38 人でなしにはなりたくない
日本だって、地球だって人間の知恵が環境を破壊している。
生活で使用する数々のエネルギー。使用した結果排出される環境汚染に繋がる数々。
知っていても、だから遠慮することもなかった。
夏場はエアコン24度は必須だし、燃えるゴミの分別とか間違ってもこれくらいいいだろってやり直さないし、エコだなんだと言われても面倒だから無視してきた。
環境のことを意識して生活してなかった。ポイ捨てとか花壇を荒らすとかしょうもないことはしたことがなかったけど、節約だって電気代が上がったからだし消費されて排出される二酸化炭素の量なんて気にしたこともない。
環境保護のため活動する人が居るのは知っている。
そういう人達の声は、大変だなと受け流し続けてきた。自分の生きている世界なのに、自分は関係ないと思っていた。そういうのは熱心な博愛精神の人間がするものだと、自分が行動を起こしたところで何も変わらないと思っていた。
世界が滅亡しますと言われても、誰かなんとかしろよと切れて叫ぶ自分が想像できる。そんな無責任な私が、なんとかしなきゃなんて自ら行動する自分なんて想像できない。
想像できなかったのに。
「世界規模の問題とか、私みたいな一般市民に任せんなってずっと思ってる。勇者だからって幼女に頼るとか、狂ってるなってずっと思ってる」
でもきっと、この世界の一般市民だってそんなこと知らないで生活してんだろ。
誰かがなんとかしてくれるのを願いながら生活している。自分たちでなんとかしろって言われても、できる範囲なんて限られている。
でも考え続けなくちゃいけなかったんだろうな。
ただ生活しているこの世界の人達も。
あの性格の悪い聖女もやべえ趣味の魔法使いも。
顔だけ王子もキラキラ騎士も。なんだか会えそうにない王様や王妃様も。セバスチャンも。
私も。
(あーくそ、帰ったら考える。ちゃんと帰れたらもっとちゃんと考える)
ちゃんと戻れてからじゃないと、今考えたって何もできない。
でも本当に、ちゃんと考えないといけない。
自分の生きる世界が、どんな状態なのか。
よくするには、悪くしないには、何をして何に注意すればいいのか。
そのためにも。
「早く泣いてるみーちゃんのとこいかなきゃいけねえんだけど!」
どれだけ時間が経っていると思ってぐだぐだすんな!
怒鳴り散らすも、ラスボスは相変わらずマイペースに傾いている。こいつ下半身の体幹どうなってんだ。上半身かなり傾いてるのに転ぶ気配がない。
「人間って不思議ですね。産んだ子を貶めもすれば、産んでもないのに命がけで慈しむこともある。長年の絆の成せる業かと思えば、会って間もないのに幼子というだけで守りもする…どういう情緒なんです?」
「お前も人間だろうが」
「そういう情緒が理解できないからここにいるのです」
(…納得しちまったな…)
こちとら早くみーちゃんのところに行きたいのだが、この元人間現人外は中々行動しない。おいやめろ変なマイペースさを出すなみーちゃんが傍にいなくて不整脈がやべえんだぞこっちは。
頼みの綱である、移動させることのできるラスボスがこんな感じなのでさっさと答えてその気にさせないといけない。答えても行動しなかったら本格的に反旗を翻しているので戦争だ。
面倒くせぇ奴だな。舌打ちをしながら自分なりの答えを告げた。
「私は、人でなしになりたくないだけだよ」
この世界で関わった奴らの大半が人でなしだったと思うけど、地球にだって人でなしは溢れるほどいる。
情報社会。ほっこりする動画もあれば、ねぇな、と顔を顰める動画も当たり前のように流れてくる。その中でも、人としての礼儀や人情を重視しない奴らはマジで人として終わっている。
こうはなりたくないと思う奴ほど声がでかくて、目立つ。やべえ奴らばっかり。
そうは言っても清廉潔白に生きることはできない。無理。
高校生だから化粧はバリバリしたいし、音楽を聴く暇がないから歩きながら聴きたいし、SNSもチェックしたい。そうなると真っ直ぐ歩けないから黄色い誘導ブロックの上を歩きたい。飾るならとことん凝りたい。
自分でも正直、見直した方がいい所はたくさんある。
だけど動画で馬鹿をやっている奴らよりはマシだと思う。あいつらのようになりたくない。
人として最低限。それを心掛けていただけ。
「だから私は、仕方がないけど保護者として、みーちゃんを一人にしちゃいけないの」
子供は、守るもの。
最低限、人間として守るべき人情。
人でなしにならないために、私はみーちゃんを抱えてきた。
最初は本当に、それだけだったのに。
ラスボスは結局理解を諦めて、長い腕を大ぶりに振って魔法を使った。私の頭上でキラキラ星をこぼす奇跡が、私に注がれる星が、数個足元まで転がって道が築かれていく。
一つ一つは小さな光。その小さな光が集まれば、光り輝く道が生まれる。
これなんて天の川。でもこの天の川は男女を分かつ障害ではなく、私とみーちゃんを繋ぐ光る道になるらしい。
ファンタジーな現象に、私は一瞬怖じ気づいた。
だけど道ができた瞬間、遠くから子供の泣き声が聞こえた気がして、その一歩を踏み出していた。
子供は苦手だ。
すぐ泣くし走り回るし行動が読めない。すぐ汚すし壊すし暴れるし。何より言葉が通じないのが苦労する。
中でもやっぱり泣き声は、耳に突き刺さる高い声は辟易する。
だけど。
「みーちゃん!」
私がすすむ光の道の先で、みーちゃんがうつ伏せになって泣いている。
みーちゃんは移動していないからあの花畑にいたはずだけど、何も見えない。真っ暗な空間で丸まって泣いている。ぎゃあぎゃあと劈くような泣き声がどんどん近付く。
私の呼びかけに、小さい身体がびくりと震えた。子供特有の柔らかな髪を顔に貼り付けて、みーちゃんが顔を上げた。
涙と鼻水、涎でべしょべしょの顔をくしゃくしゃに歪めて、小さい口をおっきく開けてみーちゃんは泣き叫ぶ。
「づむぢゃああああああああ!」
星でできた道が、光り輝く。
すべての星が一等星になったような光の奔流。あまりの眩しさに顔を顰め、光に呑み込まれそうなみーちゃんに手を伸ばした。
小さい手が、全力で伸ばされた手が、触れる。
「つむちゃんのばか! おててはなしちゃだめでしょお!!!」
私が悪いんか。
全然可愛くねぇのに、全力で手を伸ばす小さい生き物を可愛いと思ったら、もうこの手は放せない。
みーちゃんが全力で求めてくれるから、私もやっとの思いで立っていられる。
勝負なんかしていないけど、負けた気持ちになりながらみーちゃんを抱きしめた。
やっと泣いているみーちゃんのところに辿り着いた睦美。
眩しすぎて見失いかけるとかある???? とちょっとキレ気味。
道を作っている星、わたしです。二人が再開できるよう尽力しましたって方はイイネもしくは評価をお願い致します!




