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神美少女に肯定されすぎて人生ヤバイ  作者: 抑止旗ベル
第1章『踊るダメ人間』
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第2話

 守原さんほど優秀な人がチャリの鍵を失くすわけがないだろうと思いつつ、僕が恐る恐る尋ねると、彼女は少し恥ずかしそうに俯きながら首を縦に振った。


「……あ、そう。あの、もしかして、失くした鍵ってこれじゃない?」


 僕は右手に握った自転車の鍵を守原さんに見せた。


 守原さんの表情がぱっと明るくなる。


「あ――ありがとう。拾ってくれたの?」

「いや、靴箱のところでたまたま見つけただけ。じゃ、僕、こっちだから」


 守原さんに鍵を渡し、僕はそのまま校門へ向かった。


 すると、すぐに自転車の鍵が開くがちゃんという音がして、そのまま急ピッチな足音とそれに合わせるようなチェーンの音、それから僕の名前を呼ぶ声がした。


「待って、落田くん」


 振り返ると、守原さんが自転車を押しながらこちらへ駆け寄ってくるところだった。


 なんだろう。まさかさっき一言二言会話を交わしたことに対して金銭を請求されたりするのだろうか。悪いけど今金欠なんだ、支払いはしばらく待ってもらえないだろうか――僕がそう口にする前に、守原さんが言った。


「落田くんの家って、駅の方でしょう?」

「え? ああ……そうだけど」


 まさか家まで取り立てに?


「私も帰り、そっちの方向なの。途中まで一緒に帰らない?」

「それは構わないけど……仮に守原さんが僕と一緒に帰るという行為に対し金銭が発生したとしても、今すぐには払えないからな」


 僕が言うと、守原さんはぽかんと口を開けた後、


「同伴料ってこと?」

「俗に言えばそうかも」

「……意外ね、落田くんがそんな冗談言うなんて」

「いや、割と本気なんだけど」


 でなければ、学校一の神美少女と呼ばれる守原さんが僕と接触する理由が分からない。そしてもちろん僕は石油王でも資産家でもないし、どちらかといえば金欠な方だ。


「仕方ないわね」と、守原さんは言う。「分割払いで良いわよ」

「……同級生割引とかある?」

「あー、特別に3割引にしてあげる」

「そうか。助かる」


 僕は歩き出した。


 隣で守原さんも自転車を押し、歩き始める。


「―――あの」

「どうしたんだ?」


 守原さんは困ったように何度かまばたきをした。


「冗談なんだけど」

「………どこから? まさか割引が?」

「いいえ、私と一緒に帰ることにお金がかかるってところあたりから」

「えっ。じゃあ何が目的で僕に近づくんですか?」


 謎の敬語が出た。


「えっ」


 今度は守原さんが言葉を詰まらせた。


 僕らはしばらく無言で歩き、信号が赤に変わって足を止めたとき、ようやく守原さんは言った。


「ごめんなさい、落田くん。あなたに余計な気を使わせちゃったみたい。やっぱり私、一人で帰るわ」


 とても悲しそうな顔で、守原さんは自転車に跨った。


 どうやら僕は言葉の選択を間違い、守原さんを傷つけてしまったらしい。


 別に守原さんとここで別れるのに問題はないけれど、一人の思春期の女の子を悲しませたままというのは後味が悪いし、これから守原さんの姿を見るたびになんかよくわからないけど傷つけちゃったんだよなと今日のことを思い出すことになるだろう。それはそれで気が重い。


「いや、ちょっと待ってくれ、守原さん」

「何かしら」

「僕はダメ人間だ」

「……え?」


 信号が青に変わる。


 車道で停車していた車が動き出した。


「そして君は才能あふれる神がかり的な美少女だ」

「えっ!? あっ、そ、そう!?」


 守原さんの声が突然裏返る。


「つまり、神美少女である君がダメ人間である僕にかかわる理由が分からずに困惑しているというわけなんだ、僕は。マジでそれだけだから」

「本当にそれだけなの?」

「他に何もないだろ。僕と君はほぼ初対面みたいなものだし」

「それはそうだけれど……」


 少し赤くなっていた守原さんの頬が元の色に戻る。


 彼女は何かを言おうとしたけれど、結局口を閉ざしたままだった。


 僕は話題を変えようと思った。


 なぜ彼女が僕と一緒に帰るのか、そんな理由を気にする必要は、本当はないんじゃないだろうかと思い始めたからだ。別に気にする必要のない話題なら、盛り上がる内容でもないんだし、別に無理して続けなきゃならない話じゃない。


「今日はテストの最終日だろう? 先に帰って良かったのか?」

「どういうこと?」

「僕のクラスでは、みんなでカラオケに行くことになってたみたいだけど」

「落田くんも一人で帰ってるわよね?」

「まあ、僕はそういうの得意じゃないからね。でも君は社交的な人……に見える。少なくとも僕よりはね」

「そういえば私のクラスの子たちもこの後ランチに行くって話をしていたわ。でも」


 と、守原さんはあくびをした。

 下品なところがまるでない、可愛らしいあくびだった。


「でも?」

「私、眠たくて。昨日も遅くまで勉強していたし」

「へえ。将来はノーベル賞でも取るつもりなの?」

「……それは冗談よね?」

「ああ、まあね」


 僕が言うと、守原さんは笑った。彼女の口角の動きに合わせて、その白い頬に小さなくぼみができた。


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