21 はじめまして
そいつらを認識してすぐ、私は泣き喚くみーちゃんを抱えて立ち上がった。
座ったままで逃げられると思うな逃走経路は自力で確保しろ！
何故なら、誰も助けてくれないからだ！！
「ああ、お待ちくださいお待ちください怪しい者ですが害ある者ではありません」
怪しい自覚はあんのかよ。
今すぐ距離をとりたかったが、淡々とした言葉に思わず肩から力が抜けた。
でも本当に怪しい。
なんで今まで気付かなかったんだってくらい存在感が強くて、とっても怪しい。
そいつらはピンクの花が咲き乱れるメルヘンな花畑には似合わない、黒一色の服を着た大人と子供だった。
地面に膝を突いて屈んでいる男は、ほっそりとした身体のラインがわかるくらい身体にそった黒いワンピースを着ている。
…違うなアレ、薄手のコートだ。同じく真っ黒なズボンが見えなかった。中性的な顔だから、ファッションで女性物を着ていたとしても違和感ないしワンピースかと思った。
さらりと長い髪も切れ長の目も衣服と同じ真っ黒。肌だけが青白く、暗闇の中なら生首が浮いているように見えると思う。お化け屋敷に入ってお化け役を驚かせる客。つーか、夜道で会いたくない一般人。
そんな大人の膝元でこちらをじっと観察する小さい影。みーちゃんより年上の男の子もまた真っ黒だった。
マントみたいな、ローブみたいな布で全身を覆っていてどんな服装かわからない。わからないがその布が黒い。布を留めているブローチは黄色で、他が黒一色だからそれがとても目立っていた。
短く刈り上げられた黒髪はツンツンしていて、髪型だけならわんぱく小僧を思わせる。ただしじっと見開いてこちらを見上げてくる大きな目は、警戒する野生動物のようで何気に怖い。おいガキ、瞬きしろよ。
…無表情でじっと見上げてくる子供って迫力あるな。
以前のみーちゃんは不満そうな顔でじっと睨んでいたけど、涙目だったし不満そうだったし怖くはなかった。ウザかったけど。
今思えばあのウザさ、自分に余裕がなかったんだなって思えるくらい、思い返せば可愛い。
余裕って大事だな。
ちょっと現実逃避した。
「…で、あんたら誰？」
「まおちゃんとぼっすんと申します」
「は？」
「まおちゃんとぼっすんと申します」
「聞き取れなかったわけじゃないんだわ」
なに言ってんだこいつ。
「突然のことで混乱しているとは思いますが、より混乱するためにも私の話を聞いてください」
「アンタ説明する気ある？」
そう言われて大人しく話を聞くと思ってんのかこの男。
いや、説明は欲しいけれども。
何が起っているのか、ここがどこなのかもわからない私としては説明が欲しいのだが、この怪しくて顔色の悪い男がちゃんと説明してくれるのかとっても不安。正しい情報が得られる保証なんかない。
誰も信じちゃだめだ。
じりじり後退していた私は、じっと見上げてくる子供が私を見ていないことに気付いた。
子供が見ているのは私じゃなくて、私が抱えている、泣いているみーちゃんだった。
ギャン泣きしていたみーちゃんは抱き上げたことでちょっと落ち着いて、今では私の胸をがっつり揉みながらしゃくり上げている。
おい揉んで落ち着くな。そうか私の胸は柔らかいか。これが猫の足踏みか。ママのおっぱい恋しいのか。そりゃ恋しかろうな。だからって私の胸を揉んで落ち着くな。
ちなみに目の前の怪しい男はその様子をガン見している。見てんじゃねぇぞ金取るぞ。そういうところが信用ポイント稼げない点だかんな。
「…みーちゃん」
とっても小さい声で、子供がみーちゃんを呼んだ。
（…いや、声渋いな？）
予想以上にひっくい声が子供から出てきてびっくりした。
幼児なのに、声変わりした少年みたいな声。
渋いのに、声はとても無垢。
違和感はあるが、間違いなく子供の声。
しかし声が小さくて、泣いているみーちゃんに届いていない。
泣き喚いていたときは私の声に反応したのに、静かなときは聞こえないってどういうこと？
とか思って見下ろしたら、みーちゃんはうとうとしていた。
（あ、泣き疲れて寝落ちしそうじゃん…え、花畑で寝られても困る。私ずっと抱っこしてなくちゃいけないわけ？）
なんて慌てた私の前で、無視された形になった子供の目にじゅわっと潤いができた。
（うわ、泣きそう）
子供ってよくわからないタイミングで泣くけど、今回は無視されたと勘違いして泣きそう。
メンタル弱いなこの子供。それとも子供ってそういうもの？
「みーちゃん…っ」
もう一度呼ぶが、みーちゃんの目はほぼ閉じている。こりゃ聞こえねぇ。
みーちゃんの反応がなくて、子供はぷるぷる震えている。
ぎゅっと白くなるくらい握られた小さな手。
その手から、バリッと、不吉な音が、した。
隣で膝を突いていた男が、ぎょっと目を見開く。
「…ハッ。お待ちください魔王様！」
「は？」
なんつった？
私が聞き返すより早く、子供の纏っていた布がぶわっと巻き上がり。
「みーちゃん！ おへんじちて！！」
泣き喚く子供の叫びに呼応して――よく晴れた空からドッカンと雷が落っこちた。
嘘だろガチでこのガキ魔王なの！？
魔王も勇者もガキとかこの世界どうなってんだ！！
幼女な勇者と幼児な魔王。
おねむな勇者とかまちょな魔王。
保護者の二人は涙目。
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よろしくお願い致します。
次回の更新は12/2になります。
…12月がくる、だと…？？？？
