魔法のハサミ
たとえばここに一丁のハサミがあるとします。
このハサミは魔法のハサミです。あなたが望む風景を切り取って、一枚の絵にすることができます。そしてそれを好きなときに心の中に映し出すことができます。ちなみに一度しか使うことはできません。
さあ、あなたはこのハサミでどんな素晴らしい絵画を切り取るのでしょうか?
青空? 今青空とおっしゃいましたか? なぜ、どうしてそのようなものを選ぶのです? いえ、別に空が悪いというわけではありません。ですがいつでも見られるようなものをなぜ選ぶのか、それが気になったのです。
ああ、では違うものを選ぶと、はい。ではお聞かせ願えますか?
雪景色? 確かに雪を見ることができる季節は限られていますが、ここは北国。冬になれば嫌というほどご覧になれるでしょう? 何もわざわざそれをお選びにならなくても……ええ。
なんですって? この部屋の窓から見える景色? どうしてまたそのようなものを欲しがるのでしょうか? 第一あなたはこの部屋のベッドからもう十年も動いていない。それなのにどうして今更…………ああ、そうか、そうだったんですね!
これは失礼。それならばあなたが望んだモノも納得がいきます。ええ、わかりましたわかりました。
ですが最初に申し上げたとおり、これはたとえ話ですので、はい。悪しからず。