謎のおみくじ屋と天上の妃4
「それよりあなたの話しも聞かせてください。御所はどうでしたか? イナゴの件でなにか分かりましたか?」
「ああ、そのことだがやはり役所でも騒ぎになっている。このまま各地に蝗害が広がれば今年は飢饉になるだろう。もし来年まで影響が残れば大飢饉の引き金になりかねない。発生原因を安倍家や土御門家の陰陽師が占ったようだが原因不明ということだ」
「そうでしたか……」
安部家や土御門家とは都でも高名な陰陽師一族でした。
それというのもこの二つの家は百年ほど前に活躍した稀代の陰陽師・安倍晴明の血筋です。安倍晴明は人間の男と九尾の狐・玉藻御前の間に生まれた子どもだという伝説があり、人智を越えた力を操っていたと云われていました。
伝説というのは語られるうちに大袈裟になるものですが、今回に限っては真実だったりします。そもそも九尾の狐・玉藻御前は黒緋の式神なので間違いないです。
母親が大妖怪九尾の狐なんですから人智を越えた力くらいありますよね。そして現在の安部家と土御門家の一族にも普通の人間より強い神気が宿っていました。
「まあ仕方ない。安倍も土御門も腕の立つ陰陽師だが、人間が占ってどうこうできることではないようだ。離寛や式神にも調査させている。なにかあれば報せがくるだろう」
「それを待つしかないようですね」
「ああ。……だが、萌黄には苦労をかけそうだ」
「萌黄になにか?」
萌黄の名にすかさず反応します。
萌黄は私の大切な双子の妹。なにかあるならちゃんと知っておきたいですからね。
そんな私に黒緋は言いづらそうにしながらも教えてくれます。
「公卿は今回の責任を斎王に押し付けたいようだ。伊勢は遠い。遠い伊勢にいる斎王に責任を押し付けてしまえば中央は火の粉を被らなくて済むからな」
「なんていうことをっ」
思わず声を上げました。
今回のイナゴ大発生による蝗害に斎王は関係ありません。しかし豊穣の祭事のあとに発生したこともあって、都合よく責任を押し付けようというのです。
拳を握ってわなわなしてしまう。
「萌黄の祭事は完璧でした。落ち度など一つもありません。私が見守っていたんですから間違いないです。私が豊穣の約束までしたんですよ? 萌黄を疑うということは天妃の私を疑うということ。それがどういう意味か私が直々《じきじき》に教えて」
「こらこらこら。鶯、その辺にしておけ。それで天妃の天罰発動はさすがにな」
「わっ。す、すみませんっ……」
私はハッとして大人しくなりました。
いけませんね、萌黄のことになるとつい。萌黄のことを思うと私の姉としての愛情が元気になるのです。
「それで、公卿は斎王をどうするつもりなんです?」
「とりあえず斎王に祈祷を要請するようだ。処分はその結果次第ということらしい」
「そうですか。では祈祷までに蝗害の原因を突き止めたいですね。原因が分かれば私がなんとかしてあげられます」
雨が足りぬというなら雨を降らし、陽ざしが足りぬというなら空の雲を払いましょう。
それ以外が原因だったとしても私が必ず解決してあげます。天妃として斎王に豊穣を約束しました。ならばそれは絶対なのですから。