31 魔法陣
私は本当に全部ぶちまけた。
魔法使いの所業。気が付いたら精神世界にいたこと。そこで出会った自称魔王とその部下。勇者と遊びたいだけの魔王と、子供の世話ができていない部下から聞いた様々なこと。
淀みから生まれる魔王が本当は世界の清浄機であること。
嘘か本当か思い込みかなど知らない。全部が真実だとは限らない。それでも聞いたことすべてをぶちまけた。
正直主観混じりで聞き取りにくかったと思う。途中から自分でも、何を喋って何を喋っていないのかわからなくなっていた。
わからなくなっていたがとにかく全部ぶちまけた。
混乱して、取り乱す私に、それでも星は降り注いでいた。
話を聞き終えたセバスチャンは黙って何か考えているようだった。当然だろう。
私だって、結局何がどうなっているのか全然わかっていない。
魔王は世界を浄化する救命装置。しかし生き物への配慮はなく、放っておけば人類の八割は巻き込まれる。
その魔王対策として召喚されたはずの勇者はやけに魔王からの関心を買っており、夢に現れて遊んで夢に誘拐するほどで…。
(まおちゃんが言っていた「同じ」の意味も分かんねぇし)
みーちゃんは、地球の日本産のはずなのに。
(みーちゃん…)
無意識に視線が彷徨って、みーちゃんを探す。
ウザいと思っていたはずなのに、どこにいるのかわからないと気持ちがソワソワして落ち着かない。
(なんで私がって、思っていたのに)
いつの間にか私のほうが、離れられなくなっていた。
「…勇者召喚は、過去の偉人が魔王を倒す手段として後世に語り継いできた技術です」
考え事をしていたセバスチャンが口を開く。私の視線もセバスチャンに向かった。
「必要なのは大量のマナと、魔法陣」
召喚されたとき、そんなものあっただろうか。
正直、ギャン泣きするみーちゃんと不審な集団に気をとられてその他のことは朧気だ。とにかく誘拐犯から逃げなくてはと思っていたから。
「語り継がれた内容に、魔法陣もそのまま記載されています。魔法は命令式を以て行使する。召喚も魔法陣に刻まれた命令式にマナを注ぐことで発動しますが、召喚に使用する魔法陣の魔法式は、現代では解明されていません」
「解明されていない…?」
「魔法は、命令式さえあれば誰のマナだろうと関係なく発動します。魔法陣も、内容がわからなくてもマナを注げば発動するのです。属性によっては使用できない魔法もありますが…召喚は、純粋なマナの力を使用するため、マナさえあれば誰でも使用できます」
「それってやばくねぇの」
「発動に必要なマナが桁違いなので、誰か一人が勝手に使用することもできませんでした。問題は、その魔法陣が本当に我々の考える勇者を召喚するための魔法陣だったのか」
セバスチャンが左手首をくるりと回転させると、細い線のような形状の水がうねり空中を踊った。
二人の間に描かれた、誰もが思い描く魔法陣。
「これが今回使用した召喚陣の写しです」
大きな丸で囲まれた星や月、五芒星に六芒星。私には理解できない配置で現れる文字。
「私たちは…この世界の人間は、勇者は魔王を倒して世界を救う存在として認識しています。しかしそれがいつから、どのようにして魔法陣を作り上げたのかは知りません。初代の記録が、残されていない所為です」
「そんな不確かな魔法陣で、世界の命運をかけた召喚してんの…?」
「奇跡は解明できないほうが都合もよいのです」
大人の都合じゃなくて世界の都合的にそれはいいのか。
「そんな状態で本当に、私らを帰せると思ってんの?」
信用も信頼もできないからいつだって疑っているが、あまりにも疑わしくて思わず聞いた。
「帰還の儀は、簡単です。魔法陣をひっくり返して使用すればいい」
流石に異世界を越える召喚魔法は一般的ではないが、この世界でも可能らしい。やはりマナを大きく消費するので、方法は確立しているが、常用できる魔法ではない。
「何が言いたいのかというと、勇者を召喚した初代の目的は別にあったかもしれない、ということです」
「…私は、その辺りどうでもいいんだよ」
ぶちまけはしたが、だからって事態が好転するとは思っていない。
だって私たちでは、みーちゃんが作った精神世界への干渉なんてできない。魔王のまおちゃんが主導権を握っているなら更に無理だ。
ただ一人で抱えているには無理な情報量だったから、この世界で一応まともなセバスチャンにぶん投げただけ。
セバスチャンは真面目な顔をして頷いた。
「ええ、みーちゃん様の行方が第一です。みーちゃん様の行方を探るためにも、魔王と勇者の関係性は改めて探るべき点だと考えました。その鍵は、受け継がれているこの魔法陣にある気がしたのです」
「真面目かよ…」
その関係性を解き明かしたとて、みーちゃんのところに行けなければ意味がない。
私はソワソワと身体を揺らした。本当は飛び出してみーちゃんを捜し回りたいが、このキラキラエフェクトを振りまく武器があるからこのあたりにいるはずだといわれては動き回れない。
「それと、勇者も淀みから力を得て能力を行使しているとのことですが」
ふわふわと、セバスチャンの魔法で描かれた魔法陣が揺れる。
なんとなくそれを見ていた私は、不意に見慣れた文字に気が付いた。
「双方が戦うことで浄化されるということは、それにも意味が…」
「…『とおくから きたれ まおうとおなじひに うまれたいのち まおうとおなじ せかいのはずれから きたれ』」
「ムツミ?」
魔法陣の外枠。そこに並べられたのは、見慣れたローマ字。
私は呆然と、刻まれた文字を音読した。
「『きたれ … われらがひらいしん』」
――――ひらいしん。
「…避雷針、だぁ!?」
それが勇者と呼ばれる者たちの役割だと、わかってしまい。
私は憤慨して立ち上がった。
セバスチャンは真面目だが、実は混乱している。
次回更新は12/16になります。
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