第30話
「とにかく、事故のことで君が責任を感じることなんて何もないはずだろ。本当なら守原さんが大怪我するところだった――いや、もしかしたら死んじゃってたかもしれないけど、でも今は僕も守原さんも生きてる。それでいいじゃないか」
「落田くんの未来を犠牲にして――ね」
今度は僕が言葉に詰まる番だった。
『僕は元々ダメ人間だから』――そう言うつもりだったのだけれど、それを口にしてしまえば、守原さんは僕をダメにしてしまったのは自分だからと余計に責任を感じてしまうことになるだろう。
というわけで別の論点から守原さんを説得してみることにした。
「だけど、このまま学校に行かないわけにもいかないだろ?」
「それはもう、良いの」
「良いって……?」
「転学するから、良いの。本当に、もう、耐えられないの。落田くんの顔を見るたびに胸が苦しくなるの。落田くんには申し訳ないと思っているのだけれど、この気持ちだけはどうしようもないのよ」
僕の存在が完全に拒絶されてしまった……。
マズい。話が余計な方向に拗れつつある。
落ち着いて状況を整理しよう。
とにかく今の僕がすべきことは、守原さんに事故のことは気にしなくていいと分かってもらうことだ。
そうすれば、守原さんは罪の意識を感じることもなくなるし、また元通り学校へ来ることもできるはずだ。
「守原さんが苦しむ必要はないと思うんだけど。守原さんは僕を怪我させるためにあの横断歩道を渡っていたわけじゃないんだろう? たまたまあの瞬間、信号を無視して走っていた車が通りかかって、そして偶然にもその近くに僕がいたってだけの話じゃないか。そして結果的に僕も君も命は助かったんだよ。喜びこそしても、罪悪感に悩むことはないはずだ」
「だけど、落田くんはもうサッカーができない」
「そんなこと気にしてないって」
「私が気にしているのよ。乙名さんも石崎くんも、高校で落田くんとサッカーをするのを楽しみにしていたのに、私がそれを奪ったことには変わりないわ。……もちろん、落田くんが私を事故から救ってくれたのには感謝してる。言葉では言い尽くせないほどにね。でも、もう無理なの。私はあなたの未来を奪った罪の重さに耐えられない」
ダメだ、話が全然先に進まない。
このままだと守原さんは転学してしまう。そして僕のことで一生傷つき続けなければならないのだ。もちろん僕はそんなことを望んでいないし、これでは最も不幸な結末に陥ってしまうと言っても過言ではないだろう。
だからと言って今の調子で平行線のまま話を続けていても、お互いに傷ついてしまうだけだ。
「守原さん……」
次の言葉も思いつかないまま、僕はただ守原さんの名前を呟いた。
「……こういう時は、勝負して白黒つけるべきなのです」
突然、出有珠さんがそう言った。
「え?」
予想もしていなかった一言に、僕は思わず出有珠さんの方を見た。
出有珠さんは言葉を続ける。
「結局、しづかは落田さんを事故に遭わせたという罪悪感から逃れられない。そして落田さんはしづかにそれを忘れてもらいたいというわけなのですよね。人の気持ちを変えるというのは、言葉だけでは難しいものです。恐らくですが、このまま話を続けていても結論は出ませんよ。ですから、こうしましょう。しづかさんと落田さんで勝負をしてもらいます。そして、負けた方は勝った方の言うことを聞く」
そんな無理やりな方法で解決する問題じゃないだろう、と思った。
しかし意外にも、守原さんは出有珠さんの提案に対して首を縦に振った。
「分かったわ。私が勝ったら、もう二度と私は落田くんと関わらないように生きる」
マジか。
「逆に僕が勝ったらどうするの? また学校に来てくれるようになる?」
「……ええ。転学の話も取り消しにするわ」
なるほど。
それで守原さんが納得してくれるというのなら、そうするべきだろう。
「で、肝心の勝負の内容なんだけど……」
僕は再び出有珠さんに視線を戻した。
出有珠さんはそれを待っていたように言った。
「『ギガント・ドロップ』ですよ。あのゲームは個人対戦が出来ますから、二人にぴったりだと思います」
まあ、石崎とやったみたいに、守原さんと二人でサッカー勝負をするわけにもいかないだろう。
『ギガント・ドロップ』なら僕も守原さんもやったことのあるゲームだし、一番公平に勝負できる内容かもしれない。
「いいよ、そうしよう。だけどあれってモニターが人数分必要だったと思うんだけど」
「そこは問題ありません。しづかの家には二人分のモニターとゲーム機器がありますから」
なんて都合のいい展開だ。
そしてなんで出有珠さんが守原さんの家のモニター事情を知ってるんだ。
「……準備が必要だわ。真希菜、手伝ってくれるかしら」
「任せてほしいのです」
守原さんと出有珠さんが立ちあがる。
「あ、僕も手伝おうか?」
「落田くんは待っていて。冷蔵庫に飲み物が入っているから、好きに飲んでね」
そう言われ、中途半端に腰を浮かせていた僕は再び座りなおした。
守原さんたちがリビングから出ていく。
手持ち無沙汰になったので、僕は、悪いなあと思いながら冷蔵庫を開けて中から紙パックの野菜ジュースを取りだし、ストローを突き刺して飲んだ。
よく冷えていて、ちょうどいいくらいの甘さだった。
※※※




