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禁忌種(タブーブラッド)の人生クエスト  作者: カッパ巻き
幕間1
12/36

幕間 世界を渡る風と共に

-tips-

 ドラグレスト王国。

 かつて、魔王を討ち取った勇者が生まれた国とされ、王都には今でも当時建設された勇者の石像が噴水広場に残っている。

 多くの名高き騎士達が守護する空高きセレスティア城は世界三大城の一つとして知られ、騎士系の纏職(ロール)の殆どがこの国でしか取得できない。 


「つ、疲れた――」

「フフ、お疲れ様です」


 昨日から今日この日までのアッシュは本当に多忙だった。トロッコ商会とカブリオレに、世話になったとの挨拶をすませて直ぐにノドッカに繋がる馬車へ、そしてノドッカに到着した後は滞っていた依頼を速攻で片付ける。そして宿に預けていた荷物を受け取った後は、本格的に冒険者(シーカー)としての活動を始める為のその第一段階として、活動拠点をトラインに変更しようと考え、改めて馬車乗り場へ向かおうとしていた所だった。


(わたくし)の方も準備は終えていますので、後は移動するだけですね」

「だな、これでノドッカとも暫くお別れかぁ」


 何気にここノドッカでの知り合いが多いアッシュ。

 依頼消化ついでに知り合いとの挨拶も済ませてきたが、やはり何処か寂しいという想いがある様だ。


「ま、一生の別れでもない、か。じゃあ行こうか。往復する感じで悪い」

「いいえ、問題ありませんよ。我が(あるじ)

「……やっぱそのあるじっての辞めない?」


 申し訳無さと気恥ずかしさから、呼び方の変更を打診するアッシュ。しかしリイムの――では、主君(しゅくん)かご主人様で、という択になってない択を迫られた為。人前では名前呼びで頼むという妥協で収まった。


「詰まる所。(わたくし)との階級色(ランク)の差に負い目を感じている。という事なのでしょう? (ゆえ)に多く依頼を受けて階級色(ランク)を上げる。という目標を立てたのですよね」


 トラインは王都ドラグレストに近く、周りに深度の低い魔窟(ダンジョン)が多い為、新人含めた冒険者(シーカー)が数多く暮らしている。

 それらを客として多種類の店が常に繁盛しており、今だこの世に数少ない日緋色金級(オリハルコンランク)冒険者(シーカー)の一人が、トライン出身の人物と言う事もあってか、トラインは王都に並ぶ程の冒険者の町として有名なのだ。それこそ、アッシュが拠点をトラインに移そうとしている理由である。


「そういう事……っと、丁度直通の竜車が見えたな」


 このイディアリスの交通手段は主に徒歩か馬車であるが、南の国から輸入された騎乗獣、地駆亜竜(ランドラマンダー)が引く竜車が、高速の移動手段として利用されている。

 その他の地方でも、その気象や土地に合わせた騎乗獣が居て、移動手段に使われているそうだ。


「すみません、トラインまで」

「あいよ~……あぁ、あんた達は20ジェルね」


 え? と、アッシュは竜者に掛けられた料金表を確認する。トライン行きの料金は50ジェル、と書かれているが――。


「あの方の計らいさ」

 

 と、指差したのは、竜者に取り付けられたトロッコ商会の紋章だ。アッシュとリイムは、得意気なカブリオレのが頭に浮かび、思わず失笑した。

 二人は竜者に乗り込み、再びトラインへと向かおうとする。


 と、その時。リイムが空を見上げて何かに気付いた様にアッシュへ声を掛けた。


「アッシュさん、アレを見て下さい」


 リイムの指刺す方――則ち空へと視線を向けると、先程まで浮かんでいた雲が、まるで剣で切り裂かれたかの様に綺麗に分かれていた。


「へぇ! 雲切り風か。幸先良いね」


 ――それは、前兆も無く雲が切り裂かれる様に分かれる現象だ。今だその原因は掴めず、ただ仮説だけが増え続けている。


 曰く、風の精霊の悪戯である。曰く、精霊すら関係の無いただの自然現象である。――曰く、姿が確認出来ない程早く、空を駆ける(ドラゴン)の仕業である――と。


 最後に至っては与太話と言って良い位の話だがともかく、それは旅する者への祝福とされ、冒険者(シーカー)達にとっても良い前兆と言える現象なのである。


「――じゃあ、行くか」

「はい」


 雲切り風を見届け、今度こそ二人は竜者に乗り込んだ。そして、動き出した竜者に揺られ、暫しの休息の時が過ぎるのだった。


 そして、雲を切り裂いた姿の見えぬ風の如き何かは――そのまま世界を巡って行く。



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



-王都ドラグレスト セレスティア城 城内-


「本当なのだろうな――」


 天にそびえるが如き城、白きセレスティアのとある廊下にて、二人の人物が早足に歩いている。


「はい。星見の者達の言葉が確かであれば、という話でありますが」

「まったく、星見の言葉は信ずるにしても疑うにしても面倒を呼び起こす――"七賢者"共はもう知っているのか?」


 一人は神経質そうな目をする高貴な衣服の男。もう一人は禿頭を脂汗で照りさせる小心そうな男だ。

 彼らはこの城にて働く予見の術を持つ者達――星見の者達の言葉について意見を交わしながら歩いている所だった。


「しかし宰相(・・)。事が事ならば一大事。あの"禁忌種(タブーブラッド)"の兆しが見えた――などと」


「飽くまで兆し、だ。無暗(むやみ)に事を荒げては民衆に動揺を与える事になる。今は星見と我らだけの秘密にするのだ。……何より」


 宰相と呼ばれた――神経質そうな目をする高貴な衣服の男は目頭を軽く押さえて唸る様に言葉を続ける。


「この事があの方(・・・)にばれようものなら――」


「…………誰にバレたら、どうしたと?」

「うぉおあっ!!」

「ひょえっ!? お、パテラスス陛下!」


 会話していた二人に割り込んでいたのは、豪華な冠と装束を身に纏い、力強き瞳と体躯を持つ大男――パテラスス・ローラン・ドラグレスト。

 此処、ドラグレスト王国の王である。


「例の、特例魔窟(イレギュラーダンジョン)を攻略した冒険団(パーティ)の話を確認しようと思うたのだが――ふむ」


 パテラスス王は目の前の二人――この国の宰相と大臣の一人たる男の表情がみるみる強張っていくのを面白げに見つめ――。


「何やら、禁忌がどうとか、と。これは是非とも話を聞かねば成らぬ様だなぁ?」


 王のニタリとした顔を見て二人は、――ああ、面倒な事になった。と、肩を落とした。



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



-トラインから王都ドラグレストまでの馬車道-


「ふぅ、役割分担に関してはまた後で考えよう。僕らもまだ疲労が完全に取れた訳じゃないからね」

「さーんせーい」

「わははは! リイムの奴、俺達を出し抜くとはやるなぁ!」


 馬車の中。蒼穹の銀翼(ウィングラインブルー)の面々は多少騒いだ後、改めてこれからの事を考えていた。


「やはり重要なのは防衛面だ。やはり騎士系の纏職(ロール)持ちを探すか……」

「堅苦しいのは苦手なんだがなぁ……」

「まーね。けどソレルもいい加減少しは礼儀も覚えないと、この先大変だよ?」


 だよなぁ、とソレルが頭を掻いた所で、ふと思い出した様にドンナが皆に尋ねる。


「大変と言えば、誰か、今回の"ボスドロップ"を持っていたかい?」

「私持ってないよー?」

「俺もだ。って言うか、アイツ(・・・)以外に居ねぇだろ?」


 だよね、とドンナも肯定する。


「ソレルったらー、後輩に手を貸し過ぎなんじゃない?」

「スノウも笑ってんじゃねぇか! ま、仕様(しょう)がねぇさ。機会は幾らでもあるしな」


 ソレルは馬車から空を見上げ、もはや届かぬ場所に居る好敵手に語り掛ける。


「頑張れよアッシュにリイム! 俺達も負けねぇからな!」



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



 -聖都ルクシアムール ナルアル大神殿-


「聖女様、如何(いかが)されましたか?」

 

 ドラグレスト王国より更に西。光の大精霊を信仰する者達の総本山、聖都ルクシアムール。

 その中心にそびえるナルアル大神殿の内、祈りの間にて。


 白いたれ布に覆われた中で、聖女と呼ばれた一人の影が高い位置にある窓を見上げ、物憂げな表情を浮かべている。


「いえ、私からは何も」

「左様ですか。では、何か有りましたらお声掛け下さいませ」


 聖女に声を掛けていた白い衣服を纏う女性は、頭を下げてその場を後にする。


 それを傍らに見つめた聖女は、再び空を見上げ、呟く。


「災いの、兆し。ルクシア様、貴方は今何処(いずこ)()られるですか?」



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



 -魔工帝国エクスマギナ 地下研究室-


「順調かねぇ?」


 遥か北にて、魔導と機工の技術を掛け合わせた魔工技術の国エクスマギナ帝国。

 そのとある場所の、地下にある秘密の研究施設の中で、軍服を着た男が白衣の研究者達に話掛けている。


「はい、総司令官殿。此方に」


 研究者達の中の一人が、粘着いた口調の軍服の男――この帝国の軍力を纏める総司令官を施設の奥へ案内した。

 硬質な足音のみを響かせ、長い廊下を歩いた先に……。


「ほぅ……こぉれは」


 総合司令官が上を見上げ、感嘆の声を上げる。

 視線の先にあるのは、薄暗い大部屋の中――それら(・・・)のみが照明に照らされている。


「素ぅ晴らしい。此れがあれば我らが――時ぃ代の覇者だ。フフフ、ハッーハッハッハッハ!!」



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



 -セル・ラ・セージ魔導学園-


 魔と知識の宝庫、セル・ラ・セージ。

 

 そこは数多くの魔術師を輩出する教育機関であり、此処では様々な術師達が、研鑽に努めている。

 そしてその中心となっているのは、種族問わず集められた中での選りすぐりの術師にして賢者七人――"七賢者(セブンスセージ)"である。


「では、禁忌血種(タブーブラッド)がこの地に復活したのは間違いないのだね?」


 七賢者が集い意見を交わす『七星の間』に、七人の影が――正しくは、実体の無い影のみが集まっていた。


「その様だ。だがそれにしては、魔力の反応が余りにも――」

「うむ、実にか細い。お蔭で位置の特定も出来なんだ。魔窟(ダンジョン)の中にでも居たのか?」


「…………」

「おい、聞いているのか?」

「研究に夢中なのだろう。会議など形だけ、耳にはいってすらいまい」

「まぁ、僕ら結局、頭のおかしい研究者集団でしかないからねぇ――」


「本気で会議に臨もうとするなど、貴族思考の強い貴様くらいの者だ」

「……ふん」


 どこか緊張感の無い会話だが、彼らが発する魔力の圧は、その場に居合わせた者があるなら空気が五倍は重く感じる程の濃密な気配を纏っていた。


「ともあれ議題は禁忌血種(タブーブラッド)だ。アレが復活したとなればどうあれ世は乱れる。それに、この間事件を起こした何とか言う連中の話もある。いずれ我らが動く事もあるやも知れぬ――な」



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



 そして――。


 -???-


(なり)も人数も分からぬ闇の中で、声がする。


「例の実験が上手くいかなかった――と言う事ですか?」

「その言葉は正しく無いのう。事実、目的である魔窟の主(ダンジョンボス)特例魔窟(イレギュラーダンジョン)生成(・・)は達成したじゃろうが」

「でも、実際。折角の魔窟の主(ダンジョンボス)も直ーぐやられちゃったジャン! ダッセ!」

「……貴様」


「 やめよ 」


「「……っ!!」」


 声が響く。闇の底から届く様な、悍ましく――力強い声が。


「 お前達のその研鑽。我らが道へと繋がっている。故に、続けよ、求めよ。それが―― 」



「 それこそが我ら闇黒の殻(エッグス)の望みなれば―― 」


-tips2-

 聖都ルクシアムール。

 光の大精霊ルクシアのお膝元。

 この地で修行を積むことで、聖職系の高位職(ハイクラス)を取得する事が出来る。

 聖地としてもだが、同時にあらゆる苦痛を癒す力を持つ"聖女"を中心に、医療の最前線を歩む地としても有名。

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