知恵ある生き物
知恵ある生き物は人間だけなのだろうか?
知識ある生き物は人間だけなのだろうか?
思考する生き物は人間だけなのだろうか?
なら、ここにいる自分は人間なのだろうか?
私は遠くに見える人たちに憧れた。
憧れて、手を伸ばす。
恐怖に顔をひきつらせた人たちが私に敵意を向ける。
なぜだろうか?
彼らは確かに人間で、私は本当に人間だろうか?
わからない。わからないけれども私がここにいると言うことは確実だ。
私は人と共に生きている。
故に私は人間なのではないだろうか?
思考を止め、私は呼びかける。
なぜ私に敵意を向けるのかと。
だが、その声は届かない。
私は人を愛していた。
愛した人たちは私に牙を向ける。
逃げまどい、ふと、鏡に映った自身の姿を見つめる。
そこには一匹の怪物が居た。
ああ。
気付いてしまった。
私は人ではないのだと。
絶望する。
人ではない私は受け入れられることは無い。
人に憧れた私は太陽に手を伸ばす愚かな生き物だったのだ。
手に入らないものに手を伸ばしつづけていた愚かな化物。
なぜ知恵を持ってしまったのか?
なぜ知識を持ってしまったのか?
なぜ思考をするようになったか?
どうして、私に心があるのだろうか?
人ではない私を受け入れてくれる人はいない。
だから。
私は私を殺した。
――出掛けよう、故郷を捨てて。
――その先に絶望が待ってても。