一番から十二番、そして十三番
睦月の居城では師走の魔術によってたくさんの魔物が召喚されていた。それを跳ね除け、師走のもとまでたどり着けば、彼は徹底抗戦をしてきた。天刃の中で誰よりも幼い少年は大声で『睦月を殺させはしない』と声をあらげる。
睦月を殺さないことはできるのだろうか、睦月が人間を殺すことをあきらめてくれれば、おそらくは。しかし、そう簡単にあきらめるとは思えない。
師走は物理戦、魔法戦ともに特化していた。しかし、数の暴力の前にはかなわない。
師走は膝をつき、地に伏せる。彼の親は睦月であり、ただ一人の肉親ともいえる存在であった。睦月がYESと言えばすべてYES、睦月がNOと言えばすべてがNO。生まれたばかり、狭い世界の彼には睦月が全てであった。
その睦月を師走は守りたかった。なんら悪いことではない。しかし、師走は命をかけて睦月を守ってしまった。
命を懸けて、流頼たちを殺そうとした師走は逆にその魔力に取り込まれて消え失せた。残ったのは彼愛用の杖のみ。
『時に”人間”は存在すら残さず消えてしまうものなのか?』誰かが、そう言った。
睦月は遺跡の奥にいた。この人数ではかなうはずがない、だからあきらめろという弥生に、『何故あなたがそんなことを言えるのか』と睦月は返す。そして、語りだした。
『元という男は本来、ズヴィアにすべてを奪われた男であった。親兄弟、恋人、友人。そのすべてをズヴィアは自国のためと街を焼き払うことで奪い去った。元は、頭脳という武器を持っていたためズヴィアに殺されることは無かったが。
ズヴィアの研究室に入らされた元は、会いたい人がいた。
まず一番に恋人に会いたいと思った。
二番目に恋人が寂しがらないように、彼女の明るい兄。
三番目は自身が最も尊敬した優しく聡明な兄。
四番目は厳格な父。
五番目はその父に寄り添っていた母。
六番目は一つ下の弟、少し怒りっぽかった。
七番目は兄の友人。自身も世話になったし、あの明るさが無いとさみしい。
八番目は自身の友人。彼はぐいぐいと自身を引っ張って行ってくれた。
九番目は友人の妹、友人が嬉しそうに自慢していた。
十番目は弟の友人。怒りっぽい弟をなだめるのが彼の役目だった。
十一番目は友人の弟、友人の妹とは双子だった。
十二番目は恋人と自身で教えていた男の子。飲み込みが早い良い子だった。
ひと月に一人ずつ元は作り始めた。遺伝子を掛け合わせ、人工的な生命体。それは似ても似つかぬ偽物。贋作。
しかし彼は贋作を作り続けた、どれもこれも求めるものではない、しかし元は一人ではなくなった。
恋人が戻ってきた、恋人の兄も、尊敬する兄、厳格な父、寄り添う母。
同一でなく、呆れるほどに離れた存在。贋作でさえ、元の心を潤した。
十二の物ができたとき、元はこの存在を壊した存在を壊そうと決めた。ズヴィアの命を聞きながら十三番目の存在を作り始めた。
十三番目に会いたい存在。それは、会う事すらかなわなかった自身の子――
元は天刃を愛していた。狂った心で歪んだ思想でそれを愛した。似ても似つかぬ贋作を、失敗作を。
それほどすべてに愛を注いだ元の弔いを、仇を、彼の兄となるはずであった弥生が否定するのか』と。睦月はそう言った、
知られざる元の想い、狂った愛。しかし、弥生らは彼が望んだ人物とは別人である。
『死んだ者は生き返らない、そんなものはどこにもいない、よって、睦月は元の恋人などでは無かった。無いのだ』
しかし睦月は流頼の話しに耳を傾けることは無かった。ただ、睦月は元の恋人として傍にいたかった。そして、十三番目の子をともに愛でていたかった。
十三番目の子が産声を上げる。ズヴィアという帝国を滅ぼすために元博士が作り上げた最高傑作、生物兵器。その力はズヴィアを越え、すべての人間へと注がれようとしていた。
その十三番目の子は、一番に目の前の睦月を”喰った”。同一となった睦月は恍惚の表情で十三番目へと還って行く。
十三番目の名は廻りゆく、そしていつか還る環。
“輪廻”。天刃を還す者。それが十三番目の子の名前であった。
一同は”輪廻”へと”剣”を向ける。とがった刃は流線を描き、絆で紡がれ一つの”天刃”となる。
“天刃”の矛先は”輪廻”へと突き刺さり、”輪廻”の環を砕き、流れを止める。
幾度と廻る憎しみ、苦しみ、狂気の環を砕き、それは循環されることはない。
参から始まった物語は七に触れ、八と壱壱を失いながらも流れ、四と伍の糸を取り払い、九に心を与え、弐と六と十の心を国へと収める。
流れる刻は壱弐には足りず、壱には少し長すぎたのだ。
輪廻が砕かれると同時に、十三番目の子は地に伏せた。優しい子だったのだろうか、彼の頬に、一粒の液体が流れ落ちた気がした。
天刃の説明と睦月が元博士に固執した理由を説明。説明ってか、睦月さんは恋人になりたかっただけなんだけども。
似てもないし、見た目ですらまったくなので彼らは完全に別人なんだけどね。
大切な人の代わりになるはずの彼らを戦場に送り出す元博士の頭の中身を理解するのは無理だって。
『輪廻ってなあに?何故廻るの?
簡単。自分の存在が消えないようにだよ』




