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禁忌種(タブーブラッド)の人生クエスト  作者: カッパ巻き
第三章:夕日に焦げる大氾濫
33/36

決戦 最終巨濤

 -tips-

 夜泣き烏(クローククロウ)

 魔導の研究機関であり、教育施設でもあるセル・ラ・セージ魔導学園出身の旅団(パーティ)

 基本的に学園の教育方針は自習であり、その研究の方向性は自由。そこで冒険を経て研鑽の糧としようという事で発足したのがこの旅団(パーティ)で、リーダーのコルボは1年の研究主席。魔導の実力は確かだが、実践を軽視しがちだった為、今回はギリギリまで実力を発揮出来ずにいた。


また(・・)来るぞ! 躱せぇええっ!!」


 トゥードリッヒの指示に答え、冒険者(シーカー)達が一斉に散開する。


『――無為なり』

 

 そこに、黒く濁った沼の如き海水の塊が襲い掛かった。それ自体人間三人は収まり水塊が高速で飛来し、着弾。

 そこから更に単なる水の飛散とは違う爆発――そう、爆発だ。熱によらない疑似的な水蒸気爆発により、建物のみならず着弾した地面すら大きく抉れる程の破壊が、最終巨濤(ラストウェーブ)の怪物によって(もたら)されたのだ。


「駄目だ団長(リーダー)! また数人やられた!」

「くそ、攻撃範囲が広すぎる……」

『理解したか。我と貴様ら小人共の差という物を』


 怪物は再び、片手で掬った海水を勢いよく投げつける。ただそれだけで、再び先程と同等の破壊を町ごと冒険者(シーカー)達に巻き起こした。


「俺達が、あんな水掛け遊びにやられてるってのかよ!?」

「違う、海水に込められた魔力の量が以上なのだ! ただの海水が、破壊の鉄槌に変わる程のな……」


 魔力というのは、極めて純粋なエネルギーだ。生物の体内で集束、活性化させる事で練術(アーツ)呪文(スペル)に活用できる様に、ただ物に付与するだけでもその存在の格を一時的に上昇させられる。それこそ膨大な魔力量があれば、呪文(スペル)という過程を経ずに、海水を爆弾に変える事も可能だ。


「それが――どうしたぁああああっ!!」

 

 怪物の海水攻撃を大跳躍で躱し、トゥードリッヒが踊り出る。怪物の頭上近くまで届く程の位置にまで迫り、渾身の蹴りを叩き込まんとする。


武闘士(グラップラーアーツ)。《オーラブレイジングストライク》!!!」


 高速回転からなる渾身の蹴撃は、魔力の集中により、足が炎上して見える程の気炎の発露を伴う大打撃。叩き込まれた怪物も、流石に一瞬仰け反る程の衝撃を受けた――が。


『ぬるい――!』


 直ぐに体勢を立て直し、今だ空中にいるトゥードリッヒを叩き落そうと腕を振る。


「不味いぞ! 空中で身動きが取れてない!!」

団長(リーダー)!!」


 そして、怪物が腕を振り下ろすその寸前に、怪物の顔で爆発が起きた。


『――ぬぅ!?』

「な、何だ!?」


 トゥードリッヒがギリギリで離脱し、怪物がギロリとその爆発を起こした存在を睨む。


『――猪口才な、小人は木や石の武具で満足しておれば良いものを』

「悪いけど、それだと俺は誰にも勝てなくなってしまうんでね!」


 それは、戦場たる港に戻ってきていたアッシュのその手にある武器(クロスボウ)による物。更にアッシュは、カートリッジの様な部分に更に複数の矢を込め、再び炸裂矢を連射し始めた。


『ぬ、ぬう――おのれ!』

 

 慣れない武器故か、顔を狙い続けている為か、怪物は鬱陶し気にしているが、反撃に手間取っている。


「今だ! 畳み込め!!」

 

 そこに乗じて、残りの冒険者(シーカー)も渾身の練術(アーツ)で反撃を試みる。特に弓矢の様な遠距離用の武器を得手とする者達は、怪物の顔を狙って放つ様にし始めた。


『小癪小癪小癪!! その程度でこの我を打ち倒せると思うてか!! ォオオオオ!!』


 すると今度は、怪物の雄叫びと共に、海からの向かい風が一層激しく吹き始めた。通常の練術(アーツ)を用いた射撃であるなら、この程度の風に負けたりはしない。だが、この雨風にもまた、強い魔力が込められており、射撃の勢いが急激に失われ始めた。


「チッ! 不味いな。唯でさえ攻撃するのにも一苦労だってのに――やばっ!」


 アッシュは急いで回避行動を取る。その直ぐ後に、再び海水の爆弾が投げ込まれ、それによる爆発をギリギリで回避した。


『フハハハハッ!! どうしたこの程度か! ならばこの町ごと貴様らを、海神への贄としてくれる! 覚悟しろ!!』

「そうはさせるかよぉっ!! 負けるんじゃねぇぞお前ら!」

 

 更に攻め手を強める怪物に、アンカ率いる漁師達が捕鯨砲で応戦する。だが、流石に皮膚が頑丈過ぎるのか、練術(アーツ)を使えない彼らでは大した痛手を与えられていない。


「くっ! 駄目か!!」

「ぉおおーーい!!」


 後ろからの呼び声に、何事かと何人かが振り返る。すると、ナミノートの鍛冶職人達が、新たな大荷物と共に駆けつけて来ていた。


「親方達! 逃げたんじゃ無かったのか!?」

「馬鹿いえ! あんな化物に立ち向かっているお前達を見て、黙って逃げられるか! 俺達は、これを仕上げていたんだ!!」

 

 大荷物を載せた台車――その布を取っ払うと、中から超大型の弩――いわゆる弩砲(バリスタ)に似た射撃装置を取り出して来た。


「コイツは、どこぞの生意気なガキが作ったらどうかって言って来やがったもんさ。流石にデカ過ぎるってんで最初は俺達も突っぱねたんだが……」

「流石にこんなドデケぇ獲物が来ちまったらそうも言ってられねぇ。それで大急ぎで作って来たのさ!!」


 それは、部品の大部分を金属で仕上げたもの。さらに装填されたド太い銛すらも金属製で、更にその先端を敢えて切り取り、平べったく仕上げてある。そうする事で標的にぶつかった際の衝撃力を増加させるという物だった。


(――因みにだが、あの先の平な形状である俗に言う平頭銛(へいとうもり)は、地球にも実在する!)

「何一人でドヤってんだアッシュ。キモいぞ」

「誰がキモいかマウル!!」


「さぁ、受け取れ怪物!! 撃てェえええええっ!!」


 ともかくとして、早速新型の大型弩砲が怪物に向けられ、発射。平頭銛は風雨の勢いにも負けず、見事怪物の頭部に直撃――凄まじい衝撃音と共に怪物を大きく仰け反らせた。

 

『ぐぅおおおおおおおおおっ!!!?』

「効いてるぞ! 今だ! 攻めろ攻めろぉおおおっ!!」


 怪物が怯んだのを機に、再びナミノート側の反撃が始まる。今度は鍛冶師達も攻撃に加わって、更に激しさを増した攻撃が怪物に襲い掛かった。


「反撃の隙を与えるな! このまま一気に倒すのだ!!」

『おのれ、おのれぇええ! このままで済むものか! 我は、我は――己が望みを果たすのだ! 邪魔をするなぁああああああっ!!』


 だが、やはり怪物も今だ戦意を喪失していない。激しい怒りに身を焦がす様な雄叫びと共に、なんと怪物は海中から一転――一瞬の水没から一気に水上を超えて空中まで跳躍した。


「何ィッ!? あの巨体で跳躍だと!!?」

「イルカじゃ無いんだぞ!? そんな馬鹿な!!」


 だが事実。怪物は跳躍一回転から、その勢いのまま尾を水中に叩きつける。それにより、発生した大波が港を襲った。


「う、うわぁああああああっ!!」

「逃げろ、逃げろォおおおっ!!」


 突然の大波に、冒険者(シーカー)や鍛冶師達を含めたナミノートの防衛陣が散り散りになる。大波は港そのものを飲み込み、そのまま大きく削って半壊させてしまった。


「お、俺達の港が――」

「今ので、先刻のデカい弩砲も、捕鯨砲も全部沈んじまった――……」


 今までの勢いも無に帰す様な大打撃に、流石の冒険者(シーカー)達――怒れる拳(レイジングフィスト)の構成員も含めて、敗戦の気配が漂い始めていた。


『はーっ!! はーっ!! ようやく詰まらん抵抗が止まったか……ならば今度こそ。この町を海に沈めてやる! 覚悟するが良い!!』

「く、くそっ! 何だってお前みたいな化物が、こんな普通の町を襲ったりするんだ!!」


 それは、問いかけですらないただの理不尽に対する不満の吐露の様な叫びだった。しかし、怪物はその言葉を聞き、それこそ心外と言わん気配で答えた。


『まさに愚か。そもこの様な事に――海の怒りを買う様な真似をしたのは貴様らであろう――』


 怪物の言葉に、意味が分からないといった雰囲気を見せる人間達に、怪物は更に怒りの感情を込めて続けた。


『そう、海神は聞いた。貴様らの地を収める王妃が、我が娘は世界の何より美しい。天の女神や、海の乙女たちすら及ばぬ――となぁ!!』

「え、ちょっと待て! その話ってまさか――」


 怪物のいう話に聞き覚えのあったアッシュはつい口を挟もうとするが、怪物には聞こえていない。


『贄たる姫君がおらぬというなら最早それで良い! この地に住まう全ての小人共を海に還し、海神への慰めとしてくれる!! ォオオオオオッ!!』


 怪物は再び海中へ、今度こそあの大波でナミノートに止めを刺す構えだ。


(――今は考えている時間じゃない! こうなったら、やはり封印を解いてでも――)


 と、アッシュが顔に手を掛け――ようとして、それを誰かの手が止めた。


「っ!!」

「行けませんよ? 我が(あるじ)――」



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



『今度こそ終わりにしてくれる! 町ごと沈め!!』

 

 そして、跳躍から尾を天にまで掲げ、そのまま振り下ろそうとした――その時だった。


「貴方がね。喰らいなさい! 《クロスソードエッジ》!!!!」

『っ!!?』


 それを、突然近づいて来た声と共に、一人の片翼の少女が撃ち落とす。完全な意識外から攻撃を受けた事で、怪物はそのまま海に叩きつけられた。


『ぐぉおおおおおっ!! 馬鹿な! お前は、お前達は! 我が呪いを受けている筈――!!』


「何とか間に合った様ですね」

「リイム! それに他の女の人達も復帰してるのか? どうやって――」


 リイムは微笑むと共に、懐から何かを取り出してアッシュに見せつける。


「私達には、もう一人。頼もしい仲間が居たでしょう?」


 リイムが取り出したもの。それは――アッシュも良く知る形の、若々しい一枚の木の葉だった。




 


 -tips2-

 魔力と気力。

 魔力は天然自然に存在する力であり、体内で活性化させて精神で方向性を定める事で、思い通りの形に行使するのだが、気力はその真逆。生命そのものを活性化させる事で生まれる派生的な力を活用する。

 その二つを練り合わせ、武器を通して活用する錬術(アーツ)こそ、人が体格で勝る怪物たちを相手に戦う為の術となる。

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