STAMPEAD
-tips-
アッシュの改造矢。
分かっている物一覧。
一般の矢 ザ・普通の矢。クロスボウに合わせて短めになっている。
炸裂矢 火薬仕込みの矢。直接ぶつけて爆破したり、導火線に火をつけて時間差で爆波も可能。
歪曲矢 敢えて歪な形にして、大きく軌道を曲げる矢。相手に発射位置を悟らせない。
??? 新たに作られた新作の矢。詳細はまだ不明。
「直ぐに赤の信号弾を放て!! 急いで事を知らせなければ!!」
「りょ、了解し――」
トゥードリッヒが部下に指示し終える前に、アッシュは自身の機械弓で赤い光の信号弾を放った。赤の光は緊急集合。今ここに至っては、大氾濫到来の知らせとなる。
「これで良いですか?」
「……済まんな、しかし早すぎる。まだ現地に到着していない者も居ると聞くのにまさかここまでズレて来るとはな!」
「トゥードリッヒさん。どうします?」
「どうもこうも有るまい……せめて、広場に居る者達が集合するまでの時間を稼がなければ――」
トゥードリッヒ率いる怒れる拳は、今ここで大氾濫を喰い止める構えだ。そして、ナミノートの若き漁師達もまた、動き出そうとしていた。
「や、やるしかねぇ! お前ら! 鍛冶屋から例の物を持って来る様に言って来てくれ!」
「けどアンカ! あれはまだ完成まで時間が掛かるって今朝親方が言ってたじゃねぇか」
「あっ……けど、あれが無ぇとどうにも――」
「おおーーい!!」
街の方から声が届く。それはナミノートの鍛冶師達とその纏め役たる親方の声だ。彼らは布に被せられた巨大な物体を台車に乗せ、波止場に運んで来ていた。
「お、親方!? まさかもう出来たのか!?」
「おうよ! 赤い光が飛んでたからまさかと思ったが、あの糞ガキのお蔭で間に合ったぜ!」
「わぁ、どこの誰だかは知りませんが、その糞ガキさんに感謝ですね」
「何故棒読みで言ったのですか我が光?」
鍛冶師達が持って来たのは、鋼鉄の投げ網と複数台の捕鯨砲だ。それらを波止場の各所に設置していき、即席の防衛線が出来上がった。
「どうだ! これだけの装備が有れば、魚介共が束になろうが目じゃないぜ!だはははは!!」
「――ハァ、やはり甘い。甘すぎる」
「ぁあ? 何だと!?」
嘆息するトゥードリッヒにアンカが食って掛かる。しかし、トゥードリッヒは冷静に状況を見て告げる。
「あれを見ろ。夕日の真下辺り、あの子供が書き殴った様な黒い影――それら全てが異種だ。あれを全て対処するには、幾ら何でも数が多すぎる」
「ぐっ、確かにそうかもだが――」
「対処しなくて良いんじゃないですか?」
「む?」
口を挟んだのはアッシュだ。アッシュは港を見渡した上で、己の意見を発する。
「この港、海から結構高さが有りますね。なら、余程大きい者以外は直ぐに登ってこれない筈。なら、漁師さん達には大物をその捕鯨砲で抑えて貰い、それ以外の多数を俺達で処理する。それで良いのではないですか?」
「しかし、ここを任されたのは我々冒険者だ。地元の者を怪我させる訳には」
「防衛に失敗したら、無事以外の全部無くなります。それは無事と言えますか」
アッシュは真っすぐな目でトゥードリッヒに問う。トゥードリッヒもまた、真剣にアッシュへと相対し――そして、フッと笑う。
「臆病者と聞いていたが、全く――現地に居る怒れる拳全員に告げる!!」
その声は、先程の怒声とはまた別種の、強く叩き付けるのではなく言い聞かせる様な声色。
「我々は大氾濫に対し、現地民の協力の下防衛を開始する! 第一陣は殆ど雑魚だ。練術の使用は成るべく抑え、冷静に事に当たれ! 以上!!」
「「はいっ!! 団長!!」」
「おう聞いたかお前ら!! 冒険者共と手ぇ組んで大漁祭りだ! 気張るぞお!!」
「「おっしゃあっ!!」」
「よし、じゃあ俺達鍛冶師は後方で待機だ。武器が壊れたら直ぐに直してやれる様にな!」
「「了解です、親方!!」」
「じゃ、俺達も頑張るか! リイムは高台から向こうの動きの観察。ヴィリジアは――今は待機だ」
「畏まりました」
「待機任務了解・魔力消費最小状態に移行」
「じゃ、オレッキもリイム姉貴と一緒に行くッス!」
立場は異なれど、ナミノートを守るという志しの下。それぞれの陣営が、大氾濫への対処に動き始めた。――そして。
「もう祭りが始まったの? 今回の相手はせっかちね」
突風が吹いたと思ったら、エーデが空より飛来し、アッシュ達の下に着地した。
「三つ翼のエーデ! 君も居たのか」
「うおっ、えらい別嬪だ!」
「信号弾を見て飛んできたのか――まだ来なくて良かったのに」
「聞こえてるわよ何でも屋さん? まぁいいわ。そろそろ団体さんご到着みたいだしね」
そして、エーデのその言葉と同時に、激しく波飛沫が立つ。
「皆さーん。もう直ぐ来ますよー!」
と、どこか緊張感に欠けるリイムの合図と共に、大氾濫の第一陣が、港の壁を登ってその姿を現した。
「「ギョ虚きょ巨キョーーッツ!!」」
魚の頭と鱗の肌、手に銛を持つ人型異種、魚頭擬人。百を超える魚頭擬人の群れが、べたりと足に似た鰭を地に着け、襲い掛かって来た。
「迎え撃てぇえええっ!!」
「「「ぉおおおおおおおおっ!!」」
港側は武器と団結力で、海からは数の暴力で、二つ勢力が真っ向からぶつかり合う。
「俺達も行くぞぉおおおおっ!」
「「おらぁあああああああっ!!」」
アンカ達漁師組も負けじと、銛を手に次々と魚頭擬人達を倒して行く。
「よーし! 最新版の炸裂矢だ! 吹き飛べ!!」
そしてアッシュは新たに改良した炸裂矢を放ち、水柱を上げながら異種の群れを吹き飛ばす。
「どうだ! 俺達もなかなかやるもん――ぐわぁっ!」
漁師の一人が肩に攻撃を受けた。それを放ったのは、口から水を高速放射する異種。砲魚頭擬人だ。
「これから強力な種も出て来る! 油断するな!」
トゥードリッヒの言う通り、魚頭擬人の群れに混じって別の異種も出現している。トゥードリッヒは姿勢を整え、無手格闘に特化した纏職の一つ【武闘士】としての技を放つ。
「武闘士錬術。《レッグショックウェイブ》!!」
トゥードリッヒが遠くまで届く蹴撃で、砲魚頭擬人ごと複数の魚頭擬人を吹き飛ばす。すると今度は、海の中から群れに紛れて巨大な影が飛び出して来た。そのシルエットは通常の魚頭擬人の倍近くもあり、その鰭や顔つきは鮫のそれに似ている。
「鮫歯魚擬人だ! 皆一斉に掛かれ!!」
号令に応じて複数の冒険者が鮫歯魚擬人を囲む。
「叩け叩けえっ!!」
「噛まれたら即死と思え!!」
剣や槍と、鮫歯魚擬人に攻撃が殺到する。しかし丈夫で滑らかな鮫肌に阻まれ、思ったよりダメージが通らない。
「ジャ亜くァ嗚呼ああッ!!」
「しまった!! 逃げ――」
と、鮫歯魚擬人が目の前の武器を持たず、徒手空拳で戦っていた冒険者一人に狙いを定め、大口を開けた。
鋭利な歯を持つ顎が、容赦なく獲物に喰らい付こうとした、その瞬間。
「二刀流錬術。《クロスソードエッジ》!!」
二振りの剣閃が閃き、鮫歯魚擬人の腹を十字に切り裂く。それを放ったのは、三つ翼のエーデだ。
「雑魚ばかり切っても剣が脂で汚れるだけだし、こう言う大物を狙った方がよさそうね。さて、あっちはどの程度の獲物を――」
と、エーデがアッシュの事を探そうとした瞬間。離れた位置に出現していた鮫歯魚擬人の口内が爆発。悲鳴を上げて倒れ――それを成したアッシュが叫ぶ。
「頑丈な肌を持つ鮫歯魚擬人は、反面皮膚への打撃に弱い! 重量のある武器で攻撃を!! 出来れば、急所と思われる目や鼻――体内なども効果的かと!!」
「――へぇ、口だけじゃないみたい。こっちも少し本気をだそうかしら?」
大型が倒されたが、喜ぶ暇も無く大氾濫は続く。魚頭擬人の群れの中にも通常より強い種がいたり、砲魚頭擬人の様に遠距離攻撃が可能な種が増えて来た。
「くそ、まだ途切れねぇもしねぇのか!」
「仲間がやられた! 手当てをしたい! 退いてくれ!」
流石に、防衛側にも損害が増えて来た。大氾濫にまだまだ終わりの気配は無く、皆からは疲労の色が見える。
「はぁ、はぁ、確かに舐めてたぜ――これ程の数を相手にしたのは初めてだ」
アンカが折れかけの銛に体を預け、息を切らせている。と、ここで沖の方より、何かが飛び出して来た。
「あれは――不味い! 逃げろアンカ!!」
漁師の一人が必死に声を上げた。アンカが何事かと沖に目を向けると、向こうから何かが高速で飛んできているのが見えた。
「う、うぉおおおおっ!!」
アンカが跳ねる様に逃げた次の瞬間。先程までアンカが居た場所に飛来し、衝撃音と共に床が粉砕される。そこに残っていたのは、ビィンと地面に突き刺さったまま、直立した姿の矢の様な細身の大魚だ。
「ギョライダツだ! 奴ら、沖からコイツらを連れて来てたのか!」
「あ、あんなやばいダツがいるのか……この世界は海も侮れないな」
アッシュがそう言う間にも、ギョライダツが更に飛んで来る。
漁師達は流石に慣れているのか被害は少ないが、今度は怒れる拳側から被害が出始めた。
「ぐわあっ!」
「不味い、胸に! おい、しっかりしろ!」
「急所は反れてる! ダツを抜いて水薬をぶっかけろ!」
怒れる拳が近距離戦闘専門の師団である事を含めても、海の彼方から飛んで来る巨大な矢の如きギョライダツの襲撃に、想像以上の苦戦を強いられていた。
「うわぁああっ! 鮫歯魚擬人が更に三体!!」
そんな中、更に襲撃が更に加速する。
群れの中から、三体の鮫歯魚擬人が纏まって現れ、防衛側を蹂躙し始めた。
「しまった、防衛線を――町に決して入れるな! 押さえろ! 押さえろーーっ!!」
「ちっ、させるものですかって、ダツ邪魔!!」
皆、必死で押し返そうとするが、疲弊した状態ではそれも大した抵抗にならない。鮫歯魚擬人を起点として、大氾濫が防衛線を破らんとする。
「くっ! 駄目か!!」
誰かがそう口にした瞬間――。
「今だ、ヴィリジア!!」
「指令受諾・戦闘行動開始」
その冷静な声色と共に、大氾濫の異種が、何かにぶつかって急停止した。
「な、何だ!?」
皆突然の事態に戸惑うが、それを成したのは一人の少女――正しくは、防御能力に特化した特殊な技を持つ磨製淑女。ヴィリジアである。
「敵勢力・停止確認・次いで反撃開始・模造錬術・《バリアプッシュ》」
そして、ヴィリジアの手の動きに合わせて薄緑の障壁が動き出し、そのまま魚頭擬人達の群れが海の方まで押し返された。
「良いぞヴィリジア! 再び前線が崩れかけたら補助を頼む!」
「了解・再び待機状態に移行」
そして、そうしている内に、町の方から残りの冒険者達が次々と現れ始めた。
「くっ、まさか最前線にいたなんて、何でも屋より活躍してリイムさんに振り向いて貰うって作戦が……」
「それでヴェントったら何でも屋さんの事探してたんだ」
四人組の新人旅団、ヴェント率いる紺青の風。
「魔法陣設置、完了しました!」
「では、合図と共に法撃を開始して下さい!」
セル・ラ・セージ魔導学園出身の旅団。夜泣き烏は、港に近い建物の上に陣取り、魔法で攻撃準備を行っている。
「到着したぜ! 素材素材!!」
「軍資金! 報奨金!!」
「おい、怒れる拳が既に戦って――って何でも屋も居るじゃねぇか!!」
「はぁ!? あの野郎より遅れたなんて恥ずかしすぎるぜ! おい、俺達の分も残してあんだろうなぁ!!」
ナミノートに集まった冒険者達が全員港に到着し、港を埋め尽くす程の人数が集まった。
「はは、マウル達もちゃんと居るな。リイム! 此処からは俺達も全力だ! 張り切ってやるぞ!!」
「畏まりました。では、様子見は此処まで――私も戦闘に参加させて頂きます」
と、爪を構えて臨戦態勢に入るリイム。アッシュも新作の機械弓に矢を再装填し、更なる襲撃に備える。
「「「ギョ魚ギャ擬夜ぎゃぎゃッ!!」」」
半魚人達が声を上げると、群れの奥から更に鮫歯魚擬人が複数現れる。
――それだけじゃ無い。
海から更に飛び出したのは、巨大なエイの様な異種。空泳海鷂魚と、それに乗って空を飛ぶ砲魚頭擬人。それもまた複数で出現している。
「空を飛べる奴も居るのか!? あんな所から狙われたら――」
と、アッシュが呟いたその瞬間。エーデが飛び立ち、空中に居た空泳海鷂魚と砲魚頭擬人を次々に撃墜して行った。
「空は私の領域。勝手は許さないわよ!」
エーデの片翼で自在に風を掴み、更に両手の剣を振るう様は、確かに三つの翼で空を舞っている様に見える。
「三つ翼のエーデさんも来てくれたぞ! 何て頼もしい姿だ!!」
「成程三つ翼ね、そう呼ばれるだけはあるって訳だ」
しかし、異種側もこれだけで終わらない。既に名前が分かっているものの他にも、今だに姿を見せない新たな異種の影も見え隠れしている。
――大氾濫は、正にここからが本番だった。
-tips2-
魚頭擬人。
水棲の異種の中で最もポピュラーな種。
大型の魚が人っぽく動くというだけのものだが、凶暴な上、水中での機動力は中々で、集団で船を襲う事もある。
因みに肉質は種類にもよるが、新鮮な内はそれなりにイケる味。ただし放って置くと直ぐ痛んで食べられなくなるので、もしも食べたい場合は、熱を通し難い素材の箱に氷を入れて持参する事。
※文微修正




