伯爵令嬢ロジータと姉と赤いバラ
異世界に転生して、私は伯爵令嬢ロジータとして育った。私には姉のフィオレがいた。
フィオレは優しくて真面目な優等生だった。そんなフィオレは、どうやらイジメの対象になっていたらしい。
「まず最初に、フィオレお姉様は女性達にイジメられたそうです。そのせいで、フィオレお姉様は女性不信になったとのことでした。フィオレお姉様は私のことも避け始めました。ですので、フィオレお姉様の情報を、私はあまり入手することができませんでした」
自室で私はそう呟きつつ、悔しく思ってしまう。フィオレの状況をもっと早く把握しておきたかった。そうすれば、私はフィオレの自殺を止められたかもしれないのに。
「そして、フィオレお姉様をイジメていた女性達は、男性達を巻き込んだそうです。男性達がフィオレお姉様をイジメた結果、フィオレお姉様は男性のことも信じられなくなりました。フィオレお姉様は人間みんな疑うようになり、絶望し切ってしまって、命を断ちました」
自分の独り言によって、状況が整理されていく。自分の言葉なのに、聞きたくもない。
なんてむごたらしい異世界なんだと思ってしまう。ちなみに、フィオレをイジメた男女達は、フィオレの自殺を笑い飛ばしたらしい。
「あの男女達は、今度はフィオレお姉様の妹である私をイジメようとしているそうです。人を死に追いやることで遊び、反省も全くしない、下品な方々ですね。地獄へ堕ちればいいのに」
そう言いつつイライラしてしまう。フィオレをイジメた奴らなんか、社会的に抹殺したい気分だ。
「まあでも、私は優雅に対応するだけです。イジメに手を染める方々なんか、恐怖に陥れてやりましょう」
私はそう言いつつ、自室の扉を開けた。廊下向かいにあるフィオレの部屋の扉が、やけに寂しく見えた。
生前のフィオレは、部屋の中に赤いバラをよく飾っていた。そんなバラの香りはもうしなかった。
数日後、私はとあるお茶会に出席した。そのお茶会には、貴族の女性ばかりが出席していた。私の方を見て、ニヤニヤと笑う女性が何人かいる。
もちろん、この女性達が私のことをあざ笑っている根拠はない。でも、雰囲気的に嫌な感じはする。
「この前フィオレ様が亡くなられましたね。フィオレ様の妹君でいらっしゃるロジータ様は、やはり悲しいのでしょうか。ロジータ様はフィオレ様のあとを追うのかもしれませんね。ほら、ロジータ様もお墓で眠りたいでしょう。ロジータ様には墓土がお似合いですよ」
とある女性が笑いをこらえながら言った。うん、この女性の発言はどう考えても不謹慎すぎる。私に死ねと言っているようなものだ。
私が下手に反論したら、場の空気を壊すなと怒られるかな。でも、私が黙ってやり過ごしたら、この女性達の嫌味はエスカレートしそうだよね。
「私はまだ死ぬわけにはいきません。なぜなら、フィオレお姉様の幽霊の行動を、私は見届けたいからです」
私は笑顔で言ってみた。すると、周囲の女性達は一瞬固まった。
「ロジータ様。それはどのような意味でしょうか」
女性達は怖々と聞いてくる。みんなはオカルト話を結構信じるんだね。
「そのままの意味です。フィオレお姉様の幽霊が、私には見えているのですよ。フィオレお姉様の幽霊は、復讐をするとおっしゃっています」
私は無邪気な笑みを装って、はっきりと伝えてみた。すると、一部の女性達は青ざめて、泣き出しそうな目をし始めた。
「フィオレ様の幽霊なんて怖くありませんわ。大体、幽霊がいるはずありませんもの。幽霊の存在する証拠を出してくださいっ」
一人の女性がそう叫ぶ。その女性は完全に涙目となっていた。
「最近、貴族社会で怪しい出来事が起こっていませんか。それはフィオレお姉様の幽霊によるものだと思われますよ」
私は淡々と言った。もちろん、これは出まかせだ。でも、人々の想像をかき立てることはできる。
「そういえば、今朝お皿が不自然に割れました。あれはもしかして、フィオレ様の幽霊の仕業だったのでしょうか」
そんなことを言い出す女性が一人いた。すると、他の女性達もざわめき出した。
「私のところは、家の屋根に雷が落ちましたの。あれも、フィオレ様の幽霊の仕業だったのでしょうか。ああ、フィオレ様お許しくださいっ。私は軽い気持ちで、フィオレ様をイジメてしまったのですわ。私に復讐しないでください。私はまだ死にたくないのです、殺さないでくださいっ」
そんなことを言って、逃げ出す女性も出始めた。そして、そのお茶会は崩壊しお開きとなった。
その何日かあと、私が社交パーティに出席したときのことだった。パーティに参加している貴族の数が、なんだか少なく見えた。
「ロジータ様。素晴らしいお手前ですね」
不意に、公爵家のアルマンドが話しかけてきた。このアルマンドは、フィオレへのイジメには加わっていなかったはずだ。
「アルマンド様、お褒めいただき光栄です。しかし、何のことでしょうか」
私は本気で分からなくて聞いてみた。すると、アルマンドは苦笑いした。
「フィオレ様の幽霊が復讐しようとしている、なんてウワサが立っているそうですね。そのため、フィオレ様をイジメていた男女の方々は、大層怯えて国外へ逃げ出されたようですよ。王国騎士団の入団を蹴ってまで逃げ出した男性もいれば、婚約を解消してまで逃げ出した女性もいたそうです。そのように仕向けたのは、ロジータ様だそうですね。ロジータ様は敵討ちがお上手で、とても素晴らしいと思います」
アルマンドはそんなことを言ってくる。困ったなあ。
フィオレの幽霊のウワサを、自分がわざと流した。そんなことを、私自身が認めてしまうわけにはいかないんだよ。だって、フィオレの幽霊話が嘘だとバレたら、脅しが効かなくなるだろう。
「いえいえ。私はただ、フィオレお姉様の幽霊を信じているだけですよ」
私はそう言いながら、穏やかに微笑んでみせた。すると、アルマンドは楽しそうに笑った。
「ロジータ様のそんなお返事も美しいですね。ロジータ様のことが気に入りました。僕と婚約していただけませんか。もちろん、ただの口約束ではございません。後日、ロジータ様のご両親にも、ご挨拶に伺いたいと思っております」
アルマンドの突然の発言には驚いた。ああでも、アルマンドが私の後ろ盾になってくれることは、正直ありがたい。私の身のまわりも、少しは安全になるかもしれないし。
「ありがとうございます。私でよろしければ喜んで婚約させていただきます」
私がそう言ったときだった。不意に、パーティ会場の窓が開いた。
そして、赤いバラの花びらが、窓からパーティ会場内へと舞い込んだ。赤いバラの花びらは、私達の周りで舞い、キラキラと輝いた。まるで、アルマンドと私の婚約を祝福するかのような、少しオカルトチックで不思議な現象だった。




