才能なんていらない
「……今日からです」
その答えに、少女はわずかに目を見開いた。
魔術は本来、時間を要する。
形を整え、性質を馴染ませ、ようやく実践に耐えるものとなる。
たとえ魔力があっても、師の手ほどきを受けなければ、独学で扱えるように困難だ。
「……才能があるのね。それで、あんた月光魔法の使い手が今は滅亡していることは知っているの?」
(……え?)
思いがけぬ少女の言葉にリシアは思わず瞬きをした。
「…滅亡、した?」
少しだけ動揺を表に出したリシアを前に、少女の精霊は、すぐに首を横に振った。
「…言い方が悪かったわね」
一度息を整え、静かに言い直す。
「正確にはーー月光魔法の使い手は、今は存在していないのよ」
「……いない?」
その問いかけに、少女は小さく息を吐いた。
「……知らなかったのね」
「はい……」
「…まあいいわ。今から教えるわ」
少女の提案にリシアは黙って首を縦に振った―。
* * *
「記録に残っているのは、今からおよそ5000年前。たった一人だけ」
リシアは静かに黙って聞いている。
「その人物が月光魔法を使ったという事実だけが残っている。名前も、種族も、性別も……ほとんど消えているわ」
少女の教えにリシアは混乱していた。
(どういうこと…?本には使い手がいないことなんて、書いてなかった。……そもそも、触れてすらなかった)
リシアの目は明らかに動揺している。
少女の精霊は、リシアの視線を受け止めたまま、静かに続けた。
「月光魔法はね……。理論でも、詠唱でも操れない」
そう言いながら、少女はリシアの溢れ出る魔力を指差した。
リシアの指先が、ピクリとわずかに動く。
「その溢れ出る魔力の流れを計算しても、意味がない。使うのは、感覚。慣れていない頃は性質を考えないといけない。―けれど段々慣れてくると分かってくるのよ。冷たいとか、思いとか、楽しいとか、嬉しいとか。そういう、言葉になる前のもの」
リシアは、混乱しつつもゆっくりと頷いた。
「……分かります。沈めた先で、触れる感じが…」
少女の精霊は、少しだけ驚いたように目を見開き、それから小さく息を吐いた。
「…やっぱり、5000年前の記録も、同じ事を書いているわ。……月光魔法はね、行使の仕方を知っていても使えないのよ。加護がない限り」
「その、加護って…」
リシアは少しだけ眉間に皺を寄せた。
「加護は…どのようなものか知ってる?」
「いえ…よく分かりません」
リシアが答えると、精霊の少女は驚いたような顔をした。
「まさかとは思うけど…あんた、人間界に行ったことは…?」
リシアは気まずそうに目を逸らした。
「えと、ありません…」
「そう…、だから月光魔法の使い手がいないことも知らなかったのね…。……なら色々人間界について教えてあげるわ。…それもそうなんだけど、ここで長い間立って話すわけにもいかないから。一旦精霊達は返してあんたの家の中で話すのはどう?」
そう少女の精霊は言った。




