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禁忌種(タブーブラッド)の人生クエスト  作者: カッパ巻き
第三章:夕日に焦げる大氾濫
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守護の翡翠 空を裂く雷電

 -tips-

 二刀流。

 剣などの武器を両手に持って戦う戦法を纏めて二刀流と言う呼び名で統一するが、その種別は様々。

 例えば剣の二刀流は勿論、短剣の二刀流、剣と短剣の二刀流、はたまた杖と剣の二刀流なんてものも存在する。その為、それら全てを纏めた二刀流錬術(トゥーソードアーツ)は、全武器練術(アーツ)の中でも飛び切りの習得難易度と、数を誇る。


 -対砲台大亀(ランチャータートル)戦線-


 こちらはアッシュ達。アッシュの機転とヴィリジアの能力で、砲台大亀(ランチャータートル)の砲台を暴発させ、攻撃の隙が生まれた――と、先程まではそう思っていたのだが。


「あれ、何してると思う?」

「残念ながら、(わたくし)程度の知見ではどうとも」


 アッシュ達の目の前。砲台大亀(ランチャータートル)は首と手足を引っ込めたまま、甲羅の状態でグルグルと回転していた。


「確かに砲撃しなけりゃ暴発も起こらないが、あのままで居る気か?」

 

 ――しかし、砲台大亀(ランチャータートル)の回転がピタリと止まり、一瞬ブルリと震えたその瞬間。


「我が(あるじ)! 失礼!!」

 

 リイムが突然アッシュとヴィリジアを引っ張って右へ、そして先刻までアッシュ達が居た場所を何かが高速で通り抜けて行った。


「はぁっ!!?」

 

 アッシュが驚愕の声を上げるのも束の間。背後から激しい衝突音。振り返ればナミノートのとある建物が粉々に粉砕されており、それを成した巨大な物体――砲台大亀(ランチャータートル)が、瓦礫の中からのそりと姿を現す。


「何、だ。今の高速突進は。あんなの喰らったらミンチだぞ。しかも――ヴィリジア」

「行動阻害失敗・謝罪する」

「それは良いけど――ヴィリジアのバリアでも駄目か」


 実は砲台大亀(ランチャータートル)が迫る寸前。咄嗟にヴィリジアが障壁を展開していた。しかし砲台大亀(ランチャータートル)の突撃を止めるには至らず、一瞬動きを阻むのが精一杯。

 だが寧ろ、その一瞬が生んだ時間により、三人とも無傷で躱せた言って良い。今の攻撃は、それ程までにギリギリだった。


「高速回転が突進の予兆? いや、違う気がするが……」


 アッシュが思案に入ろうとするが、砲台大亀(ランチャータートル)の砲撃がまたも空中へと放たれ、爆発する鉱石が空より降り注ぐ。


「これは躱し切れないか――仕様が無い!!」


 アッシュは落下してくる鉱石に次々と炸裂矢を当てる。鉱石を空中で爆発させる事で防いだのだ。


「――ふぅ、危なかった」

「こらぁアッシュ手前ぇ! いきなり爆発したら驚くだろうが!!」

「って、居たのかマウル。悪い悪い」


 アッシュの軽い謝罪に誠意が足りないと怒るマウルを、ロカルがはいはいと引っ張って行く。その横でアッシュは、先程の砲台大亀(ランチャータートル)の動きについて考えていた。前の砲撃の時もそうだが、砲台大亀(ランチャータートル)は大きく息を吸い込んでから砲撃を放って来た。先程も同じく。そして、あの重量で突撃する為の推進力は何かと考えたら――。


「肺活量。奴は吸い込んだ空気を甲羅を通して砲台に送り、鉱石を発射する。そして、岩を打ち上げる程の肺活量を持って息を思い切り吐けば、あの巨体がぶっ飛ぶ程の推進力を生む!」

「成程。ですが、首を隠したまま、あんな風に回転させられては、呼吸の隙を狙う事も――」


 その時、空から超高速で落下する何者か――すなわちエーデが、砲台大亀(ランチャータートル)の真上から強襲。激しい衝撃音と共に甲羅へと彼女の剣が付き込まれた。


「うわぁあああっ!! 何て威力!」


 すると、砲台大亀(ランチャータートル)が怯んだ隙を狙い、エーデがアッシュの下へと飛んできた。


「ねぇ、貴方今の」

「そうか、空中に居たから――悪い。破片でも当たったか?」

「人を間抜け扱いしないでくれる? それより今の感じ、もう一度行けない?」


 言葉の意味を読み取れず、アッシュが首を捻ると、エーデは仕方ない、とばかりに説明し始めた。


「私の使える技の中で最高威力のものの中に、相手より上――つまり、より高い位置にいる程威力が上がる技が有るのよ。先刻の奴ね。そして、貴方が起こした先の空中での爆発」

「読めた。爆風で更に高く舞い上がろうって事だな? 確かに今の威力なら甲羅ごと行けそうだ」

「そういう事。先刻のは唐突だったから上手く乗れなかったけど、私が合図した上での話なら問題ないわ」


 アッシュは暫く考え、砲台大亀(ランチャータートル)がのそのそと此方へと歩きながらまた息を吸い始めるのが見えた。


「分かった。やろう」

「いいわね。そうこなくちゃ」


 エーデはバサリと片翼を羽搏かせる。


「炸裂矢の爆発でよければ、上まで運ぶか?」

「舐めてる? 私は三つ翼。他人の力なんて借りなくとも――私は跳べるわ」


 エーデは両手の剣を構え、体を回転させながら、練術(アーツ)を発動させた。


二刀流錬術(トゥーソードアーツ)。《トルネードツインスラッシャー》!!」


 二本の剣が螺旋を描きながら風を呼び、エーデは自ら生み出した上昇気流を伴う竜巻に乗って空へと舞い上がった。


「竜巻に乗って飛ぶって……いやいや、本気でやる奴いるのかよ」

「相当訓練しなければ出来ない芸当です。どうやら彼女――余程負けず嫌いな性格の様ですね」


 リイムの言葉を聞いて、アッシュはふと思う。気位の高い有翼族(フリューゲル)に生まれながら生まれつき片翼の彼女は、今までどんな風に思われてきたのだろう――と。

 何も知らないアッシュには、彼女のこれまでを想像できる材料は無い。だが、あの剣技一つ見るだけでも、相当の試練を乗り越えて来た事は明白だった。

 

「ふーっ! だったら、俺も負けてられないな!」


 アッシュは覚悟を決めて、敢えて砲台大亀(ランチャータートル)へと炸裂矢を放ち、挑発する。砲台大亀(ランチャータートル)は息を吸い込み――手足を引っ込めて回転し始めた。


「突進だ! 躱せ躱せぇええええっ!!」


 またも高速で突っ込んで来るが、今度は注意していた事もあり、突進を皆で躱す事が出来た。


「突進攻撃をやらせるな! 皆で攻めるんだ!!」

 

 アッシュが更に炸裂矢を放ち、他の冒険者(シーカー)達も負けじと練術(アーツ)で攻め立てる。

 鬱陶し気に顔を出した砲台大亀(ランチャータートル)。その瞬間を待っていたとばかりに、マウルの投擲した一本のナイフがその片目に突き刺さった。


「ギ、キぃイ異衣ぃいいッ!!」

「いよっしゃあ命中!! やるもんだな俺も!!」


 しかし、視界を奪われて逆上したのか、砲台大亀(ランチャータートル)は甲羅を回転させたまま、四方八方に砲撃し始めた。


「げえっ! 怒らせちまったか!!」

「言ってる場合じゃねぇよ! 逃げねえと!!」


 そう言ってマウルやロカル達を含め、冒険者(シーカー)達は堪らず避難し始める。


「我が(あるじ)! ここは危険です!」

「だがエーデがまだ空に居る! 俺は此処を離れる訳には行かない!!」


 アッシュは空を見上げ、旋回しているエーデを見つめる。


「く、しかし――」


 リイムと共に何とか砲撃を躱し続けているが、一向に砲撃が止む気配が無い。そして遂に、アッシュの脚が止まった所へ、炸裂矢でも処理仕切れない量の鉱石が集中して襲ってきた。


「ヤバ――!!」

使用者(ユーザー)の生命危機感知・出力限定解放開始――」

 

 その時、ヴィリジアが動いた。これまで以上に全身から魔力を漲らせ、降り注ぐ鉱石に相対する。


模造錬術(イミテーションアーツ)・《マルチプルオールレンジバリア》!!」


 ヴィリジアが両手を掲げ、展開されたのはアッシュ達を覆うドーム状の障壁。それらは一枚だけでの無く、数枚の障壁を重ねて展開された多層構造の障壁だった。


 激しい大爆発が障壁を襲う。それはビキビキと障壁を震わせ、その度にヴィリジアが魔力を放出して強度を底上げする。そして砲撃が止み、爆発が収まると共に、障壁が解かれてヴィリジアが力無く倒れる。


「ヴィリジア! 大丈夫か!?」

「魔力・残存・残り・僅・か――」

「よく頑張った。少し遠くで休んでいてくれ。――リイム頼んだ」

「畏まりました」


 リイムがヴィリジアを抱えて走り去り、砲台大亀(ランチャータートル)がアッシュを見定めた。


「やってくれたな大亀! お前も先刻ので大分疲れたんだろう?」

「――…………」


 砲台大亀(ランチャータートル)は、息を大きく吸い込む。それを黙って見ているアッシュ。


「撃って見ろ! 大亀!!」


 アッシュが叫び、砲台大亀(ランチャータートル)が再び砲撃し始めた。そして、空に居たエーデが、己とその空中にある鉱石の位置・高さを見定め――叫ぶ。


「今よ! それを爆破して!!」

「よっしゃ! 持って行け!!」


 エーデの指示した鉱石を炸裂矢で爆破したアッシュ。再び空中で爆発が起こり、エーデはその爆風を完璧な形で掴み、更に上空へと舞い上がる。


「いいわ! 更にオマケの《エアリアルジャンプ》!!」

 

 そして、エーデは更に上空へと昇り、アッシュでも殆ど見えない位置まで高度を上げた。


「見事だったと誉めて上げる! そして見なさい。これが私の最高の一撃!!」


 エーデは真下の砲台大亀(ランチャータートル)目掛け、自由落下を開始する。――そして。


「喰らいなさい! 高峰戦士錬術(ハイランダーアーツ)。《ライトニングスウープ》!!!!」

「っ!!?」


 砲台大亀(ランチャータートル)が、上空の気配に気付いた。この位置は危険と本能で察し、息を吸い込んで高速突進による移動をしようとするが――。


「まぁ、落ち着いてこれでも食べとけ?」

 

 いつの間にか接近していたアッシュが、砲台大亀(ランチャータートル)の口の中へ手作り爆弾(クラフトボム)を投げ込んでいた。


 そして炸裂。突然口内を襲った衝撃に、砲台大亀(ランチャータートル)は目を白黒させた。


「たぁああああああああああっ!!!!」


 エーデが突撃する。突き出す剣の、空を裂く雷電の如き一撃が、砲台大亀(ランチャータートル)の甲羅へと叩き込まれ、そして――甲羅を突き破ったその衝撃は、肉体をそのまま貫通して下の地面にまで到達した。


 砲台大亀(ランチャータートル)の巨体が、一瞬浮かび上がる程の衝撃。一瞬手足をビンと伸ばした砲台大亀(ランチャータートル)は、そのまま全身を弛緩させ、絶命した。


「――すげぇ一撃だ。確かに金級(ゴールド)にも劣らないな」


 砲台大亀(ランチャータートル)の中から血塗れで出て来たエーデは、アッシュにしてやったりと言った笑顔を見せる。


「ふふ、誉めても何も出ないわよ? それに、ありがと。競争相手を補助してく・れ・て」

「競争相手? ――あっ」


 そう、今更ながらに思い出した。アッシュはエーデとの狩り勝負中。負ければ冒険者(シーカー)を辞めさせられてしまう。


「ァあああああそうだった――っ!!」

「本当に忘れてたの。全く――でも」


 ――臆病者呼ばわりは、撤回してあげるわ。


「って、何か言ったか?」

「別に? 気の所為じゃ無くて?」


 アッシュは気付かなかったが、確かにあの瞬間。エーデは初めて、飛び道具使いを認めたのだった。

 -tips2-

 砲台大亀(ランチャータートル)

 土属性の魔力で爆発する鉱石を生成し、甲羅から生えた砲台状の突起から発射して攻撃する。

 強靭な肺を持っており、鉱石を発射する際は肺とは別に繋がっている管を通して内部から砲台に空気を送り、その力で鉱石を発射する。

 そして、同じく土属性の魔力で自身の重量を一瞬だけ軽量化。そこから息を吐いてその勢いで突進する技も使う。攻略法は口の中に爆弾などを投げ込んで呼吸を封じたり、砲台を詰まらせて暴発させたりなど。甲羅は全異種(クリーチャー)の中でも上位に位置する程硬いので、狙うだけ無駄とまで言われている。

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