波乱に次ぐ波乱
-tips-
武闘士。
無手による近接格闘に特化した纏職。
更に体内にて魔力と生命力を混合して精錬し、攻撃に利用する――闘気法を用いた戦闘で、ただの肉弾戦とも違う戦い方が出来る。
「怒れる拳の団長。トゥードリッヒ殿とお見受けします」
次々とナミノートの決戦場に、冒険者達が集まる中、トゥードリッヒに声を掛ける者がいた。
「その鎧、王都の聖竜騎士団の者か」
その人物が身に纏っている鎧は、ドラグレスト王都の騎士達の中でも、精鋭と言うべき者達が使用している鎧だ。胸元にはドラグレスト王国の紋章たる竜が刻まれている。
「私は、その第四席の中隊長を務めるピルムという物です。貴方がこの防衛陣の中心と見て、声を掛けさせて頂きました。我々はこれより、この町にまだ残っている住人の避難誘導を半分が、もう半分が、ここであなた方と協力して、防衛任務に当たる次第です」
「そうか、助かる。ならば、彼方に、ナミノートの鍛冶職人達がまだ残っているから、彼らの警護をお願いしたい」
「鍛冶職人? 成程、彼方にまだ現地民が――了解しました」
と、ここでトゥードリッヒは、思い出した様にピルム中隊長へと尋ねる。
「――む、そうだ。君達の隊長――"十二騎士"の一人は、ここには来ていないのか?」
「あぁ、あの方は別任務の為、此方には……」
「そうか――いや、ならばそれで良い。ここは我らで何とかしよう」
(かの十二騎士が一人でも助力してくれれば、この戦いを一気に終わらせられるやもと思ったが、贅沢は言って居られまいか――!)
と、此度の大氾濫の間の悪さに改めて歯がゆい思いをするトゥードリッヒだったが、直ぐに意識を切り替え、戦場へと飛び込んで行った。
◆ ・ ◆ ・ ◆
「向こうにもデカいのが居るな! リイム! 合わせてくれ!!」
「何時でも!!」
一方こちらはアッシュとリイム。またも三体、束になって表れた鮫歯魚擬人へとアッシュが機械弓を構える。発射された矢は相手の眼前で破裂し、中に仕込まれていた特殊な塗料がその目へとぶち撒けられた。
「ジャ嗚呼ああ悪ぅうあ!?」
視界を塞がれ、混乱する鮫歯魚擬人へと、リイムが迫る。
「暗殺者錬術。《ハイド・アンド・キリング》!!」
そして、すれ違い様に練術を発動。こちらを視認していない相手に痛撃を与えるその特性が効果を発揮し、鮫歯魚擬人達は一斉に倒された。
「うおっ! あいつ等中々やるじゃねぇか!」
「マグレだマグレ!! 俺達もやるぞロカル」
「おっしゃ、任せろマウル!!」
アッシュの昔馴染みマウルとその相棒のロカルが動いた。ロカルが大型の騎馬槍を構え、魚頭擬人の群れへと突撃する。恵まれた体格と金属鎧の突進は、それ自体が一つの兵器となりうる。
「鎧戦士錬術。《ヘビィウェイトチャージ》!!」
小物とはいえ、十を超える魚頭擬人の群れを押し込み、吹き飛ばして行く【鎧戦士】のロカル。
「そらそら! 軽装士錬術。《ウェポンジャグリング》!!」
そして、ロカルがこじ開けた後ろから、何本もの短剣が飛んで来る。【軽装士】マウルの武器投擲術によるものである。これにより、ロカルの突撃を躱して反撃してこようとした魚頭擬人達も倒された。
「力はあるが、動きが鈍いロカルが真っ向からぶつかって多勢を吹き飛ばし、機動力に優れるマウルが残り物を処理して補助――相変わらず良い連携だな。そして――」
アッシュが空を見上げれば、エーデが空を駆けながら、空中。地上と行き来し、次々と異種を倒して行く。その勢いは正に蹂躙呼べるものだった。
「本当に凄い動きだなあれ。彼女、本当に飛んでる訳じゃないのか?」
「ええ、彼女の片翼では飽くまで滑空が精々。上へと飛び上がる力は無い。しかし、纏職の特性でそこを補助している様ですね」
リイムの言葉の通り、あれほど天地を自由に駆け回っている様に見えるエーデだが、逆に言えば彼女はずっと空中にいられる訳ではない。片翼であり、飛行能力に制限があるエーデは、取得している纏職の【高峰戦士】により、その半端な飛行能力を補助している。
【高峰戦士】は高さを武器とする纏職であり、常に上を取る戦法を得意とする。例えば、高峰戦士錬術の一つ《エアリアルジャンプ》は、本来足場の無い空中にて、二度目の跳躍が可能な練術。これらの様な高度を自在とする技と、風を読んで片翼で軌道と体勢を調整するエーデ本人の技巧など、彼女は自身の持つ要素を纏め、利用する事で、あれ程に完成度の高い空中二刀流剣術を可能とするのである。
「っと、惚けてる場合じゃないか。このままじゃ本当に冒険者を辞めさせられてしまうしな!」
アッシュも負けじと、炸裂矢の連射で魚頭擬人の群れを吹き飛ばして行き、他の冒険者達も勢いに乗って更に攻めの姿勢を強めて行く。
「おい、このまま行けるぞ!」
「何だ、大氾濫なんて言って大した事無ぇじゃねえか!」
何処かでそんな冒険者同士での会話がなされた次の瞬間。海の中から、大きな水飛沫と共に、三体の巨大な影が現れた。
「こいつ等は――第三波か!!」
そもそも、大氾濫は大まかに言って三度の波がある。
第一波。低級の異種の群れによる行軍。
第二波。先の群れに加え、更に強力な別種の異種の追加。
そして第三波が本命。特に強力な異種の複数体出現である。
「ジュ瑠流ルァあ嗚呼アアッ!!」
一体目。海上に見えているだけでも三メートルはあろうかと言う鋭い鱗を持つ海蛇の異種。海竜蛇。
「――…………」
二体目。港に地響きが発生する程の重量。手足と甲羅に幾つもの砲台を有する巨亀の異種。砲台大亀。
「ゥ魚オ雄々オオッ!!」
そして三体目。先の二体程大きくは無いが、二メートルは背のある筋骨隆々の魚頭擬人。その系統上位種。手に異形の剣を持つ上位魚頭擬人剣豪。
「気を付けろ! 三体とも、魔窟の主としても出現する異種だ! 一切の油断も許されないと思え!!」
トゥードリッヒが声を上げると同時に、海竜蛇が首を海面に突っ込み、暫くして再び顔を出した。
「不味いっ!! 船をも沈める放水攻撃だ! まともに喰らったら骨も残らないぞ!!」
漁師として、海竜蛇の生態をしるアンカが、血相を変えて叫ぶ。
「骨も残らないって、どんな威力だよ!」
「と、いうか逃げようがないぞ!?」
そういう間に、海竜蛇の口が開き、大砲とも称されるその放水攻撃が――。
「防衛陣構え! 今だ!!」
「「大盾錬術。《インスタントランパート》!!」」
炸裂し、建物以上の水柱が立つ程の一撃が――防がれた。
「おお! 聖竜騎士団の連携練術だ!」
「揃って同時に発動させる事で、その効果を倍増させる防御技! 流石だ」
「冒険者の諸君!! あちらの攻撃は我らで防ぐ! 貴君らは攻撃を頼んだ!!」
「ピルム殿感謝する! おおおっ! 武闘士錬術。《オーラギガントフィスト》!!」
ピルム達聖竜騎士団が攻撃を防いだ隙に、トゥードリッヒの渾身の一撃が炸裂。その衝撃で、海竜蛇が大きく仰け反った。
「まだまだだ!! このまま攻め続けろ!!」
◆ ・ ◆ ・ ◆
「ふっ、はっ!!」
エーデが空中で器用に動く。その間を何かが高速で通り抜け、それは次第に重力に引かれて地面に墜落し、その後に大爆発を起こした。
「なんて攻撃するのあの亀! 甲羅に守られて中々攻撃が届かないし!」
エーデが睨みつけるのは砲台大亀。
動きは鈍いものの、甲羅の防御力は凄まじく、力自慢の前衛冒険者達がどれだけ殴りつけてもまるで堪えない。それ所か、お返しとばかりに体中の砲台から爆発する鉱石を打ち出し、攻撃する始末。
「硬い体に、鉱物の発射――あの生態……岩鱗蜥蜴にも似ているかもな」
アッシュは、かつて相手をした異種を思い出し、その攻略法に思い当たる事があった。実は、かつてアッシュ達が苦戦したあの岩鱗蜥蜴だが、血塗れの大斧の下っ端構成員一人でも倒せる、適切な攻略法が有ったのだ。それは、アッシュも使っている手作り爆弾を岩鱗蜥蜴の口に向かって投げる事。
なんと岩鱗蜥蜴は、爆弾を餌だと勘違いして飲み込み、体内で爆発させて死んでしまうのだ。あの時、アッシュは構成員の一人からその話を聞いた時、唖然としてしまったのを覚えていた。
「試して見る価値はあるか。ヴィリジア!!」
「使用者?」
アッシュに呼ばれたヴィリジアが近くに寄ると、アッシュはヴィリジアだけに聞こえる様に姿勢を下げ――何やらこしょこしょと話始めた。
「以上だ。行けるか?」
「問題無い」
よし、とアッシュは砲台大亀の動きに注目する。砲台大亀は甲羅に身を隠す直前。思い切り息を吸うのが見えた。そして甲羅に入り、甲羅の砲台の中の一部が、ひくひくと微動する。アッシュはその一瞬に狙いを定め、ヴィリジアに指示した。
「今! 右端から二番目の砲台だ!!」
「了解。《バリアペースト》」
そして、ヴィリジアの練術による半透明の障壁がアッシュの示した砲台の蓋をし、次の瞬間。その蓋をした砲台が暴発。砲台大亀が悲鳴を上げて顔を出した。
「今だ喰らえ! 《チャージボルトショット》!!」
「では私も―― 《エアリアルクロー》!!」
待ってましたとばかりにアッシュとリイムの同時攻撃が炸裂。倒すには至らずとも、確かに手応えを感じる程に、痛打を与えたと思える一撃だった。
「よし、このまま行く!! 皆、先刻みたいに合わせてくれ!」
「はい!」
「指令了解・続いて練術発動準備に入る」
「――やるわね」
しかし、エーデもまた、ただで終わる女ではない。その視線は猛禽の如く、空から二つの獲物を見定めているのだった。
-tips2-
高峰戦士。
北の高地に築かれた国ミアゲルフォードでのみ取得可能な纏職。
高く位置取り、上方から高威力を発揮する練術を多く取得し、位置取りに大きなアドバンテージを持つ。基本的に近接武器のみに補正が入る特性があり、それこそエーデがこの纏職を好んで取得している理由の一つ。
※文微修正




