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神美少女に肯定されすぎて人生ヤバイ  作者: 抑止旗ベル
第2章『それでも生きていかざるを得ない』

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第28話


 数日が経った。


 僕は努めて守原さんのことを気にしないようにするべく、『ギガント・ドロップ』にのめりこんだ――つもりだったが、結局のところゲームをプレイしていても、守原さんが僕の部屋で『ギガント・ドロップ』をやったときのことを思い出してしまい、なかなかゲームに集中することができないまま、無為な時間をただ過ごすばかりだった。


 そんなある日、僕の家の呼び鈴が鳴った。


 外へ出ると、乙名と見知らぬ女の子が立っていた。


「久しぶり、落田。元気にしてた?」

「まあ、それなりにね」


 僕はそう言って、乙名の隣の女の子に視線を向けた。


 ショートヘアで目つきの悪い、小学生くらいの女の子だった。


 目が合うと、女の子は不機嫌そうな声で言った。


「……何ですか? 私に何か文句でもあるのですか?」

「いや別にないけど……乙名、この子は?」

「紹介が遅れたわね。同じクラスの出有珠真希菜さんよ」

「でうすまきなさん?」

「出有珠が名字で、真希菜が名前。……守原さんと同じ高校出身なの」

「この人が? っていうか同級生?」


 僕の言葉に出有珠さんは、ふん、と鼻を鳴らした。


「あなたのことは知っています。落田優さんですよね? サッカー部の有名人。もっとも、その様子じゃもうサッカーはやってないみたいですけど」


 同級生なのか、と僕は出有珠さんの頭の先からつま先までを眺めた。


 小柄な乙名よりさらに背が低いのだから、かなりスモールサイズだ。


 さっき小学生だと勘違いしたことは、心の中で謝っておこう。


「……サッカーに関しては、僕にも事情が色々あってね」

「前置きは抜きにして、早速本題に入りましょう。私も暇というわけではないのです」


 出有珠さんは小さな体躯とは反対に大きな態度でそう言った。


「ああ……忙しいときにわざわざ申し訳ないね」


 僕が言うと、出有珠さんは驚いたような顔をした。


「へー、サッカー部なんて陽キャ陽キャしい部活に所属していた割には謙虚なのですね。私は陽キャを信用しないようにしているのですが、あなたに関してだけは態度を改めましょう。謙虚な人は好きです」

「あ、そう……。それはどうも」

「あなたの望み通り、しづかのところへ案内してあげましょう」


 しづか?


 ……ああ、守原さんの名前か。


 ずっと守原さんとしか呼んでいなかったから、すぐには思い出せなかった。


「早速出発、と言いたいところだけど、落田は着替えてきた方が良いんじゃない? その格好で行くつもり?」


 乙名に言われて気が付いたが、僕は部屋着スウェット姿のままだった。


 アイドルの部屋着姿なんかはオフショットっぽくてそれなりの需要はあるだろうが、半分ニート状態の男子高校生がそんな恰好をしていても誰も喜ばない。


 僕は乙名と出有珠さんを外で待たせたまま部屋に戻り、それなりの服装に着替えて急いで外へ出た。


 最初に僕らが向かったのは駅だった。


 そこから一駅分電車に乗り、そしてすぐに降りた。


 改札を出て、駅前の通りをしばらく歩くと、見覚えのある歩道があった。


 信号が少ない、一直線の道。


 そしてその道の途中にある横断歩道を、僕らは渡った。


 忘れるはずがない。この横断歩道こそ僕が事故に遭った場所であり、つい先日守原さんらしき人――僕は守原さんだと確信しているけれど――を見かけた場所でもあった。


 道中、僕らはほとんど喋らなかった。


 もちろん、出有珠さんというあまり面識のない人物が一緒だからという理由もあるのだろうけれど、何か言いようのない緊張のようなものを、僕が感じていたからだ。


 出有珠さんも自分から進んで場を盛り上げようという感じではなかったし、そういう様子を見るに、陽キャを信用していないというのは本当なんだろうなと思った。


 車道と、その両脇に歩道が整備された一直線の道をしばらく歩いた後、先頭に立っていた出有珠さんは不意に右側へ進み始め、僕らはそのまま住宅街へと足を踏み入れた。


 市が誘致した大企業の工場に勤める人たちをターゲットに整備がすすめられた、まだ比較的新しい住宅地だ。


「守原さんの家って、この近くなの?」


 別に話題を探していたというわけではなかったが、緊張を紛らわすという意味合いでも、僕は出有珠さんに尋ねてみた。


「そうです」


 即答だった。


 そのまま会話が終わりそうだったので、僕は少し粘ってみた。


「守原さんとはどういう関係なんだっけ?」

「どうして教えなきゃいけないんですか?」


 質問を質問で返された……。


 疑問文を疑問文で返すとテスト0点になるって習わなかったのだろうか。


「……いや、前に守原さんから、思い出したくない過去があるとか聞いてたから」

「思い出したくない過去ですか?」


 てっきり無視されるかと思っていたが、出有珠さんは意外にも話題に食いついてきたので、そのまま話を続けることにする。


「『ギガント・ドロップ』っていうゲームがあるんだけど、守原さんはそのゲームのベータ版のプレイヤーだったらしいんだよ。出有珠さん、知ってる?」

「知っていますよ。当時私もプレイしていましたからね」

「なるほどね。単なる僕の直感なんだけど、もしかして出有珠さんって守原さんの中学生時代の関係者だったりする?」

「……まあ、そうですね。しづかと私は仲の良い友人です。中学時代だけでなく、今もそうであると私は信じています。ですが――あの子は高校に入って変わってしまった」

「いわゆる高校デビューというやつかな」

「そんなものじゃありません。いうなれば人格の再形成、守原しづかという人間の再定義。中学時代、私と共に放課後の教室でBL談議に花というか薔薇を咲かせていた守原しづかという人間はいなくなり、代わりに成績優秀眉目秀麗完全無欠な女子高生が誕生していたのです」


 それを高校デビューというのではないだろうか……。


 つまり守原さんは高校入学にあたり、自らをチューンナップし神美少女になったということだろう。


 一方、僕の場合は高校デビューというよりは高校デチューンという感じなのだが。まあ、どうでもいいが、そんなことは。



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