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ラーナとルーナの魔術鍛錬

精霊王との対面から5年後——リシアは光の精霊、ラーナとルーナから魔術を学んでいた。


「リシア、だいぶ魔術が使えるようになったね」


そう言ったのはルーナだった。

ルーナは光の中級精霊でラーナの妹である。

掌サイズの精霊は、小さく羽をはばたかせながら、肩を並べてラーナの隣に立っていた。


「そうね。魔術の鍛錬と魔法の鍛錬を同時維持……。結構厳しい鍛錬だと思ったのだけれど……」


ラーナは手を頬に当て、少し苦笑した。

現在、リシアの家の庭にてラーナとルーナによって魔術鍛錬をしているのだ。

……そう、月光魔法の鍛錬ではなく魔術の鍛錬を。




事の始まりは3年前。

いつものように、リシアがラーナと魔法鍛錬をしていた、ある日のことだった。


「そういえば、リシアって…ものすごい魔力を持っているのよね」


唐突な言葉に、リシアは掌に水を浮かべながら、勢いよく顔を上げた。

眉をわずかに寄せ、首を傾げる。


「…はい。そうですが……?」


無表情のまま返すリシアに、ラーナは焦ったように言葉を付け足した。


「いや。魔力がこれほどに多い人間、実は見たことがなくて……。上級精霊に匹敵する魔力の量なの。それほどたくさん魔力があるのに使わないのはもったいないと思ってね」


リシアは自分の魔力の数値こそ知っていたが、ラーナの口から直接その大きさを聞くのは初めてだった。

一瞬リシアの瞳がわずかに大きくなる。


「そう、なんですか?」


「えぇ、そうよ。」


ラーナは微笑みを浮かべ、手元の魔力を軽く揺らした。


「だから——魔術の鍛錬も、やってみない?」




そして今に至る。


庭には、月光魔法とは異なる、静かな魔力のざわめきが漂っていた。

リシアは芝生の上に立ち、ゆっくりと腕を伸ばす。

小さく詠唱を口にすると、魔力が指先から広がっていった。


魔術には魔力と詠唱が必要だ。

詠唱には短縮詠唱と、時間をかけて魔力を精密に込める長唱詠唱があり、魔術の性質に応じて使い分ければならない。


リシアは自分の魔力の性質を感じ取りながら、どちらを選ぶかを即座に判断した。

——リシアの属性は水。


指先から広がる青い光が、静かに、しかし確かに庭を濡らすように揺らめいた。

次の瞬間、魔力と詠唱によって生まれでた水が、宙を翔け、大きな水の大蛇になった。


リシアが掌を返し、軽く下げる。

すると、水の大蛇は一瞬で崩れ、形を変えて水馬へと姿を変えた。

魔術によって生み出された水馬が、庭の周囲を駆け回った。

その水馬を目で追い、リシアはほっと息を吐く。


数秒後、そっと腕を下ろした。

それに動じるかのように水馬は崩れ落ち、跡形もなく消える。

その高度な技術にラーナとルーナは息を呑んだ。


「……すごいね、リシアちゃん」


「…えぇ、そうね。わずか4年でここまで高度な魔術を扱えるようになるなんて……」


一般的に攻撃用の魔術は、形を定めずとも扱えるようになるまで一週間ほどかかる。


しかし今のリシアは、形を細かく再現していた。

大蛇と水馬の大きさ、頭や顔の形、鱗の角度や密度……。

それを一つ一つ計算して定めていたのだ。


2人はその集中力に、ただ感心するしかなかった。

魔力が尽きたリシアはラーナとルーナの元にやってきた。


「ラーナちゃん、ルーナちゃん。魔力が尽きたから、ちょっと休憩してもいいかな……?」


少し遠慮がちにそう尋ねるリシアに、ラーナとルーナは勢いよく頷いた。


「全然大丈夫よ。むしろ、そろそろ休憩にしようと思っていたところだもの。あまり無理はしないようにね」


「そうだね~!じゃあ、少しお茶にしよう~。あら不思議!ここに光の絨毯が~!」


そう言ってルーナは、まるで舞台役者のような大げさな身振りで手を振り、光の魔術を展開した。

次の瞬間、淡い光が地面に広がり、絨毯の形を成す。


「ささ、ここに座って~」


ルーナはふわりと手を引き、リシアを光の絨毯の中央へと導いた。

絨毯は淡く瞬きながら脈打つように広がり、座ると羽毛のような柔らかさで身体を受け止める。

リシアは驚いたように目を瞬かせ、恐る恐る腰を下ろした。


「わ……あったかい……」


その様子に、ルーナは得意げに胸を張る。


「でしょ?休憩用にちょっと改良してるんだ~。魔力の回復、少しは早くなるはずだよ」


ラーナはその光の構造を一目見て、静かに息を吐いた。


「……相変わらず、無駄に高性能ね」


「…褒め言葉として受け取っておくよ~」


ラーナの皮肉をさらりと受け流した、ルーナは静かに指先を弾いた。

その瞬間、光の粒子が集まり、小さな卓と三人分の茶器が絨毯の上に現れる。


ルーナは掌サイズの体を軽やかに卓の上に乗せ、ちゃぶ台に腰掛けるように座った。

ラーナはリシアの隣に腰を下ろす。三人が揃うと、絨毯の上にはちょうどよい空間が生まれた。


「お待ちど~!ルーナ特製クッキーと、精霊界で人気のハーブティーだよ~!」


小皿に並んだクッキーは、ほのかに甘い香りを漂わせ、ティーカップからは草花の清涼な匂いが立ち上っていた。

リシアは目を輝かせながら、そっとカップを両手で包む。


「……いい香り……」


一口含むと、温かな感覚が喉から胸の奥へと広がっていく。

その表情を横目で見ながら、ラーナは静かにルーナへと視線を向けた。


「それにしても……さっきの魔術。あの制御で、ここまで魔力を使い切るなんて」


「うん。昔なら、形を保つ前に暴発してたよね~」


ルーナの言葉に、ラーナは小さく頷く。


「無駄な魔力の揺らぎがほとんどなかった。集中力も判断も、確実に育ってるわ」


二人の会話を、リシアは気づかぬまま、クッキーを一口かじる。

さくり、と小さな音が響いた。


「……おいしい……」


その無邪気な声に、ラーナとルーナは一瞬だけ視線を交わし、微かに微笑んだ。

―—物語の幕開けまで、残り25年。

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