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04

 この世界には魔道具というものが存在する。魔石が付いていて、そこに魔力を流すことで作動する道具だ。そして、シアナが思っている以上に魔道具というものは身近にあった。

 一番身近なもので言えばポットだ。お茶が用意される時はいつも熱々のものが出されていたので、その都度沸かされたお湯を持ってきているのだろうと思っていたが、ポットには魔石が付いており、魔力を注入することで温めることができるらしい。

 水があれば比較的すぐに熱い湯を用意でき、水属性の魔法を使える者がいれば、水を汲みに行く手間さえも省ける。

 とはいえ、こういった魔道具を日常的に使えるのは裕福な上級貴族だけだ。下級貴族でも家計が厳しい家はなかなか手を出せないらしい。逆に裕福な商人の家は買えるのだが、平民は魔力量が少ないため機能が劣る魔道具しか使えないとのことだ。

 魔道具自体は存在しているが、前世の家電のように普及はしていないようだ。

 そしてこの日、ルークが持ってきた魔道具はポットのような魔道具とはまた違っていた。

 中心にやや大きめの石が一個、そこから放射状に六方向に小ぶりの石が五個ずつ埋め込まれている不思議な盤だ。これが属性鑑定用の魔道具らしい。

(雪の結晶みたい)

 磨かれた丸い石は艶があり、ぱっと見はそういった飾りにも見える。

「これ、どうやって使うの?」

「この中央の石に魔力を流すことで他の石が反応し、属性が分かります。今日はまず魔力について学ぶことから始めましょう。その後魔力の流れを感じ、操ることができたら、最後にこの魔道具で鑑定を行いたいと思います」

 なるほど、魔力を操れなければ属性鑑定まで進めないらしい。頑張るぞ、とシアナは密かに意気込む。

「分かったわ」

「ではまず魔力についてですね。魔導書の続きは読まれましたか?」

「魔法の歴史と魔法の属性のところは全部読んだわ。各属性の精霊に魔力を渡すことで魔法が発動するのよね?」

「はい、その通りです」

 精霊に渡すことができる魔力量により発動できる魔法のランクが変わること、貴族は代々平民よりも多くの魔力量を有しており、ランクⅠの生活魔法以外にもランクⅡ以降の攻撃魔法も使うことができる。などの先週ルークに教わったような基本的なことが書かれていた。

 予習というよりも復習になった感じだ。

(魔法の歴史が意外と長かったのよね……)

 初期の魔法研究者の名前や功績、この国での魔法研究や教育の歴史などが延々と綴られていた。あの辺は読み飛ばしても良かったのかもしれない。

「魔力は全ての生き物が持っています。魔法を使うことで減りますが、休息を取ったり魔力回復薬を使用することで回復します。ただ、魔力の使い過ぎには注意が必要です。平民のように魔力が少ない者は魔力の枯渇による影響は少ないですが、魔力の多い貴族は魔力が枯渇すると頭痛や目眩、吐き気など身体に影響が出ます」

 ふむふむ、とシアナは頷く。

「魔獣などと戦っている際にそのような状態になることは危険です。なので、貴族は自分の魔力量とその限界を知る必要があります」

「さっきの魔道具でそういうのも分かるの?」

 シアナの質問にルークは苦笑する。

「いいえ、あの魔道具にそういった機能はありません。実際に魔法を使いながら徐々に把握します」

「そうなのね」

「魔力を扱う上での注意点はこれくらいでしょうか。では、実際に魔力を感じてみましょう。どちらでもいいので、手を片方お貸し頂けますか?」

 そう言われて右手を差し出すと、ルークは同じように右手でシアナの手を取った。

「今から少しだけ私の魔力をお嬢様に送ります。何か感じたら仰って下さい。そこで止めますので」

 シアナが頷くと、ルークは魔力を送り始めたようだった。見た目は何も変化がないか、ほんのりルークの手が温かくなったような気がする。

「ちょっと温かい……? ルークの手が温かいだけ? あっ、ちょっとピリッてする」

「ここまでですね」

 ルークがそう言うのと同時に感じていた温かさも小さな刺激もなくなった。

「今のが魔力です。属性の相性の関係もあるので、あまり大量の魔力を送ってはならないと言われています」

 先程のピリッとした感じのことだろうか。

「お嬢様が魔法を初めて学ぶ者に教えることはないと思いますが、覚えておいて下さい」

「分かったわ。最初は皆こうやって魔力を感じるの?」

「ええ、平民でも同じ方法を取るようです」

 ふぅん、と相槌を打ちながら、シアナは自分の右手を見つめる。

 ルークが魔力を送り始めた時、最初は手が温かくなったように感じた。あれがもしかしなくとも魔力なのだろう。

(あれを自分で作り出せばいいの……?)

 恐らくそうなのだろうが、どうやったらいいのかはさっぱり分からない。

 試しに念じてみたが、何も起こらなかった。

「何も起こらないわ、ルーク」

「今のは感じてもらうためだけにやりましたから。生き物の身体の中には魔核というものが存在します。魔力を生み出す場所だと思って下さい」

「どこにあるの?」

「胸の奥でしょうか。何処にあるかは明確には分かっていませんが、魔力を生み出す時に胸の中が熱くなるため、そこにあると言われています」

 心臓の当たりだろうか。

「そこに意識を集中させて下さい。そこから先程の温かいものが溢れてくるところ想像してみて下さい」

 シアナは胸に両手を当て、ルークの魔力の温かさを思い出す。

(あれと同じもの……)

 目を閉じて、あったかいやつ、あったかいやつ、と念じていると、不意に胸の中がほんの少し温かくなった気がした。

(あ……)

 はっとした瞬間にそれは奥に引っ込んで行ってしまったが、もう一度念じると再び胸の中が温かくなった。

「その状態を維持して下さい。私がいいと言うまで」

「えっ、このまま? ――あっ」

 また温かいものが奥に引っ込んでしまった。

「慣れるまでは集中力が必要です。魔力を留めることに集中して下さい」

「う、うん……」

 そう頷いてみたものの、魔力を溜めるのにはかなりの集中力が必要だった。

 少しでも気が緩めば魔力はどこかへと行ってしまう。

 なかなか集中力が続かず、始めの内はルークがいいと言うまでもたなかったが、五回、十回、と繰り返していく内にどうにか魔力を維持できるようになった。

「つ、疲れた……」

 シアナは机の上に突っ伏す。

「少し休憩しましょう」

「ありがとう……」

「お嬢様は筋がいいですね」

「そう、なの……?」

 何度も失敗して漸くできるようになったのだが。

「貴族でもコツを上手く掴めない者は数日かかったりします」

「そんなに……」

 それと比べるのであれば、数十分でどうにかできるようになったシアナは確かに筋がいいのかもしれない。

「今日は魔道具をお見せするだけになるかと思っていたのですが、この調子ですと属性鑑定までできそうですね」

「やったー……」

 シアナは力なく微笑う。自分の属性は少し気になっていたので、今日中に分かるならそれに越したことない。

 それから十分ほど休憩して、シアナは練習を再開した。

 留めた魔力をルークの指示に従いながらゆっくりと動かしていく。これもやはり最初は失敗して魔力が消えてしまったが、繰り返しやる内に右手まで動かすことができた。

「で、できた!」

「大変結構です。練習を重ねればもっと思い通りに動かせるようになりますので、今後も続けていって下さい。ただし、練習をする時は必ず誰かを傍に置いて下さい。初めは魔力が枯渇しそうなことに気付かずに練習して倒れる者がよくいると聞きます」

「わ、分かったわ」

「では、そのまま属性鑑定もしてしまいましょう。お嬢様、魔力を右手に集中させたままこの魔道具の真ん中の石に触れて下さい」

「うん」

 魔力が霧散にしないように気を付けながら、右手で魔道具の石に触れる。ひんやりとその冷たさが手に伝わったかと思えば、俄かに石の色が変わった。

「わっ、石が……」

「大丈夫です。もう少しそのままで」

 何が起こるのかとじっと見ていると、六方向に伸びている石の内、二か所に色が付いた。水色と濃い紫だ。それぞれ一直線に並んでいる五つの石の内、水色の方は四つ目まで色が付き、濃い紫は五つ全部に色が付いた。

「お嬢様の属性は水と闇のようですね」

「や、闇……?」

 何だかとても悪役令嬢っぽい。シアナは軽く口を引き攣らせる。

(そういう属性って、魔王とか悪い人間のイメージしかないのだけど……)

「闇属性は、その性質と魔石の色から誤解されやすいですが、光と対になる重要な属性です。夜を想像するといいかもしれません。性質としては静寂や眠りを司っています」

「悪い属性とか怖い属性ではないのね……?」

「はい、もちろん。怖いという意味で言いますと、どの属性もランクⅤの強力な魔法は周囲を破壊するほどの威力がありますので、ランク次第でしょうか」

 シアナはほっと胸を撫で下ろした。とりあえず、悪役令嬢だから闇属性というわけでもないようだし、闇属性だからと忌避されることもないようだ。

(闇属性だから悪! って感じで冤罪を被せられる心配はなさそう……)

 ゲームシナリオや悪役令嬢という設定の強制力を警戒しているシアナにとっては朗報だ。

「お嬢様は闇属性はランクⅤ、水属性はランクⅣまで使えるようですね」

 色が付いた玉の数はランクと関係していたらしい。

「使えるだけの魔力があるってこと……?」

「魔力量もですが各属性の精霊との相性との兼ね合いですね。私達が持つ魔力そのものには属性がないとされています。ですが、精霊との相性――魔法書などには親和性と書かれていますが、それにより使える魔法が変わってくるのです」

「親和性……」

「精霊に受け渡した魔力は精霊の糧になると言われていますが、親和性が高いほど魔力を効率よく使えるという感じでしょうか。逆に親和性が全くない魔力は精霊が受け取らないので、その属性の魔法は使えません」

「なるほど……」

 精霊にあげた魔力が丸々使われるか、一部が上手く使われずに終わるかということらしい。その差が色が付いた石の個数に現れるのだろう。

「じゃあ、精霊が魔力を受け取ってくれるけど、親和性がもっと低かったら使える魔法のランクももっと下がるってこと?」

「その通りです」

 もっと単純に精霊だの属性だのと考えていたが、意外と複雑な仕組みなのかもしれない。

(これは、文字の読み書き覚えた程度じゃ理解するのは難しいかも……)

 シアナは前世の記憶があるから理解できたようなものだ。小学生くらいの子供がこれを理解できるかと聞かれたら、無理だと言わざるを得ない。

(これ理解して、私に教えれるルークって、もしかしてすごく頭が良い……?)

 祖父から英才教育を受けるだけはあるかもしれない。

「属性とランクも分かりましたし、今日はこの辺で終わりましょうか」

「ええ、分かったわ。今日もありがとう、ルーク」

 ルークを見送って、今日はどうにか目標を達成できたと、シアナはほっと息を吐く。

 ただそれは魔法の勉強に関してだけだ。残念なことに、自分の属性が分かっても、乙女ゲームに関連することは何一つとして思い出さなかった。

 シアナは椅子に凭れかかり、天井を仰いだ。

(魔法とか絶対ゲームに出てきたと思うんだけどなぁ……魔法を使う場面とか覚えてなくても、ステータスとかに属性書いてありそうだし……)

 自分の属性を知った時に芋蔓式に、ゲームの“シアナ・クローデル”の設定や他のキャラクターのことを思い出さないかと密かに期待していたのだ。落胆せずにはいられない。

 そもそも、ゲームの情報を思い出す作業はかなり進捗状況が悪い。

 最近得られた情報は、魔法書を読んでいる時に出てきた“聖女の浄化と光属性の魔法は異なる”という文言だけだ。ゲーム内でも聖女が使う浄化は特別なのだと誰かが言っていた。

(でもそんなの、普通に神話聞いてたら分かるし……)

 何の足しにもなっていないとシアナは思う。

(このままじゃ、社交期に王都に行って攻略対象とかを探さざるを得なくなる……)

 シアナとしては危険場所には近寄らないというのが、安全なルートを辿るための基本だと思っている。ゲームのストーリーも十分に思い出せていないのに、自分から積極的に出向いてフラグを立てるという行為は避けたい。

(もういっそ、ゲームのストーリーが終わるまで引き籠っていたい……)

 それが可能なら、シアナはとっくに父に交渉して安全な未来を確保していたことだろう。

 だが先日、「学校は皆行かないといけないのですか?」とさり気なく尋ねたシアナに、父は「そうだよ」と当然のことように返した。

 学園が始まるまで引き籠ることはできるかもしれないが、それ以降は確実に学園に通わされると思っていい。

(手遅れな状態になったら対策も立てれないだろうし、やっぱり情報は今の内に集めておかないと……!)



 そんなことを思いながら、部屋で本ばかりを読む生活をしていたからだろうか。秋に入ったある日、母ベルナデッタから一緒に市井に出てみようと誘われた。

 単なるお誘いかと思い、シアナは断ろうとしたのだが、「偶には違うことをしないと」と半強制的に連れ出されることとなった。

 ノーラに外出用の服を着せられ、邸のエントランスで待っていると、馬車が一台やってきてシアナの目の前で停まる。これに乗って行くのかと思ったが、中から出てきたのはルークだった。

(おじい様もお出掛けするんだ。珍しい……)

 シアナはそう思ったのだが、ルークは「お嬢様、中へどうぞ」と言ってシアナを中に誘導する。

「これ、おじい様の馬車じゃないの?」

「いいえ、大旦那様はお出掛けにはなられませんよ?」

「じゃあ、何でルークが……? ルークも一緒に行くの?」

「はい。市井のことも学ぶ必要がありますので、定期的に奥様に同行させて頂いてます」

 どうやらおまけはシアナの方だったらしい。

(おじい様、滅多に外に出ないもんな……というか、ルーク、普通に偉すぎでは……?)

 ファウスティノの侍従として仕事もしながら勉強も怠っていない。個人的な調べものしかしていないシアナとは大違いだ。

「そうだったのね。知らなかったわ……」

 クローデル家には同じ年頃の子供がそれほどいないため、ルークは貴重な話しやすい相手の一人だ。だが、忙しい相手を捉まえて無理してまで相手をしてもらおうとまでは思えない。

(魔法の勉強も、やっぱりルークにとってはかなり負担になってるよね……早く解放してあげないと……)

 基礎で教わる部分を早く習得してしまえば、ルークも教えることがなくなって本来の仕事だけに戻れるだろうか。

 自分はあとどれくらいで基礎を習得できるだろうかと考えていると、仕度を終えたベルナデッタがやって来て、馬車は出発した。

 王都に行く際に領都の中は馬車で通るが、それ以外にシアナが市井に出る機会というのはほとんどない。何処に連れていかれるのだろうかと窓の外を眺めていると、大通りを外れて少し路地を行った先に小さな教会と古びた建物が見えてきた。

 馬車が到着すると、古びた建物の方からローブを着た初老の男が足早に出てくる。

「シアナ、降りますよ」

 ベルナデッタに声を掛けられて、扉横の窓に張り付いていたシアナは慌てて窓から離れた。

 侍従が先に降りた後にベルナデッタが降り、シアナもノーラに支えてもらいながら馬車を降りる。それを見計らったかのように初老の男が恭しく礼をした。

「いつもご足労頂き、誠にありがとうございます」

「出迎えご苦労様、マッテオ。冬支度の方は進んでいるかしら?」

「はい、少しずつ進んでおります。足りないものの一覧はこちらに……」

 マッテオと呼ばれた男が差し出した紙を侍従伝いに受け取ると、ベルナデッタは書かれている内容を確認して軽く頷いた。

「先に買い付けに行ってしまいましょう。マッテオ、今日は娘のシアナも連れてきたの。私が買い付けに行っている間、シアナに孤児院を見せてくれるかしら?」

 ちらほらと子供の声が聞こえるのでそうではないかと思っていたが、やはりここは孤児院らしい。

「はい、かしこまりまして」

「シアナ、院長のマッテオにご挨拶をしてちょうだい?」

「はい」

 シアナはベルナデッタに頷いてからマッテオに向き直る。

「初めまして、シアナ・クローデルです」

 スカートの端を軽く持って腰を落とす。この貴族流の挨拶も大分慣れてきたな、とシアナは思う。

「この孤児院の院長をしております。マッテオと申します」

 マッテオは胸に片手を当てて丁寧に腰を折ると、顔を上げて笑みを浮かべた。微笑ましい、とその目が語っている。

 彼には七歳児がようやく覚えた貴族の挨拶を一生懸命やっているように見えるのだろう。

「ではマッテオ、お願いしますね。ノルベルト、行きましょう。ルークはどうします? シアナと一緒に残ってもいいのだけれど……」

 その言葉にシアナははっとする。

 ルークは勉強の一環で来ているのだ。何度も母に同行しているのであれば、今更孤児院の案内など不要だろう。

「お母様、ルークはお勉強で来ているので、私のせいでお勉強できなくなるのは良くないと思います!」

「お嬢様……」

「シアナがそう言うのなら、ルークは私と一緒に来てもらいましょうか。ノーラ、シアナを頼みましたよ」

「はい、かしこまりました」

 ルークがちゃんと勉強をできる流れになって、シアナはほっと息を吐く。

 今後も似たようなこと状況の時にはルークの負担にならないよう気を付けなければならない。

「シアナ、本での勉強も必要ですが、こうして領内を直接見て知ることも大切ですからね。マッテオの話をよく聞いて、ここの子供達の暮らしをよく見るのですよ?」

「はい、お母様。分かりました」

「では、お嬢様はこちらへ。孤児院を案内致します」

 ベルナデッタ達が再び馬車へと乗り込む中、シアナはマッテオに促され、ノーラと共に彼の後に続いた。


お読みいただき、ありがとうございます。

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