表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/47

20 綺麗な花畑といえば

お帰りつむちゃん視点。


 気付いたら、ピンク色の花びらが揺れる花畑に仰向けで倒れ込んでいた。


 見上げた空は、春の空を思い起こすほどの晴天。真横で揺れる見たことのないピンクの花。遠くから聞こえる子供達のはしゃいだ笑い声に、肌を撫でる柔らかな風。


 何これくっそ穏やか。


(…あれ、私死んだ?)


 本当にそう考えても仕方のない情景だった。

 何せ私が覚えている直前の記憶は、R-18G。みーちゃんにはお見せできない展開。

 そう、子供が見ちゃだめなやつ。

 あのとき私は…。


(魔法使いが、私を魔法で動けなくして、勝手に乙女の肌を晒して、メスみたいな刃物で…)


 ――私の身体を、肌を、裂いて。

 内臓が、空気に触れた。


 内側を(解剖)暴かれた(された)


「――――ヒッッ!?」


 現実を認識した身体が跳ねた。

 反動で飛び起きて、自分の胸を掻き抱く。首を、鎖骨を、胸元をまさぐって傷を確認した。


 痛みはない。血も出ていない。

 傷がない。手足も動く。

 ピクリとも動かなかった身体も、悲鳴も呻き声も洩れなかった喉も、生物の教科書で見た蛙の解剖のように開かれたはずの胸から腹にかけても…何の異常もなく動くし、声も出るし、裂かれた痕すらない。


「なんで…うそ、夢?」


 解剖されたのが夢?


(なわけあるか)


 アレを夢と判断するほど、私はお気楽じゃない。それこそお花畑な頭はしていない。

 あの魔法使いは私を実験動物、それこそモルモットのように思っていたし、魔法を使われて為す術もなく解剖された。

 薄い刃物が肌を裂いた、鋭い氷を滑らせたような冷たさを覚えている。そのくせ内側へと広げられる血肉の感覚が熱くて、気が狂ったように叫んだつもりなのに喉からは呻き声一つ出てこなくて…。


(覚えてない)


 あれから、どうなった。

 私は、どうなった。


 バクバクと鼓動が煩い。

 心臓を確かめるように、震える手が自分の胸に沈んだ。肉に爪が食い込んで痛い。

 痛みある。ならこれは現実? 全然現実味のないこれが現実? また変なところにトリップしたわけ? それなら傷はどこへ行ったの。これが現実じゃないなら…。


(私、本当に、死…)

「つむちゃん!」

「ぎゃっ!」


 どむっと強烈な勢いで、真横から小さな怪物が私に突っ込んできた。

 油断しきっていた私はあっけなく押し倒される。後頭部が地面に叩き付けられて一瞬星が見えた。アレが一等星。


「つむちゃん! つむちゃん! つーむーちゃああああんっ!!」


 私の身体に乗り上げて、胸に谷間に顔を埋めて、ぐりぐり高速で頬ずりしている幼女。

 そんなことをする幼女は一人しかいない。


「みーちゃん…?」


 痛みに悶えながら名前を呼べば、ぱっとみーちゃんが顔を上げた。


 もちもちほっぺを真っ赤に染めて、おっきなお目々を輝かせ、みーちゃんは本当に嬉しそうにニカッと笑った。


「つむちゃん!」


 何これ眩しい。

 今まで見たことがないくらいの満面の笑み。

 これが百点か。

 しかしそれも一瞬だった。


「うえ、ふぐ…びゃあああああああああああああっ」

「…は?」

「やあああああああああああ! びゃあああああああああああああっ!」


 ゆるゆると満点の笑顔からしかめっ面になり、最終的に声を上げて泣き出したみーちゃん。

 私のお腹に座って、空を見上げて大号泣。

 大きく開いた口の中がよく見えて真っ赤な舌と、白くて小さい歯が惜しげもなく晒されていた。


 これを見ると、小さいけどちゃんと人間だなって思う。

 すごいよねこれ。こんなに全部小さいのに泣き声がでかい。ぎゃおんぎゅいんぎょえあって怪獣みたいに泣き叫ぶ。うわーんなんて可愛い表記じゃなくてギャーッ!! って勢いだよ。


(あ、これ現実だ)


 ぶっちゃけみーちゃんのギャン泣きは夢にも見た。夢の中でもギャン泣きするみーちゃんをあやして起きてもあやして私いつ寝てんだ? って思ったことは何回もある。


 だけど、このギャン泣きが現実だと、なんとなくわかった。

 現状、なにがどうなっているのかわからないけど、みーちゃんが泣いている。


 なら、あやさないとだ。


 私はここ数日ですっかり慣れてしまって、押し倒されていた状態から上体を起こし、びゃあびゃあ泣いているみーちゃんのちっちゃい身体を抱きしめた。

 私の両腕ですっぽり抱えることができるみーちゃん。

 あーマジで小さい。

 ちっちゃい身体を胸元に抱き寄せて、よしよしと背中を撫でた。

 涙と涎で胸がびちゃびちゃになるのも慣れた。ひんやりするわ。


「なんだよー、なんで泣いてんの」


 こっちの声など届かないくらいの音量で泣き叫ぶのはいつものこと。

 聞こえていないと思いつつ、それでも繰り返し声を掛けてしまうのはなんでだろう。

 あと、なんとなく身体を揺らす。私は座ったまま左右に揺れた。


「ぁってつむちゃん、つむちゃんぁあーっ!」


 意外とちゃんと聞いてんな。


 これだけ泣き叫んでいてもこっちがなに言っているのか聞き取ってんの怖くない? こんなに泣き叫んでるのに聞こえてんだよ? 私は無理だわ。


「ハイハイ私がぁー?」

「あ゛――――っ!!!!!!!!」

「うっさ」


 ギャン泣きしながら抱きついてくるみーちゃんは、興奮して言葉を忘れている。

 これは暫く会話無理。諦めて丸い背中をポンポン叩いていた私はふと顔を上げ。


 こっちをじっと見詰めている大小の真っ黒い人間に気付いてぎょっと身を固くした。


 ふ、不審者!



ギャン泣きしている幼女を抱っこしたら、また不審者と遭遇(第一話)


安心してギャン泣きしているみーちゃんに応援のいいね、評価ボタンをよろしくお願い致します!


【宣伝】

2024/11/25 コミックシーモアより先行配信

「俺以外見るなと言われても!」

よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あんな酷い目遭った直後なのに泣き叫ぶみーちゃんを放っておけない辺りホントお人好しだよね… やっぱなんやかんや面倒見良いし責任感あるし優しいすぎるし、まだJKなのにメンタルも強いんだよなぁ つむちゃんマ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ