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禁忌種(タブーブラッド)の人生クエスト  作者: カッパ巻き
第三章:夕日に焦げる大氾濫
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嵐の前の

 -tips-

 イディアリスの海。

 人々の生活に欠かせない海だが、他の生物の他に異種(クリーチャー)も生息している。

 特に船すら襲う様な大型のものもある為、船舶専門の護衛が航海には欠かせない。

 最も、注意すべきは異種(クリーチャー)の他にも、天災や海賊などたくさんあるのだが。


 その町は今、酷く張り詰めた空気の中にあった。

 町の住人達は王都やトラインなどの近辺の市街へと次々に避難し、すでに町中の(ほとん)どの建物がもぬけの殻となっている。建物の隙間から見える海は不気味な程静かで、もう直ぐ此処が激しい戦場になる(など)とは思えない程だった。


 ここは、トラインから南に位置するドラグレスト王国唯一の港町"ナミノート"。事の始まりは、この辺りの海で土地魔力の激しい活性化の波長が観測された事だった。

 それ以降、海辺で発生する異種(クリーチャー)の出現頻度が増して行き、調査に来た王都の術師はこれを――大氾濫(スタンピード)の前兆と断定。

 直ぐにナミノートの住人へと避難勧告が出され、冒険者(シーカー)に対する緊急依頼が発令された。その為、今このナミノートに集まる者達は皆、腕の立つ冒険者(シーカー)達ばかりである。

 

 そんなナミノートの地上唯一の出入り口である門前に、避難する人々を見つめる門番が一人。その門番の前に、一台の馬車が止まる。


「そこの馬車、止まりなさい。今この町は大氾濫(スタンピード)の危機にある。訪れた理由次第では――」

「その防衛戦への参加で来ました。こちら、紹介状です」


 馬車から降りてきた少年、アッシュが門番に一枚の紙を差し出し、門番はそれを確認する。


「ふむ、確かに印も本物だ……分かった、入ってくれ」

「ご苦労様です。皆、入って良いよ」

 

 アッシュに促され、一緒に馬車に乗っていたリイムとヴィリジアが降りて来た。皆が門を通る間際、協力感謝する――と聞こえ、アッシュも軽く手を振って応えた。


 アッシュがこの依頼を見つけたのは、リイムが休暇を取っていた時の話。緊急依頼として張り出されたその依頼書は複数枚が束になった物で、複数千切り取られたその最後の一枚をアッシュが見つけたと言う形で受け取った。

 アッシュは流れ星の止まり木亭に戻った後、この依頼を受けるかについて皆と相談する。最も、この(チーム)はアッシュが中心になっているので、結局の所彼の意向しだいという面はあるものの、それでも今回は今まで以上に危険な戦いになる事が予想される為、じっくりと相談して準備の上、ここナミノートにやって来たのだった。


「へぇ、もう結構集まってるんだな」

「あと二・三日程で発生するとの事ですので、当然かと」


 アッシュ達は、防衛戦参加者が集まる事になっているナミノートの広場に来ていた。

 既に広場にはトラインを含め、各地から多くの冒険者(シーカー)や、それの構成する(チーム)が集まっている。


「つまり、ここに居る奴ら全員が今回の戦いの仲間になるのかな。――あの黒い服は……」


 アッシュの視線の先、真っ黒な制服に黒いフードを身に付けた集団が見える。皆で一塊りとなり、何か話している様だが、その異様な圧の所為(せい)で妙に目立っている。


「あの制服――確か、セル・ラ・セージ魔導学園だったか? 魔導の研究に全てを賭ける連中の本拠地」

「ええ、そしてその学園出身の旅団(パーティ)であれば、夜泣き烏(クローククロウ)で間違い無いかと」

 

 夜泣き烏(クローククロウ)は術者中心の旅団(パーティ)であり、当然ながら呪文(スペル)を用いた戦術を得意とする。


(――そして、未知なる知識を得る事に貪欲な連中でもある。下手な所を見られない様、注意した方が良いかもな)


 と、ここで向こうが騒めき立ち、広場に現れたのはそれぞれが体中に傷を付け、威圧的な気配を纏う集団だ。それを遠目に見た、ある冒険者(シーカー)達が、興奮気味に語りだす。

 

「うおっ! 肉弾戦闘専門師団(クラン)怒れる拳(レイジングフィスト)じゃねぇか。流石に雰囲気違うぜ」

「ってことは、先頭に居るあの男が、怒れる拳(レイジングフィスト)団長(リーダー)にして金色級冒険者(ゴールドシーカー)。撃滅のトゥードリッヒか!!」


 話題に出たトゥードリッヒなる男は、重ねた戦闘と鍛錬の数を肉体で語らんばかりの男。その顔は常に険が刻まれ、瞳はギラリとした光を帯びている。


「あれが怒れる拳(レイジングフィスト)かぁ。道具無しじゃ誰一人勝てそうに無いな」

「そんな事も無いと思いますけど――」

「いや流石に無理だって……あ、あそこに居るの、王都の騎士達かな」


 一糸乱れぬ隊列を組んで、全身甲冑の人物達が移動している。背中のマントにはドラグレスト王国の国旗と同じ紋章が象られていた。


「ナミノートはドラグレスト王国の唯一の港町ですから、守りに来るのは当然でしょうね」

「成程――うっ?」


 突然アッシュは声を上げ、周りを見渡した。


「どうしました?」

「いや、一瞬嫌な視線を感じた様な――リイムが気付いて無いなら気の所為か」


 そんなアッシュの事を、遠くから敵意を持った目で見つめる影があった。その影は直ぐに引っ込んでしまうのだが。



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



「さて」


 広場のとある場所が開いていたのを見計らい、アッシュは今すべき事の準備を始めた――すなわち。


「いらしゃーい。水薬(ポーション)、携帯食料、特殊な矢。名の通り何でもあるよ~」

「あるッスよ~」

「今なら武器の手入れも格安で受けちゃうよ~」

「ちゃうッスよ~」


 久方ぶりの小商いである。


「質問・使用者(ユーザー)は・何をしている?」

「何でも屋としてのお仕事だそうですよ。まぁ、確かにこんな状況で店を開く人も居ないでしょうし、稼ぎ時ではあるかもしれませんね」


 と、いう訳で、アッシュの何でも屋開店である。敷物上に商品を並べた露店仕様で、売り物は水薬(ポーション)に小型のナイフやサイズごとに並べられた矢。後は携帯食としての小麦菓子や干し肉。すべてアッシュの手作りの品で、更に武器や防具の手入れも請け負っている。

 横の看板は商品その他の行いの代金が記されており、良く見ると貨幣の代わりに物々交換も可。と書いてあった。


「私と出会う前から、ああやって日銭を稼いでいた様ですね。正に何でも屋」

「――成程・使用者(ユーザー)目敏(めざと)い」


 実際の所、アッシュの店はその質の良さもあり、隣に可愛いマスコット(ヒノキオ)も居て、それなりに繁盛していた。


「何かと思えばお前かよ! 何でも屋のアッシュ!」


 と、ここでアッシュも聞き馴染みのある軽薄な声が聞こえた。


「マウル。お前も来てたのか」


 その声の主はアッシュと同郷であり、同じく冒険者(シーカー)であるマウルだ。


「ったく、エセ冒険者(シーカー)から足洗ったと思ったらこれだよ。こんな時すら小銭稼ぎか?」

「うっさい。買う気無いなら帰れ帰れ」


 アッシュの手でしっしとするジェスチャーを無視し、マウルは話を続ける。


「けっ! 見栄えの良い仲間を見つけて良い気になってる様だが、そんなんで大氾濫(スタンピード)を生き残れるなんて思うなよな!」

「んだよ。今日はヤケに突っ掛かるじゃねぇか。って言うかおまえ、(しばら)くノドッカでもトラインでも見なかったけど、何してたんだ?」


 アッシュのふと浮かんだ疑問を口にしただけだったが、マウルは、図星を突かれた様にうっ……と言葉を詰まらせる。


「ははは! よお何でも屋! 実はコイツなぁ……」

「ゲッ!! ロカル、馬鹿お前言うなよ!」


 突然マウルの後ろから肩を抱き、楽し気に話しかけてきたのは、アッシュも顔なじみの冒険者(シーカ)。ロカルだ。


「コイツ。前の馬車の護衛中に騒いで馬を怒らせて、頭を思い切り踏みつけられてなぁ――」

「あああ手前(てめ)ぇ!」

「それからずっと入院してたんだ。偶々持ってた水薬(ポーション)が無けりゃ、治療が間に合わなくて死んでたってんでなぁ……それを売ったお前に礼を言いに来た――筈だったよなぁ?」

「……ぐぐ、うぐぐぐ!」

「へぇ~、それはそれはご丁寧に」


 ロカルの話を聞き、アッシュはニヤ付きながらマウルの真っ赤に染まった顔を見る。


「だぁあああああっ! (るせ)ぇ馬鹿共! とにかくあん時の水薬(ポーション)の礼は言ってやる、ありがとよ! 後水薬(ポーション)三本だ! 直ぐ寄越せ!」

「はい、まいど~。またのご贔屓に~」

「畜生~~っ!!」


 きっちり買う者を買ってマウルは走り去って行く。その後ろ姿を眺めながら、相変わらず忙しい奴だと、アッシュは色んな意味で昔から変わらない悪友を見送った。


「さて、俺も行くかねぇ。おい、知ってるか? 何でも屋。噂じゃあ今、"群青の風"(アズールウィンド)や、"三つ翼のエーデ"も来てるらしいぜ? じゃあな」

群青の風"(アズールウィンド)ってのは知らないが……三つ翼――まさか、噂の大型新人か?」


 その二つ名は、アッシュよりも後に冒険者(シーカー)になったにも関わらず、ガンガン実績を伸ばして行き、既に金級冒険者(ゴールドシーカー)の域にまで達しているだろう――と、巷で噂される冒険者(シーカー)に付けられたもの。

 その実力も去る事ながら、今まで他のどの冒険者(シーカー)とも組まない孤高の存在としても有名で、つまりここまでの冒険者(シーカー)としての活動を、ただ一人で(こな)してきた逸材と言われている。

 

「へぇ、気にならない事もないが――まぁ、戦いになったら嫌でも顔を見る事になるか」

「おぅい、売り物見せてくれや」

「あ、すいません。まい……ど?」


 一瞬気を取られた事に気が付き、接客に戻ったアッシュだったが、今度は別の理由で意識が空白になりかける。何故なら。


「で、でっかいッス……」


 アッシュ達の前に居たのは、丈二メートルを大幅に超える大男。焦げ茶の髪は適当に纏められ、口をまるまる覆う髭とボサボサの髪の所為で、奥の顔は殆ど見えない。


「え、えと。ご利用で?」

「おぅ、そうだな……そこのナイフ見せて貰おう」


 と、大男は所謂サクス型のナイフを手に取り、二・三度振って心地を確かめる。


「へぇ、しっくり来るな。これくれ」

「毎度、3000ジェルね」

「……ま、いいや。ほれ」


 大男は一瞬、何か言いたげな沈黙をしたが、言う通り代金を払ってナイフを持って行った。アッシュはその姿を見届けながら、思案する。


(……あの男、強いな。何者だ? 冒険者(シーカー)? いや……)

「兄貴、どうしたッス?」

「なんでもない。さーてと、商売の続き続き」

「何でも屋。俺の剣を研いでほしいんだが――」

「こっちが先だ! その炸裂矢を一束くれ!」

「はいはい押さないで! 一人一人順番にな!」

 

 これ以降もアッシュの店は繁盛し続け、結果として品物は全品売り切れ。アッシュの懐は久々の満腹感を味わうのだった。



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



「――首尾は上場かね?」


 ナミノートの何処かで、老人の男が魔信具(コーリングフォン)で対話している。身に付けている薄目の白衣から覗く細枝の様な腕は、彼が純粋な戦闘者で無く、術者やもしくは――研究者である証左であった。


『――……』

「よし、では実験を開始とする。時刻通りに起動する様に」


 それだけ話し、男は魔信具(コーリングフォン)の通信を切る。


「さて、後は実験過程を見定めるとするかのう。キヒヒ……楽しみじゃわい」


 笑う老人の瞳は、狂気に彩られていた。それはある意味、無邪気な子供が虫をいたぶって遊ぶ様な、残酷さに似た狂気だった。




 -tips2-

 ナミノート。

 ドラグレスト王国唯一の港町であり、海洋貿易の要たる港町。

 複数の海流がぶつかる位置の海に近い為、種類豊富な魚介が獲れる。

 貝殻由来の鉱石が採取でき、この町の建築物はほぼ白色な為、白い港の異名を持つ。


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