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一年目。
古文書室は厳かな空気に包まれていた。
高窓から射す光は淡く、長く連なる棚の奥までは届かない。
古びた革の匂いと幾年月の埃が溶け合っており、この場所の長い歴史を語っているかのようだった。
ルナリアは刷毛を取り、慎重に棚を掃く。
舞い上がった埃が、光の筋の中でゆるやかに漂った。
まるで、過ぎ去った日々が細かな粒となって甦るかのようである。
やがて指先が、一冊の詩集に触れた。
革表紙は擦り切れ、題字も影のように残るばかり。
頁を捲ると紙が軋む。
奥には隠すようにして、紙片が忍ばせてあった。
ルナリアは息を整え、それを取り出す。
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この手紙を読んでいるあなたは、どんな光の下にいるのでしょうか。
高窓から差し込むひとすじの光でも、あるいは燭台の焔でも──。
そのささやかな明るさが、あなたの手元を穏やかに照らしていることを願います。
今日の会議は長く終わりの見えぬもので、責任の重さにいささか疲れを覚えております。
言葉の往来に身を置きながらも、心は別のところを彷徨っていました。
ふと窓を仰げば、夕陽が塔の影を長く伸ばし、街並みを金に染めてゆくのが見えました。
その光景を胸に収めたとき、思わず浮かんだ詩があります。
「鳥は高みへ昇らずとも、空の深さを知る」
人もまた、与えられた歩幅の中に、果てしない広がりを見つけられるのでしょうか。
そうであれば、たとえ日々に疲れても、立ち止まることに意味があるのかもしれません。
責任というものは、ときに重く、心を曇らせます。
けれど、こうして言葉にすれば少しだけ軽くなるように思うのです。
誰に届くこともなくとも、紙の上に留めることで、痛みはやがて遠のいてゆくでしょう。
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どの行にも深い静けさが滲んでいた。
古い詩の断章。遠い景色を仰ぐような言葉。日々のささやかな感慨。
「会議が長引いた」「責任ある立場なので少し疲れています」といった控えめな吐露も混じっている。
ルナリアは自然に書き手を女性だと考えていた。
宮廷で文を書く立場の女性といえば、高位の女官や宗令院の女監察官が思い浮かぶ。
柔らかで品のある筆跡は、そうした人々を思わせた。
夜。
寝台が並ぶ薄暗い部屋で、ルナリアは小さな燭台を机に置き、その光に照らされながら筆を取った。
今日あったことを書く。
廊下に新しい燭台が据えられ、灯りがいくらか眩しく感じられたこと。
庭の苗木の並びが昨日と少し違って見えたこと。
そして、小さな悩みごと。
「同じ部署に、少し厄介な方がいらして。
書類の整理をすべてわたしに任せて帰ってしまわれました。
わたしには、それを断ることも難しくて。
どうすれば上手く立ち回れたのかと、ずっと考えてしまいます」
紙を畳み、翌日また古文書室で詩集に忍ばせる。
棚へ戻すとき、指先がほんの一瞬だけためらった。
数日後。
返事は変わらず整った筆跡で綴られていた。
「あなたは、とても律儀な方なのですね。
世の中には、自分が背負うべき荷をあっさりと他人に押しつける人間がいます。
それを不器用に引き受け続ける限り、その人はあなたを都合のいい場所に留めてしまうでしょう。
どうか心まで奪われませんように。
時には笑って逃げることも、立派な術なのです」
紙を見つめ、ルナリアは胸に手を置く。
遠くにいる誰かが、そっと支えてくれているような気持ちを感じていた。
文はさらに続く。
「胸の内を話してくれて、ありがとう。
もしよければ──これからも気兼ねなく話してください。
文字を追っているだけで、あなたがどんなふうに笑い、どんなことで困っているのか。
不思議と目に浮かぶ気がするのです。」
もう一度最初から手紙を読み返した。
胸の奥に温かいものが灯されている。
彼女はそのまま、穏やかな気持ちで眠りについた。




