最終話「ノゾミ・カナエ・タマエ」
※※※
夏休みが終わり、秋がやって来た。
始業式があったその日、守原さんはずいぶん久しぶりに学校へ来た。
僕が知っている守原さんと変わらない、神美少女のオーラを存分に身に纏ったあの姿で。
その日の放課後、守原さんは夏休み前と同じように、校門で僕を待っていた。
「落田くん、久しぶり」
「ああ……久しぶり」
「一緒に帰りましょう。聞いてほしい話があるの」
「僕に?」
「ええ」
僕は自転車を押しながら歩く守原さんの隣に並んだ。
聞いてほしい話があると言った割に、守原さんはしばらく口を閉じたまま何も話そうとしなかった。
僕には車道を通る車のエンジン音と、僕らの足音だけが聞こえていた。
そして、駅に続く通りへの曲がり角を曲がったとき、ようやく守原さんは口を開いた。
「落田くんが私の目の前で事故に遭った日から、私は変わろうと思ったの」
「変わる?」
「中学生の頃、私は無気力な人間だったの。真希菜だけが私の友人だった。だけど、このままじゃいけないと思ったわ。目の前で私の代わりに死にかけているあなたを見て、私はあなたに新しい命をもらったような気持ちになったのよ」
「そんな大げさな」
「大げさじゃないわ。本気だったのよ。だから変われたの」
守原さんの言葉は力強かった。
「……それは何よりだよ」
「落田くんは私のことを神美少女とか、すごい言葉で褒めてくれるけれど――私が今こうしていられるのはあなたがいてくれたからなの。だから落田くん、あなたはダメ人間なんかじゃないのよ」
そう言って守原さんは、僕の左手の小指を握った。
僕は彼女の表情を真正面から見る勇気がなく、視界の隅で守原さんの様子を伺った。
だけど全く見えなかった。
僕は立ち止り、守原さんの手を握った。
守原さんがびっくりしたように、僕の顔を見上げた。
「あのさ、守原さんさえ良かったらなんだけど」
こういうとき何と言えばいいのか何を言うべきなのか寡聞にして存じ上げない僕だけど、だからこそ思いついた言葉をそのまま守原さんに伝えた。
少し間があった後、守原さんは顔を赤くしながら頷いた。
まあ、つまりは、そういうことなのだ。
※※※
これで守原しづかという神美少女と僕に関する話は終わりだ。
正確に記憶していた箇所もあれば、そうでない箇所もある。
守原さんと出会うきっかけだったのは自転車の鍵だったのか、乙名の正拳突きは人を気絶させるほど強力だったのか、石崎とサッカーをしたとき勝ったのは本当に僕だったのか、出有珠さんという人物は本当に実在したのか―――。
ただ、守原さんは今も僕の隣にいて、時間だけがいつも通り過ぎていった。
記憶は日々薄れていくし、物事を覚えていられる時間も短くなった。
左目の視野も、気づけばほとんどが失われていた。
だけど、サッカーのことは忘れても守原さんのことは覚えていられるし、何かに身体がぶつかることは増えても守原さんの姿を見失うことはなかった。
たとえ日々僕の中で取り返しのつかない何かが失われ続けているのだとしても、今の僕にとっては、守原さんが居てくれればそれで十分だった。
―――僕はまだ、僕の身体に起こった異変のことを誰にも言っていない。
ところで、僕は一体なんという名前だっただろう。
『神美少女に肯定されすぎて人生ヤバい』 完
完結です。
多分、これを書いたときは作者が少しメンタル的にアレだったんだと思います。
途中まではハッピーなラブコメで良い感じだったのにね……。
・小説はメンタルが安定しているときに書く。
・自分の書いたものは面白いと信じて書く。
・最後までブレずに書く。
この3点を学ぶことが出来たように思えます。
次はハッピーな話を投稿したいですね。
今もちょっとメンタルがアレになりかけてるので、もう少し時間がかかりそうですが……。
最後に☆評価いただけると励みになります。
ではまた、次回作で。
(2024.4.6 ぶんぶんスクーター)




