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神美少女に肯定されすぎて人生ヤバイ  作者: 抑止旗ベル
第2章『それでも生きていかざるを得ない』

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第25話



 石崎との一件があったあの日。


 守原さんから衝撃の事実が告げられたあの日。


 僕は帰宅してすぐ、家にいた母親に僕が事故に遭ったときに負った怪我について尋ねた。


 守原さんの予想は当たっていて、確かに僕の脳には事故の影響と思われる傷が残っていた。そして、その傷が原因で何らかの後遺症が出るかもしれないと医者に言われているということを告げられた。


 サッカーをやめなければならなかった理由は、そこだ。


 僕の脳の傷が僕自身にどのような影響を与えるか分からないために、サッカーのようなプレイヤー同士が激しく接触するような競技は控えた方が良いという医者の判断で、僕はサッカーをやめることになったのだ。


 それはもう、それでいい。


 たとえどんなに後悔しても、あの事故を無かったことにすることはできないからだ。


 そんなことよりも、僕には悩まなければならないことがあった。


 守原さんが姿を消したことだ。


 いや、姿を消したという表現は聊か仰々しすぎるかもしれない。


 実際のところ、僕の中ではそれでもまだ言葉が足りないくらいだが、とにかく守原さんは姿を消した―――正確に言えば、学校に来なくなった。


 最初のうちは、あの暑い公園でずっと僕と石崎の試合が終わるのを待っていたのだから、熱中症のようになって体調を崩してしまったんだろうと思っていた。


 しかしいつまで経っても守原さんは学校に戻ってくることはなく、とうとう夏休みに突入してしまった。


 その間、僕は守原さんに何度かスマホでメッセージを送ってみたけれど、返信はなかった。だから、恥ずかしいことに今、守原さんとのメッセージの履歴を開けば、彼女の体調を心配する僕の文章がいくつも並んでいるのだった。そしてそれを目にするたびに、僕は言い表しようのない憂鬱な気持ちになった。


 しかし学校は夏休みで、僕には余らせてしまうほどの時間があった。


 どうにかして守原さんと会わなければ、このまま二度と彼女に会えなくなるような気がした。


 自慢じゃないが、僕は悪い予感が当たるタイプの人間だ。


 今にして思い返せば、事故に遭ったあの日もランニングに出かける前、なんとなく嫌な予感がしていたように感じる。


 とにかく、守原さんに会わなければならない。誰かに命令されたわけでもないのに、僕の中にはそんな使命感が生まれていた。


 サッカーをやめて以来、何かをしなければならないという気持ちになるのは初めてのことだ。


 しかし、会おうにも会う方法が無い。


 そもそも僕は守原さんの家さえも知らない。


 目に入る住宅の呼び鈴を片っ端から押してみて、守原さんの家を当ててみるというのも方法の一つかもしれないが、果たして守原さんに出会うのが先か僕が通報されるのが先か……。


 まあ、そんなめちゃくちゃなことをやらなくても他に手はあるだろう。


 というわけで。


「私が呼び出されたってわけね……」


 真昼間のファミレス。


 僕の向かい側の席には、乙名が座っていた。


 その傍らにはチョコレートパフェがあった。


「ごめん。頼れるのが乙名しかいなかったんだよ」

「……そう言われると悪い気はしないけど」


 乙名はパフェに突き刺さっていたウエハースをつまみ、口に入れた。


「僕が知りたいのは、守原さんがずっと休んでいる原因と……あと、できれば守原さんの住所なんだけど」

「そうね。一つ目の質問に答えるのは簡単かな」

「本当に?」

「本当よ。『私は何も知らない』」

「……何も知らないが答えってこと?」

「休み始めた最初の頃は体調不良で欠席だって聞いてたけど、それが何日も続いているわけじゃない? 本当に体調不良なのか、それとも別の原因があるのかは分からないわよ。特に、同じクラスってだけの私にはね」

「そうか……」

「むしろあんたの方が分かってるんじゃないの?」

「何を?」

「守原さんが休んでる理由。落田と石崎の試合を見てからじゃない、あの子が学校休み始めたのって」


 それはまあ、そうなんだけど。


 とはいえ、神美少女からもう会いたくないなんてことを言われたという事実を、ここで乙名に話すのは気後れする。


 だけど、その乙名をここに呼び出したのは僕だ。


 ここは恥を捨てて相談してみることにしよう。


 ちなみに、乙名が食べているチョコレートパフェは僕の奢りだ。よりによって一番高いパフェを注文されてしまった。


 いや、だからこそ、ここで中途半端に乙名に守原さんのことを相談してしまって、あとから「あー、あのときもっとちゃんと話していれば良かったのかなあ、パフェ代損したなあ」なんて思わずに済むように、僕が置かれている状況は――僕が持っている情報は乙名と共有しておいた方が良いだろう。


「分かった、正直に話すよ。実は僕、守原さんに会いたくないって言われてるんだ」


 僕の言葉を聞いた乙名が唖然とした表情で口を開ける。


 そこから歯型のついたウエハースが零れ落ち、テーブルの上でワンバウンドした。


「え……。それって少し事情が変わってこない? 要するにあんた、守原さんに振られたってこと?」

「いや別に付き合ってたわけじゃないから振られたという表現はこの場合適当ではない」

「すごい早口……。でも、事実としてはそうよね。あんたが守原さんに振られた後から、守原さんは学校に来なくなった。ってことは、その原因は落田、あんたじゃないの?」

「客観的に考えればそういうことになるね」

「それで住所を教えてほしいって……典型的なストーカーじゃない」

「状況を冷静に分析すれば、確かにそうだね」

「落田がストーカーになっちゃった……」


 涙交じりの声でそう言って、紙ナプキンで目元を拭う乙名。


 マズい、このままでは誤解を生んでしまう。


「落ち着いてくれ、乙名。僕は別に守原さんに何か彼女が嫌がることをしたというわけではないんだよ」

「ストーカーってだいたいみんなそう言うわよね」

「うっ……」



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