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星降る夜のランタン


王都ステラージュ国の門には、随分な人だかりができていた。

星紡ぎの祭りの開始までは、まだ数十分あるはずだが、門の前にはすでに長い列ができている。


門は一方通行のゲート式で、一度に五人ずつ入ることができる。

普段は警備が行われているが、今回は国際的な祭りである。

いつもの祭りとは違い、客の数も倍ほどに増えるだろう。

さすがに、一人ずつ異物を持っていないか確かめていては、時間がかかりすぎるのだろう。

そのためか、警備口には誰の姿もなかった。


リシアとラーナは、フード付きのローブをまとい、門の近くまで歩いていた。

人だかりに紛れ込みながら、二人は顔を見られぬよう、フードを深くかぶる。


「……人、多いね」


「そうね。もう少し早く来るべきだったかしら」


小さく言葉を交わしながら、リシアとラーナは列の最後尾へと並んだ。

少しずつ、少しずつ前と進んでいく。


「ところで、リシア。人間界の金を渡しておくわ」


そう言いながら、ラーナは金銭袋をリシアに手渡した。

袋の中で、重い金属の触れ合う音がする。

リシアは訝しげに眉をひそめ、袋の口を開いた。


「…え?こんなにたくさん…」


中には、見たところ五十枚を優に超える金貨が収められていた。

この世界では、国ごとに貨幣の種類が異なることはない。すべて統一されているのだ。

金貨三十枚ほどで王都に家が建てられるというのに、その倍近くもあるではないか。


リシアが絶句していると、ラーナは得意げに腕を組んだ。


「そうよ。精霊王がどこぞの侯爵家と交渉して、たくさん用意してくれたの」


「いつの間に……」


(というか、精霊王は人間と関わってもよかったのだろうか…)


そんなことを考えているうちに、門を通り抜ける順番が回ってきた。

ラーナとリシアはそれぞれ別の列へと分かれ、やがて再び合流する手はずになっている。


リシアは門の中央に差しかかると、わずかに瞼を伏せ深呼吸をした。

そして門を抜けたところで、ゆっくりと瞼を開く。


「…すごい」


「人間界に来るのは私も初めてだけど、意外といいところなのね」


リシアが感嘆していると、隣からラーナの声が聞こえてきた。


空には夕焼けが差し込み、門の周囲にはいくつかの露店が並んでいる。


「星紡ぎの祭りは、開催直後にランタンを空へと放つ風習があるらしいの。もうすぐ始まるから、早くランタンを買いに行きましょ」


「うん」


リシアが頷くのと同時に、ラーナはその手を引いて露店へと向かった。

リシアは片手でフードを押さえながら、人々の視線を避けるように歩く。

俯いたまま進んでいると、やがてラーナが足を止めた。


「綺麗なランタンね」


ラーナに促され、リシアはゆっくりと顔を上げ、ランタンだけを見つめた。

それは棒状の形をしており、夜空を思わせる色合いが美しいグラデーションを描いている。

表面には星が散りばめられており、まるで実際に輝いているかのように見えた。


「確かに、綺麗…」


リシアの声は小さかったが、ラーナと店主にははっきりと届いていた。

その言葉を耳にした瞬間、店主はゆっくりと微笑む。

リシアには、その表情の意味も、店主が何を考えているのかも知らない。


「この藍色のランタンと黄色のランタンをください」


ラーナは人差し指で示しながら、店主に呼びかけた。


「あいよ。銀貨2枚ね」


店主がランタンを二つ手に取ると、ラーナは金銭袋から金貨を一枚取り出した。


「すみません、金貨しか持ち合わせていなくて……。おつりをいただくことはできますか?」


店主は金貨を見ると、目を丸くした。

それも無理はない。

ラーナは見た目だけなら、十歳ほどにしか見えない。

そんな少女が大金を持ち歩いているのだ。どこぞの立派な貴族にしか見えなかった。

店主は、口調を少し和らげた。


「金貨1枚で、おつりは銀貨48枚だ」


店主はラーナの掌に大量の銀貨を置くと、近くにいたリシアにランタンを二つ渡した。


「ありがとうございます。わざわざ数えてくださって…」


「いいよ、いいよ」


店主は掌を振り、微笑みながら続けた。


「ところでお嬢ちゃんたち、どこかの国の貴族さんかい?」


「いいえ。この国の冒険者よ」


ラーナは即答したが、店主はなお訝しげに小首を傾げた。


「そうかい……冒険者なら構わないんだが。ここ最近、王都なのに災いが増えて、ランクも上がっているんだ。だから、祭りの最中に何か大きな災いが起こるんじゃないかと思ってね。気をつけた方がいいよ」


『災い』という言葉を聞いて、リシアは僅かに眉をピクリと動かす。


「そう…、なのね。教えてくれて助かるわ。それと、もう一つ教えてほしいことがあるんだけど、いいかしら?」


「おうよ。何だね」


店主はにっこりと微笑みながら、頷く。


「広場への行き方を教えてほしいの。そろそろ開始直後でしょう?なるべく混雑していないルートを知りたいわ」


「ランタンを灯しに行くんだね。それなら……」


と、店主はメモと鉛筆を手にした。


面倒見がいいな、とリシアは思う。


(小さな子どもがいるのかな……。新品の指輪をはめているし)


そんなことをぼんやり思いながら、リシアはラーナと店主の立ち話を静かに聞いていた。

―—物語の幕開けまで、残り24年。

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