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謎のおみくじ屋と天上の妃5


 その夜。

 私は紫紺と青藍を寝かしつけると寝間に入りました。

 寝間の燭台しょくだいにはまだ明かりが灯っています。

 黒緋が巻物を読んでいました。


「まだお休みになっていなかったんですね」

「ああ、せっかく地上に来たんだ。地上の巻物を読んでおきたくてな」


 そう言うと黒緋が「側へ」と私を読んでくれます。

 隣に正座すると私にも巻物を見せてくれました。


「見ろ。これはまだ都が京に移る前の時代のものだ。もう写ししか残っていないと思っていたが原文を見つけてな。少し読みにくい部分もあるが充分読める」

「本当ですね。よくこんな貴重なものが」

「たまに御所へ行くのも悪くないな。あそこの宝物庫はおもしろい」

「覗いてきたんですね。見つかったら大変なのに」

「見つかると思うか?」

「ふふふ、無用な心配でした」


 私はクスクス笑いました。

 普段の黒緋は天上で暮らしていますが、地上へ降りた時は陰陽師という身分になってなんの違和感もなく人々に混じっていました。もちろんそれは黒緋が発動させたまじないです。地上に降りた時のみ都中の人間が黒緋を陰陽師として認知するのです。この広範囲におよぶまじないは強い神気を必要とする高度なものですが、天帝の黒緋にとっては造作もないこと。そんな黒緋にとって宝物庫に侵入するなどわけもないことです。


「今夜はここまでにしよう」


 そう言って黒緋が巻物を置きました。

 そのまま黒緋の手が私の手に伸ばされます。正座した太ももの上にあった私の手に黒緋の大きな手が重なって、触れられた場所からじわじわと体が熱くなるようでした。

 ちらりと黒緋を見つめると呼吸を感じるほどの近い距離。

 黒緋がゆっくりと顔を寄せてきて、唇にそっと口付けられました。


「これを読むためだけに起きていたわけじゃない。お前を待っていた」


 甘く囁くように言われて、また唇が重ねられます。

 触れる時は有無を言わせぬようなのに、離れる時は名残り惜しげにゆっくりなそれ。

 見つめあったまま啄むように何度も口付けられて、私の体の緊張がほろりとほどけていくよう。


「黒緋さま……」

「もっと名を呼んでくれ。お前に呼ばれると、ここが高鳴るんだ」


 手を取られて黒緋の鍛えられた厚い胸板へ。

 そこは心があると信じられている場所でした。手のひらに心臓の鼓動を感じて、私の鼓動も重なっていくようです。


「私も、同じです。……ん」


 唇が深く重なって、私はたまらずに黒緋の背中に両腕を回しました。

 ゆっくりと押し倒されて、黒緋の大きな手が私の体を這うように撫でて夜着を乱していきます。

 夜着の隙間から手が忍んでやわらかな太ももの内側を撫でられました。


「あぅ……」


 背筋に甘い痺れが走りました。

 恥ずかしさに顔を背けると、今度は耳に口付けられます。

 耳たぶを甘く噛まれてたまらずに黒緋を睨みました。


「く、くすぐったいです……っ」

「それだけか?」

「それだけです」


 むきになって言い返したけれど、黒緋はいたずらを楽しむ子どものような笑みを浮かべました。


「そうか、では試してみよう」

「えっ。……んん、あ、ぅっ……」


 黒緋はそう言うと耳への愛撫を深いものにします。

 くすぐったいはずなのに体の奥にじんっと熱が灯るようでした。

 唇を強く引き結んでいなければ恥ずかしい声が漏れてしまいそう。

 たまらずに体を捩らせましたが黒緋の下からは逃れられません。

 黒緋は耳を愛撫しながら私の足の付け根まで手を這わせましたが。


 ガタガタッ……! ガタガタガタッ!


 ふいに蔀戸しとみどが強風で揺れました。

 蔀戸しとみどは寝殿造りの屋敷を雨風から守る戸です。今夜は夜空に月が見えていたのに……。


「風が出てきましたね」

「ああ、今夜は晴れるかと思っていたが」


 思わぬ強風に黒緋も愛撫の手を止めました。

 しかも間もなくして雨が降ってきたかと思うと、あっという間に豪雨になります。大粒の雨粒が蔀戸しとみどに打ち付けられてうるさいくらいに。


「嵐みたいになってきましたね……」


 暴風と豪雨にびっくりしてしまう。

 もはや嵐です。


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