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禁忌種(タブーブラッド)の人生クエスト  作者: カッパ巻き
第三章:夕日に焦げる大氾濫
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鍛治の音色と白き翼

 -tips-

 ヒノキオ。

 アッシュ一行のマスコット枠。

 種族は住居精樹(ハウストレント)で、成長すれば文字通り住居に変身することが出来る。今はまだ成長途中な為、喋り、二足歩行が出来る程度。アッシュ達を兄貴姉貴と慕っており、皆からは可愛がられている。

 


 一方その頃――リイムとヴィリジアの二人は街の散策をしながら、大氾濫(スタンピード)に置ける被害の大きくなりそうな場所に当たりを付けていた。


「この辺りは道が広く、そのまま入られた場合に被害が出そうですね」

「了解・注意区域として・指定完了」


 そして、次の場所へ移動しようとしたその時、二人に――正しくはその内の一人に声を掛ける者が現れた。


「リイムさん。お久しぶりです」

「? ――あら、貴方は」


 ヴィリジアが警戒する前で、リイムの顔見知りの様に振舞うのは――複数の仲間を連れた剣士だ。


「確か、ヴェントさん。でしたね? ソレル達と共に居た時、一度顔を合わせた事がありました」

「覚えていてくれて光栄です。僕達群青の風(アズールウィンド)は、蒼穹の銀翼(ウィングラインブルー)に憧れた者達で結成された旅団(パーティ)ですから」


 美麗の剣士――ヴェントは恭しく頭を下げる。その背後に居る残り三人も、同じくリイムに頭を下げて挨拶した。


「其方が貴方の仲間ですのね? 心強そうで、何よりです」

「いえ、まだまだ貴方達蒼穹の銀翼(ウィングラインブルー)には遠く及びません」

「謙遜ですね。あ、後訂正をお願いできますか? 今の(わたくし)は、蒼穹の銀翼(ウィングラインブルー)では有りませんので」


 リイムのその言葉にヴェントは一瞬頬を引くつかせる。しかし直ぐに笑顔を作り――。


「あはは。申し訳在りません。僕にとってリイムさんは、やはり蒼穹の銀翼(ウィングラインブルー)の一員なので」

「……まぁ、確かに突然。と、言えば突然でしたからね。あれ以降、ソレル達とは?」


 ヴェントは首を横に振って否定の意を示す。そしてふと、隣のヴィリジアに視線を向けた。


「――そういえば、こちらは?」

「私の仲間の一人、ヴィリジアです。さ、ご挨拶を」


 ヴィリジアは、先んじてアッシュやリイムから学んでいた挨拶――俗に言う跪礼(カテーシー)の動きでヴェントへと礼をした。


「こ、これはご丁寧に――って、彼女も戦うのですか?」

「フフ、とても頼もしい仲間なのですよ。さて、私達はこれで――」

「あ、あの!」

 

 ヴェントが呼び止めたので、一瞬首を傾げるリイム。ヴェントは一瞬たじろいだ後、意を決した様に告げた。


「僕、貴方に僕達の旅団(パーティ)へ加入して欲しいんです! 今日、会ったらその話がしたくて――」

「申し訳在りませんが、私の居場所はもう決めています。では」

 

 と、今度こそリイムとヴィリジアは去って行った。


「振られちゃったね~」

 

 暫くして、そうヴェントに声を掛けてきたのは、群青の風(アズールウィンド)の一員である金髪の少女だ。


「どうする? 諦めちゃう?」

「そうは行かないよエクレア。僕達は蒼穹の銀翼(ウィングラインブルー)を超える。その為に――」


「リイム・ゼラは絶対に必要な存在なんだ。彼女には絶対に――僕達の旅団(パーティ)に入って貰う!」



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



「ん? 今妙な寒気が――潮風は避けたつもりだったんだがな」

「オレッキも潮風は苦手ッス」


 一仕事を終えたアッシュとヒノキオ。彼らは広場から少し離れた人気の無い場所で先刻までとはまた違う作業を行っていた。


「で、兄貴今度は何してるッス?」

「これから大変だろうからな。先の商売でちょこちょこ貰った素材なんかも利用して、また何か作ろうと思ってね」


 ヒノキオと軽く雑談しながらもその両手はテキパキと動き続け、新作の改造矢や武器の調整。更なる新兵器の創作など、次から次へと作業が進んで行く。


「兄貴はもの作りの事になると、本当動きが速いッス」

子供(ガキ)の頃からずっと手を動かして来たからな。特にここ最近は武器のアイデアも溜まっているから作っても作ってもまだ足りない。腕が後二本は欲しい所――いや、むしろ作るか?」

「そこでそういう発想になる兄貴は変ッス。変態ッス~」

「誰が変態か失礼な! っていうかどこでそんな言葉を覚えて来やがった?」

「誉め言葉ッス~」


 ヒノキオの言い回しに侮蔑の感情は浮かんでこそいなかったものの、やはり変態呼ばわりは御免被りたいアッシュは、釈然としないまま作業を続ける。そしてヒノキオ当人(木)は空を見上げながらカモメッスーと呑気にしていた。


「ったく。言葉遣いを覚え直させなきゃ駄目かね全く……」

「兄貴~。翼が三つの鳥が飛んで来るッス~」

「あん? そんな鳥そうそう居て堪るかい。魚でも咥えてたんじゃないのか?」


「失礼ね。そんなに食い意地張って無いわよ」

「っ!!?」


 鳥の羽搏く音と共に、凛とした少女の声がアッシュの耳に届いたのはその時だった。

 急いで後ろを見てみれば、背中に翼――正しくは、真っ白な片翼を生やした金髪の少女がいつの間にか後ろに立っていた。


「び、びっくりした……」

「あら御免なさい? でも、人が居ない場所と思って降りて来たのに、こんな人目に付かない場所でガラクタ弄りなんてする方も悪いのよ?」


 少女はその自身有り気な態度でアッシュの事を見下ろす。アッシュはその時点で、言い返すだけ無駄なタイプだ――と直感し、視線を手元に戻す。


「あぁそりゃ悪かったね。別に用事がある訳じゃ無いなら作業を続けさせて貰うよ……」


 と、思った所で、背後の気配はゆっくりと回り込む様な足音と共に、アッシュの目前まで移動した。


「何作ってるの?」

「……武器、その他もろもろ。俺は何でも屋なんでね」

「貴方が――? へぇ、そうなんだ」

 

 少女の声に、先程とはまた別の感情が乗った気がした。それはちょっとした興味の情で、少女はアッシュの事を見下ろしたまま暫く見つめた(のち)――ふぅん、良いわね。と呟いた。


「ん?」


 少女から何か妙な気配を感じたアッシュだったが、顔を上げた時にはもう少女の姿は消えていた。


「何だったんだ先刻の。なーんか嫌な予感がしたが……ま、いいか」

 

 アッシュは再び作業へと没頭する。その姿を、いつの間にか建物の屋根の上から、片翼の少女が見下ろしていた。


「ふふ、今日の獲物は貴方に決めた。覚悟しなさいね、何でも屋さん?」


 少女は片方だけの白翼を広げ、一気に跳躍する。そしてそのまま向こうへと飛び去って行った。



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



 そして、漸く作業を終えたアッシュはヒノキオと共にナミノートの街中を歩いていた。その途中、何やら懐かしい――賑やかな雰囲気を感じたので見に行ってみると、何やら屈強な男達が、灼熱の空気の中で作業をしていた。


「おら急げ急げ! チンタラしてたら間に合わねぇぞ!」

「押忍! 親方!!」


 むさ苦しい男達の怒号と真っ赤に焼けた金属の叩く音が響くその場所は、大きな鍛冶場の様に見える。となれば、そこで働く彼らは、鍛冶職人と言う事だろう。


「こんな時でも全力だなぁ。職人ってのは」

「兄貴ももの作りの時はあんな感じッス」

「え、そこまで必死にやってる訳じゃ――」


 と、話していた所で作業をしていた職人の一人がアッシュ達に気付いた。


「おう、兄ちゃん。ここは遊び場じゃないぜ? 帰んな!」

「おっと、邪魔する気はありませんでしたが、気に障ったならすみません。所で、貴方達は避難しないんですか? もう直ぐ大氾濫(スタンピード)が起きるのに」

「はっ! 何を言い出すかと思いきや! 俺らはその大氾濫(スタンピード)ってのに対抗する為の物をここで作ってんのよ!」

 

 作業場をよく見ると、中で作られているのは巨大な銛を発射する様な所謂固定型の捕鯨砲。鋼鉄の網など、確かに普通の漁には必要なさそうな物ばかりだ。


「ナミノートの漁師連中から頼まれてよ、俺達の技術を頼って水棲の異種(クリーチャー)用の道具を作ってるのさ! 分かったなら帰れ。冒険者(シーカー)だか何だか知らねぇが、ここは俺達の縄張りだ! ……ってあり!? あのガキは何処だ!?」


「この捕鯨砲恰好良いなー!! 成程海水でも錆びない様塗装(コーティング)して……ふむ、ほーへー」

「くるrrぅああああああっ!!? 何してんだこのガキィ!!」


 アッシュは鍛冶場の中に入り込み、道具を周囲三百六十度で眺めていた。因みにヒノキオは熱さに負けてアッシュの鞄の中に逃げ込んでいる。


「職人さん。あの辺りの連結部分なんですけど」

「ですけどじゃねぇ! 今ここは俺らの縄張りだって話をだな!」

「あそこですあそこ。あの辺り接続甘く無いですか? あれだと何回か発射しただけで外れそうなんですけど……」

「ああ!? んな訳……。本当だ、そこだけ緩くなってやがる。誰だ手を抜いた仕事しやがったのは!」

「あ、あとそこの――」

「何だ。何処だ何処だ――」



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



「――ふぅ、ったく最近の奴らは熱が足りねぇよな熱がよ」


 ここ、ナミノートの鍛冶職人達を束ねる親方がふとぼやく。今ここにはナミノートの鍛冶職人が集まっているが、全員では無い。三分の一程、特に若い職人は、己の命が大事と先に避難してしまった。それ自体を咎める気は無いが、それでも町を守る為に必死になっている人間を置いてさっさと行ってしまうというのは――少々悲しいと思ってしまう親方だった。


「ん? おい、そこ! 何集まってサボっていやがる!!」


 親方はふと、一か所に職人達が集まって何かを見物しているのが見て取れた。親方はそれをサボっているものと思って怒鳴り散らすのだが――。


「……よし、こんな所かな」

「ほー、こいつは中々――」

「てめぇら何して……いや誰だ?」


 親方が職人達に囲まれて、何か作業をしている少年を見つける。その間にも少年は、まるで流れる様な手作業で刃を磨き、部品を組み立て、一本の銛を仕上げてしまった。


「お、おい小僧それは」

「すみませんが、お仕事を手伝わせて貰っています。どうしてもじっとして居られなくて」

 

 そう言って遠慮気味に笑う少年――アッシュ。作り手として通じる物でもあったのか、すっかり鍛冶場の職人達と打ち解けている彼を見て、親方も彼が怪しい者で無いことを理解した。


「ったく。こんな状況でもなきゃ叩き返してる所だが――猫の手もって言葉もあらぁな」

「あ、ここにもあるんですねそういう言葉」

「ふん。とにかくまぁ、こんな暑苦しい場所で良けりゃあこき使ってやらあ。精々働いて見せな」

「良かった。ありがとうございます。ところであの捕鯨砲の改造案が何故か(・・・)今此処にあるんですが」

「てめぇ、本当に手伝いに来たんだろうな!!?」



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



 数時間後、アッシュは鍛冶場を後にした。その顔は一仕事終えた後の様にスッキリとしている。


「ふぅ、職人の技をたっぷり堪能できたよ」

「うーん兄貴はやっぱり変態な気がするッス」

「失敬な。鍛冶職人さん達と共に新たな異種(クリーチャー)用兵器を考案しながらまだ仕上がってなかった作業を一気に片付けただけだろうに全く」


 そもそもそんな膨大な作業を玄人の職人達が協力したとは言え、数時間で終わらせてしまう時点で常人の行いでは無い。その辺りはヒノキオの言う通りアッシュと言う男の異常な部分なのかも知れない。


「ん? 広場が何やら騒がしいな」


 アッシュが他の冒険者(シーカー)の集まる広場に戻って見ると、多くの冒険者(シーカー)達がある一人に注目していた。


「おお、あれが――」

「美しい白き翼、間違いなく彼女が……」


 注目の的となっていたのは、先程アッシュと出会った、白い片翼を背に生やした少女だった。良く見れば彼女の衣装は軽装に所々防具を当て、腰に二本の剣を下げている。


「……あれって先刻の」

「んー……あ、いたいた貴方――何でも屋、だったかしら」


 なにやら周囲を見回して探し物をしていた少女。彼女がアッシュに気付くと、その目の前へと歩いてやって来た。少女が男に近づいて行くのを見て、周囲の人間からどよめきが走る。


「自己紹介がまだだったわね。私はエーデ。誇り高き銀峰の国ミアゲルフォード出身の戦士よ」

「エーデ……アンタが三つ翼か」


 その名に聞き覚えのあったアッシュは、改めて彼女がそうなのだと気付く。


「その通りよ。所で私――飛び道具使いは嫌いなの。臆病者の武器を使うのだもの――当然よね」

「うん?」

「貴方、私と契約宣誓(ゲッシュ)の下、狩り勝負をしなさい? 勿論貴方と私の最高の武器でね」

「ちょ、おいおい。一体何の話を……」

 

 アッシュの戸惑いの声に耳も貸さぬまま、挑発的な声色で少女高らかに宣言する


「もしもアタシに勝ったら――この私をアンタにあげるわ。精々楽しませてね? 何でも屋さん?」


 -tips2-

 アッシュの製造能力について。

 鍛冶。裁縫。木工から調剤。細工。調理に至るまで、割と何でも有り。

 更に彼の場合、創作意欲が燃え上がる程に作業効率が上がり、手先が加速して行くという隠しステ持ちなので、本人の魔改造癖もあって、下手に知識を得るとどんどん手が付けられなくなる厄介なタイプ。

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