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神美少女に肯定されすぎて人生ヤバイ  作者: 抑止旗ベル
第1章『踊るダメ人間』

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第20話


「ねえ、落田くん」

「何?」

「もし私が石崎くんの告白を受け入れて、彼と付き合うことになっていたら、あなたはどう思ったかしら?」

「ちょうどそのことを考えていたんだよ。やっぱり愉快な気持ちにはならないだろうね」


 そう、と呟いて、守原さんは僕から視線を外して前を向いた。


 それが彼女のどういう感情を表しているのかは分からなかったが、とりあえずその日はもう石崎の話題は出なかった。


 次の土曜にどこに行きたいかなんて話をしながら、僕らはいつものように駅前で別れた。


 ああ、『いつものように』。良い響きだ。


 結局何も起こらないのが一番いいんだ。


 家に帰り、昨日寝なかった分の眠気に襲われ、僕は訳も分からないままベッドに入った。


 気が付いたら朝だった。


 すごく良い朝だ。どうしてこんなに清々しいんだろう。これなら前向きな気持ちで授業に臨むことが出来る。勉強ができる人たちは毎日こんな気持ちで勉強をしているんだろう。


 というわけで朝食を摂って、いつものように登校した。


 そして靴箱を開け、いつものように自分の上履きを取り出し―――とそのとき、上履きと一緒に便箋らしきものが落ちてきた。


 え。


 なんだこれ。


 靴箱の中に手紙……!?


 そうなると、これはラブレター的な何かか!? 


 今までの僕の人生では全くと言っていいほど起こらなかったラブコメっぽいイベントが、ここ数日で押し寄せてきている。


 やれやれ、モテ期というものは人生に何度かやってくるというけれど、まさかそれが今だったとはね。

 僕は落ちていた便箋を拾い上げ、表に向けた。


 いったい誰からだろうなんて考えながら、表面に記されていた文面を読んだ。


 そこには―――『果たし状』と、書かれていた。



※※※



 放課後。


 いつもなら真っ先に教室を出る僕だったが、今日は違った。


 あることを確かめるためだ。


 教室から徐々に人が減っていく。


 そして、僕の目当ての人物が教室から出ようとしたとき、僕は席から立ち上がり、彼を追って声をかけた。


「……石崎、ちょっと話があるんだけど」


 僕が言うと石崎は立ち止り、ゆっくりとこちらを振り返った。


「ああ、俺もお前に話があるところだったんだ」


 石崎が只ならぬ雰囲気を醸し出し、彼の友人数名は何かを察したようにその場を離れていく。


 そして教室前の廊下には、僕と石崎が対峙するような形になった。


「僕の靴箱にこれを入れていたのは、石崎だよな?」


 僕は制服の内ポケットから朝の便箋を取り出し、石崎に見せた。


 今朝見つけたこの『果たし状』。裏面には丁寧に送り主の名前――つまり、石崎の名前が書かれていた。


 石崎が不敵な笑みを浮かべる。


「ちゃんとお前のところに届いていたみたいだな」

「どういうつもりなんだ? 僕に『果たし状』なんて」

「そんなの決まってるだろ。落田、お前とはいつか決着をつけなきゃいけないと思っていたんだよ。その、決着の時が来たってだけさ」

「決着?」


 石崎が何を言っているのか、僕にはさっぱり分からなかった。


 そんな僕の心情を察したのか、石崎が訝しげな表情を浮かべる。


「……おい落田、まさかお前、その中身を読んでないんじゃないだろうな」

「ああ、うん。怖くてまだ読んでない。できれば無視したいくらいだったけど、差出人が石崎になってたから、一応確認はしておかなきゃと思って」

「お前、義理堅いんだかそうじゃないんだか分からない性格してるよな。とにかく中身を読め。話はそれからだ」


 石崎に言われるまま、僕は『果たし状』の封を破り中から文章が書かれた紙を取り出した。


「『次の土曜、駅前の公園に来い。守原さんをかけて勝負だ。元サッカー部らしく、サッカーで決着をつけよう』……え、どういうこと?」

「いやいやいや、ちょっと待て。さすがに今ので分かってもらわないと困るんだが」

「守原さんをかけて勝負って?」

「そんなの決まってるだろ。お前が勝てば俺は守原さんを諦めよう。しかし! 俺が勝てば守原さんは俺と付き合ってもらう!」


 堂々と胸を張って宣言する石崎。


 しかし言っている内容はあまりにもめちゃくちゃというか、話の筋が通っていないような気がした。


「石崎、少し落ち着いて考えてみないか? お前が守原さんと付き合いたいっていうのはよく分かったよ。だけど、仮に石崎が僕に勝って守原さんと付き合ったとして、守原さんはそれでお前のことを好きになるのかな?」


 僕が言うと、石崎は明らかに狼狽したような顔で膝をついた。


「そ―――それは、そんなことは、やってみないと分からないだろうが! たとえ昨日守原さんから『ごめんなさい石崎くん。好意は嬉しいですが、やっぱりあなたとは付き合えません』なんてメッセージが来たからって、それで簡単に諦められるわけないだろうがぁぁぁ!」


 叫びながら頭を抱える石崎。


 ストーカーってこういう風にして誕生するのかもしれない。


 というか、守原さん本当にストレートな言い方で石崎を振ったんだな。そう伝えろとアドバイスしておいてなんだけど、もう少しこうなんというか、手心というか……。


「とにかく、この『果たし状』は受け取れない。悪いけど」


 そう言って、僕は『果たし状』を石崎に返そうとした。


 しかし石崎は『果たし状』を受け取らず、突然黙りこんだかと思えばすぐに顔を上げ、僕を見つめながら口を開いた。


「それでも決着はつけなきゃならねえ」

「……え?」

「落田、お前には責任がある。中学時代、サッカー部のエースストライカーとして俺たちに夢を見させた責任がな」

「夢を見させた? どういうこと?」

「はっきり言って、お前のサッカーセンスは抜群だった。クラブのユースからもスカウトが来てただろ? だけどお前はそれを断って、高校のサッカー部で一緒に頑張ろうと言ってくれた。俺たちは高校でまたお前と一緒にサッカーができるって信じてたんだ。この高校のサッカー部は毎年地区大会どまりだけど、お前がいれば全国大会にだって行けるって思ってたんだよ。お前が本当にサッカーを出来なくなったなら、それを証明してくれ」

「要するに、僕がダメになったことを確認するための、この『果たし状』ってこと?」

「どう思ってくれたって良い。とにかく俺は土曜の朝、駅前の公園でお前を待つ。お前と決着をつけるためにな、落田。せいぜい自主練でもして実戦の感覚を思い出しておくんだな!」


 一方的にそう言い残し、石崎は靴箱の方へ走っていった。


 ……厄介なことになって来た。


 一時は言い負かせそうな雰囲気だったのに、夢だ責任だと言われてしまったら、僕としてもまるっきり無視してしまうというわけにもいかなくなってくる。


 確かに僕はクラブのユースチームよりも高校のサッカー部を選んだ。


 そのことで石崎に余計な期待を抱かせてしまっていたというのなら、僕はサッカー部に入らず、彼らの期待を裏切ったということになる。


 責任か……。


 結局守原さんのことはうやむやになってしまったけれども、その代わりに別の問題を背負わされた気がする。



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