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婚約破棄されやけ酒飲んでると軽い男が声かけてきたので張り倒したら、何故か執着されました

「やってられないわよ!」

 私はジョッキを飲み干すとドンと飲み屋のテーブルに叩きつけたのだ。

「お代わり!」

 ジョッキを片手に叫ぶと、

「ちょっと、キャロライン、飲み過ぎよ」

 私は学園時代からの親友のダリアに止められた。

 でも、本当にやってられなかったのだ。


 私、キャロライン・バーゼルは五年間婚約していたゴードン・バラウェイとの婚約を破棄されたところだ。


 私はその夜会も王女殿下の護衛をしていた。殿下が疲れたと言って部屋に帰る途中で、婚約者とピンク頭の令嬢が抱き合っている場面にたまたま出会ってしまったのだ。ピンク頭の令嬢は確かカーリーとか言った男爵令嬢だったはずだ。そういえば王立学園で私は1組だったが、成績の悪いゴードンは3組で、このピンク頭と仲良くしていたという噂を聞いたことがあった。でも、私は単なる噂だと取り合わなかったのだ。ほっておいたそれがまずかったのだろうか?


 ゴードンとピンク頭は王宮の夜会で暗がりでひしっと抱き合っていた。

 私はその時の王女の護衛でなかったらその場でゴードンを張り倒していたに違いない。


 王女殿下はその男が私の婚約者だと知っていたみたいで、直ちに王妃様に報告されていた。

 その後ですぐに呼び出されていたバラウェイ子爵は驚愕していた。必死に謝罪していたが、王妃様にまで知られてしまってはどうしようもない。私とゴードンの婚約はあっさりと破棄された。それも当然ながらゴードンの有責で。


「俺もこんな気の強い女なんて婚約者にしたくなかった」

 という捨て台詞を吐いて、我が家から出ていこうとした婚約者は、怒り狂った兄2人にボコボコに殴られていた……

 さすがにお父様が途中で止めてくれたが、止める必要なんて無かったのに!

 本来なら私が殴りたいくらいだった。


「何が気が強い女を婚約者にしたくなかったよ! そんな軟弱な男はこっちから願い下げよ」

 私はお代わりを持ってきたウェイターからジョッキをひったくるとぐいっと一気にジョッキを傾けたのだ。


「ちょ、ちょっとキャロライン。飲み過ぎだったら」

 ダリアが止めようとしてくれたが、怒っている私は飲む手を止めなかった。


「よう、お嬢さん、荒れているな」

 そんな私達の所に、軽そうな男が近付いてきた。

「何よ、あんた!」

 私はとても虫の居所が悪かったのだ。

 男は見た目はとても麗しくて、いかにももてそうな男だった。こいつもゴードンと同じで優しい言葉を女にかけて遊びまくっているのだろう。

 私はじろりと男を睨み付けた。


「まあ、気が強いのも好きだけれど、少しは男を立てた方が良いんじゃないか」

 でも、男は私の視線を受けても平然としてそう言ってくれた。

 そう、私は父にもそう言って怒られたのだ。


 こいつ、赤の他人のくせに何を言ってくれるの?

 私はきっとして男を見た。


「男を立てないから捨てられたんじゃないのかな」

 私はその音この一言に完全に切れてしまったのだ。

「何ですって!」

 パシーン!

 私が叫ぶのと男の頬に私の張り手が炸裂するのがほとんど同時だった。

 男は一瞬で吹っ飛んでいったのだ……


 私はその日は記憶がなくなるまで飲んだ。

 その後男がどうなったかは覚えていなかった。



 翌朝、私は二日酔いで痛い頭を抱えつつ、王宮に出仕した。

 家からの送りの馬車を王宮の入り口で降りて私は騎士団の詰め所へ向かったのだ。

 その途中だ。

 いきなりビシっとジャケットに身を固めた金髪の男が目の前に現れたのだ。

 男はずんずん私に向かって歩いてきた。


「えっ?」

 私は男を見た。

 輝くような美しい金髪に青い瞳のイケメンだ。きつめの顔の私は関係無いだろう。

 そう思ったのに、男は私目がけて歩いてくるのだ。


  でも、その男とはどこかで会った記憶があった。


 そうだ! 昨日酒場で張り倒した男だ。

 私は思いだした。

 その男が私に何のようなのだ?

 昨日の文句でも言いにきたのか?

 私が身構えた時だ。


 その男がいきなり私の目の前で跪いたのだ。


「えっ?」

 私は一瞬固まってしまった。


「キャロライン・バーゼル嬢、是非とも私と付き合って下さい!」

 そう言って一本の赤い薔薇の花を差し出してきたのだ。


 えっ? ええええ!

 私は目を見開いて固まってしまった。


 男は何故か私の名前を知っていた。その上付き合ってほしいと申し出てきたんだけど……


 どうして、昨日酒場で張り倒した女に付き合ってほしいって申し込むの?

 私には理解不能だった。


 その場でもう一度張り倒さなかったことを褒めて欲しい。


 私は無視して、さっさと歩いて行ったのだ。


 私はこの男が立ち去る私のことを熱い視線で見ていることなんて気にもしていなかったのだ。

 あれだけ無視されたら、男も諦めるだろうと私は思った。

 でも、それは間違いだった。



 その日の仕事を終えて、帰ろうとした時だ。

 またしても王宮の渡り廊下で男と遭遇したのだ。


「キャロライン・バーゼル嬢、是非とも私と付き合って下さい!」

 そう言ってまた赤い薔薇を一輪差し出してきたのだ。

「えっ?」

 私は驚いた。

 こいつ、また、張り倒されたいのか?


 私は全ての自制心を総動員して、なんとか手を出すのを止めたのだ。


「ふんっ!」

 私は無視して歩き去ったのだ。


 この男が誰か知らないし、こんな軽い男と付き合う気はなかった。


 でも、私から無視されても男は諦めてくれなかったのだ。


 その男は行きと帰りに必ず私の前に現れるようになった。

 何故、男が張り倒した私と付き合ってほしいと言い出すのか?

 私には全然理解できなかった。



 そんなお昼休みだ。私は食堂でたまたまダリアと一緒になった。


「キャロライン、聞いたわよ。エイブラハム様に言い寄られているんだって」

 会うなり、ダリアが話てきた。

「エイブラハムって誰?」

「エイブラハム様よ。この前あなたが張り倒した。オルグレン伯爵家の三男よ」

「ああ、あの男、そういう名前だったのね」

「あなた、知らないの? ハンサムで優しいと女の子達の間でとても有名な方よ。オルグレン伯爵家は名門だし、三男だけど、王太子殿下の覚えもめでたい文官だそうよ。あそこの家は子爵家の称号も持っていたし、ゴードンに比べたらめちゃくちゃ良い話だと思うわ」

 ダリアはあの軽い男を推してきたんだけど……


「何言っているのよ、ダリア! 何故、私が張り倒した男から付き合ってほしいって言い寄られなきゃならないのよ? 普通はあり得ないでしょ!」

「それはそうだけど、良いじゃない。言い寄ってくれるんだから」

「何言っているのよ。エイブラハムっていったら遊び人で有名じゃない。例え私が付き合っても、遊ばれて捨てられるのが落ちよ」

 私はそう言いきったのだ。


 エイブラハムの名は聞いたことがあった。女をとっかえひっかえしている遊び人なのだ。何人の令嬢が泣かされたことか。そんな男と付き合う気なんてさらさらなかった。


「そうか、じゃあ、キャロライン嬢は俺が遊びでなかったら付き合ってくれるんだな」

 後ろからいきなり声がして私はぎょっとした。


「え、エイブラハム様」

 ダリアは私の後ろを見て、驚いた。


「な、何を言っているのよ。絶対に嫌よ!」

「そうか、遊びでなかったら良いのだな」

 私が嫌だと言ったのに、男は聞いていなかった。


 男は大きく頷くと、さっさと去って行ったのだ。


「凄いじゃない。キャロライン! 完全にエイブラハム様はあなたに夢中だわ」

「何言っているのよ。あんな軽薄な男絶対に嫌よ」

 ダリアの言葉に私ははっきりと拒否したのだ。




 その翌朝だ。

 私は出勤すると、私の使えているエリザベス王女の近衞騎士隊のダンケル隊長、すなわち、私の上司に呼ばれたのだ。


「キャサリン。喜べ!」

 別室に呼ばれて行くなりダンケルは喜色を浮かべて私に話し出した。

「お前に縁談がきたぞ」

「はい?」

 私は悪い予感がした。


「いやあ、貴様が軟弱なゴードンに振られた時は、男勝りのお前にはもう婚約したいと思う相手が現れないのではないかととても心配だったのだが……なんと、相手は伯爵家で、王太子殿下の覚えもめでたい男だ。これほど目出度いことはない」

 隊長は私に対してとても失礼なことを平然と言ってくれた。


 二度と婚約できないってどういう意味よ!

 私はそこまで酷く隊長に見られているとは思わなかった。

 むっとしてにらみ返すと


「相手はオルグレン伯爵家の三男だ」

「お断りします」

 私は間髪入れず拒否したのだ。

「はああああ! 何を言うのだ。キャロライン。もう一度考え直せ。子爵家の嫡男に振られた貴様に、普通はこういうおめでたい話は中々巡って来ないものなのだぞ。お父上もとても心配していらっしゃった。会うだけでも会えば良いだろう」

 隊長は私を説得してきたが、

「あんな軽い男はお断りです」

 私が断ると、

「まあ、確かにエイブラハムの浮名は聞くが、これは正式な縁談だからな。是非とも考え直して欲しいのだが」

「隊長がなんと言われようと。嫌なものは嫌です。そもそも隊長、二度と私に縁談が来ないと思っていたってどういう事なのですか?」

 私が睨み付けると

「いや、それはだな……」

 隊長は私の怒りに、まずいことを言ったと気付いたみたいだ。

「どうせ私は魅力のない、気の強い女ですよ! エイブラハムにも男をたてないから振られるんだと既に言われていますし……

 しかし、私はあいつを立てるつもりは全っくありません。だから断ってください!」

 私は隊長に反論したのだ。


「いや、まあ、すまん。しかし、婚約破棄されたところのお前に縁談が来たのだぞ。ここで会いもせずに断ると二度と縁談も来ないと俺も今必死でお前を説得しているとこなのに! いかず後家で貴様がいつまでも騎士団残っている暗い未来が見えてだな……」

「余計なお世話です!」

 バンッ

 私は隊長の話の途中で、怒りのあまりテーブルを叩いていた。

 お茶の入ったカップが全部ひっくり返っていた。

 そのまま、唖然として口を開けた隊長を置いて、私は扉を思いっきり閉めて出ていった。


 ダシーーーーン!


 衝撃で建物中が揺れたが知ったことでは無かった。


 後輩の騎士達、いや、周りの騎士達は全て、その日は私の周りに寄ってこなかった。


 その日私は、一日中とても機嫌が悪かったのだ。




 そして、翌日だ。

 私はその日は珍しく早めに家に帰れた。

 でも、家に着くと父も何故か早めに帰っていて、それ以外に別の馬車がもう一台止まっていた。

 お客様が来ているようだ。


「どなたがいらっしゃっているの?」

 私が部屋に戻ると侍女のアリスに聞いた

「さあ、私はお名前までは聞いておりません。キャロライン様が帰ってこられたら、客間にお連れするようにと旦那様からは言われております」

 アリスの言葉に父のお友達だろうか?

 私は何故かアリスに着飾られて一階に降りた。


「いやあ、あの娘をこれほど気にいって頂けるとは」

「キャロライン嬢はとても魅力的な女性です」

 上機嫌の父の声の後に聞こえた声に私は聞き覚えがあった。

 私は唖然としたのだ。

 この声は……


 でも、アリスは私の動揺などお構いなしに扉をノックしてくれたのだ。

「キャロライン様がお戻りになられました」

「ああ、すぐに通してくれ」

 私は上機嫌の父に迎え入れられたのだ。

 応接には赤い3本のバラの花がいけられていた。そして、中にはお父様と机を挟んでもう一人の男がいた。


「エイブラハム殿。ご存じたとは思うが娘のキャロラインだ」

「キャロライン嬢。エイブラハム・オルグレンと申します。正式なご挨拶は初めてかと」

 ニコリと微笑んでエイブラハムが挨拶してくれた。

 父の前では無碍にも出来なかった。


「初めまして、エイブラハム様。バーゼル伯爵家の長女キャロライン・バーゼルと申します」

 仕方なしに、私は初めて会ったように自己紹介をするとカーテシーをしたのだ。


「ん、二人は初めてではないと今エイブラハム殿からは聞いていたのだが」

 父が少し不審がって聞いてきた。

「お話ししたことはあるのですが、自己紹介は初めてでしたから」

 エイブラハムがそう言ってくれたが、私は許した覚えはないので、

「そうですか? 私はお会いするのも初めてのように思うのですが」

 私の言葉にエイブラハムが少しは怒るかなとも思ったのだが、


「エイブラハム殿? どういう事ですかな?」

 父は私とエイブラハムを見比べてくれた。


「いやあ、前回お会いした時に私が少し失礼な言葉を言ってしまって、キャロライン嬢の機嫌を損ねてしまったのです」

「そうなのですか? なのに、娘のことを想って頂けるとは。この娘の母が早くに亡くなったもので、娘は男所帯の中で育ちました。だから、どうしても、少しきつい言動をしがちになっているのです」

 父が言い訳を始めてくれたのだが、

「いや、私はそういった所も含めてキャロライン嬢を気に入っているのです」


「なんと、そうですか! それはそれは」

 父は感激しているんだけど……

 いや、なんか、おかしいだろう!

 そこで感激するのか?


「キャロライン! 父はこれ程感激したことはないぞ! エイブラハム殿、娘を宜しくお願いします」

 父が、エイブラハムに頭を下げて頼みだしたんだけど、ちょっと待ってよ!

 おかしくない?

 結婚するのは私だ。少しくらい私の意見を聞けよ!


「お父様。お待ちください。私はまだ付き合うともなんとも申しておりません」

「何を言うのだ。キャロライン。それでなくてもお前は気が強すぎる女は嫌いだとゴードンの軟弱野郎に言われて婚約破棄されたところなのだぞ。それをこのエイブラハム殿がもらってくれるというのだ。こんなに機会は二度とないぞ」

 父は私に向かって好きなことを言ってくれた。


「お父様、何を言っているのですか? 私は別に無理して結婚したいとは思いません」

 私が否定すると、


「何を言うのだ。キャロライン。このエイブラハム殿は、お前の気の強いところも気に入ったとおっしゃって頂いているのだ。こんな縁は二度とないぞ」

「何を言うのですか? エイブラハム様はいろんな女性にも優しい声をかけられると噂のおありになる方です。大方、私に同情しておっしゃっていらっしゃるのです」

 私がむっとしてエイブラハムを見ると、

「いや、キャロライン嬢。それは違います。確かに私は今までいろんな女性に言い寄られて、好き勝手にしていた。でも、私はあの時にあなたに頬を張り飛ばされて、我に返ったのです。このままではいけないと。颯爽と歩いて去って行くあなたの姿がどれだけ美しく見えたか。私はあなたに恋をしてしまったのです」

 なんか、エイブラハムは言ってくれたが、こいつは絶対に変だ。

 どこの世界に頬を張られて張った相手に恋する男がいるのだ。

 普通はあり得ないのだ。


「な、何と、キャロライン。その方はまた、殿方に手を出したのか?」

 それを聞いて父は怒りだした。


「まあまあ、バーゼル伯、そこは穏便に願いたい。私はキャロライン嬢のその姿に惹かれたのですから」

「なんと、エイブラハム殿。それは誠か。あなたのような良い方に出会えて、キャロラインは幸せですな」

「ちょっとお父様。いい加減にしてください」

 私が文句を言うが、

「いい加減にするのはその方だ。絶対にエイブラハム殿を逃すでないぞ」

 父は言うことを聞いてくれなかったのだ。



「どう思う、ダリア? もう最悪よ」

 私は昨日あったことをたまたまお昼で食堂で会ったダリアにこぼしていたのだ。

「凄いじゃない。キャロライン。いきなりあなたのお父様のところにあいさつに来るなんて。もう結婚も決定じゃない」

 ダリアが何かほざいてくれるんだけど、

「はああああ、私はあんな軽い男は嫌よ」

「嫌よって言ってもお父様は乗り気なんでしょう。止められるの?」

「止めるわよ」

 私の声のトーンは少し弱くなった。

 そうだ。昨日はあれから父とエイブラハムが意気投合して話し出して、私が口を挟む暇もなかったのだ。


「絶対にあなたにの心を射止めてみますから」

 去り際にエイブラハムはそう言うと私に赤い3本のバラを置いていったのだ。


「もう無理なんじゃないかな」

 ダリアが呟いてくれたが、誰がなんと言おうとも私は軽い男は嫌だ!



 私が王女の部屋に戻ると、王女のところには来客があった。


「えっ?」

 私はその男を見て目が点になったのだ。

 王女の前にはエイブラハムが座っていたのだ。


「そうなの! あなたがキャロラインを幸せにしてくれるのね」

 エリザベス王女は乙女のように、目をうるうるして感激してエイブラハムを見ているんだけど、なんで?


「まあ、キャロライン! 聞いたわよ。こちらのお兄様の側近のエイブラハムがあなたと婚約するんですって!」

「はい?」

 付き合う話がいつの間にか婚約することになっているんですけど……何で?

 というか、なんでこいつがここにいるのだ。


「父とバーゼル騎士団長の間では先程、内々に話がまとまりまして。直ちにキャロライン嬢の上司の殿下にお話だけはしておこうとこうしてはせ参じた次第です」

 エイブラハムは平然と話してくれるんだけれど、そんな話は聞いていないわよ。

 昨日までそんな話は出なかったじゃない。


「キャロライン・バーゼル、是非とも私との婚約を了承してください」

 王女殿下の目の前でエイブラハムは私に対して跪くや、12本の赤いバラの花束を差し出してくれたのだ。

「まあ、目の前で婚約の申し込みを見られるなんて」

 殿下は目を潤ませて感動してくれているんだけど。

 こんな、期待に目を膨らませた王女の前で、拒絶なんて出来る訳はなかった。


 しかし、私には意地があった。


「少し、考えさせてください」

 私はそう答えるしか出来なかったのだ。



 どうなっているの?

 私にはよく判らなかった。

 まあ、もともとあのゴードンとの婚約も父とバラウェイ子爵の間で結ばれた婚約だった。

 それが父とオルグレン伯爵で結ばれるのならば同じと言えば同じだった。

 しかし、私に張り飛ばされて、私が好きになるって絶対に変だ。

 私はそこは納得がいかなかったのだ。




 しかし、翌日更に状況は動いたのだ。


 私は今度は王妃様の呼び出しを受けていた。

「お呼びと伺い参りました」

 私は王妃様の部屋で跪いた。


「何をしているのです。取りあえず、座りなさい」

「えっ、しかし」

 私は戸惑った。今は騎士の勤務中なのだ。それが王妃様の前に座っても良いのだろうか?

 侍女長が頷いているので、私は仕方がないから王妃様の前の席についた。


「キャロライン。オルグレンの息子から言い寄られて、困っていると聞きました」

「王妃様にまで、もうお話がいっているのですか?」

 私はとても驚いた。


「当たり前です。あなたは亡き妹が残した大切な忘れ形見ではありませんか。従兄妹の王太子もあなたが仕えてくれているエリザベスも気にかけているのは同じです」

「はっ、恐れ入ります」

 私は王妃様に頭を下げた。


 王妃様はこの国の伯爵家の出身で私のお母様の姉君、すなわち、私の伯母上に当たるのだ。


「バラウェイ子爵の息子の起こしたことは私も憤りを感じています。私の庇護下にある妹の娘にあのようなことをするなど、あの商会は二度と使いません」

 王妃様が使わないと言ったら、おそらくこの国の貴族達も使わなくなるだろう。次期商会長のゴードンは大変だと思うけれど、それは仕方がないだろう。私は少し溜飲の下がる思いだった。


「で、キャロライン。オルグレンの3男坊は何が気に食わないのですか?」

 王妃様はストレートに私に聞いてきた。

 私が貴族の言葉を理解できないと理解してもらっていて、私としても気を使わなくて良いのは良いのだが、そこまでストレートに聞かれるとは思わなかった。


「いや、気に入らないというか、遊び人であると噂されているところが……」

 私はあの男の軽いところが嫌だった。又裏切られたら今度こそ私は立ち直れないだろう。


「まあ、エイブラハムは少し女性に優しいところがあったようで、そのように噂されているのも事実です。本人は二度とそのようなことはしないと言っているようですが、中々信じられませんか?」

「はい」

 王妃様に私は頷いた。


「他は何か気になることはありませんか?」

「他ですか?」

 他と言われても本人とほとんど話していないのだ。気にかかるところを見つけようもなかった。


「別にありませんが」

「そうですか? じゃあ、キャロラインとしては、エイブラハムが浮気さえしなければ良いと言うことね」

 王妃様が何故かニコニコ笑って私を見てくれるんだけど……私の背筋がぞわりとした。これは絶対によくないことが起こりそうだ。


「前回のパラウェイ子爵の息子との婚約の時は、陛下とあなたのお父様の騎士団長が決めたでしょう。それが間違いでした。子爵の息子があんないい加減な男だとは思いもしませんでした。もし、このまま、あなたが行かず後家になんかなったら、私はあの世で妹に合わせる顔がありません」

 王妃様は私のことをいつもとても心配してくれるのだ。


「だから、エイブラハムのことも徹底的に調べました。というか、エイブラハムは王太子の側近になりましたからね。今回は別に調査して問題あるようなことはなかったのよ」

 王妃様はそう言ってくれるんだけど……

 でも、今がよくてもこれだけ軽い男だと、未来はどうなるかは判らないのじゃないのか?

 私はそう思ったのだ。


「キャロライン。あなた今、将来的にはどうなるかは判らないと思ったでしょう?」

「えっ、いえ、その……はい」

 私は少し慌てたが、最後は頷いた。


「そう、私も危惧したのです。でも、安心しなさい。何と、エイブラハムは契約魔術をあなたと結ぶことに同意したのです」

「契約魔術ですか?」

 私は王妃様に聞き返した。

 王妃様が言うには、エイブラハムが浮気したら、処刑されても良いと言い出したそうなのだ。

 浮気したら処刑って、さすがにそれは厳しすぎるのではないかと私は思った。


「私もそう思ったのですが、エイブラハムはそこまでしてもあなたと結婚したいと言い張るのです。さすがにそれはきつすぎると私も思って却下しました」

 私はほっとした。


「その代わりに、浮気したら不能になるという契約魔術を結ばせることにしたのです」

 なんか王妃様が言っているんだけど、男にとってはそれは処刑されるのとそんなに変わらないことなのではないのだろうか?


「ということで、エイブラハム、出てきなさい」

「はい!」

 物陰から現れたエイブラハムを見て私は唖然とした。


 その後ろからは陛下と王太子殿下とエリザベス殿下、それに我が家のお父様とお兄様達、それとオルグレン伯爵夫妻までいるんだけど……


「私はあなたとキャロラインの婚約を認めたいと思います」

「はい。ありがとうございます」

「えっ、いや、王妃様」

 私は慌てたが、

「どうしたのです。キャロライン。あなたはエイブラハムが浮気したら嫌だと言ったから、それが出来ないようにしたのです。これだけ手を打てば完璧でしょう」

 王妃様はそう強引に言うと笑ってくれた。


 エイブラハムは手に大きなバラの花束を持っていた。

 そして、私の前に跪いてくれたのだ。


「凄い108本の赤いバラの花束よ」

 エルザベス殿下が感激してくれているんだけど……


「キャロライン・バーゼル。私と結婚してください」

 エイブラハムは私の前にそのバラの花束を差し出してくれたのだ。


 王族と家族と向こうの両親夫妻に見つめられて花束を差し出されて、私はもう、反対しようもなかった。


「はい」

 私が受け取ると盛大な拍手が起こったのだ。

 王妃様付きの侍女まで拍手してくれて私はもうどうしようもなかった。


 エイブラハムに寄って完全に外堀を埋められた私は逃げようもなかったのだ。


 まあ、婚約先は父や親戚が決めてくれると思っていた私に否応はなかったが、張り倒されて私が好きになった相手と結婚しても良いのか?

 そこが唯一心配だったが、もうどうしようもなかった。


 ここに私とエイブラハムが婚約をすっ飛ばして結婚することが決まってしまったのだった……

ここまで読んで頂いてありがとうございました。

この二人の結婚がうまくいくかどうかは……

また別のお話になります。

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私のお話、ここまで読んで頂いて本当にありがとうございます。

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経緯も知らないのに「男をたてなかったから捨てられたんだろう」と絡んできた男に、勝手に外濠を埋められて嫁にされてハッピーエンドなんだろうか? そもそもヒーロー「少し失礼をして機嫌を損ねた」とは弁明してる…
楽しかったです!ヒーローサイド読んでみたいです
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