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【読み切り】バズワズ!〜コミュ力MAXのインフルエンサーと組んだら、俺の爆死小説がなぜか日間総合1位になっていた件〜

掲載日:2026/09/19

「おい、ふざけるなよ。なんだよそのダサくて長いタイトル」


放課後の誰もいない教室。

和津(わづ) 駆(かける)──ネットでは『ワズ』を名乗る少年は、ホワイトボードを睨みつけながら、目の前の陽キャに怒声を浴びせた。


羽頭(はず) 蓮(れん)。クラスの中心にいるコミュ力の塊であり、裏では顔出しなしで10万人のフォロワーを抱える天才中学生インフルエンサー。


そんな『ハズ』がホワイトボードに書き殴ったのは、眩暈がするほど下品で長い文章だった。


『【悲報】ハズレ属性「灰色魔術」だと学園を追放された俺、実はすべての属性を反転・無効化する神殺しの「境界線」でした 〜今さら戻ってきてくれと言われても遅い。SSS級ダンジョンの最深部でソロ無双します〜』


「小説のタイトルってのはさ!」

ワズは食ってかかる。

「作品の世界観を切り取った一言であるべきだろ。俺の元のタイトル『灰色の境界線』の何が不満なんだよ。こんなの、ただのあらすじの垂れ流しじゃねえか」


「不満だらけだな」

ハズはスマホを弄りながら、冷淡に言い放つ。

「オシャレだけど意味不明な一言タイトルなんか、今のネットの海じゃ誰もクリックしねえんだよ。現にお前のその『灰色の境界線』、累計PV数はいくつだ?」


ワズは言葉に詰まった。

「……3、だけど」


「そう、世界でたったの『3』だ。しかも、そのうち1つは俺だぞ。冷やかしで開いて、最後まで読まされた俺」

ハズがスマホから顔を上げる。

「ダイヤだろうが、砂漠に埋もれてりゃ砂粒と同じだ。いいかワズ、ネットの読者は暇じゃない。最初の3秒で脳汁が出なきゃ、指先1つで次の動画、次の小説にスワイプするんだよ」


「だからって、こんな読者に媚びた安っぽい真似──」


「目を覚ませワズ!」

ハズがホワイトボードをバシィィン!と強烈に叩いた。

カースト上位者特有の、人を射抜く眼力に、ワズの身体が強張る。


「お前が読ませたいのはタイトルか、本文(なかみ)か!?」


ワズは奥歯を噛み締め、掠れた声で、しかしクリエイターとしてのすべてを込めて絞り出した。

「……本文(なかみ)に、決まってんだろ……!」


「だったら、タイトルで釣れ」

ハズの表情が、不敵な笑みに変わる。

「お前の『本文』は間違いなくダイヤの原石だ。磨けば全員がひっくり返る。だけど、誰も掘り起こさなきゃ、砂に埋もれたままなんだよ」

親指で、ホワイトボードを指す。

「この長文タイトルはな、小説の看板じゃない。読者を本文へ引きずり込むための『罠』だ。……いいから、俺の罠に乗れ!」


「……クソっ、分かったよ! 磨き直せばいいんだろ、磨き直せば!」


そこからの15分間、教室には狂ったようなタイピング音が響き続けた。

ワズの武器は、脳内の映像をそのままテキスト化する『超速筆』。

ハズが横から「その無駄な風景描写は全部削れ!」「スマホのスクロールのリズムに合わせろ!」「1話目の3行目に、一番カタルシスのある戦闘シーンを前借りして持ってこい!」と、動画編集さながらのディレクションを飛ばす。


文章の熱量はそのままに、スマホ読者の指に最適化された第1話が、あの長文タイトルを掲げて完成した。


「よし、新タイトルで更新完了っと」

ハズがワズのアカウントから更新ボタンを押し、自身のスマホを構える。

「じゃ、ダメ押しで俺のアカウントからも拡散してやるよ。1分で万単位の数字にして──」


「待て。そんなことしなくていい」

ワズはハズの腕を掴み、睨み据えた。


「は? 何言ってんだよ。使って損はないだろ、武器なんだから」


「武器じゃない、ただのドーピングだ! そんなやり方で数字が増えても、誰も俺たちの物語を評価してない! お前の信者が義理でポチったブックマークなんか、1ミリも嬉しくないんだよ!」

ワズの手が、ハズの腕をさらに強く掴む。

「俺は、お前の知名度に乗りたいんじゃない。お前の『構成力』と俺の『文章』、2人の純粋な実力だけで、このサイトのランキングを這い上がりたいんだ。じゃなきゃ、組んだ意味がない!」


ハズは虚を突かれたように目を見開いた。ワズの真っ直ぐな、剥き出しのプライドを浴びて、その口元がゆっくりと吊り上がる。

「……ハッ、お前ホントにめんどくせえ陰キャだな。……最高だよ」

ワズの手が緩む。ハズはスマホを机に伏せた。

「分かった、完全無名のアカウントのまま、俺の仕込んだ『罠』だけで読者をハメてやる」


数分後。ワズがノートPCの画面をリロードした。

「……へ?」

変な声が出た。


『3』で止まっていたPV数が、一瞬で『300』に化けていた。

もう一度リロード。『1200』。

さらにもう一度。『4500』。

ブクマの通知が、ワズのスマホの画面を埋め尽くしていく。


投稿サイトの更新一覧で、ハズが仕掛けた『罠』に読者が次々と掛かっていたのだ。


「お、お前……まさか、ここまで狙い通り……!?」


呆然とするワズに、ハズは伏せたままのスマホを指先で叩き、ドヤ顔を決めた。

「フフ、俺のフルネーム、言ってみな」

「羽頭(はず)……蓮(れん)、だろ」

「そう。俺の狙いは──外れん(はずれん)!」


ワズは呆れつつも、画面の数字の暴力に、全身の鳥肌が収まらなかった。


          ◇


それから、数時間。

教室には、すでに夜の帳が下り始めている。


ワズのノートPCの画面には、信じられない文字が躍っていた。

──日間総合ランキング1位。


今日の放課後まで、たった1人の冷やかし客しか立ち止まらなかった砂漠の砂粒。それが、日暮れを待たずに数万人の脳髄をハッキングし、熱狂の頂点へと駆け上がったのだ。


「おい、ワズ。管理画面を開け」

ハズが顎をしゃくる。

「設定変更だ。ペンネームを書き換えるぞ。もうお前1人の戦いじゃない」


「……何に変えるんだ?」


ハズはノートPCを引き寄せ、上機嫌で新しい名前をタイピングした。

「俺の『ハズ』に濁点を打ってバズ。お前の『ワズ』は、言葉のワーズと読め。2人で1つのペンネームだ」

画面を、くるりとワズに向ける。

「──『バズワズ』。どうよ?」


「バズワズ……」

ワズはその文字列を口の中で呟いた。


自分の紡いだ言葉が、ハズという規格外の相棒の手によって翼を得て、世界を侵略していく。怖気が走るほどの全能感が、少年の胸を焦がしていた。


「……最高だな」

ワズの唇から、自然と笑みが漏れた。


「フッ、それ俺の台詞な。俺たちの言葉と頭脳があれば、ネットの海なんていつでもジャックできる」

ハズはカバンを肩にかけ、薄暗くなった教室のドアへと歩き出す。

そして振り返り、今日一番のドヤ顔を向けてみせた。


「言っただろ? 俺の狙いは──絶対に、外れん!」


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