表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/47

6 いいこいいこ


 私が目を覚ましたのは真夜中だった。


 泣きつかれて眠ってしまった私と幼女は、目が覚めたらいつものベッドに戻されたようだ。この四日間ですっかり慣れた布団の感触がする。

 私が真夜中に目を覚ましたのには訳がある。

 …私の頭にぺしぺしなにかあたっているのだ。


(なに…?)


 たくさん泣いたあとの、涙が乾いて瞼がくっつく感覚。

 それを無理矢理こじ開けて、私はその原因を探った。


 真夜中だけど、部屋の中はぼんやり明るい。幼女が暗闇を怖がるので、いつでも常備灯っぽいぼんやりした明かりが付いている。

 私が明るくても眠れるタイプの人間でよかったな。そうじゃなかったら寝不足で苦しんでいた。私が。

 まあ結局幼女の夜泣きで熟睡はできねーんですがね。寝かせろや。

 そんな理由からうすぼんやりとした部屋の中で、幼女が私の頭をぺしぺし叩いていた。


 …え、なにしてんのこの幼女。

 昼夜限らず泣いて暴れて殴る蹴るの暴行を受けてきたけど、とうとう寝ている相手にも暴力的に…。


「いいこ。いいこ」


 ぺし、と小さな手の平が額に当たる。


「泣いたらだめよ。おねえさんでしょー」


 滅多に口を開かない幼女が、何か言ってる。

 …なんとなく、大人に言われた言葉をそのまま復唱したような…そんなカクカクした台詞が飛び出してきた。


(…は?)

「よーしよしよし」


 言いながらぐいぐい押しつけられる手の平。

 …え、もしかしてこれ頭撫でられてる? 叩かれてるんじゃなくて撫でられてる?


「ねぇねはねぇ、ねぇねはがんばってるよー」


 なんか知らんが慰められてる? 「ねぇね」って私のこと?


「がんばったねって、お母さんにほめてもらおうねー」


 片手が両手になり、いつの間にか頭をかき混ぜられていた。かき混ぜながら身体を前に倒して、私の頭に幼女の身体が乗っかる。抱きつくみたいに頭を抱えられた。


「だから泣いたらだめよー」

(…うわ、まじか)


 私の身体の上で、うごうご蠢く謎の生命体。

 頭の上にいたのに、いつの間にか私の胸に顔を埋めている。頭を撫でていた小さな手が私の胸をむにむに揉んで、しっかり掴んだままうとうとしだす。


「まいごは…まいごはみー…が、いっしょにいてあげゆ…からねぇ…」


 胸の上に乗った小さな身体が、急にずしっと重くなる。

 …私の胸に顔を突っ込んだまま寝やがったわこの幼女。

 息できる? 巨乳に挟まれて幼女窒息なんて速報がお茶の間に流れない?

 すやすや眠っている幼女。私はひたすら呆然とさせられた。


 なんで私、急に頭を撫でられて、慰められてたわけ?


 …え、もしかして姉貴風吹かされた?

 幼女に?


 …守らなくちゃいけないって認識された? なんで?

 …泣いたから?


「いやアンタもギャン泣きだったでしょうが…」


 呟くけど、すやすやしている幼女には届かない。

 私は頭を抱えた。


 こっちは不満たらたらで一緒にいたのに、幼女は私が泣いたら慰めようとした。泣き止ませようと、小さな手で頭を撫でた。

 きっと幼女が親にして貰ったことを、自分より大きな私にしてくれたのだ。


 愛されて育ったから。

 その愛を、当たり前に泣いている子に与えられるのだ。この幼女は。


 私だって、親に抱っこされて頭を撫でられた記憶はあふれるほどある。

 別に毒親家庭だったわけじゃない。普通の家庭だったと思う。

 反抗期で大喧嘩もした。死ねばいいのにとか親が別の人だったらいいのになんて言い放ったこともある。当たり前のように暴言が飛び出して、ウザいキモいと父親を罵倒して煩い口出しすんなと母親を拒絶した。親も馬鹿娘とか人様に迷惑を掛けるなとかお前みたいな娘は恥だとか罵ってきた。どっちもどっちだ。


 かといって毎日がそうだったわけじゃない。

 普通に会話をするし、用事があれば普通にお願いした。文句を言いながら一緒に過ごし、休みの日は一緒に出掛けた。誕生日にはプレゼントをもらうし、親の誕生日は一応覚えているし、体調が悪そうなら気になる。

 家族だから。


 今じゃ恥ずかしいしウザいしキモいからやらないけれど、小さい頃は抱っこして頭を撫でて手を繋いで歩いたのは、ちゃんと覚えている。

 当たり前のこと過ぎて、だからなんだという気持ちで、昔は昔で今は今だとあの頃は可愛かったなんて懐かしむ親の言葉から耳を塞いでいた。


 耳を塞いでも、事実はなくならない。

 幼い私は相応の愛され方をしていて、今だってなんだかんだ愛されている。

 罵倒して喧嘩しても、当たり前に一緒にいるのは、お互いに仕方のないやつだと許しているから。情があるとわかってるから。口にしないけど愛しているから。


 なのに私は、その幼い頃与えられた物を、幼女に与えていない。

 親と引き離されてギャン泣きしている幼女が、当たり前みたいに与えてきたのに。


(――これじゃあ、まるで)

「私のほうがガキみたいじゃん…」


 そう思えばとても恥ずかしくて。

 私は頭を抱え、どうとでもなれと二度寝した。



幼女、大人のギャン泣きを初めて見た。

一生懸命考えてよちよちした。

【宣伝!】

リブラノベル様 より、下記の作品が電子書籍で発売致します!

「俺以外見るなと言われても!~白薔薇の騎士団長(シスコン兄)と黒薔薇の騎士団長(求婚者)が決闘するそうです(私を巡って)~」

著:こう

イラスト:宵マチ先生


挿絵(By みてみん)


シーモア先行配信 2024/11/25(月)

全国書店 2024/12/18

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
エラいぞみーちゃん。 むーちゃんもエライよ。 おばちゃんの涙腺は…涙腺は…
この話で分かった事は、幼女の名前には「みー」という部分が入っているという事 二人ともギャン泣きしてスッキリしたのかな? ここから二人手を取り合って頑張ってください! …さて、頼りになる大人は二人の前…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ