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禁忌種(タブーブラッド)の人生クエスト  作者: カッパ巻き
第三章:夕日に焦げる大氾濫
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王国の盾 黄金の刃

 -tips-

 騎士(ナイト)

 ドラグレスト王国国土内で所得可能な纏職(ロール)

 戦士(ソルジャー)と同様に仲間を最前線で守る前衛職で、その防御力は全初級職でも一番。

 更に、味方を強化する練術(アーツ)も備えており、攻守に隙の無い性能となっている。



 一方その頃、大氾濫(スタンピード)。その第三波に置ける大物出現の三体目。上位魚頭擬人剣豪(エリートザハギン・エルダーフェンサー)の出現地点。


「うぉおおっ!! 撃て撃て! ありったけの攻撃呪文(スペル)を撃ち続けるのだ!」

「駄目ですコルボ班長! 効果がある様には見えません!」


 魔術師中心の旅団(パーティ)夜泣き烏(クローククロウ)は、先程まで自慢の攻撃呪文(スペル)で、魚頭擬人(ザハギン)の群れ相手に一方的に攻撃できていた。砲魚頭擬人(ランチャーザハギン)による四方からの攻撃も、防御呪文(スペル)で難なく防ぐ事げていたし、実際の所余裕が感じられる程には彼らも大氾濫(スタンピード)と言う物に対応出来ていたといえる。


 ――何だ、学院で学んではいたが、大氾濫(スタンピード)というのも大した事は無いな。と、そう彼らが思ってしまうのも仕方が無いといえるくらいには、だが。


 しかし、今目の前にいる相手――上位魚頭擬人剣豪(エリートザハギン・エルダーフェンサー)は違った。着地し、ただ一度吠えただけで、周囲の冒険者(シーカー)達は縮み上がり、剣の数振りで蹴散らされてしまう。


夜泣き烏(クローククロウ)の面々もまた、即座に呪文(スペル)で応戦してみたものの、低級の呪文(スペル)は身に纏った甲冑に似た分厚い鱗に阻まれ、強力な呪文(スペル)も相手の剣が放つ飛ぶ斬撃によって相殺された。


(き、聞いていない! 習っていないこんな事! これが、迷宮の主(ダンジョンボス)級の異種(クリーチャー)! こんな奴が現れるのなら、もっと高価な触媒を用意して置くんだった!!)

「だ、だがここで怯んでいては冒険者(シーカー)の名折れ!」


 コルボと呼ばれた夜泣き烏(クローククロウ)団長(リーダー)は、それでも手に魔力を集中させ、とっておきの呪文(スペル)を発動させた。


「喰らうが良い! 〔猛火の魔連弾(ボア・ラ・ミシルズ)〕!!」


 指先より放たれた五つの火炎弾が、上位魚頭擬人剣豪(エリートザハギン・エルダーフェンサー)へと迫る。一発一発が、大規模の爆発を起こす魔力の弾丸が五発。それらは狙いを誤らずに全弾直撃。大爆発を起こした。


「やったぞ! 流石私……あ」


 喜んだのもつかの間、ブオンと爆炎が魚の骨に似た異形の剣に振り払われ、その奥から異形の剣士の影が踏み出して来る。確かに全身の甲冑にこそ焦げ後が見えるが、あの爆発の規模にしては有り得ぬ程には軽傷に見えた。


「な、何故だ。私の最強の一撃だぞ。事実あれより大きな異種(クリーチャー)を倒した事だって――」

「んー、じゃあ、何か炎熱系に対して、抵抗力のある装備でも持ってるのかな?」

「っ!?」


 コルボ―が突然の声に後ろを振り返ると、魔導士風のローブを着た金髪の少女が、上位魚頭擬人剣豪(エリートザハギン・エルダーフェンサー)を観察しながら歩いて来た。


「き、君。危ないぞ!」

「心配してくれるの~、優しいね。けど大丈夫。あたしにも仲間が居るからさ」


 それは風の様に、上位魚頭擬人剣豪(エリートザハギン・エルダーフェンサー)へと肉薄し、剣と剣がぶつかった。お互いに剣を弾き合ったあと、何合か打ち合ってから距離を取る。


異種(クリーチャー)でありながら、確かな剣を振るう。素晴らしき剣士とお見受けする」


 群青の風(アズールウィンド)のヴェントが、愛用の細身剣(レイピア)を突き付け、宣言する。


「だが、此処までだ。君は、僕達群青の風(アズールウィンド)によって倒させてもらう!」


 その言葉と共に、ヴェントを含めた残る三人も集まり、戦闘態勢を取る。

 上位魚頭擬人剣豪(エリートザハギン・エルダーフェンサー)は、その言葉の意味を理解してか、またはせずか、しかし僅かに口角を上げ、今始めて剣を構えて攻めの姿勢を取った。


「行くぞ! はぁあああああっ!!」


 そして、群青の風(アズールウィンド)上位魚頭擬人剣豪(エリートザハギン・エルダーフェンサー)の決戦が始まった。



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



 -対海竜蛇(シーサーペント)戦線-


「うぉおおおおおっ!! 武闘士錬術(グラップラーアーツ)。《ガトリングフート》!!」


 トゥードリッヒが跳躍し、高速回転と共に放たれる蹴りの連打が、海竜蛇(シーサーペント)の腹部に炸裂する。


「トゥードリッヒさんに続け! 短槍錬術(ショートスピアアーツ)。《槍千本》!!」

剣錬術(ソードアーツ)。《クレセントショット》!!」


 他の怒れる拳(レイジングフィスト)の構成員もまた、自慢の武器練術(アーツ)を惜しげも無く叩き込み、海竜蛇(シーサーペント)に傷を与えて行く。


「おらあっ!! まだまだ銛は残ってるぜ!」


 そして、ナミノートの漁師達も、銛の攻撃や捕鯨砲でトゥードリッヒ達の援護を行っていて、今だ戦意が衰える事は無い。


「ジュ……呪じゃらrrrァあアアッ!!」

 

 しかしそれは相手も同じ。海竜蛇(シーサーペント)は次に長い体を捩じらせ、海から海水を含んだ竜巻を呼び出した。


「竜巻だって!? くっ、あれが障害物になって攻撃が届かない。しかも近付くのも更にキツくなったぞ」

 

 海竜蛇(シーサーペント)は相手の攻撃が止まった隙に、またも海面に顔を突っ込み、放水攻撃の準備を始めた。

 

「いかん! 総員構え――今だ!!」

「「大盾錬術(シールドアーツ)。《インスタントランパート》!!」」


 再び放水攻撃を聖竜騎士団がはじき返すが、先程よりも威力が大きく、一瞬陣が崩れかけた。


「不味いな、トゥードリッヒ殿!! こちらも限界が近い、同じ規模で撃たれた場合、防げるのはあと一、二回だ!!」

「了解した。ならば私も、己を賭さねばなるまい――」


 するとトゥードリッヒは目を閉じて意識を集中させ、特殊な構えを取った。


「あれは、皆。トゥードリッヒさんがあの技を撃つぞ! 何とか守るんだ!」

「了解した!!」


 海竜蛇(シーサーペント)は再び放水攻撃。聖竜騎士団が防ぎ――陣が一瞬崩れ、一部攻撃の勢いが

トゥードリッヒに迫った。それを仲間達が自身の盾と防御系の練術(アーツ)で防ごうとする。


小盾錬術(バックラーアーツ)。《ハンドパリィ》――うわぁっ!!」

「うおおおおっ!! 届かせるかあっ!!」


 そして、トゥードリッヒが目を開く。その構えた手は、強い光を纏い、名刀にも似た鋭い圧を発していた。


「ぬぅおおおおおおっ!! 武闘士錬術(グラップラーアーツ)。《金剛手刀斬》!!」


 叫ぶと共に手刀が振り下ろされると、金色の光が手刀より放たれ、海竜蛇(シーサーペント)に迫る。だが、相手もその攻撃の危険度に気が付いたのか、紙一重で体を捩って躱し、躱し損ねた鱗の一部がスパンと斬れた。


「くっ、躱されたか。だが、あの様子なら真面に入れば倒せる。だがどうやって――」

「おい、今の技。もう一度放てるか!?」

「む、君は!」


 トゥードリッヒに声を掛けて来たのは、ナミノートの漁師代表のアンカだった。


「行けるんなら、俺に言い考えがあるぜ、俺に命を預けてみないか――?」



「ジュ瑠流ルrr――」


 海竜蛇(シーサーペント)は、一瞬肝を冷やす思いをした物の、今だに真面な損傷は負っていない。このまま攻め続ければ此方の勝ちと、今度こそ思いっきり海水を口内の水袋に貯え、攻撃の準備を始めた。


「させるかぁああああっ!! 攻撃、攻撃だぁっ!!」


 それを阻止しようと、怒れる拳(レイジングフィスト)が一斉攻撃に入る。だが、丈夫な鱗と竜巻に阻まれ、届かない。


「ジュ瑠流ルァあ嗚呼アアッ!!」


 ――そして、今度こそ町ごとあの小さな連中を吹き飛ばす為、自身の出せる最大威力の放水を放った。


「行くぞ皆!! 騎士錬術(ナイトアーツ)。《キングダムプライド》!!」

「「「はっ!! 大盾錬術(シールドアーツ)。《インスタントランパート》!!」」」


 だが、それを王国の守護者。白く眩きセレスティアの城壁、聖竜騎士団が真っ向から受け止める。

 聖竜騎士団の中隊長。ピルムが、王国国土内での戦闘に対し、防御力補正を得る練術(アーツ)を発動させ、すでにボロボロになっている騎士達の大盾をギリギリまで持ち堪えさせる。

 それは、空から叩き付ける滝の水を、全部纏めて受け止めるが如き所業。されど騎士達の目に一切諦めは無く、背にある無辜の人々の居場所を守るという想いが、その盾を支えていた。


「う、受けきったあ!!」

「流石、聖竜騎士団だ! そして――頼みます!! |団長(リーダー!!)」


「ああ! 任せて置け!!」


 海竜蛇(シーサーペント)は気付く。今の声は、自身の発生させた竜巻の()から聞こえたと。


「ぅうおおおおらっしゃあああああっ!!」


 雄叫びと共に、アンカが小舟と共に竜巻から飛び上がる。アンカは仲間に用意させていた小舟を使い海へ、そしてこっそり海竜蛇(シーサーペント)へと近付きながら、敢えて竜巻の中へ飛び込んだ。

 ナミノートの漁師としての勘と操船技術で、竜巻に巻き上げられながら上昇し、見事――相乗りしたトゥードリッヒを、敵の頭上まで届けて見せた。


「この一撃で終わらせよう! ハァアアアアアアアッ!!」

「《金剛手刀斬》!!!!」


 その黄金の手刀は海竜蛇(シーサーペント)の首を一閃し、一瞬の空白の後、その頭がグラリと傾いて、海の中へと落ちた。


「やったぞ!! 勝ったぁあああああっ!!」

「「うおおおおおおっ!!!!」」


 皆が勝利の雄叫びを上げる中、粉砕された小舟から落ちたトゥードリッヒを、アンカが助け上げていた。


「おい、大丈夫か!? ったく、泳げないなら先に言えよ!」

「ふ、はははは。遂、己でも忘れていた。それと済まなかったな」

「あん?」


「君達を、所詮非戦闘員と侮った事、詫びさせて欲しい」

「へっ! それを言うなら俺たちだって――ん?」


 アンカはふと、何かに気付いた様な表情で暗くなりかけの空を見上げる。その表情は、大勝した後とは思えない程に険しい。


「どう、した? 顔色が悪いぞ」

「……良くねぇ空気だ。こりゃにわか雨どころの話じゃ無ぇな――」


 それはアンカの漁師としての勘。海に慣れ親しんだ者だからこそ、分かる予兆だった。


「嵐が来るぜ。それもドデカい嵐がな」





 

 


 -tips2-

 海竜蛇(シーサーペント)

 普段は遠洋にて暮らす巨大な海蛇型の異種(クリーチャー)。トゲトゲしい鱗は下手な攻撃を通さず、口内の水袋に水を溜め、勢いよく発射する事で敵を攻撃する。更に水の魔力を行使して竜巻を発生させ、自身の盾とする技も使う。竜種(ドラゴン)に似ているが飽くまで亜竜種。


※文修正

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