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由来も知らない名前

「……それもそうなんだけど、ここで長い間立って話すわけにもいかないから。一旦精霊達は返してあんたの家の中で話すのはどう?」


リシアは先ほどから王に伝えるべくそわそわしている精霊を一瞬見据え、少し考え静かに頷いた。


「……はい、それがいいです」


少女の精霊は密かに笑みを浮かべ、手を軽く振る。


「じゃあ、あの子達は森に返すわ」


少女の合図につれ、精霊達が一礼するようにしてゆっくりと森の奥へ消えていく。

残されたのは、精霊の少女とリシアのみ。

リシアは家に歩み寄り扉を開けようとドアノブに手をかけた瞬間、急に記憶が蘇った。


ーーただし、旅に出るときも、家を空けるときも、その本を決して手放してはならない。他人の目に触れることも、固く禁じる。


「……少し、ここで待っていてもらえますか…」


精霊は不思議そうに目を瞬せたが、すぐに小さく頷いた。

リシアは早足に自室へ戻り、本を棚の奥へ押し隠した。

そして再び玄関へ戻り、扉を開けた。

精霊は、扉の脇にちょこんと行儀よく座っていた。


「…お待たせてしまって、すみません」

「気にしなくていいわ」


少女の精霊は少しだけ柔らかく微笑んだ。


「さぁ、あんたの家でゆっくり話しましょ」


リシアは静かに頷き、自分の家の玄関を開ける―。


* * *


精霊は中へ足を踏み入れ、「お邪魔します」と一言添えてから、彼女の自室へと向かった。

窓際の椅子に腰を下ろすと、


「あんたも座りなよ。ここは、あんたの家なんだから」


リシアは静かに机の前に腰を下ろす。

窓から差し込む柔らかな光に照らされながら、少女の精霊は指先の光を揺らし、ふと口を開いた。


「そういえば…あんたっていうのもアレだから、名前を教えて」


そう言う精霊を前にリシアは淡々と視線を返した。


「……リシアです」


リシアの言葉を聞くと同時に、少女の精霊は小さく頷きその名を己の意識の奥へと押し入れた。


精霊にとって、人間の名を留めることは容易ではない。

精霊使いでもない限り、それを覚え続ける者はほとんどいないのだ。

人間という存在に、そもそも関心を抱かないがゆえに。


「リシア……。名前ね」

「……ありがとうございます」


赤の他人に付けられた名前だけど、とリシアは少しだけ目を細めつつ視線を少女の座る椅子の下へと逸らした。

少しの間、静かな空気が流れる。

少女はゆっくりと背筋を伸ばした。


「それじゃあ、さっき話した加護と人間界について教えてあげるわ」


リシアは固唾を飲み込み、姿勢を正した。


「まず、加護について。加護とは、神に近い存在が選んだ特定の者に与える祝福のことよ。それは、精霊には与えられず、人間に与えられるものなの。基本加護は人間が生まれてすぐにもつことができる。大体、加護のレベルによって神に、近い存在が与えたものとなるわ」


なるほど、とリシアは頷いた。


加護とは前世、ゲームや小説の中にあったものとよく似ている。

前世のリシアはゲームはしないが、小さい頃に読んだ小説に出てきたのでよく知っている。

少女は続けた。


「……加護には、いくつか種類がある」


少女の精霊はそう前置きしてから、静かに続けた。


「中でも、月光魔法と最も相性がいい―というより、それがなければ成立しない加護がある」


リシアは、無言で耳を傾ける。


「神経開花」


その言葉を聞いた瞬間、リシアの指先が、わずかに震えた。

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