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禁忌種(タブーブラッド)の人生クエスト  作者: カッパ巻き
第三章:夕日に焦げる大氾濫
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嵐は夢幻と共に

 -tips-

 呪術。

 呪言を用いた呪文(スペル)とは違い、魔力に強い念を込めて他者の肉体に干渉する術。

 基本的に相手の心身に悪い影響を与えるものが多いが、偶にそういう呪に対して反対の呪を用いる事で呪術を治癒する医療呪というものもあり、それらを含めた呪術を専門に扱う呪霊士(シャーマン)という纏職(ロール)もある。



 時は少し戻って、呪いの嵐の影響で弱体化していた女性達。


「――ん、大分体が動く様になったわね」

「やはり、あの雨に濡れると女性は力を奪われてしまう様です。腕や足だけなど、一部だけならば大した重石にはなりませんが――」


 限られた時間の中、色々試した結果。呪文による火や風の力などで体を乾かす事で、肉体の衰弱から逃れられる事が分かったのは良い物の、結局この嵐の外には出られない。という結論を付けざるを得ないというのが実情だった。


「雨具越しでも濡れたら駄目ってのが嫌らしい所ね~」

「全身を鎧で包んだクラウディアでも弱体化したんだ。恐らく装備が濡れるだけで影響を受けてしまうのだろう」

 

 正に万事休す。このまま無為の時間を過ごすしかないのか――と思いかけたその時だった。


「雨風が防げれば、どうにかなるッス?」

 

 と声を掛けたのはヒノキオだった。


「何か手が有るんですか?」


 リイムがしゃがみながら訪ねると、ヒノキオは手の様な枝を揺らして答える。


「オレッキ。今だ成長途中でも住居精樹(ハウストレント)! 住む者を自然の脅威から守るのが仕事ッス! ン~~オリャ!」

 

 と、ヒノキオが気合の掛け声と共に体を震わせると、一枚の木の葉がひらりと落ちて来た。


「オレッキの、雨風を凌ぐ特性をこの葉っぱに込めたッス。これがあれば、雨も風を平気ッス!」


 リイムはすぐに木の葉を手に取り、建物の外――いまだ嵐の止まぬ屋外へと出る。


「――本当。体が濡れないし、風も感じません。そして、あの体が重くなる感じも……全くありませんね! 素晴らしいです!」

「エッヘンッス!!」

「す、凄いのね。貴方。ねぇ、その葉っぱ。私にもくれない?」

「ぼ、僕も欲しい! まだ僕の剣は折れていないのだから、このままで居る事など出来ない!」


 すると、エーデやヴェントなど、他の女性冒険者(シーカー)達も、私も欲しいとヒノキオにせがんで来るが――。


「ちょ、ちょっと待つッスー! 今の一枚でも魔力をゴッソリ持って行ったッス! これ以上出せないッス!」


 との返事で、皆一瞬顔を曇らせるが、ふとエクレアが気付いた様に鞄に手を入れると、一本の小瓶を取り出した。


「じゃあさ、この魔力水薬(ポーション)を飲んでみたらどう? 無理かな?」

「魔力水薬(ポーション)? どれどれッス」


 エクレアから小瓶を受け取ったヒノキオが、器用に蓋を開けて中身をくぴくぴと飲み始める。


(くぴくぴ飲んでる。可愛い)

(って言うか、根っこから飲むんじゃないんだ……)


 などと言った女子達の感想を他所に、小瓶の中身を飲み干したヒノキオ。――そして。


「くぉーーっ! 人口精製された魔力は薄味ッスがこれはこれでイケるッス! オリャーーッ!!」


 ヒノキオが更に気合を入れると、頭の木から先程と同じ木の葉が数枚ハラハラと落ちて来た。


「やったわ! これならイケるわね!」

「ねぇ! 私も同じの持ってるから、お願いもう少しだけ頑張って!!」

「えーっ!!? も、もうキツイッスーーッ!!」



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



「と、いう訳で、ヒノキオ君には頑張って貰いました」

(後で植物栄養剤作ってやろう……)


 兎に角、ここに来て戦力が戻って来たのは大きい。エーデを含め、女性側にも主戦力級は多くいた。今こそ全てにケリを着ける絶好の機会と言える。


「ただ、ヒノキオ君から伝言が。葉っぱは三分程で枯れちゃうッス。だそうで」

「成程了解。残り三分で決着させろって事か!!」

 

 形成は逆転した。女性冒険者(シーカー)は一部を除いて非力な者が多く、その殆どが補助役(バッファー)を担っていた。更に治癒を行える【侍祭(アコライト)】の存在もあり、負傷者の治癒が可能となった為だ。


「よくも鬱陶しい雨で私を苦しませてくれたわね? 存分にお返ししてあげるわ」

「ふふ、(わたくし)」も今だ、活躍に恵まれておりませんでしたので、存分にやらせて頂きます」

 

 そして、エーデが怪物の頭上から、リイムが下から攻め始めた。エーデは一気に加速すると共に、怪物目掛けて双剣を突きつける。


『小鳥の如き矮小さで何が出来るというのか! くらえ!!』


 怪物が投げ打つ海水塊。それを空中で器用に躱し、エーデは更に肉薄しながら自身の体を回転させ始める。


「木偶の棒の攻撃なんて当たるものですか! 受けなさい。三つ翼たる私の本気の一撃を――!!」

高陵戦士錬術(ハイランダーアーツ)《トラポスフィアジェットバースト》!!!!」


 空高くから超高速の気流を呼び込み、それを身に纏って突撃する【高陵戦士(ハイランダー)】の超高難易度の大技。エーデはこの技を怪物が生み出した嵐を身に纏う事で再現し、そのまま叩きつけた。


『ぐぉおおおおおおっ!!!!』

「効いている様ですね――此方も行きます!!」


 そして、地上から飛び上がり、リイムは身に纏っていた外套を広げる。そして、それを腕に絡ませた。


「〔(ほど)けよ――透影の黒衣(タルンカッペ)〕。そして、幻装練術(イマジンアーツ)。《シャドウマグニティ》!!」


 すると、透影の黒衣(タルンカッペ)が魔力を帯びた黒い霧状の影を噴出させ、そのままリイムの腕に纏わりつき、巨大な腕を形成して行く。そして、約十二倍程になった鋭い爪の黒い巨腕を振り上げ、更に怪物へと攻撃を放った。


爪錬術(クローアーツ)。《ディアボロスクロー》!!」

 

 リイムの巨大な手は闇の魔力を上乗せして、怪物を斜め上から切り裂く。怪物の体から鮮血が散り、いよいよ体がぐらりと揺れ始めた。


『ぐ……ぬぅ、馬鹿な。馬鹿な――』

「畳み掛けろぉおおおおおっ!!!」


 必死の号令に合わせ、皆が渾身の一撃を怪物に繰り出していく。怪物も反撃しようとするが、数任せの波状攻撃によって隙を見つけられず、歯痒いと言わんばかりに辟易している。


『ぐぉおお、我が、この我が、海神の代行たる我が、負けると!? そんな馬鹿な事は、あっては為らぬぅううううっ!!!!』


 怪物はザブンと海中に逃げ込んだ。顔を出した所へまた攻撃を再開しようと、皆構えるが――一向に怪物は現れない。


「なんだ? 逃げたか――!?」


 と、怪物は沖の方から顔を出す。その表情は正に怒り心頭といった具合だ。


『最早、我が命すら構ってはおられぬ! 我が全身全霊を以て、今度こそ貴様らを海に還してくれるわぁあああああああああっ!!!!』


 怪物は、尾で海面をバシンと叩くと、これまでに無い大波を発生させ、それに乗って港へと突っ込んで来た。


「不味いぞ! あのまま体当たりする気だ!」

「あんな波が地上にまで来たら、俺達どころかこの町――いや、もっと甚大な被害が!」


『フハハハハ!! 沈め沈め!! 全て沈んでしまえ!!』


 怪物と大波はどんどん此方へと迫って来る。いよいよもう駄目かと、皆が絶望仕掛ける中――ふと、エーデが気付いた。


「あれ? そう言えば――あいつ(・・・)は何処?」



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



「ヴィリジア。もう、体は大丈夫か?」

「魔力補充完了・問題無し」


 戦場から少し離れた建物の上。そこに居たのはアッシュと、そして復帰したヴィリジアだった。

 アッシュは先程のヒノキオと魔力水薬(ポーション)の話を聞き、こう考えたのだ。自身のエンチャント能力で、エーデに魔力を分け与えられないか? と。

 早速ヴィリジアの休んでいる所まで戻り、彼女にエンチャントによる魔力の伝達を行使。すると、魔力は問題なくヴィリジアへと流れ込み、彼女が動ける様になるまでに復帰できたのだ。


「我ながら盲点だったな。俺のエンチャントは生き物への魔力付与は出来ない。だが、例外はあるってか」

「? 使用者(ユーザー)?」

「何でもない。さ、始めるとしようか!」

「了解・魔力炉全開放・模造錬術(イミテーションアーツ)・展開準備開始」


 アッシュはそんなヴィリジアの背中に手を当て、それからもう一方の手で自分の顔に触れる。


「今この空間は、あの怪物が発生させる呪を伴う嵐の中にある。いわば、一種の魔窟(ダンジョンの様な状態だ。――なら、この場所でなら魔力を解放しても外にまでは漏れない! 擬装解除!!」


 アッシュは仮面を剥ぎ取り、真なる禁忌種(タブーブラッド)としての素顔を晒す。そして、共に解放された魔力を、ヴィリジアへと流し込んでいく。


「は――ア・魔力貯蓄数量・急・上昇――」

「限界が来たら言ってくれ! 後は俺が何とかする!」


 アッシュとヴィリジア――二人の中で魔力が渦巻き、高まって行く。


「問題・無し――・準備――完了!」

「よし、今だ!!」


模造錬術(イミテーションアーツ)。《マルチプルエクステンドバリア》!!!!」


 アッシュの桁違いの魔力をヴィリジアが行使する事で放たれる超大の多層障壁。それは、ナミノートと海の境目に展開され、怪物の大波に真っ向から立ち塞がる。そして、大波と障壁が激しく衝突した。


『何……っ!!? なんだこの壁は!!』

「見ろ! あれは、何だ!!?」

「あれは! そう、彼女も頑張っているのですね――」


 そして暫しの拮抗の後、大波の方が先に砕け散り、怪物は又も港に届かぬまま海面へと落ちた。


『ぅおおおおおっ!! 馬鹿な、海神よ、これは――一体!!』

「人間の底力を舐めたのはそちらだ。海神だか何だか知らないが、人の生活圏に手を出すな!」


 アッシュは溢れる魔力をその儘に、新作の武器――連弩を構える。その黒塗の連弩にもまた、アッシュの能力による銘が刻まれていた。

 それは、不老不死を求め、巨大な神魚に挑んだ皇帝が手にした弩。その願いこそ敵わなかったが、死を疎い、乗り越えようとした人物の、執念が込められた弩だ。


「さあ行くぞ、真秘壊封(アルカナブレイク)

「〔死を穿て――神鮫射弩(かみごろしのおおゆみ)〕!!」


 銘が解かれ、黒塗の連弩は黒く輝く弩型の捕鯨砲へと変わった。そしてアッシュは怪物へと狙いを定め、止めの一射を放つ。


「終わりだ怪物! 幻装練術(イマジンアーツ)。《神夢散箭》!!!」


 アッシュの魔力が込められた弓が引き絞られ、放たれる。矢は真っすぐに怪物へと嵐を切り裂いて飛んでいき、そして、怪物の額を撃ち貫いた。

 その弩と矢の特性は、水棲の生命体への威力倍化。《神夢散箭》は神に連なるモノへの特攻攻撃。奇しくも、海神の代行を名乗る怪物とって、その一射は正に最悪の一撃だった。


『お、おおぉ――死ぬのか、我は――取り戻す、事も敵わず――お、オォ』


 怪物は沈む。力を失い、崩れ落ちる様に末期の言葉を呟きながら。


『オぉ、にえ、贄は、何処、か――』


『アン、ドロ――メ、ダ……』


 そして、最後にただ一人を除いて誰も知らぬ名を呟き、最終巨濤(ラストウェーブ)の怪物は――海の泡と共に消えた。







 -tips2-

 水薬(ポーション)

 調剤技術により精製する魔力を含んだ経口摂取用の水薬。

 治癒の魔力を込めれば治癒水薬(ポーション)に、魔力を多く込めれば魔力回復水薬(ポーション)となる。更に効果の高いものもあり、最高品質なものともなれば、四肢の欠損すら復元するという。

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