりの連中も領主教育なんか知らない“元武装農民”→帝国成立に伴っていきなり“ユンカー(士族)”になった人間ばかりですからマナーを教え込む幼年学校→騎士養成コースは陸海空で歓迎され設立されました。
主人公の場合、実家の父はホテルの従業員。後継ぎですら無い事もコンプレックスやプライドをこじらせる原因となります。新撰組の土方みたいにひねくれる訳だ
“馬鹿貴族養成コース”は第2次大戦中盤迄ナチスドイツ時代も延々と続いて予算も時間も喰いまくり“ゲーリングとヒトラー”が才能に惚れ込みスカウトしたユダヤ人“エアハルト・ミルヒ”や“アルベルト・シュペアー”等平民あがりのまともな教育課程を修了した人々の努力で負けが確定した戦争後半に漸く改善されます。実際はそちらも問題だらけだった事から現在のアレな状態になる訳ですがね…。
パイロット養成コースで葡萄栽培にワイン造り。ティスティング迄やった国はドイツだけです。
【作戦は奇を持って良しとなせ…結局嫌われ者始めましたジョージ君空回り中】
1918年初頭、負け戦が確定した最前線の航空隊に送られた平民あがりのパイロットで主人公“ブルーノ・スタッヘル少尉”は初日から馬鹿貴族“ウィリー・クルーガーマン少尉”の嫌がらせを受けました。
低空飛行で追い回され泥まみれにされての就任挨拶は平民あがりの出自を露骨にからかわれ。
初めての出撃は同僚ファビアンが戦死、超低空飛行の格闘戦でかろうじて敵機撃墜したものの目撃者が居ない為、戦果不明とされます。同僚どころか下士官や上官にまで当たり散らし厄介者となった“スタッヘル少尉”は以降“優秀な自分の引き立て役になる”と敢えて相棒を志願した18機撃墜のエース“ウィリー少尉”と組んで戦う事になります。
不幸は更に重なりました。不可抗力で空中で降伏した爆撃機を同僚が見守る味方基地の上空で撃墜…実は気絶していた敵機後部座席の機銃手が失明に気付き錯乱。銃を乱射したからなんですが、フォローし抗弁したのは同僚の“ウィリー少尉”だけ。平民パイロットに好意的だった“ハイデマン隊長”からも“殺したパイロットの葬式に参加しなかった事”から軽蔑され部隊から完全に孤立します。
※スタッヘル少尉にしてみれば“殺した相手の葬儀”にぬけぬけと参列して心にもない“お悔やみ”のたまう葬式ゴッコが気に入らないだけだったんですが基本口下手だから抗弁出来なかったんですよ
友人ポイッ付き合いがあるのは“ウィリー少尉”だけ…この男、悪い奴ではないんですが“スネ夫君みたいな奴で”マザコンで自慢癖がある典型的な馬鹿貴族。主人公は内心で1番嫌ってました。
失意の同僚を慰める為“ウィリー少尉”自室兼コレクションルームに案内された“スタッヘル少尉”は隠し持っている“ブルー・マックスを受賞したリヒトホーフェン大尉”の新聞切り抜きを独り読みながら誰にも馬鹿にされない英雄になる事を決意します。
【知ってるかね蝋燭は消える直前が1番派手に輝くのよ…まあ実際そんな展開となりましたね】
憧れの空の戦いは泥まみれの塹壕よりもイヤミな世界でした。とにかく周囲は全て“俺の引き立て役”か“敵”と開き直った主人公。表向きは同僚や上官にそこそこ愛想良く対応し“ウィリー少尉”の引き立て役に成りきります。
遂に20機撃墜。ブルーマックスを受賞した“ウィリー少尉”実家主催のパーティーに参加した主人公はある事に気付いてしまいます。
彼の父親“カウント・クルーガーマン伯爵”の若い後妻“カエティ”と“ウィリー”が肉体関係にある事。父親はその事に以前から気付いていて内心怒り狂っている事。あくまでもウィリー少尉の惨めな引き立て役として伯爵に接近した“スタッヘル”は彼に取り入ります。
伯爵も忌々しい息子の犠牲者でありながら前途有望な“平民戦闘機乗り”を手駒とし英雄に仕立て上げ立場逆転を狙う事を決意。新聞社や皇太子に接近して密かに息子の追い落としを図ります。
撃墜戦果も確実に伸ばしたある日、遂に憧れのドラえ●んもとい英雄“レッドバロン/リヒトホーフェン大尉”のピンチを身体を張って助けた“スタッヘル少尉”は偉大な英雄に気に入られる事になりました。
負け戦が確実となった空の戦いで優秀なパイロットの集中運用による戦力温存を考えていた“リヒトホーフェン大尉”は“平民でありながら”自分と同じように地上戦を経験し貴族社会を心底軽蔑しながらもエースとなった主人公を自分の部隊にスカウトしようとするのですが
今更宣伝材料を手放したくないで軍司令官の“クルーガーマン伯爵”はスカウトに反対。“スタッヘル少尉”自信も勲章目当てで頑張ってきたのに今更トップエースの側で引き立て役は嫌だと断ります。彼の心は既に壊れていました。
伯爵子飼いの成り上がりの果てに調子に乗った主人公…そんなある日、転機は訪れました。そろそろ邪魔になりつつあった“ウィリー少尉”が3機撃墜。大戦果を挙げた彼を焚き付け無謀なアクロバット飛行の末に事故死に追いやります。
目撃者が居ないチャンスを活かす為、主人公は彼の撃墜戦果も自分の戦果に偽装しようとしますが、ハイデマン隊長に見抜かれ逆ギレ。無謀な突撃に部隊全体を巻き込み仲間をことごとく犠牲にして漸く目標の20機撃墜に到達します。夢にまで見た“ブルーマックス”です。
激情に駆られるまま“カエティ”に“ウィリー少尉”を事故死に追い込んだ事。勲章目当てに仲間を死地に追い込んだ事をベッドで告白した主人公は“カエティ”と肉体関係になります。戦争が始まってから次々と夫や家族を亡くし生活の為身体を売る友人達を見てきた彼女は惨めな生活に耐えきれず老人やその馬鹿息子と関係を持った…“カエティ”もスタッヘルと同じく壊れた人物でした。
※物語の冒頭1916年の時点で仲間のオーストラリアハンガリー帝国、オスマントルコ帝国は戦線離脱。海外の植民地も日本に負けてことごとく失ったドイツ帝国は東部戦線にロシア帝国(1917年に戦線離脱)西部戦線にはイギリス、フランス、アメリカに囲まれ既に限界状態。5年にわたる農民や市民の総動員で食糧供給は既に無く。社会保証なんか存在しない数百万人を超える未亡人とその子供達に待ち受けるのは“餓死か売春”でした。軍隊だけが食糧も医薬品も大量に所持していました。連合軍?…兵隊も食糧も徹底的に植民地から取り立てたから彼等だけは元気です。植民地は餓死者続出してます。
【所詮は使い捨ての野良犬。私の幸せの為に死になさい】
ハイデマン隊再建。新型戦闘機の配備。そしてスタッヘル少尉の“ブルーマックス”受賞の為、皇太子とクルーガーマン伯爵夫妻、新聞社が訪れる中全ては破滅へと進みます。
外ではハイデマン隊長による新型戦闘機のデモンストレーション飛行が行われる中、貴族社会の情報網からドイツ帝国の破滅を知った“カエティ”はスタッヘル少尉と密会。一緒に中立国への亡命を提案しますが勲章授与に舞い上がった主人公は彼女を“裏切り者”と醜くく罵ります。逆上した彼女は新聞記者と伯爵に“ウィリー少尉の事件”や“ハイデマン隊の壊滅事件”の真相を全てぶちまけて事態をひっくり返してしまいました。
こんな時期に不名誉なスキャンダラスは公開出来ない…事情を知らない皇太子とスタッヘル少尉を上手く隔離した彼等はハイデマン隊長の報告で良い解決策を思い付きます。
新型戦闘機はアクロバット飛行が不可能な欠陥品でした。
まだ自分の破滅を知らない“スタッヘル少尉”は颯爽と新型戦闘機のデモンストレーション飛行を始めます。
自分がやらかした事に漸く気付いたカエティをよそにスタッヘル少尉の経歴書に“訓練中に事故死”と追加記載したクルーガーマン伯爵と皇太子夫妻は午後の晩餐会参加の為、ベルリンへ戻る列車に向かいます。
窓ガラスの向こうでは突然空中分解した新型戦闘機の破壊音に慌てて出発する消防車。墜落現場に駆けつける隊員とその家族達の姿がありました。




