15 気持ち悪い
真っ赤な目と目が合って。
そこから、私の身体は動かなくなった。
(…は? なんで? 何これ? 何が起きた?)
ぎし、と身体が軋むこともない。ピクリとも動かない。
魔法使いと目が合って、なんかいやだと思った瞬間指先一つ動かないことに気が付いた。
呼吸と、鼓動の音がうるさい。
(なんで。何これ。私どうなったの?)
耳元でドクドクと心臓の音がする。上手く呼吸ができなくて、まるで布団の中で呼吸するみたいな息苦しさを感じた。
身体がおかしい。
赤い目から目が離せない。
「…うん、効いているな。異世界人にも魔法は問題なく掛かるようだ」
じっとりとした目で私を見ながら納得したように頷く。
(魔法?)
それは最近知った言葉だ。
でも魔法って、魔法の杖を振って…違う。セバスチャンも杖を振らなかった。でも指は振っていた。
魔法使いは何も動いていない。眼鏡を外しただけだ。
眼鏡を外して何が起きるの!
「魔法の使い方は知っている? 多分知っているか。命令式が必須だけど、俺に杖は必要ない。目に書き込んでいるから」
そう言って、魔法使いは自分の目に指を突っ込んで眼球を取り出した。
…きっもい! ぼろって取れたんだけど!?
「俺の目はどっちも義眼だ。魔法で視界を補っている。常にマナを消費しているが、体内にある魔力が多いから消費も少ない。だいたいの命令式は書き込まれているから、念じれば魔法が発動する。とても便利だ」
(なに言ってるか全然わかんねぇ!)
義眼といいながら取り出したそれを私の目前に突き出す神経もわからない。
私が赤だと思っていた目は、赤いインクの集合体だった。黒目部分にたくさんの文字が刻まれている。奥に奥にと文字が見えることから、この球体は何重にも丸まった何かが重なってできたものだとわかる。
知りたくなかった。
気持ち悪い。とにかく気持ち悪い。
魔法使いは義眼を自分の目元にはめ込み直して、今度はわかりやすく指先で何か書いた。
固まっていた身体が吊り下げられる。かと思えば手足を引っ張られて、私は空中で大の字に固定された。首すら動かせない視界の中で、手足に絡みつく黒い帯状の何かが見えた。
「本当は勇者様を調べてみたいが、勇者様は一人しかいないから」
立ち上がった魔法使いが、じっとりとした目付きで空中に磔にされた私を見下ろしている。
「だがお前は何の役割も無いただのおまけだから。いてもいなくてもいいなら、ここで俺が調べ尽くしても問題ないだろう」
――――この目がいやな理由がやっとわかった。
この赤い目は、私を見ているようで見ていない。私という人間を、人間として認識していない。
こいつはずっと、研究対象を…実験体を見る目付きで、私を見ていた。
「脈拍は少し早い。発汗量もいつもより多い…ということは、興奮しているのか」
(混乱しているんだよ!)
それを興奮というならそれまでだが恐慌状態といったほうが正しい。何が起きているのかわからなくて、身体が全く自由にならず、恐怖で頭がおかしくなりそうだ。
「瞳孔も相違なし。指の数も手足の長さも一般女性と変わらない。小柄だが、異世界的特徴というより民族的特徴かもしれないな」
(きしょいきしょいさわんなさわんな!)
ベタベタあちこちを触りながら独り言を呟く。無言で触られるのも怖いが、明らかに実験動物を観察する言動なのも怖い。
魔法使いが、こいつが、私を人間としてみていないのがありありとわかるから。
「やはり外見はこちらの人間と変わりないな」
言いながら、長い指が私のブラウスのボタンを外していく。
今日に限って着ていたのはブラウスタイプのワンピース。前開きのブラウスの下、飾り気のないこの世界の下着は前で留めるフロントホックタイプで、あっさり外された。私のメロンが解放されて、大きく揺れて左右に広がる。
ヘソの上までボタンを外されて、大きくはだけることなく胸の谷間を露わにされた。
露わになった肌に、人差し指がすっと、胸からヘソまでを一撫でした。
鳥肌が立つ。
危険を感じて、肌が粟立った。
――――私が感じている危険は、貞操の危機ではない。
「ならば中身はどう違うだろう」
そう言って、魔法使いは手元に銀色の刃物を作り上げた。
手術で使用するメスみたいに小さくて、鋭そうな銀色の刃物。
それを、私の胸元に当てて――…。
これから始まるのはR-18じゃない。
R-18Gだ。
私は声にならない絶叫を上げた。
お察しの通り魔法使いのジェイコブはマッドサイエンティスト。
勇者一人だったら我慢していたけど、おまけでもう一人いたから我慢できなかった。
ちなみに、外面は装えるタイプのマッドなので、誰もこいつの本性を知らない。そう、知らない。
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