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禁忌種(タブーブラッド)の人生クエスト  作者: カッパ巻き
第三章:夕日に焦げる大氾濫
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新たな仲間と新たな伝説

 -tips-

 アッシュ。

 世界を浸食する大災害に飲み込まれ、ある理由でイディアリスに転生した少年。妖精種(エルフ)窟人種(ドワーフ)との混血であり、世に悪名高き禁忌種(タブーブラッド)その人。

 とは言え、個人の戦闘能力は下の下(最近は中の下位)。

道具を用いなければゴブリン相手でも恐らくボコボコにされるだろうという位には弱い。

が、その代わり、通常のそれとは格の違う《エンチャント》能力を持っており、本来の手先の器用さもあて道具制作能力はピカ一。

 その能力を活用し、何でも屋の傍ら、個人で魔窟(ダンジョン)に挑む為の力と資材を蓄えていたが、物好きな仲間に恵まれ、結果として想定より早く旅団(パーティ)結成にまで至る事が出来た。

 彼が一体、どんな秘密を抱えているかは、今だ不明。 



 エーデの仕掛けた契約魔術は、確かに起動している様に見える。だが、アッシュは目の前に居るエーデの様子を見て、嘆息と共に確信する。

 

「そもそも、俺はお前の仕掛けた契約の実情を知らないんだが――どうせ穴があるんだろ?」

「ええ。そうよ? 流石にそれくらいは気付いてた様ね」


 エーデはアッシュの腕と自身の首の紋様に触れる。


「これは精霊の契約術からなる強制術式の一種。簡単に言うと、今の私は貴方の出すあらゆる契約に、一度のみ(・・・・)逆らえない。と、いう物なの。私の譲渡ってのは、そういう意味」

「契約の強制。それってつまり」

「ええ。私は一度だけ、貴方がどんなに有利な契約を持ち出そうとも決して逆らえない。それこそ奴隷契約だろうと、ね」


 このイディアリスにも奴隷制度は存在する。最もその殆どは、食扶持を無くして自身。もしくは家族を奴隷商に売った場合や、犯罪者が服役期間の間。工夫奴隷として利用される、などと言ったもの。少なくとも表向きには、一般市民が奴隷に堕とされる様な事は先ず無い。


「と、いう訳で。貴方は私に、好きな契約を持ちかけられるわよ? 何だったら、この中からでも選んでみる?」


 エーデは懐から、何枚かの用紙を取り出し、アッシュへと突きつける――のだが、当のアッシュは不機嫌そうに突きつけられた用紙を払いのけた。


「馬鹿にしすぎだ。あんな紙切れにそんな強制力なんか無いだろ。言ってる事が正しいなら、アンタに掛けられているのは契約(・・)の強制だ。その契約を守るかどうかは別問題――だろ?」

「――ふうん? そこまで分かるんだ。もしかして、本物を持ってる?」


 アッシュは鞄に手を入れると、少し手探る様な動作の後に、一枚の羊皮紙を取り出した。


「誓約の羊皮紙。魔力的に契約を締結させ、破れば相応の罰が下る。光の精霊堂で布施の代わりに配布される羊皮紙。国家間の約定の締結なんかにも使われる代物だな」

「あはは! 小細工も無駄だったみたい。で、私とどんな契約をするのかしら?」

「まぁ待て。その前に――これ、持って見てくれないか? アンタとの契約の話が出た後に作ったものだ」


 アッシュがエーデへと手渡した物。それは二振りの剣だった。エーデは最初こそ訝しがってたものの――その剣を手に取って、直ぐに理解した。


「これ、本当にアンタが()ったの? 嘘……こんな剣。王都の店にもあるかどうか――」

「俺は王都の武器を知らないが、御眼鏡に敵ったようで何より。そこで――これだ」


 アッシュは改めて誓約の羊皮紙を手渡す。エーデがそれを読んでみると、驚愕に目を丸くした。


「貴方の作る武器を使う事を条件とした雇用契約。これってつまり――」

「そうだ。アンタ――いや、三つ翼のエーデには、俺達の旅団(パーティ)の仲間になって、派手にその腕を振るって貰いたいのさ。飽くまで頭は俺だが、どうあっても一番目立つのはまぁ、アンタだろうな」

「つまり。私を貴方達の顔にしたいって事?」

「そういう事だ。俺達が今以上に()を目指すには、腕だけじゃ無く、華のある仲間が必要だった」


 と、言っても。リイムやヴィリジアにそう言った面が無い訳では無い。両者とも驚く程の美人であるし、その能力も申し分ない。――だが、世間が注目する人材。という面で言うと、アッシュ含めてその要素に今一歩物足りないのが実情だった。


「アンタが俺達の仲間になってくれればどうあっても世間は俺達に目を向けるだろう。特にアンタにな」

「――いい度胸。ようはこの私を隠れ蓑にしたいって事じゃない。正体はバレたくないのに注目はされたい。一体貴方、何がお望み?」

「今もって俺の願いは一つ。神の塔の制覇だ」


 エーデは一瞬ポカンとした顔をすると、直ぐに吹き出し、堪え切れないとばかりに大笑いし始めた。


「あはははははは!! 本気!? 本気なのね!? そんな馬鹿がまだ居たなんて!!」


 エーデは一頻り大笑いし、涙が出る程笑い続けたその後――。


「いいわ。契約の下、貴方の仲間になってあげる。どの道拒否出来ないのだけどね」

「よく言うよ。今もってその余裕の態度で確信した。お前、契約を一方的に破棄(・・)出来る術をもってるだろ」

「あはははは! ソレもバレちゃったわね! ええ、そう。最初っから私に不利の要素なんて無かった」


 エーデは右手の人差し指に嵌めた指輪を指し示す。その指輪からは、アッシュも見ただけで分かる程強い魔力を宿していた。


遺物(アーティファクト)の一つ、『破却の指輪(キャンセリング)』。ある遺跡魔窟(ダンジョン)の探索で手に入れた物よ。この指輪の崩壊と引き換えに、私はあらゆる契約を一方的に無かった事に出来るの」

「それで良く誇り高き戦士を名乗れるな……詐欺だろこれ」

「何とでも言いなさい? 真の戦士というのは、最後に勝った者の事を言うの。まぁ、でも?」


 エーデはアッシュの直ぐ近くまで接近する。そして、下から睨め着ける様に見上げ。


「確かに貴方は私に勝った。そんな貴方達と居るのは退屈しなさそう。だから、これ(・・)は使わない。これから宜しくお願いね? へっぽこな契約者さん?」

「下剋上する気満々だなぁ。ま、宜しく頼むよ」


 契約書に彼女の名前が刻まれ、エーデとアッシュに刻まれていた紋様が砕け散る。散る魔力の残滓は祝福の花吹雪の如く、夜も更けかける辺りをぼんやりと照らす。


 こうして、三つ翼のエーデがアッシュの仲間となった。そして、改めて定員が四人となった為、公式旅団(パーティ)としての成立条件が整ったのだった。



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



「え~と、いう訳で」

「仲間になってあげたわ。エーデよ、宜しくお願いするわね?」

「まぁ、宜しくお願いします。エーデさん」

「後輩獲得・歓喜」


「「「何ぃいいいいいいいい!!?」」」


 大氾濫(スタンピード)の解決の報を受けて、一部一足早くに戻って来た町人達含め、現冒険者(シーカー)達で宴の準備を始め、それがもう直ぐ終わるかと言った所で、ナミノートの広場にとんでもない報せが飛び込んで来た。


「エーデ様が何でも屋の仲間にだとぉおおっ!!?」

「こ、孤高の女戦士、憧れの方が、そんな――」

「あば、あばばばっばっばばば……」

「おい、しっかりし……駄目だ、手遅れだ」


 正に阿鼻叫喚であった。これまで誰ともつるまないとされて来た三つ翼のエーデが、今だ名のある旅団(パーティ)とも言えない者達の仲間になった。それは正に驚天動地の大事件と言えた。


「アッシュ手前ェ~~!! どんな手を使いやがった~~っ!!」

「よう、マウル。生きてたか。別に……狩り勝負に勝ったんだからどんな手も無いだろ」

「それが信じられないんだよ! エーデさんが滅茶苦茶狩りまくってたのは知ってるが、お前はその玩具(おもちゃ)でピュンピュンしてただけだろう!!」


 と、一部の冒険者(シーカー)達が納得出来ないとばかりにアッシュへと食って掛かる。

 最も、最終巨濤(ラストウェーブ)に止めを刺した一撃が、誰の手に寄るものかは(一部を除いて)誰も知らないのだから無理も無いが。


「おいお前、何か汚い手でも使ったんじゃ……」

「へぇ? それってつまり。私が詰まらない手に引っ掛かった間抜けと言いたいのかしら?」

「えっ!? いや、そう言う訳じゃ……」


 が、その冒険者(シーカー)達の言い掛かりを、エーデが一掃する。本人が納得しているのでは仕方が無い――と、皆すごすごと散っていった。


「まさか、あのエーデを仲間にするとは。やはり、唯者では無いな君は」

「トゥードリッヒさん。無事だった様で何よりです」

「流石に最後は危なかったが――誰かさんのお蔭で助かった様だ。君には世話になったな、感謝する」


 と、トゥードリッヒはアッシュの事を意味深気に感謝の言葉を使えた後、師団(クラン)の仲間達の下へと歩いて行った。


「何か気付いてそうだなぁあの人」

「勘、強そうですものね」


 と、リイムとひそひそ話していると、今度は群青の風(アズールウィンド)の一人、ヴェントがアッシュ達の下へやって来た。


「何でも屋のアッシュ――」

「ああ、アンタはあの時の。体は平気か?」

「フン、あの程度でへこたれる僕ではない。無いが、一応感謝はしておこう。最後まで戦えたのは、君の仲間のお蔭でもあるしな」


 と、ヴェントはアッシュに向かい、帽子を取って頭を下げる。


「だってさ。ヒノキオ」

「ふふんッス!」


 ヒノキオに構っているアッシュを他所に、ヴェントはリイムの方に視線を向ける。一瞬何か言いたげにしていたが、小さく会釈だけして、戻って行ってしまった。


「? 結局、礼を言いに来ただけ、か?」

「ふふ。そうですね。少し、認めてくれたようですし」


 アッシュはリイムの言葉の意味が分からず、頭上に?を浮かべて首を傾げる。


「ま、ともかくとして。これから宴だし、細かい事は良いか。今はもっと――大事な事があるしな」

「? 何よ。大事な事って」


 エーデの質問に、アッシュは多少――気まずそうに頭を掻き、呟く様に答える。


旅団(パーティ)の名前決めてなかったんだよ。色々忙しかったから、飽くまで別々の冒険者(シーカー)達による共同関係的な状態だった訳だなうん」

「呆れた。それで良くこの私を仲間にしようなんて考えたわね。今からでも破棄しようかしら」

「わーっ!! 待った待った! 今考えるから!! うーんと、えーと……」


 アッシュは腕を組んで必死に考える。時に地面を睨んだり、頭を左右に捻ったり、空を見上げたり――そしてふと、それがアッシュの目に飛び込んで来た。


「――流れ星だ」

「えっ!? どこどこ!? 私の故郷では、願いの叶う吉兆なの!」


 エーデが目を煌めかせて、夜空の中に浮かぶ星々からアッシュの見た流れ星を探す。最も、それは一瞬で消えてしまい。もうこの空の中には無い。

 

 ――だが確かに、あの一瞬の光景は、アッシュの脳裏に刻まれた。


「一瞬。けれど眩しく目に焼き付く流れ星――これだ」


闇穿つ流星(ブラックブレイク・スター)。先の見えない闇の中でも、星の光が輝き、導く魔弾となる――うん、これに決まりだ」

「安直ね。ま、悪くは無いんじゃない?」

「とても素敵だと思います」

「固有名詞・登録完了」

「恰好良いッスー!!」


 と、皆で盛り上がっていると、広場の奥の方で何やら台の上にのった偉そうな男が挨拶をしている。そして、手を上げると共に、広場の皆も一斉に歓声を上げ、それぞれで飲んだり騒いだりし始めた。


「どうやら、宴も始まったみたいだな。皆で何か食べに行くか?」

「いいわね、勿論貴方の奢り――でしょう?」

「うぐ……分かった。今日の食費は俺が全部持つよ。それなりに貯えも出来たしな」

「そうこなくちゃね! 所でヴィリジアちゃんって言った? この娘可愛い~っ!! 今まで居ない様な娘だから新鮮! ねぇ、一緒に食べに行かない?」

「不要・当機は・使用者(ユーザー)と共に・補給に向かう」

「ふふ、冷えてる所も可愛い……これは、堕としがいがあるわね?」

「――!? 異常冷感感知!?」


 アッシュは、先に向かうエーデとヴィリジア。肩に乗っかっているヒノキオ。そして、隣を歩くリイムと共に、平和になったナミノートの夜を歩く。

 

 そして、このナミノートの大氾濫(スタンピード)事件こそが、彼らの活躍した事件であり、後に――構成員全員が日緋色金級冒険者(オリハルコンシーカー)である伝説の師団(クラン)


 『闇穿つ流星(ブラックブレイク・スター)』結成の日なのであった。

 

 お知らせ

 ここまで自分の作品を読んでくださった方。ありがとう御座います。さて、ここまでがこのお話の序章と言った所ですが、これより多忙な日が続く事。自分で作った話の纏め方が上手くいっていない事などから、本日以降投稿凍結という形で、一旦切り上げさせて頂きます。この物語がどうなるかは此方の筆の乗り次第と言う事で、半端な形となり、読んでくださっていた方がいらっしゃいましたら誠に申し訳ございません。まだ作者の書きたい欲は薄れておりませんので、何時か必ずまたキーボードを叩く日々に戻りたいとは思います。長くなりましたが、これにて失礼とさせて頂きます。 作者


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