いのちの戦場 - アルジェリア1959 - 07年
2021年1/4深夜〜同日深夜 タブレット端末にて執筆し脱稿 1/5深夜0時投稿
何か妙にメソメソした戦争映画なんでさっさと感想纏めました 手直しは後日
【 フランス人視点で見たあの戦争とは何だったのか? 海外のドキュメント番組を原作に戦争を知らない世代が作り上げた其れは 何故かゲリラ弾圧に参加したカエル食いが露骨に被害者面なメソメソ・ホラー作品でした(苦笑) 後、ベルベル語を話すカビール人が何故FNL=アルジェリア民族解放戦線とアルケ側に別れていたかについては説明不足。 ローマ帝国やオスマン・トルコ等、其れまでのアルジェリアの支配者と同じ様に 彼等を弾圧していたフランス人やアラブ人にとっては周知の事実ですが 殆どの日本人には理解出来ないと思います。 】
★テリアン中尉が微妙に往年のマーティン・シーンそっくりだし まんま "地獄の黙示録" 思わせる描写がね………つまらなくは無いのだけど視点偏ってます。
撮影場所は恐らくはチュニジア 当時アルジェリアは内戦中です。
原題:L' Ennemi in time
秘められた敵
英題:INTIMATE ENEMIES
フランス劇場公開作品
2009年 日本劇場公開
この映画見ようなんて思い付いたのは新春早々 "アルジェの戦い" なんて疑似ドキュメント形式のプロパガンダ映画を視聴してしまった事が切っ掛けで 前回紹介したイタリア&アルジェリアの合作映画は沿岸部の首都アルジェが舞台だったけど 農村部や山岳地帯での戦いはどんな感じだったのか好奇心を抱き ついでに130年に渡る植民地統治を続けていたフランス側視点の作品ではどの様にあの戦争を捕らえていたのか好奇心に駆られたから 出来りゃアルザス・ロレーヌ地方から追い出され北アフリカに新天地を求めた親から生まれた2代から3世代目の入植者=ヨーロッパを知らないドイツ系フランス人とかユダヤ人視点の物語も見てみたいモノですが この作品に登場するカビール人同様、大国の都合で負け犬にされた者の怒りや憎悪に満ちた物語は相手にされないでしょう 唯一神信仰の価値観では勝ち組だけが歴史を語る或いは騙る権利を持つそうです。
イスラム教の厳格な縛めにより近代化から取り残され 国家や民族の概念を持たないカビール族 受難の歴史が始まったのはローマ帝国時代辺り 彼等の抵抗の歴史を長々書いたらページが幾ら有っても足りないしネット上にはウィキ含めまともな資料すら皆無に近いのでバッサリ省略しますが 村単位でも殺し合いを繰り返していたが為に蛮族と罵られた彼等がイスラム教に帰依したのはオスマン・トルコ時代に入り込んだアラブ人による弾圧を逃れるため フランス植民地になってからヨーロッパから送り込まれた入植者達による農地接収が原因で貧困化 抵抗する者は根絶やしにされるか同じくフランス領植民地のニューカレドニアに追放されたり 砂漠地帯へ追い払われる等の弾圧を受けています。
第二次大戦を切っ掛けに弱体化した植民地統治 徴兵経験の有る者達はアルケと呼ばれる植民地軍兵士 或いはアラブ系民族が主導するFNLに参加し叛徒と呼ばれるテロリストに別れ 友人同士或いは親兄弟で殺し合う道を選びました。 アラブ系民族と同等の身分や自治権を要求していた彼等は アルジェリア分離独立後に手の平を翻した革命政権により ベルベル語や伝統文化の継承禁止、果ては民族同化政策を押し付けられた事が切っ掛けで反旗を翻し内戦が勃発 キリスト教もそうだけどコーランの教えでは改宗に応じた異民族は奴隷扱いして構わない……そんな文章書かれてるのよ 陰惨極まる民族間絶滅戦争は何度も停戦を重ねながら今に至ります その辺りの事情も踏まえて映画を楽しんで貰うと色々見えて来るかな。
【 アルジェリア西部カビリア地方 物語の舞台となるアトラス山脈はアルジェリア/モロッコ/チュニジアに跨がる総延長2500kmにも渡る アフリカ大陸独特の其れとヨーロッパ大陸でも見掛ける野性動物が共存共栄している豊かな自然地帯でも有る。 ローマ帝国が築き上げた様々な遺跡が混在する事を根拠に植民地政策を続けるフランス政府と農村部に浸透したFNL=アルジェリア民族解放戦線の戦いは6年目に突入 なまじゲリラ戦の経験豊富なアラブ系やカビール系兵士をも投入した殺し合いは泥沼の様相を呈しつつ有る。 】
★ちなみにベトナムでフランスからの植民地派遣軍が負け続けだったのも第1次大戦でかなりのベトナム人兵士をヨーロッパ戦線に送り込んだツケだったりします ついでに奴等麻薬の類も大量に持ち込んでるのよ。
1959年7月 カビリア地方交戦区域 山岳2個小隊を動員した叛徒への夜襲は地理に不慣れな相手側小隊のミスで同士討ちの結末を迎え小隊指揮官コンスタンタン中尉を始めとする数名が戦死 数日後、中尉の葬儀中に埃まみれな姿で赴任して来たのはテリアン中尉 駐屯地司令官ウェスル少佐から世間知らずの理想主義者を託されたドニャック軍曹は頭を抱え込む事になった。 アルケ(カビール人招集兵)やフランス本国からの招集兵を加え再編成された山岳兵小隊は叛徒を率いる指揮官スリマンの目撃情報が寄せられた空白地帯へと向かう
荒れ果てたタイダ村は昼間はフランス軍、夜は叛徒が支配するガイド役を任された元FNL=ラシード2等兵の育った集落 村長が村を守る為に革命税や食糧を供出している事実が発覚 兄が叛徒側に加わったニュースを聞いたラシードは兄嫁のザラハを殴り付け ドニャック軍曹は叛徒の隠れ家を知っているらしいザラハの息子アマルを尋問しようと連行するがテリアン中尉の取りなしで見逃す事に だがその数日後タイダ村はFNLによる襲撃を受け住民は皆殺し 母親により井戸に匿われたアマルのみが唯一の生存者 父が仲間と共に母を村人達を撃ち殺した 怯える彼はテリアン中尉の計らいで山岳兵小隊の補助要員に加えられる
民間人の立ち入りが禁止されている筈の交戦地帯 だが此処を離れると生きて行けないカビール人は命懸けで羊を育てロバに荷物を乗せて行き来する チャドル姿の女性に変装し武器を運ぶフェラガの補給部隊を射殺 此処ではハーグ交戦協定は存在しないし相手の優しさに付け込んだ卑怯な振る舞いは日常茶飯事
「妻や娘が居るなら貴方は返った方がいい。」
ベトナムで従軍し多くの仲間を失ったドニャック軍曹 捕虜の拷問を剪定する情報将校のベルトー大尉は自らの実経験からこの戦いに批判的な新任中尉に後方勤務を勧めるが聞き入れて貰えなかった。
レキ村の村長を拷問し手に入れたスリマンの情報 叛徒の隠れ家襲撃に向かったテリアン中尉率いる山岳兵小隊は、襲撃を察知し高台で待ち伏せる中隊規模のFNLゲリラの反撃を受けルジェル1等兵が戦死し多くの負傷者が発生 ドニャック軍曹に急かされた中尉の無線要請に応じ始まった航空支援 バンパイア戦闘爆撃機 (ミストラルの名称でライセンス生産されたフランス製) が投下したのはハーグ交戦規定の追記事項で民兵への使用が禁じられた筈のナパーム弾 規定逃れの為に特殊爆弾と名付けられた其れで数十人の敵兵が焼ける臭いと有毒ガスに咳込む兵士達
炭化した敵兵の身元確認作業 その中にはFNLへ身を投じたラシードの兄の変わり果てた姿も有った 立場が違えば此処で燃えていたのは俺達だったと彼等を弔うカビール人兵士の祈りの声 人が焼ける臭いが鼻から抜けない 生き残った小隊は酒保で酒を浴びる様に飲み暴れ回る 生き残った僅かな捕虜の連行と拷問 心折れたラシードは脱走しFNLの生き残りに捕らえられた 深夜見付かった彼は執拗な拷問を受けており瀕死状態 ドニャック軍曹は此れ以上苦しめるには忍びないと銃で彼の頭を撃ち抜く 捕えられたFNLの捕虜はサイード2等兵と同じイタリア戦線・モンテカッシノの激戦地を生き残った兵士
レジオン・ドヌール勲章を貰った元英雄=イディル・ダヌンとサイードの皮肉な遣り取り だが拷問の事実を身を持って経験した捕虜を生かして解放する訳にはいかない どんな終わりが待ち受けるか知りながらフランス政府から貰った従軍記章や勲章をぶら下げた彼を背中から撃つサイード 捕虜から得た情報をもとに叛徒狩りを再開する山岳兵小隊 森林地帯で待ち伏せ攻撃を受け小隊のムードメーカーだったラクロワ1等兵が瀕死の重傷を負った 救援ヘリと合流し負傷者を後送するため小隊を二手に分ける 死ぬのが怖いと怯えるラクロワに迎えのヘリが到着したら君は大手を降ってパリへと帰国出きるぞと励ますテリアン中尉 だが救援ヘリは間に合わない 夜明け前の合流地点で死んだラクロワを回収し基地へ戻るヘリを見送る
昼前に合流地点に現れたドニャック軍曹率いる別働隊 彼等の死角をロバを連れ歩き回るチャドル姿の怪しい人影 だが射殺した其れは食糧を村へと運ぶ老女とその娘 ショックを受けた主人公達を囲むかの様に現れたFNLゲリラとの戦闘で小隊には2人の負傷者 救援部隊が到着するのは早くとも数時間後 ドニャック軍曹の窮地を聞き付けた親友ベルト大尉は自らジープに乗り現れ負傷者と共に脱出を図るが別の場所から現れたFNLゲリラに襲われ全員戦死 小隊は辛うじて間に合ったウェスル少佐率いる別働隊に助け出された。 敵に情けは無用 仲間を殺され豹変した兵士達を率いるテリアン中尉 FNLのシンパと推測される村を焼きドニャック軍曹を押し退けてまで捕虜を拷問し死ぬまで吐かせる 解放すると約束した捕虜を処刑する彼の凍りついた表情。
小隊再編成のため臨時休暇を与えられたテリアン中尉はパリへ戻る だが変わり果てた彼は妻や子供の顔が見れず独り雑踏の中へ消えた 時間潰しに楽しむ映画 上映の合間に映し出されるアルジェリアの戦況を伝えるニュース映画は嘘ばかり 結局家族との対面を果たさないまま前線勤務に再志願するテリアン 故郷に最早彼の居場所は何処にも無かった。 親友が酷たらしい最後を迎えてから情緒不安定気味なドニャック軍曹 度重なる戦闘で半ば心折れたサイード2等兵 村を焼かれ或いは自らの手で焼いたアルケ達にも帰る場所は無い
Xmasの夜 ギスギスした雰囲気を少しでも明るくする為にラクロワから託された8mmフィルムの上映会が開かれる半年前の馬鹿な悪ふざけをやらかす自分の姿をスクリーンの向こう側に見付けだしビール片手に笑い転げる兵士達 だがその映像にはやがて欠けていった戦友達の在りし日の姿が映り出す 無責任な空騒ぎはやがて静かなすすり泣きに変わってゆく この戦争は何時まで続くのか 独り席を外すドニャック軍曹 深夜前線基地からの脱走を図るアマル 此処に居ても禄な終わり方をしない テリアン中尉は基地を去るアマルに僅かばかりの餞別を渡す 翌朝ドニャック軍曹が荷物を残したまま前線基地から姿を消した 独り近隣を探し回るテリアンは基地を取り囲む雄大な自然風景や鳥の鳴き声 逞しく生きる猪の姿に思わず見惚れ……心臓を狙撃銃に撃ち抜かれた。
断末魔を迎える中尉の前に次々と姿を現すFNLのゲリラ達 彼等を抜け道を通って案内したのは基地を去った筈のアマルだった。
同じ頃、麓の小さな集落から隣町へ向かう路線バスの乗客の中に軍を脱走したドニャックの姿が有る 彼がアルジェリアに戻る事は二度と無かった テリアン中尉を馬鹿な理想主義者と断罪する彼の姿は負け犬そのもの。 アルジェリア事件が独立戦争だったとフランス政府が認めたのは1999年になってからの事 この無意味な戦いに投入されたフランス軍兵士は延べ200万人 内2万7000人が命を落とし アルジェリア側の犠牲は民間人を含め推定30分〜60万人だと言われている。




