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太平洋の翼 63年

今更「ウルトラマン」や「ゴジラ」でお馴染み「ピアノ線で吊られた戦闘機」を見てもなあ?


と見る前は思ってました。

予想を良い意味で裏切る物語です。

【空の独立愚連隊、やりたい放題の痛快娯楽作品】


※タイトルの意味わかった人は岡本喜八マニアです

なんせお馴染みのメンバーが勢ぞろいしていますから頼もしいやら恐ろしいやら。


 実際に戦った人々。中には特攻隊隊員としてあの時代を生き抜いてきた役者(西村晃)さんも参加し造りあげたアクション&ギャグ満載の痛快な映画です。


 終戦から僅か17年後に作られた為、登場人物の名前は敢えて架空。

ついでにストーリーも100%フィクションで「やってみたかった事」を可能な限り詰め込んだ作品です。

史実がどうこうよりも映画としての面白さ、あの時代を必死に生き抜いてきた人々の見たかった光景を「敢えて」取り入れた作品となっています。


多くの隊員が戦死、最終的には敗北する事実はそのままですけどね。

撮影に参加した米軍役のアメリカ人も結構ノリノリで楽しんでいます(笑)

既にそんな時代になっていたんですね。


実際の343空「紫電改」による闘いは従来の「零戦」とはまったく異なる機体に慣れる為の訓練&戦術技法の組み立てから始まって搭乗者の意識改革が必要だった為、地道な苦労の連続となります。


総トータル1万機前後製造された「零戦」と違って製造数僅か423機その殆どが輸送中に失われ、工場も短期間で破壊された為、実際に現場に到着→戦った戦力は1/3以下です。

実際の343空「剣部隊」は最後迄「紫電改/紫電」の混成部隊でした。


「九六式艦戦」→「零戦」

への機体更新は意外とスムーズに進んだですが格闘戦より一撃離脱を重視した「雷電」「紫電」への切り替えはなかなか大変で新型機ならではの事故が多発しています。


尺の都合上敢えて登場しなかった偵察機「彩雲」チームの活躍や日本ではまだまだ馴染みがなかった「要撃システム」「整備環境の改善」に取り組んだ珍しい話が沢山あります。


そもそも「水上機専門」メーカーで戦闘機造りのノウハウがまったくなかった「川西航空機」が何故いきなり戦闘機を開発する事になったのか?については様々な文献が文庫化されてますから一読下さい。

滅茶苦茶面白いですよ。

単なる思い付き&代用品扱いだった戦闘機が大手(三菱/中島/川崎)開発の新型機より遥かにバランスのとれた高性能機になったのは予想外の結果でした。


【俺達は爆弾じゃない!戦闘機乗りだ!!】


 円谷英二謹製、空を舞う多数の「紫電改」の勇姿から物語は始まります。


※映画の為に実物大~ミニチュアまで日米の航空機を300機以上制作しました。


物語はサイパン&グアム近郊で連合艦隊空母戦力が壊滅した「マリアナ沖海戦→別名七面鳥狩り」のシーンから始まります。


日本側は空母9隻投入、アメリカ軍側空母15隻を投入して行われた戦闘は日本側の空母3隻損失4隻損傷&航空隊の8割が未帰還という最悪の事態を招く事になりました。

※他米軍側の事前準備で各島々の航空戦力600機を主に地上で撃破。

もし空母戦力がサイパンやグアムの基地に向かっても着陸出来無い様に待ち伏せしています。


ちなみにアメリカ軍側はレーダー/ピケット艦/新型防空システムの確立によって航空機の損失32機、戦艦2隻、空母1隻損傷。

夜間着艦作業失敗で海に落ちた飛行機が80機。


この作戦で空母に離着艦出来るパイロットと航空機を失った日本の空母は以降無意味な囮作戦で壊滅する事になります。




予想外の敗北に動揺を隠せない、中にはこれを機に全面特攻を提案する幹部も居る中で千田中佐(ある意味この映画最大のミスキャスト:三船敏郎→なんせ風格が有り過ぎです(笑))が特攻作戦に全面反対。


新型機「紫電改」の投入と東南アジア各戦線で孤立する「腕利きパイロット」の再結集を提案。

「陸海軍は全ての能力を駆使して彼等を日本に集める事」と命令します。

舞台は航空機を失い追い詰められた各戦線へ移ります。


【硫黄島:安宅隊の場合】


 安宅大尉(夏木陽介)達は米軍上陸寸前、壮絶な空爆を受けている硫黄島の洞窟から小舟に分乗して脱出。

迎えの潜水艦に搭乗する筈が哨戒中の米軍機と遭遇。稲葉上飛曹(西村晃)の機転と潜水艦艦長の勇気有る判断で多数の犠牲者を出しながら合流。

辺りには小舟の上で事切れた部下達の姿がありました。


【レイテ島:滝隊の場合】


 航空兵力が全滅した滝大隊長(加山雄三)達は臨時の陸上戦力としてゲリラ部隊と交戦中。

迎えの「零式輸送機」の到着が迫る中、待ち伏せ攻撃や空襲で部下を失いながら命懸けのタイムレースを展開する事になりました。


やっとの思いで台湾行きの輸送機に乗り込んだ滝隊を待ち受けていたのは敵戦闘機の執拗な追撃。燃料不足と交戦によるエンジン不調をどうにかする為、機内のありとあらゆる荷物を投棄しながらの脱出作戦となります。

皮肉にも投棄した物の中には先程まで日本に帰れる喜びを分かち合った部下達の遺体がありました。


その事が後々彼を追い詰めて行く事になります。



…ここ迄は結構シリアス展開ですが最後のニューギニア「ラバウル航空隊」だけは「独立愚連隊」風味のコメディシーンです。


【ラバウル航空隊:矢野隊の場合】


 連日にわたる空襲で飛行機は既に無く周囲を完全に包囲されてるから補給も全く届かない、幸い上陸作戦も行われなかったから畑仕事で食料自給作戦中(滑走路は既に芋畑)のラバウル基地。


※連合軍が上陸したのは戦後9月に入ってからです。

映画では呑気な事言ってますが史実はマラリアやデング熱の蔓延するなぶり殺しの状態でした。

銃も弾もあるのに食料不足と医薬品不足で兵力の殆どが病人状態だった記録が残っています。


船も飛行機も到着不可能の中、矢野大尉(佐藤充)は沿岸部をパトロール中の米軍魚雷挺に目を付けます。機転を効かせ(詳しくは映画本編で、独立愚連隊風味の粋なやり方です(笑))魚雷挺を盗んだ矢野隊は星条旗をはためかせ一路日本へ。

「今じゃ太平洋で安全な旗は星条旗だからな。」


部隊一のお調子者丹下飛曹(渥美清)が危うく味方駆逐艦を撃沈しそうになったりしながら全員無事到着します。

※このシーンの後に繰り広げられる手旗信号を駆使した間抜けな罵り合いは必見です(笑)


かくして3人の個性的でアクの強い大隊長とやさぐれた部下達が日本に集結。


敵戦闘機をターゲットに連日のように殴り込みをかけて行く事になります。

…ここ迄で物語の単なる前半戦です。

何というか滅茶苦茶濃い内容なんでストーリーを追うだけでも結構大変だったりしますが若干時代遅れとなった特撮シーンを除けば今でもかなりイケる物語ですよ。


【勝利には程遠く…】


 新型機「紫電改」の投入、優秀なパイロットの集中使用で始まった作戦は出撃の度に多数の犠牲者を出す事になります。

何の事はない、既に戦力比がどうしようも無いレベルになっていたからですけどね。

アメリカ海軍の主力戦闘機「グラマンF6ヘルキャット」は総合性能で「紫電改」と充分互角以上に戦える戦闘機でした。

既に新型機開発でも日本の敗北は確定していました。


※余談ですが戦後創設された「自衛隊」の最初の主力戦闘機はこいつです。

同じ頃タイ王国では「隼」「零戦」が、フランス領ベトナムでは「隼」が主力戦闘機として活躍していました。


以下、映画本編で出てきた1幕です。米軍機350機に50機程で殴り込みをかけた結果。

安宅大尉「撃墜57機」

矢野大尉「やったやった(笑)」

滝大尉「未帰還機17機」

矢野大尉「やられたやられた(泣)」


物語が進むにつれて次々と彼等は戦死してゆく事になります。


【大和の護衛について】


 この作品で後々賛否両論で批判されたオリジナルストーリーですが、戦後「大和の余りに悲惨な最後」を知った人々の意見が反映された話です。


極秘で出撃しないと米軍機に袋叩き、とは言っても既に制空権も制海権も取られた状況下では騙せたのは味方だけでした。


しかも噂は既に有りましたから後は何時出撃か?の問題です。


矢野隊一番のお調子者「丹下飛曹」の見事に空回りする「大和」への片思い。

誰もが予想出来た戦いの結末に絶望を抱いた「安宅大尉」達と共に部隊を裏切り敢えて「大和特攻」の露払いを選んだ彼等の姿は、当時明日をも知れない命を懸けて戦った人々の願望だったかもしれません。



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