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白哭季の「星紡ぎの祭り」


王都ステラージュ国では、3年に一度、白哭季(ハルヴェイン)に「星紡ぎの祭り」が行われる。

祭りは、天の星と人々の願いをつなぐ儀式として始まったと伝えられていた。


祭りの幕開けには、人々が願いを込めたランタンを空に放つ。夜空を漂う無数の光は、まるで星が地上に降りてきたかのように街を照らす。

祭りの後半になると、天星の12使徒が現れ、魔法の光で幻想的な演出を繰り広げる。王都の広場は光と魔法で満たされ、見物人の目は星の海に引き込まれるようだった。


古くから受け継がれる王都の伝統行事、星紡ぎの祭り。

その3年に一度しか行われない祭りが、今年行われるらしい。


その夜、どうやらリシアは魔法や人々の様子を観察するため、人間界の下見としてラーナとともに星紡ぎの祭りへ足を運ぶことにしているらしい。

当初はあまり気乗りしなかったが、食料の問題もあって、仕方なく行くことにする。

食料の調達と人間界の下見、この2つを目的に、リシアは当日になると、のそのそと準備を整えていた―—。




星紡ぎの祭りの前日の朝。

リシア・ゼフィラは、朝の身支度を整えていた。

いつものように顔を洗い、ご飯を食べ、いつもの服に着替える。

地球に存在した寝間着や歯ブラシは、この世界には存在しない。

そのため、精霊王に頼んで似たようなものを作ってもらった。

今では部屋も整い、不便に感じるものは何もない。

こうして考えると、精霊王には本当によくしてもらっていると思う。

そんなことを思いながら、リシアはいつもの身支度を終えた。


リシアは椅子に腰かけ、窓越しに頬杖をつきながら、ひらひら舞い積もる白雪をぼんやりと眺めていた。

しかし、数分後、突然、扉が激しくノックされた。


「リシアー!今大丈夫かしら?」


声の主はラーナだった。

いつもとはどこか違う、弾んだような明るい声音に、リシアはほんのわずかに目を見張る。


「ラーナ…?どうしたの」


不思議に思いながらリシアがゆっくりと扉を開けると、ラーナは待ちきれない様子で身を乗り出し、そのまま家の中へと入ってきた。


「朗報よ!ええと……三年に一度、王都で開かれる星紡ぎの祭りっていうの、知っているかしら?」


「う、うん……知ってる。ランタンを空に放つ、あの儀式みたいなお祭りでしょ……?」


「そう!それ。その祭りが明日、開かれるの。一緒に行かない?」


「一緒に行かない?」その言葉を聞いた瞬間、リシアの思考はぴたりと止まった。


――一緒に行かない?

 一緒に行く…...

 一緒に……

 一緒……?


言葉だけが、頭の中で何度も反響する。


「えっ」


リシアは思わず声を漏らした。

リシアにしてはとても珍しいその反応に、ラーナは驚きに強張るどころか、かえってその顔はいっそう明るくなった。


「…...えっと、星紡ぎの祭りは王都で行われるんだよね…?」


リシアの言葉に、ラーナは元気な子どものように、勢いよく頷いた。


「王都って人間界でしょ…...?精霊王に30年間人間界に立ち入ることは制限されていたはず…...」


「そ・れ・が――頼み込んだら、了承されたのよ……! すんなりと」


すんなりと?

あの、数々の制限を設け、決してそれを破りそうにない生真面目な精霊王が――?

ラーナの話によれば、当初はリシアの人間界への下見を理由に頼み込んだのだという。

すると意外なことに、精霊王はあっさりと許可を出したらしい。

その場に居合わせた大精霊や上級精霊たちは、あまりのことに言葉を失い、あんぐりと口を開けていたという。


「差し出がましいのだけれど、私は人間界にはちょっと……」


反対の言葉を口にした瞬間、ラーナはまるで猫耳が垂れたかのように俯いた。

この上級精霊は、子どもなのだろうか。

戦闘のときや真面目な話のときには、立派なお姉さんの顔を見せるというのに。


「そう…...。確かに、そうよね。リシアは人間界に行きたくないもの」


「えぇっと…...」


リシアは、ラーナにかける言葉が見つからず、しばし言葉に詰まっていた。

おどおどするリシアの背後に、突然ルーナが現れた。


「でも、リシア。食料が足りないんじゃないの~?別にお祭りの日でなくてもいいと思うんだけど……食料の調達だけでも、行ってきたら~?」


「う…」


ルーナの言葉を前に、リシアは何も言えなかった。


(確かに、ルーナの言う通り食料が足りなくなってきてる。でも人間にはあまり関わりたくないし…)


リシアが頭の中で葛藤していると、突如ラーナが口を開いた。


「確かにそうね!星紡ぎの祭りにはノアリス連邦やアウロラ帝国から運ばれてきた、めったに食べられない貴重な食べ物もあるし、リシアがまだ知らない水魔術の論文を特集した本なんかもあるらしいのよ…!生き甲斐があると思わない?」


(た、確かに…)


……と、リシアは思わず納得してしまった。

ここまで勧められてしまえば、行ってもいいのではないかと思ってしまう。

さらにラーナは、期待に満ちた目でこちらを見ている。


(こんなの、賛成するしかないんじゃない……?)


「分かった……い、行きます……」


シアは渋々ながらも賛成した。

その一言を聞いた途端、ラーナの顔にぱっと花が咲いたような笑みが広がる。

――あれ? 六年前って、こんなに元気だったっけ。

そう思ってしまうほどだった。


「よし、決まりね! 星紡ぎの祭りは明日の夜から明後日の夜までだし、明日の午後にリシアの家へ行くわね!」


ラーナは早口で言い終えると、明日が待ちきれないと言わんばかりに走り去っていった。

その背中を尻目に、ルーナはそっとリシアに耳打ちした。


「本当はね、ラーナ、リシアと祭りに行きたかったみたい。それに、人間界にも一度行きたかったんだって。ラーナは楽しみなことがあると、いつもああやってテンションが上がるんだよね~。戦闘のときとは大違い!」


「なるほど…...」


ああ、だからあんなにテンションが高かったのか──と、リシアはようやく理解した。


* * *


リシアは、人間が怖かった。

だからなるべく関わらずにいようとしていたのに、結局は自分のほうから関わろうとしてしまっている。

ああ、これじゃあ前世と同じだ。自分から手を伸ばして、結局は逃げてしまう――。


(はは……この世界に来ても、結局は人間という存在に関わってしまうのか……)


それでも、今は精霊という仲間がいる。

だから、今度は少しだけ頑張ってみよう――。

彼女はそう、心の中で決めた。

―—物語の幕開けまで残り24年。

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